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第二十一話 誇り高き怒り
前書き
一月ほど空きました。
ネタを考えるのに、時間が掛かり過ぎて手が進みませんでした。
では投稿します。
第四十七層 主街区 《フローリア》
そのゲート広場は、無数の花々詰め尽くされていた。
円形の広場を細い通路が十字に貫き、それ以外の場所が煉瓦で出来た花壇となっていて、そこに、見た事の無い花々がまるで周りに埋もれないよう自分の存在を主張するかのように一輪一輪咲き誇っている。
「うわぁ……!」
色彩豊かな光景がシリカの目の前に飛び込んでくる。
意識せずに、自然と完成が口から洩れた。
「すごい…」
「ああ、ここは街どころか階層のいたるところが花だらけなんだ」
キリトがシリカの隣に立ち、周り全体を見渡すように言う。
ふと、シリカは周りを見回してみると、花壇の間の小道を歩いているのは男女二人連ればかり。
皆しっかりと手を繋ぎ、あるいは腕を組んで談笑している。どうやらここはそういうスポットになっているらしい。
「(あたしたちは、どう見えてるのかな……)」
明らかに年上だが、女顔のプレイヤー。
傍から見れば兄妹にも恋人にも見える。
そう考えると、顔の温度が上がり火照ってくるのが分かる。
「どうしたのですか?」
ふと、後方から凛とした声がかけられた。
ハッとして振り返ると、セイバーがいつもと変わらぬ所作で立っていた。
「い、いえ、何でもありません。さぁ、フィールドに向かいましょう」
「う…うん」
シリカの大きな声で、思わずキリトはどもってしまい、瞬きをするとセイバーと顔を見合わせた。
二人は苦笑すると前を歩くシリカの横に並び歩き始めた。
そんな二人の姿をシリカは振り返りながら、切なそうに見つめる。
「(やっぱり二人は……)」
シリカはそんな事を考えると、昨晩の事を思い出した。
--------------
食事を終えたシリカは、客室で下着姿でまどろんでいた。
新しい短剣でのスキル復習をし、眠ろうとしていたとき、なかなか寝付けずそのまま天井を見つめていた。
ピナが居たときは、毎晩抱いて眠っていたので広いベッドが心細く感じる。
ふと、隣の部屋に繋がる壁をじっと見つめる。
隣の部屋にはキリトが泊っているはずであった。
もう少し話してみたい。
ふとシリカはそう考えたが、瞬間的に胸の痛みを感じた。
胸の痛みの正体…。
シリカはキリトの隣で、彼と仲良さげに話をしていた一人の女性の事を思い出していた。
「(セイバーさん…だっけ。綺麗な人だったな、外国の人だよね、きっと。)」
常にキリトの側にいて、彼と共に戦う姿。
そして、冗談を言い合っている姿はまるで…。
コンコン
「……!?」
突然自室のドアがノックされた事に、まどろんでいたシリカの頭が覚醒された。
「シリカ、ちょっと良いかな?」
扉の外から、キリトの声が聞こえた。
シリカは、急いで装備メニューからチュニックを身にまとうと、扉を開ける。
「あ……キ、キリトさん……あの…ど、どうかしたんですか?」
焦る気持ちと、慌てた口調でキリトに問う。
「あ――――セイバーがさ……明日の事について、少し話したほうが良いって言ってきてさ」
そう言うとキリトは、チラリと扉の蔭へと視線を移す。
ゆっくりと扉が開き切ると、そこには昼間と変わらず鎧を纏ったセイバーが立っていた。
「申し訳ありません。ですが、シリカは明日初めて四十七層へ向かうとの事。少しでも情報を共有しておいた方がよろしいかと思いまして」
セイバーはそう言うと、どこか気まずそうな笑みを浮かべて、キリト、そしてシリカへと視線を向ける。
「い…いえ、そう言う事なら。あの―――よかったら、お部屋で……」
シリカはそう言うとキリトとセイバーを中へ招き入れた。
「悪いシリカ…夜更けに話そうだなんて。俺も大袈裟だって言ったんだけど」
「キリト、何事も油断は禁物です。念には念を入れておいた方がよろしいかと」
「う――――――うん…まあ、それもそうなんだけど」
キリトとセイバーが言い争い―――――とは言ってもセイバーが一方的にダメ出しを送っているだけなのだが、シリカにはその光景がどこか楽しげに見えてしまう。
「あ……あの!はじめませんか」
「あ…ああ、ごめん」
シリカは、いつもならあまり出さないような声を出してしまった。
これにはシリカ自信も驚き、思わず頬に両手を当てる。
キリトも若干驚いたのか、身を引いてしまう。
「そうですね、そろそろ始めましょう。明日はなるべく早く行動したいですし。睡眠時間はあまり削らない方が良い」
セイバーは動じていなかったのかそう言うと、自ら仕切りキリトに説明するよう促した。
「ああ……それじゃあ――――――――――」
キリトは水晶玉を取り出し、それを実体化させホログラフィックの地図を出現させた。
指先を使いながら地理の説明、そしてモンスターの説明を始める。
シリカはその落ち着いた口調に柔らかい気分になっていくが、側で控えているセイバーにやはり目線が行く。
「(あんなに楽しそうに話している……って事は)
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「シリカ?」
「!……は、はい!?」
キリトに声をかけられ、シリカは意識を戻される。
「大丈夫か?やっぱり辛い?」
キリトはやさしくシリカへと問いかける。
「い…いえ!そんなことありません!」
シリカはそれに思わず大声を出して答える。
その光景にキリトは眼を丸くしつつ、笑みを浮かべるとゆっくり頷いた。
「そっか、大丈夫なら良かった」
キリトはそう言うと、前方を見つめた。
シリカも釣られるように前を見ると、ちょうどそこにはセイバーが不可視の武器を振り切った姿で立っている。
セイバーの前には、歩く花のような表現しがたいモンスターが今しがた倒されたようで、ポリゴンを撒き散らしながら消滅していた。
「此処一帯の敵は排除できました。先を急ぎましょう」
セイバーは振り向きながらそう言い、キリトとシリカを促した。
「さ、俺達も行こう」
キリトはシリカへ微笑みながら言った。
シリカはキョトンとした表情でキリトを見つめたが、やがて大きく笑みを浮かべて、シリカは返事をした。
「あ…はい!!」
キリト、シリカ、セイバーの即席パーティーは、セイバーを中心に思い出の丘へと快調な滑り出しを見せていた。
「(待っててね…ピナ!!)」
シリカは心の中でそう叫ぶと、二人と共に歩きだして行く。
自らの一番の友達にもう一度会うために。
だが、その影である人物がその光景を眺めていた。
まるで、全ての恨みを彼等に注ぐかのように。
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「これで……ピナを生き返らせるんですね……」
シリカは感動を抑え込みながらキリト、セイバーへと問いかける。
「ああ。心アイテムに、その花の雫を振り掛ければいい」
シリカは、その言葉に胸を弾ませた。
此処に来る途中、キリト達は何度か戦闘行ってきた。
ほとんどの敵はセイバーの前では、一刀の元に切り伏せられてきたが、中にはシリカを宙づりにして捕食しようとした奴もいた。
だが、シリカの捨て身の攻撃でその難を逃れていた。
捨て身といっても、シリカがスカートを抑えていなかっただけなのだが。
《思い出の丘》へと到着し、無事に《プネウマの花》を手に入れたシリカは、涙を眼に浮かべながらキリトへと問いかけた。
ようやく長年連れ添ってきた友達と再開出来る!!
そう考えると、シリカは弾む胸を抑えきれなかった。
「ここはモンスターも多いですし、街に帰ってからにしましょう。もう少しの辛抱です」
「はい!」
シリカは頷くと、メインウィンドウに華をしまう。
アイテム欄に格納されたことを確認するとそれを閉じた。
此処からは徒歩で帰還。
本当は転移結晶で一気に帰還したかったが、高価なクリスタルを使うのはギリギリの状況でのみ。
此処はグッとこらえて歩き始める。
行きと同じではあるが、モンスターには出くわすことなく街道近くの小川にかかる橋へと差し掛かった。
とその時だった。
「キリトさん?」
不意に後ろからキリトの手が肩にかけられた。
一瞬ドキリとしたが、キリトの険しい表情を見てシリカは怪訝になって声をかける。
「―――そこで待ち伏せてる奴、出てこいよ」
「え…………!?」
シリカは慌てて木立に眼を凝らすが、人影は見えない。
だが、数秒が過ぎた後、そこからある人物が姿を現した。
「ろ……ロザリアさん……!?なんでここに……!?」
驚愕するシリカは、思わずロザリアに対して問いを投げる。
だが、その問いに答えず彼女は唇の端を釣り上げて笑う。
「アタシのハイディングを見破るなんて、なかなか高い索敵スキルね。侮ってたかしら?」
そこでようやくシリカへと視線を移す。
「その様子だと、首尾よく《プネウマの花》をゲットできたみたいね。おめでと、シリカちゃん。じゃ、早速その花を渡してちょうだい」
「……!?な……何を言ってるの……」
その時、キリトが前に歩み出る。
後方で控えていたセイバーは、シリカを庇うように自分の後ろへ隠すようにキリトの後ろに付けた。
「そうはいかないな、ロザリアさん。いや――犯罪者ギルド《タイタンズハンド》のリーダーさん、と言った方がいいかな」
瞬間、ロザリアの眉が跳ね上がり、笑みが消えた。
シリカはロザリアのHPカーソルを確認する。
だが、
「え……でも……だってロザリアさんは、グリーン」
「オレンジギルドと言っても、全員が犯罪者カラーな訳じゃないんだ。グリーンのメンバーが獲物を見繕ってパーティーに潜伏、待ち伏せしてるとこに誘導する。昨日盗聴してやがったのはアイツの仲間だよ」
「そ……そんな……。じゃあ、この二週間一緒のパーティーにいたのは……」
「そうよォ。あのパーティーの戦力評価すんのと同時に、冒険でたっぷりお金が貯まって、おいしくなるのを待ってたの。本当なら今日にでもヤッちゃう予定だったんだけどー」
シリカの顔を見つめながら舌で唇を舐める。
「一番楽しみな獲物だったアンタが抜けちゃうからどうしようかと思ってたら、なんかレアアイテム取りに行くって言うじゃない。《プネウマの花》って今が旬だから、とってもいい相場なのよね。やっぱり情報収集は大事よねー」
そこで言葉を切り、キリトに視線を向けた。
「でもそこの剣士サン、そこまで解ってながらノコノコその子に付き合うなんて、馬鹿? それとも本当に体でたらしこまれちゃったの?」
ロザリアの侮辱にシリカは視線が赤くなるほど憤りを感じた。
短剣を抜こうとしたところで、肩を掴まれる。
「セイバーさん?」
肩を掴んだのはセイバーだった。
視線はロザリアに移したまま、シリカの肩を掴んでいる。
「……下郎が」
「なんですって……」
その表情は読み取れないが、眼は怒りの炎が映っている。
「聞こえなかったのか、下郎と言ったのだ、女」
いつもは冷静なセイバーが珍しく怒りをあらわにしている。
この姿に、シリカはおろか、キリトも眼を丸くし見ている。
「人を騙し、侮辱し、あまつさえ命を奪う。貴様は何とも思わなかったのか」
「セイバー?」
セイバーが前へと歩み出る。
殺気を押し殺しながら、ロザリアへと問いかける。
「何よ、マジんなっちゃって、馬鹿みたい。ここで人殺したって、ホントにその人が死ぬ証拠なんかないし。そんなんで、現実に戻った時罪になるわけないわよ。だいたい戻れるかどうかも判んないのにさ、正義とか法律とか、笑っちゃうわよね。アタシそういう奴が一番嫌い。この世界に妙な理屈持ち出す奴がね」
「だから下郎と言ったのだ」
ロザリアの眉が吊りあがる。
「私は自らの行いが正義だとは思ってもいなければ、法を振りかざす権利も無い。だが、この世界で死を迎えた者は現実でも死を迎える、それは事実。確かに現実において罪になる事は無いであろう。だが、それを盾に自らの行いに罪悪感を持たず、平気で人を踏みにじる。妙な理屈を持ちだしているのは貴様の方だ」
セイバーの言葉がロザリアへぶつけられる。
「セイバー、落ち着け」
キリトがセイバーの肩を掴み、怒りを抑えようとする。
声をかけられ冷静になったのか、セイバーは一度眼を閉じると、気分を落ち着かせた。
すると、今度はキリトが前へ出て口を開く。
「さて……本題に入ろう。あんた、十日前に三十八層で《シルバーフラグス》っていうギルドを襲ったな。リーダーだけが脱出した」
キリトの言葉に冷気が包み込んだ。
「リーダーだった男はな、毎日朝から晩まで、最前線のゲート広場で泣きながら仇討してくれる奴を探してたよ。でもその男は、依頼を引き受けた俺らに向かってあんたらを殺してくれとは言わなかった。黒鉄宮の牢獄に入れてくれと、そう言ったよ」
ロザリアはおもしろくなさそうな表情で聞いていたが、目を吊り上げると凶暴そうな光を帯びた。
「……で、アンタ達、その死に損ないの言うこと真に受けて、アタシらを探してたんだ。ヒマな人だねー。ま、アンタらの撒いた餌にまんまと釣られちゃったのは認めるけど……でもさぁ、たった二人でどうにかなるとでも思ってんの?」
ロザリアは唇に笑みを浮かべながら、右手を掲げて素早く二度宙を仰ぐ。
途端に向こう岸の両脇の木立が激しく揺れ、茂みの中から次々に人影が現れた。
シリカの視界に連続して複数のカーソルが表示される、そのほとんどは紛れも無いオレンジ色だ。
その数は──十。
「き、キリトさん、セイバーさん……数が多すぎます、脱出しないと……!」
「大丈夫ですよ、シリカ。キリトに任せておいてください。」
セイバーが、先程の怒りの表情とはかけ離れた優しげな声でシリカに諭す。
「で…でも」
「大丈夫。俺が逃げろと言うまでは、結晶用意してそこで見てればいいから」
次いでキリトが穏やかな声で答える。
岐路とはシリカの頭にポンと手を置き、そのまますたすたと橋に向かって歩き出した。
シリカは、思わず叫んでキリトを止めようとした。
だが、
「大丈夫です。見ていてください」
セイバーの声で遮られ声を出す事が出来なかった。
キリトは動くことなく、ただロザリア達を眺めている。
その様子を諦めと捉えたのか、ロザリアともう一人のグリーンを除く八人の男達は武器を構えると、一斉にキリトへ飛び掛かった。
「オラァァァ!」
「死ねやァァァ!!」
俯くキリトに半円形で男達は取り囲むと、一斉にキリトへ斬撃を叩き込んだ。
「いやあああ!!」
シリカは両手で顔を覆いながら絶叫した。
後書き
ほとんど原作通り。
セイバーのセリフが増えたくらいですね。
感想お待ちしています。
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