問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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短編 一輝とお姫様 ①
これは一輝が高校一年のころの話。
一輝は陰陽師関係のコネで高校に入り、さらにその関係で単位も気にしなくていいという立場なのだが、学校にはいないといけないので毎日通っていた。
それでも、夏休みにまでいく必要はないので(来てくれたらありがたい、とは言われているが。)補修も全てサボって陰陽師の仕事かラノベやアニメ、漫画に時間を使っていた。
「いや~今期も面白いのが多いな~。さて、昨日買ったラノベを」
PRUUUUUUU!PRUUUUUUUU!
一輝がラノベの山に手を伸ばすと、携帯電話が鳴る。
一輝は私生活用の携帯ともう一つ、陰陽師としての仕事受注用の携帯を持っている。
今回鳴ったのは後者の携帯だ。
「どんな依頼だろ?はいもしもし。寺西一輝です。」
一輝は“この携帯では”敬語も使うし、礼儀正しく話をする。
『こんにちは。今回は仕事を依頼したくてお電話させていただきました。』
電話の主は、少し低めの男の声だった。
「それはどうもありがとうございます。ご存知かもしれませんが、僕はまだ卵なので、仕事の依頼が来るのはとても助かります。」
『ご謙遜を。あなたの名前はそちらの業界では知らない人がいないとか。』
「卵が一人で頑張っているのが珍しいだけですよ。それで、依頼の内容はどのような?」
『それなんですが、直接会って話をさせてください。そうすれば、すぐに分かるでしょうし。』
「はい、構いませんよ。いつがよいでしょうか?」
『少しでも早いほうがいいので、今日にもお伺いしてよろしいでしょうか?』
「多少部屋が散らかっていますが、それでもよろしければ。」
『構いませんよ。では、今日の十七時にお伺いします。』
「分かりました。あ、それと。僕、電話ではこのように話せていますが、直接会うと口調などが崩れてしまいますが、ご容赦願います。」
『分かりました。では、皆にもそのように伝えておきます。』
通話はそこで終わり、一輝は時計を見る。
現在時刻、十六時半。来るのは後三十分後である。
「さて、準備しますか。」
一輝は靴を履くと家、マンションの一室から出て、そのまま向かいの部屋の鍵を開けて入る。
今までいた部屋はプライベート用の部屋で、今入った部屋は事務所のようなものだ。
もちろん、きっちりと片付いている。
一輝はとりあえずお茶を準備し、お茶菓子も準備する。
もちろん、人数が多い可能性もあるので、かなり多めに準備する。
準備を全て終え、一輝が時計を眺めていると、
ピーンポーン。
一秒の狂いもなく、ピッタリ十七時にチャイムがなる。
「うわお、時間ピッタリ。・・・どうぞ。」
一輝は玄関まで歩いていき、ドアを開ける。
そこには黒服サングラス軍団と帽子を深くかぶって顔を隠す、一輝と歳の変わらない少女がいた。
「電話したその日に申し訳ありません。こちらにも事情がありまして・・・」
「いいよ、陰陽師への依頼には、そんなのも多いし。訳ありなら、それにあった対応をするだけ。話を聞くから、入って。」
一輝は入るよう促し、自分が先に入っていく。
人数が予想以上に多かったので倉庫の中から椅子と机を出そうとするが、
「いえ、座るのは私とこのお方だけなので、椅子はこれで構いません。」
「・・・了解。お茶とかはもう準備しちゃったから、飲んでって。」
一輝はソファに座っている二人とその背後で直立している人たちにお茶とお茶菓子を配る。
「では改めて、陰陽師の卵をやっています、寺西一輝だ。まずはその帽子を取ってもらっても?さすがにその状態の人の依頼を受けようとは思えないし、カーテンも閉めたから誰にも見られないし。」
「・・・分かりました。構いませんか?」
「ええ。預かっていてください。」
少女は帽子を取って黒服に預ける。
一輝はその整った顔と綺麗な金髪を見て、記憶に引っかかり悩み始めるが、それは長くは続かなかった。
「あー・・・どおりで見覚えがあるわけだ。」
「はい、こちらは私たちの国の第一公女、マヤ様です。」
一輝はそれで黒服軍団がいたのか、と納得し、今まで出一番偉いのではないか?というレベルの依頼者に驚いている。
「・・・まあ、驚いてても仕方ないか。で、依頼内容は護衛?」
「はい、それを依頼するために、こちらに来させていただきました。」
「それなら、何で俺なんかに?俺はまだ高校生だし、陰陽師の卵。俺より強くてしっかりと陰陽師を名乗れる人もいると思うんだけど?」
「それは、」
「私が歳が近い人がいい、と頼んだからです。」
黒服が答えようとするが、お姫様・・・マヤがそれを遮り、答える。
「マヤ様、わざわざ貴女が答えなくても・・・」
「いえ、私の我侭ですから、私が自分で答えるのが道理です。」
マヤは無表情で無感情な声を出し、黒服に答える。
一輝はそれを止めて欲しいと思ったが、今それを言っても仕方ないと思考をきる。
「そう思った理由は?」
「日本にいる間だけとはいえ、自分の周りに人が一人増えるのですから、歳が近い人のほうがやりやすいです。」
「ごもっとも。でも、それなら女子のほうがよくないか?」
「それはそうなのですが、こちらで言う高校生の女子で、力のある陰陽師はいませんでしたので。」
「たしかに、男子ならいるけど女子にはいないな。それで、マヤは俺に白羽の矢を?」
「え?」
マヤは一輝の問いかけに驚いたような声を上げる。
「ん?もしかして、意味の分からない単語、あった?」
「あ、いえ。すいません。そういうわけではないです。理由は、それと加えてあなたがその年齢層の中で一番実力を持っているからです。」
「それはありがたいお言葉を。ま、それは事実だな。」
「はい。噂では、貴方は常識はずれの技を使い、妖怪を封印するとか。」
「まあ、まず間違いないな。それは俺のことで合ってる。」
一輝は身に覚えありまくりなので、あっさりと認める。
「そうなのですか?」
「ああ。その噂は一切増長されてないし、むしろ抑えられてるな。」
「・・・では、今までに受けた依頼が成功率百パーセントというのも?」
「ああ。公式非公式問わず、全部成功させてるよ。にしても、マヤは俺のことに詳しいな?」
「あ・・・はい。一応調べましたので。」
「マヤはしっかりしてるな。俺なんか、」
「おい、キサマ。」
一輝とマヤがお話をしていると、その横に座っていた黒服がかなり低い声を出す。
「なにかな?」
「先ほどから思っていたが、マヤ様のことを呼び捨てにし、タメ口を使った理由、教えてもらえるか?」
「癖だ。」
「・・・・・・依頼はなしだ。帰りましょう、マヤ様。」
「ですが・・・」
「このような無礼者、例え実力があろうとマヤ様の護衛を任せるわけにはいきません。」
マヤは渋っているが、黒服は帽子をかぶせ、部屋を出るよう促す。
そしてそのまま、黒服軍団とマヤは部屋を出て行き、一輝一人が残された。
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