とあるの世界で何をするのか
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二十二話 事情聴取とゲコ太ストラップ
銀行強盗を御坂さんが文字通り『ぶっ飛ばして』から数分、ジャッジメントの応援やアンチスキルも到着し、ジャッジメントは主に広場方面で事件目撃者への聞き込み、アンチスキルは主に銀行内での聞き込みと犯人の拘束を始めた。
拘束された犯人が護送車へと誘導されている時に白井さんが、戦った相手に対してちょっと格好良いことを言ってたりもするのだが、その辺は華麗にスルーして広場のほうへ目を向ける。広場には佐天さんと初春さんが居て、そして捜していた子供やその母親、そしてバスガイドさんも一緒に居る。佐天さんは子供の母親とバスガイドさんからお礼を言われ、子供からもお礼を言われると少し恥ずかしそうに微笑んでいた。
「佐天さん、大丈夫だった?」
一段落着いて皆で集まると、御坂さんが佐天さんに声をかける。
「あ……はい、大丈夫でした。神代さんが守ってくれたので……。ところで、最後のアレ、凄かったですね」
俺が介入したこともあって、御坂さんの台詞に「格好良かったよ」という言葉が無かった為か、佐天さんも普通に受け答えできているようだ。
「そうですよ、あんなに凄いなんて流石レベル5です! 感動しました!」
「お姉さまなら当然ですの」
「いやー、まー、あれぐらいなら別にたいした事じゃないわよ」
佐天さんの隣に居る初春さんは、興奮した様子で御坂さんに詰め寄りそうになっているのだが、白井さんがそれを抑えるという展開になっている中、佐天さんと初春さんから「凄い!」を連発され、御坂さんは照れた様子で応えていた。
「あ、神代さん。ありがとうございました」
初春さんと二人で御坂さんに詰め寄っていた佐天さんが、急に思い出したように俺にお礼を言ってきた。
「うん。佐天さんに怪我が無くて良かったよ」
「あの動き、凄かったわね」
「あれは何かの能力ですの?」
俺が普通に応えるとなぜか話題の矛先は俺に向き、御坂さんと白井さんに佐天さんを助けた時の動きについて尋ねられる。
「まー、能力の応用ってところね」
流石にヘイストの魔法をそのまま説明するわけにはいかないので、能力の応用ということにしておく。俺の能力からなら、実際に能力の応用で同じようなことが出来そうな気がするからだ。
「そう言えば、神代さんの能力って何?」
「サイコキネシスのレベル4よ」
「レベル4ですの? それで名前が神代……」
御坂さんに聞かれて素直に応えると、白井さんが急に考え始めた。もしかしたらというか、恐らく俺のこと……騎龍であり姫羅であるということを知っているのだろう。
「あれ、白井さんには言ってませんでしたっけ? 神代騎龍さんですよ」
「そう! それですわ!」
学校では普通に俺の女性化について皆が知っていて、別に秘密になっているわけではないので、初春さんも雑談の中で俺の話題を出したことがあるのだろう。初春さんから言われて白井さんも思い出したようだ。
「ん……どういうこと?」
御坂さんは知らなかったらしく初春さんに尋ねる。
「えーっと……神代さん、いいですか?」
「うん。っていうか、ここで駄目だったら白井さんの時点でアウトでしょ」
聞いてくる初春さんに了解はするが、すかさずツッコミも入れる。
「うっ……まー、そうなんですけど……」
「いいわ、自分で説明するから」
初春さんが一瞬詰まる。それを見ながら、俺は自分で説明したほうが良いだろうと判断して話し始める。
「ウチは今、女の姿をしてるから神代姫羅なんだけど、本当は男で名前は神代騎龍って言うの。まぁ、学園都市に来て能力開発を受けたらこんな体になっちゃったんだけどね」
「ア……アンタがあの雌雄同体!?」
「そのようですわね」
御坂さんも噂などで聞いたことがあったのか驚きの表情で俺を見ているのだが、白井さんのほうは恐らく初春さんの話だけでなく、バンクのデータベースなんかも見ていたようで冷静にうなずいていた。しかし、完全に間違っている部分があるのでそこは訂正しておかなければならない。
「雌雄同体じゃないわよ。ウチは男なのに女にもなれるってだけで、両方の機能を同時に持ってるわけじゃないからね」
「そう言えばそうですわね」
俺の言葉に白井さんは納得してくれたようだが、御坂さんのほうは何か微妙な表情をしている。
「えっとー……って事はアンタ、今は完全に女性になってるってことよね?」
「ええ、そうだけど」
御坂さんに確認されて答える。どうやら御坂さんには何か気になることがあるようだ。
「でも、アンタの能力は確かサイコキネシスだったわよね」
「うん」
ここまで聞かれると、御坂さんが気になっている部分が大体分かってきた。
「じゃー、女になれるのはどうしてなの?」
「確かに……そうですわね」
思った通り、御坂さんは俺が能力で女性化できるわけじゃない部分に疑問を持っていて、白井さんもそこで疑問を持ったようだ。というか、白井さんはバンクのデータを見たわけじゃないのだろうか。
「それはまぁ、能力のほうにも少し関係してくるんだけど、ウチって元々遺伝子的に男女両方の性質を持ってるみたいでね。そういうのって知らない?」
「まあ、聞いたことはあるけど」
「一応、そういう遺伝子を持ってる人ってわずかながら居るみたいで、基本的にはどっちかが強くて普通に片方の性別だけで生活してるらしいのよ。だけど、ウチはここで能力開発を受けたときに一時的に強さが逆転しちゃって、女になっちゃったのよね。すぐに男には戻ったんだけど、その時の遺伝子状態ってのを記憶してて、ウチのサイコキネシスでコントロールできるようになったから、男にも女にもなることが出来るようになったってわけなのよ」
ゴールデンウィーク中に土御門さんと相談して決めておいた設定どおりに話す。これはバンクのデータベースにも設定されているはずなので、バンクを見ていたのなら白井さんも知っているはずなのだ。
「へー、そうだったんだ」
「そうだったんですの」
御坂さんと白井さんはそれぞれ納得してくれたようで俺としても一安心である。
「いやー、そうだったんですね」
「初めて知りましたー」
佐天さんと初春さんも今の話で初めて知ったらしい。まぁ、学校で説明した時はこの設定がまだ出来ていなかったので、知らなくても当然といえば当然である。しかし、初春さんも俺のことをバンクで確認とかはしていなかったようだ。
「じゃーさ、神代さんって男の時はどんな感じなの?」
俺を男と知ってからはしばらくの間「アンタ」呼ばわりしていた御坂さんだが、呼び方をまた「神代さん」に戻して聞いてくる。確かに御坂さんとはこの姿でしか会っていないので、騎龍の姿を知らないのも当然なのだ。
「今ここで戻っちゃうと、ただの女装男子になっちゃうからねー。まぁ、それはまた今度って事で」
「そっか。残念」
一度だけこの格好で男に戻ったことはあるが、さすがにこの場所でそれをやるのは嫌なので断らせてもらった。基本的には男で行動することが多いはずなので、その内御坂さんにも騎龍の姿を見せることになるだろう。
「ま……まさかっ! その姿でお姉さまを油断させておいて、あわよくば手篭めにしようなどと考えているのではっ!?」
これで一息つけるかと思った瞬間、白井さんがおかしなことを口走って俺のことを敵視するように睨んできた。
「なっ……何言ってるのよ、黒子っ!」
「だってお姉さま。今でこそ女性の姿はしてますが、れっきとした殿方ですのよっ。今もお姉さまにあんな事やこんな事をしている妄想を膨らませているに違いありませんの!」
はっきり言って本人を目の前にかなり失礼なことを言った白井さんに対して、御坂さんが咎めるような感じで注意したものの、白井さんの暴走モードは止まる事なく更に加速している。
「んー、ってかさぁ。さっきのアレをすぐ隣で見てたのに御坂さんを手篭めにしてる妄想なんて出来るわけないじゃない」
どうやったら止まるかが全然分からなかったので、俺は暴走中の白井さんに対して冷静なツッコミを入れてみた。なお『アレ』というのは、銀行強盗の車をぶっ飛ばした御坂さんのレールガンの事である。
「ま……まあ、そうですわね……」
「ちょっ! それ、どういう意味よ」
白井さんの暴走を止めることは出来たようなのだが、逆に御坂さんから睨まれた。とはいえ、本気で怒っているわけではないようである。
「ちょっといいかじゃん?」
「はい」
丁度、会話としては一区切りついたと言ってもいいだろうというところで、聞き覚えのある声というか黄泉川先生が話しかけてきた。恐らく今回の銀行強盗事件の事情聴取だろう。
「ちょっとアレについて聞きたいじゃん」
黄泉川先生が親指で差したのは御坂さんがぶっ飛ばした車である。
「あー……あははは」
「はぁー、お姉さま」
俺が御坂さんのほうへ視線をやると、乾いた笑い声をあげる御坂さんに呆れた様子の白井さん。それを見た黄泉川先生は原因が御坂さんであることを察したようだ。
「詳しい話が聞きたいじゃん」
「は……はい」
結局、御坂さんはそのまま黄泉川先生に連れて行かれ、俺と佐天さんは鉄装さんの事情聴取を受け、白井さんと初春さんは別のアンチスキルの人に状況説明をすることになったのである。
「はぁー、疲れた」
御坂さんが事情聴取からかなり疲れた様子で戻ってきた。俺と佐天さんは普通に事情聴取を受けただけだし、初春さんと白井さんも普通に事情の説明をしていただけで、別に疲れるようなことも無かったのだが、御坂さんだけはあの黄泉川先生から特別に事細かく色々聞かれ、色々とお小言もいただいたようである。
「お姉さまの自業自得ですの」
白井さんが呆れた様子で言い放つ。もしあの時、車を投げ飛ばしていたのが俺だったら、事細かに聴取されていたのは俺だったのだろう。そういう意味でも御坂さんには助けられたわけだ。
「御坂さん、元気出してください」
「ありがとう、初春さん」
初春さんから声をかけられ、御坂さんがぎこちない笑顔で応える。しかし、御坂さんにこれだけの疲労感を与える事情聴取って一体どんな感じだったのだろうか、少し気になるところである。
「それでは、今日はこの辺りでお開きということにしたいと思いますの」
「そうですねー。それじゃー白井さん、今日はありがとうございましたー」
結局のところ、白井さんは御坂さんのことが心配なのだろう。今日はもう帰って御坂さんをゆっくり休ませようという提案を、初春さんも察して受け入れたためこのまま解散ということになりそうなのだが、そこで俺は一つ思い出した。
「あっ、そうだ。御坂さん、これあげるから元気出してね」
ポケットからゲコ太ストラップを一つ取り出して御坂さんに渡す。
「えっ? いいのっ!?」
「うん」
「ありがとー!!」
何と、アニメでは佐天さんから貰って言うはずだった台詞をここで聞くことが出来たので、俺としては満足である。
「あは……あははは……」
「はぁー、まったく」
さっきまではまるで締め切りを過ぎて徹夜で書き上げた作家みたいな表情だった御坂さんが、いきなり元気を取り戻したのを見て佐天さんが乾いた笑い声を上げ、白井さんは外国人のように肩をすくめる。
「ま……まぁ、元気が出たなら何より」
さすがに俺も御坂さんの急変っぷりには圧倒されてしまった。
御坂さんが元気を取り戻し、もう少し遊ぼうかと話していると、黄泉川先生から完全下校時間が近いと言われたので、今日はもう帰ることになった。
「それじゃあ、またねー」
途中までは全員一緒に歩いていたのだが、常盤台の寮は方向が違うので常盤台組と分かれて歩き出す。レベルの違いで多少離れた場所にあるものの、柵川の寮は同じ方向なので初春さんと佐天さんも一緒である。
「凄かったですねー」
「そうだねー」
初春さんの言葉に佐天さんもうなずく。恐らく御坂さんのレールガンのことを言っているのだろう。
「真横で見てたんだけど、衝撃波が凄かったよ」
「確かに凄かったねー」
「私もそんな近くで見てみたかったです」
間近で見た俺に初春さんが羨望の眼差しを向けてくる。確か佐天さんは俺からそれほど離れていなかったので、初春さんよりも近くでレールガンを見ているのだ。
その後も色々な話で盛り上がった。御坂さんのゲコ太好きだったり、白井さんの異常行動だったり、俺のシステムスキャン結果だったり……。
寮の配置は学校に近いほうからレベルの高い人が入れるので、街側から歩くと俺の寮が一番遠い。なので、最初に佐天さん、そして初春さんと別れた後は俺一人で歩くことになる。
(シェーラ、御坂さんの負の感情はどうだった?)
俺はふとゲコ太ストラップを貰えなかった時の御坂さんを思い出してシェーラに聞いてみる。あの時の御坂さんの負の感情は、俺だけでなく初春さんにまで感じ取ることが出来ていたのだから相当なものだったに違いない。
(はい、かなり強烈でした。ああいうタイプの負の感情はここでは珍しいです)
(なるほど)
どうやらゲコ太ストラップを貰えなかった時の御坂さんの負の感情と、能力開発関係で出てくる負の感情では系統が違うらしい。
(あれほどの負の感情ならば確かに魔族から見ると魅力的ではあるのですが……、ここでは他にいくらでも負の感情が蔓延してますから……、もったいないです)
(もったいない……か。まぁ、もし御坂さんの負の感情が今回と全然違う状態になったら教えてくれ)
(はい、かしこまりました)
恐らく妹達編での御坂さんの負の感情は、また系統が違うものになるだろう。少なくともシェーラなら、御坂さんがシスターズと出会った時には気付けるはずだ。
そう言えば、御坂さんのパラメーターを見てみたのだが、『能力強度』は10億しかなく、麦野さんの15億と比べると結構低い。しかし『演算能力』に関しては4億3000万もあり、麦野さんの2000万と比べると当然のことながら滝壺さんの1億2400万よりもはるかに上なのだ。まぁ、レールガンから電子機器のハッキングまで様々な使い方が出来るのは、演算能力の大きさがかなり影響しているのだろう。なお、白井さんの能力強度は6500万で、演算能力は3000万だった。
後書き
あれ……今回はアニメ超電磁砲の第一話の最後の部分だけだから短くなると思ってたのに意外と長くなってた……。
遺伝子云々の話は土御門さんと一緒に考えた設定ということになっていますので、この物語の中での遺伝子に関する設定とも違っています。当然、現実での遺伝子の構成とも関係ありません。
ページ上へ戻る