東方攻勢録
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第十話
映姫達が清香を救出したころ、俊司達と別行動をとってたこいしはある部屋の前まで来ていた。扉の前には軽く武装をした兵士が気を失っている。
(時間が……急がないと!!)
こいしはあたりを軽く見渡したあと、誰もいないのを確認して扉を開けた。
「お姉ちゃん!!」
「! こいし!?」
部屋の中にはこいしと同じくらいの少女が立っていた。こいしの姉であるさとりである。
「どっ……どうやってここに?」
「それはあとでいいから! 一緒にいこう!」
「でっ……でも……」
「お願いお姉ちゃん! 早くしないと……みんなが……」
「こいし……」
さとりは一瞬にごった表情をした。自分が動けば、大切な人たちに危害が加わるのではと思っているからだろう。
だが、弱気になりそうな自分に鞭を打つように首を横に振ると、真剣な目つきをして口を開いた。
「みんなが戦ってるのに怯えてはいけないわ……こいし、今どういった状況に陥ってるか教えて」
「うん。今、地下の監禁場所で戦ってるの。そこにお空とお燐が……」
「……二人とも操られてるのね?」
「うん。私が抜けてくるとき、お燐は後ろで隠れてただけだったけど……たぶん今は……」
「下では誰が戦ってるの?」
「えっと……死神さんと毒使いのお人形さん。あと鬼が二人と……俊司お兄ちゃん」
「俊司?」
「うん。元外来人の亡霊なんだって」
「……なるほど」
「あと……お空は私たちには攻撃してこないと思う」
「?」
お空はこいしが牢獄にいたときは、革命軍の命令を拒もうとしていた。その時に、一瞬表情がゆがんだことも覚えている。こいしは、地下でお空がしていたことを鮮明に伝えた。
「お空が……?」
「うん。私もあいつらが使う装置みたいなのを知ってるよ? でも、お空はその制御を自力で拒んでいたの」
「それだけ強い思い入れがあった……そう言いたいのね?」
「もしかしてって思って、私があの地下室を抜けてみたの。そしたら急に轟音がなり始めて……」
「……それって、お空はこいしに攻撃したくないから拒絶反応をしていた……そう言いたいのね?」
「うん」
正直言って、さとりにとっては信じられないことだった。あのチップをつけられていらい、自我を持たずに革命軍の命令だけを遂行していた彼女が、こいしの存在を感知して命令を拒絶していたのだ。
嬉しさと悲しさが同時にこみ上げてくる。お空の仲間に対する思い入れは、今の状況に陥っている彼女を苦しめているかもしれない。
もう迷っている暇はなかった。
「こいし、案内してくれる?」
「うん! こっち!」
こいしに導かれながら、さとりは走り始める。
(お空……お燐……私が……不甲斐ないから。私が、弱い主だから……ごめんなさい……)
泣きそうになる自分をこらえながら走る。
(でも! もう少し待っていて……私が……必ず助けるから……!!)
二人は、急いで地下室に向かっていった。
「あぶね!!」
膨大なエネルギーを持った弾丸が、俊司のすぐそばに着弾する。爆音とともに軽いクレーターが出来上がっていた。
こいしが部屋を離れて十分が経っただろうか、お空の攻撃は激しさを増すばかりだった。部屋の中は、すでに攻撃のあとでぼろぼろになっている。幸い、俊司のスペルカードの効果もあって、牢屋の中と天井は何とか無事だったが、それもどれだけもつかわからない。
徐々に追い込まれている。そんな気がしていた。
「さーって、どうするんだ少年?」
「とにかく時間を稼いでください!! こいしちゃんが戻ってくるまで!」
「時間稼ぎっていってもねぇ…」
萃香はそういいながらも、自身の周囲に小さな自分たちを作り出してお空を攻撃しようとする。
だが、あまりにも広範囲すぎる攻撃で到底近寄れそうにない。さっきから攻撃しようとしては、攻撃を避けて距離を置くの繰り返しだ。
それに小町達のほうも気になる。
遠くから見たところ、お燐の相手は小町がしているようだ。周りの兵士たちはメディスンの毒でなんとか対処している。
相手は自我を持っていないため、かなり無理やりな攻撃を仕掛けているようだった。小町も、なんとか被害を最小限にしようと考えているのか、なかなか踏み込んだ攻撃ができていない。
できれば手助けをしたいところだが、こっちも余裕がなかった。
(このままじゃ……)
「しゃーねえ。おいカラス! そんなぬるい攻撃してねえでさっさと当ててこい!」
何を思ったのか、相馬はお空を挑発していく。お空もそれに反応して、ターゲットを相馬に絞ったようだ。
「おい無茶だ相馬!」
「お? ならかけるか? 俺が倒れるか、立ってるかで」
「ふざけたこと言うな!」
「すっ……萃香さん?」
「あいつ……あの攻撃をもろに受けるつもりなんだよ。それも、とびっきり強力なやつをね」
「なっ!? どうしてそんなこと!?」
そうこうしている間にも、お空の攻撃は制御棒から放たれた。見ただけでも、今までとは違うエネルギーを保っている。
だが、それを見ても相馬は動こうとはしない。それどころか笑みを浮かべていた。
「……見てればわかるよ……あれがあいつの能力なんだ」
「……?」
萃香は真剣な表情をしたまま、ずっと前を見ている。
その数秒後、大きなエネルギー弾が相馬を包み込んでいった。
エネルギー弾は、軽く爆発しながら煙をたてていく。生身の人間がこれをくらえば、ひとたまりもないどころか、消え去ってしまうだろう。
いくら鬼である相馬であっても、立っていられるかどうかわからない。もしかしたら、存在が消し飛んでしまったのかもしれない。
「一人排除か。残るは二人」
兵士も相馬を倒したと確信したのか、軽く息をはいてそうつぶやく。
だが、その直後兵士の表情が凍りついた。
「まだ……はえぇよ……」
そこには体のいたるところから血を流す相馬が、こっちを睨み付けながら立っていた。
「あの攻撃を受けて……立ってるんですか!?」
「あれが相馬の能力『蓄積と放出を操る程度の能力』だよ。あの莫大な攻撃を直に受けることで、エネルギーを自身の中に蓄積したのさ。もちろん、ダメージを受けないわけじゃあない」
「つまり……相馬さんは……」
「あいつは攻撃を受けるたびに強くなる。それがあいつのいい点でもあり、悪い点でもあるのさ」
そう言って萃香は溜息をついた。
「いい攻撃じゃねえか。それでこそだぜ」
ふらふらになりながらも、相馬は笑みをこぼす。そして、自身の前に立つ妖怪に視線を向けた。
「今度は……こっちの番だな!!」
そういった瞬間、相馬はその場からいなくなっていた。
いや、お空のすぐ目の前まで飛んでいた。
一瞬で移動した相馬は、右足を目に見えない速度でお空のわき腹へとめり込ませる。
まったくガードをしていなかった彼女の体は、めきめきといった不穏な音を軽く立てると、まるで音速のようなスピードで吹き飛ばされ、バリアにぶつかってその場に倒れた。
「なっ……」
「どうだ? これがお前の出したエネルギーのすべてだ。おめえも妖怪だから体は丈夫だろうが、かるくアバラがいったかもしれねえ。妖怪だし治癒能力高いからお互い様だろ?」
そう言って相馬は笑みを浮かべる。
しばらく動こうとしなかったお空だったが、意識を取り戻すとすぐに体を起こし始めた。兵士があわててキーボードをたたいているのを見ると、無理やり起こされたのほうが近いだろう。
「まだ立つのか……まあいいや。じゃあ萃香、あとまかせた」
というと、相馬は仰向けのまま倒れていった。
「相馬さん!!」
「ああ大丈夫。いつもあんなのだから」
「え?」
なぜか苦笑いをする萃香。すると、かすかだがなにかいびきの様な音が聞こえ始める。
「あいつ……やるべきことやったら寝ちゃうのさ」
「……」
萃香の言うとおり、相馬はその場でいびきをたてながら眠っていた。これには俊司達だけでなく、兵士達も驚いているようだった。
「仕方ないねぇ……さっさと終わらせようかね」
「……そうですね」
俊司たちがお空に目を向けると、彼女は空中に浮かび上がってエネルギーをためていた。だが、さっきのダメージがでかいのか、かなり苦戦しているようである。
「今のうちに!」
「その必要はないよ」
駆け出そうとした二人を、一人の少女が引き止める。
振り返ると、そこには見覚えのある少女が立っていた。
「こいしちゃん……」
「今度はちゃん付けなんだね。まあいいよ」
「ところで、その必要はないってなんなのさ?」
「うん。遅れてごめんね」
そう言ってこいしはお空にむけて指をさす。
そこには、なぜか驚いた表情をしたお空と、
「……お空」
といって彼女の目の前に立つ少女がいた。
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