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アムリタ

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第二章

「生き残った者まで死んではならぬ、堤も田畑も戻せ」
「ではそのことも」
「すぐに」
「急げ、悲しみが続いてはいかぬ」
 王は確かに快楽を楽しんでいる、だが。
 民のことを忘れぬ王ではなかった、それでだった。
 すぐにだ、様々な救済策を出して民達を救ったのである、そして。
 多くの者達の嘆く姿を見た、その中で王は涙を流したのである。
「悲しい、余は悲しい」
「今の民達を見てですか」
「そうだ、多くの者が死んで嘆き悲しんでいる」
 そして大地も河も林も荒れ果てている、その無残な姿を見てなのだ。
 王はだ、こう言ったのである。
「今の有様に」
「悲しいですか」
「今の王は」
「宮殿の富も出せ」
 それを金としろというのだ。
「いいな、必要なだけ持っていくのだ」
「わかりました、それでは宮殿の富も」
「使い」
「民の悲しみは続けさせぬ」
 断固とした声だった、この声と共に。
 王は悲しみを感じていた、しかしそれでもだった。
 彼は働き続けた、その中で民の悲しみを観続けていた、それは王の心に涙を流させた。
 台風のことが収まってからだ、王は王宮に戻った。だが彼を王宮で待っていたものは。
 寵妃の一人が突然の病で死んでいた、その亡骸を目にしてだった。
 彼はこの時も涙を流した、そしてこう言うのだった。
「愛する者が去るとはな」
「はい、悲しいことですね」
「非常に」
「民達が死にこの妃も死んだ」
 このこともついても言うのだった。
「これ程悲しいことはない」
「お気持ち察します」
 家臣達もこう言うだけだった、王は二つの悲しみに打ちひしがれた。
 そしてまだだった、王に対して不幸が起こったのだった。
 応急の中で歩いていてこけてだ、それで足を折ったのだ。手当ては受けたがその痛みは相当なものであり今度はこう言った。
「痛い、しかしだ」
「今の台風での民達の痛みに比べればですか」
「王の痛みは」
「それ程ではない、しかしだ」
 それでもだ、足の痛みはというのだ。
「痛いな」
「ですね、やはり」
「王も」
「悲しい、痛い」
 そしてだった。その二つにより。
「苦しい、悲しみを感じて動けなくなることが」
 この二つからだ、そう感じるというのだ。
「非常にな」
「そうですか」
「その感情が」
「全くだ」
 苦い顔でだ、言う王だった。
「非常にな」
「では王よ」
 ここでだ、ピーニャが王に言ってきた。その言葉はというと。
「悲しみや痛み、苦しみは感じたくないですね」
「その通りだ」
 苦い顔で応える王だった、彼に対しても。
「こんなことはな」
「若し不老不死になればです」 
 アムリタを手に入れてだ、飲むとだというのだ。
「楽しみだけでなくです」
「こうした感情もか」
「永遠に味わうことになります」
 そうなるというのだ。 
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