問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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ヤシロ
「とまあ、こんな感じになった。」
一輝は部屋に戻り、そこで待っていた三人のメイドに会議の内容報告をした。
一人足りないのは、スレイブが「推測したいことがありますので、今日はもう休みます。」といって自分の部屋に行ったからだ。
スレイブのことも話すつもりだったので、ちょうどいいかもしれないが。
「そのギフトゲームには、参加条件などはありますか?」
「いや、俺が出場禁止ってくらい。他には何にもないはず。出たいの?」
一輝が尋ねると、三人ともが頷く。
それを不審に思った一輝は、蛟劉が言っていたこともあるのでさらに問うことにした。
「ふうん。ところで、蛟劉が何か他にも関係者がいるって言ってたんだけど・・・」
一輝が言い終わる前に、三人は顔をそらした。
分かりやす過ぎるな。
「はぁ・・・何をしたの?」
「えっと・・・私はあの手下の人に雹を降らせたよ。」
「私は、少々からだが消滅する恐怖を・・・」
「で、私は二人を手伝ったわ。」
三人は正直に、音央にいたっては開き直った。
「まあ気持ちは分かるけどな?俺もあの場で呪い殺しかねなかったし。」
「呪い殺すって・・・」
「もちろん、一番苦しい方法で。」
一輝は思い出した、とその方法をメモし始めた。
「まあ、いいんじゃないの?いくつか禁止事項を加えたいけど、出たいなら出れば。あれはボッコボコにして欲しいし。」
別に一輝の許可が必要なわけではないので、一輝はそう返す。
ヤシロに百詩編の乱用だけは止めるよういったが。
「じゃあこの話はおしまいね。で、スレイブのほうはどうだったの?」
音央はすぐに話を切り替え、一輝に聞いてくる。
「どうって聞かれてもなー。スレイブは楽しんでたけど、人として、とかそういう扱いを俺がするたんびに呆れたような顔してた。」
「変な扱い方はしていないのですよね?」
「まあ、そのつもり。」
一輝は自信がないのか、最後は濁した。
「う~ん・・・まだスレイブちゃんは変わらないかー・・・ここまで来ると何か理由がありそうだけど・・・」
「予想が付きませんね・・・」
ヤシロと鳴央は悩み始める。
「くー・・・」
訂正、ヤシロはそのまま寝た。
精神的には成長していても、体が子供のままだからだろう、夜更かしはつらいのだ。
「で、俺はどうしたらいい?」
一輝はヤシロを抱き上げ、ベッドに寝かせながら残りの二人に尋ねる。
「まあ、明日はヒッポカンプ選びを手伝ってもらいたいし、アンタは仕事でしょ?」
「子供達の世話関係が有ったな。」
「なら、明後日に、もう一度スレイブちゃんとデートをして、気が付いたことを聞いてみてはどうでしょう?」
「そうね。もうそこで決めるならそれぐらいしないと。」
一輝は内容を頭の中で整理し、確認を取る。
「つまり、俺はスレイブとデートしつつ、おかしなところを探せば?」
「後、楽しませることも。」
「結構難しいな・・・」
「まあ、頑張るしかないですね。」
そうして、一輝の今後の方針が決まり、二人は出て行く。
「ホント、難しいな・・・俺に出来んのか?」
「お兄さんだもん、きっと出来るよ。」
「おわっ!?」
一輝は急に後ろから声をかけられ、驚きの声を上げる。
そのまま後ろを振り向くと、ヤシロがベッドの上に座っていた。
「寝たんじゃなかったのか?」
「狸寝入りだよ。運んでくれてありがとう。」
一輝は呆れながらも、こんなやつだったな、と受け入れた。
「で、わざわざ狸寝入りをした理由は?」
「一つ目はお兄さんとお話しするため。私だってスレイブちゃんみたいに遊びたいんだけど・・・今回それは無理だろうしね。」
「そっか。ありがとう。」
「あははっ、何でお礼を言うの?」
「なんとなく言いたくなったからだよ。」
一輝はそう言うと、紅茶だけを取り出す。
「さ、お話を始めようか。と言っても、話すほどのことはないけど。」
「うん、この機会に私が聞きたいことを聞くから、大丈夫だよっ。」
ヤシロは紅茶を一口飲むと、最初の質問を始める。
「じゃあ、何で私たちを助けたの?」
「何でって、何が?」
一輝は本気で聞いていることが分からず、ヤシロに聞き返す。
「だって、助けることには責任が生じる。全ての場合がそうではないけど、今頑張ってるスレイブちゃんも、箱庭でお兄さんが助けた人たちもそうでしょ?」
「まあ、ヤシロちゃんたちは、俺と一緒に来ることになっちゃってるからな。」
「そうじゃなくて、お兄さんが助けた全ての人。他のコミュニティの人たちもね。」
「・・・ヤシロちゃんもそのこと知ってるの?」
「前に女子会を開いたんだっ。内容はお兄さんについてで、また開く予定だけど・・・お兄さんも来る?」
「俺について議論をする女子達の中に入る?居心地悪すぎるだろ。」
一輝は心から断り、紅茶を飲む。
「まあ、強いて言うなら、父さん達のことから立ち直ってからは、妹が自慢できるような人間になろうって努力してたし、それがもう癖になったからだよ。
下層での悪質コミュニティなら、魔王のところじゃなければ解決できる自信あるし。」
「ふうん。じゃあ次、お兄さんは私たちが邪魔だとは思ってないの?」
「思ってない。」
「わあ、即答だ!」
一輝は何のためらいもなく、反射的にそう答えた。
「そう思うんなら、助けてないよ。もしそう思ってたら、音央と鳴央のゲームも最悪の形で終わらせてたし、スレイブも解呪してない。ヤシロちゃんのゲームも一つクリアして終わらせてた。さっき言ってたように、責任が生じるからね。」
「じゃあ、私たちは一緒にいてもいいんだ?」
「当たり前だろ?」
「もしお兄さんが元の世界に帰ることになって、ついていきたいって言ったら?」
「ありがたいね、大歓迎だよ。住む場所も、神社の権利を奪い返せばいいし。」
一輝がそう言うと、ヤシロは一輝の目を見て、告げた。
「ありがとう、凄くうれしい。でも、私は、お兄さんに倒されて隷属することになった、元魔王。だから、私はずっとお兄さんに隷属することになる。一生、箱庭を離れても、お兄さんに付いて行く事になる。だから、真剣に考えて、さっきの答えを、」
「だから、問題ないって言ってるだろ。あれは嘘偽りない真実。」
一輝は聞いていられず、言葉をさえぎって、ヤシロの目を見て答える。
「別に、家族が増えることは嫌じゃないし、俺なんかについてきてくれるなら、そんなありがたいことはないよ。」
「・・・はぁ、そっか。そうだったね。お兄さんは、こんな人だった。」
ヤシロは顔をうつむけ、言葉を紡いだ。
「何悩んでたんだろ、自分があんまり構ってもらえてないからって・・・バカらしいな、ホント。」
ヤシロは再び顔を上げ、その赤くなった目を一輝に向けると・・・契約を始める。
「じゃあ、私がまた悪の道に走ったら?」
「意地でも止める。多少手荒なまねをしても、だ。」
「私が破滅しそうになったら?」
「前にも言っただろ?俺が全て操って、破滅なんてさせない。」
「私が、お兄さんの世界に行ったら?」
「家族として、妹として受け入れる。まあ、もう妹だって思ってるんだけどな。」
「うん、じゃあこれを契約内容にしよう。」
「契約?」
一輝はヤシロがいった言葉の意味が分からず、聞き返す。
「うん、契約。魔王の隷属だけでも足りるとは思うんだけど、」
魔王の隷属は、魂を木っ端微塵にして倒したとしてもなされる、強い契約だ。
十分に強い契約だが、ヤシロはそこに新たな契約を加え、より確実なものにしようとしているのだ。
「それでも、絶対なのかは分からないから、もう一つ加えたいの。私、ヤシロ=フランソワ一世とお兄さん、寺西一輝が結ぶ契約を。」
ヤシロは一輝の手をとり、契約を終える。
「私、ヤシロ=フランソワ一世は、さっきの契約が守られる限り、未来永劫貴方と共に生きる。」
ヤシロはそれを言い終えると、一輝に抱きつき・・・可愛らしい寝息を立てて、眠りについた。
「・・・ありがとう、ヤシロちゃん。これからもよろしく。」
一輝は、ヤシロに抱きつかれたまま、その体を支え、ベッドまで行くと・・・そのまま眠りについた。
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