カムバック
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第八章
ほっとした顔でだ、こう彼に話したのである。
「いや、嘘みたいだよ」
「成程ねえ、服でね」
「よく考えたら彼女はね」
喜久子、彼女はというと。
「その服はいつも大人しいんだよ」
「楚々とした感じの服が多いね、確かに」
それは社内にいる制服姿でも出社退社時に見る服でもだ、喜久子の服はそのスタイルを出さない露出の低いものなのだ。
それでだ、間宮もこう言うのだ。
「あれではね」
「色気がないっていうかね」
「顔立ちは綺麗だけれどね」
「そのことに気付いたんだよ」
彼自身もだというのだ。
「だからね」
「それでエプロンを着てもらったら」
「エプロンには独特の魔力があるよね」
「そう、女性をそれだけで三割は色気がある様に見せるよ」
着るだけでだとだ、間宮も言う。
「あれはね」
「だからなんだ、彼女のエプロン姿を見ただけでね」
「君は復活出来たんだ」
「さらにね」
新島は尚も話す。
「他の服でもだったんだ」
「ああ、コスチュームだね」
「ナース、チャイナ、ボンテージにブルマにバニーね」
そうしたものを次々に挙げてく。
「セーラーにテニス、チアガールにフライトアテンダントにボディコンとかね」
「色々してみてるんだね」
「そうしたらいつもだよ」
彼は復活出来ているというのだ。
「いや、本当に凄いよ」
「君は復活出来たんだ」
「そうなったね」
新島自身もそうだと応える、それも笑顔で。
「諦めかけていたけれど」
「うん、僕は復活出来ると思っていたよ」
「そうだったんだ」
「うん、けれどね」
「けれどなんだ」
「まさかああしたことで復活するなんてね」
服、それでだというのだ。
「それは予想していなかったよ」
「確かにね、僕もね」
新島自身もだ、このことについてはこう間宮に言った。
「それは思いも寄らなかったよ」
「だろうね」
「食べ物からだと思っていたよ」
「仕事のストレスも発散させていたよね」
「こうして飲んだり部下の若い子達と談笑したり身体を動かしてね」
「それによく寝てたよね」
「うん、そうしているからね」
ストレスもなかった、だからそこで沈黙することもなかったのだ。
しかし復活出来なかった、だからこそ困っていたのだ。
だが喜久子のコスプレで復活出来た、新島は笑顔で間宮に言う。
「これからは毎日でもね」
「ははは、夜もかい」
「頑張るよ、定年してからもね」
「そうしてくれよ、人間還暦近くになってもね」
「うん、まだこれからだよね」
「そうだよ、これからだよ」
その還暦に近い二人が笑顔で話す、新島は実際に定年してから九十で大往生を遂げるまで喜久子と夜も幸せに過ごした、彼女の服は常に夜は変わったが。
カムバック 完
2013・8・2
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