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魔法科高校の神童生

作者:星屑
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Episode18:核心

 
前書き
お待たせしました! 

 


「いやぁ、久しぶりの隼人の飯はうまいな」


「本当にね。私達がいない間に随分腕を上げてるわ」


「ふふーん、でしょう?」


「…なんで姉さんが自慢げなんだよ…」


久しぶりの家族四人で食卓を囲む。ちょっと力をいれて作った俺の料理は大変好評で、何故か姉さんがそのない胸を張っていた。


「誰が貧乳よだ・れ・が!!」


「あいたたたた!!サラッと人の思考読まないでよ姉さん!」


「なんでスバルには胸がないのかしらね…遺伝的には大きくなる可能性高いのに」


「セラ、それ以上言うな。ほら、隼人を抓ってるスバルの手にどんどん力がこもっていく」


「ふふ…みんなして、私が気にしていることを…うふふふふ」


「……ごめんなひゃい…」


俺の頬は、限界を迎えていた。




















「それにしても、隼人は魔法の発動スピードが早くなったな」


「そうかな?自分ではよく分からないや」


食後、皿洗いは姉さんと母さんに任せて、俺と父さんはテレビを見ながらお茶を飲んでいた。これから大事な話があるっていうから風呂も行かないでいるのだ。


「あの最後の陸津波(くがつなみ)。感電していなくても躱しきるのは不可能だった。成長したな」


そう言って、頭を撫でられる。
うわ、なんかこういうの久しぶりだな。というか、父さんや母さんと会うのも二年ぶりくらいだし。凄い懐かしくて、嬉しい。


「隼人陥落、かしら?」


「え、あんた同性愛者?」


「なんでそうなんだよ女二人」


洗い物を終えて居間に戻ってくるなり勝手に同性愛者に仕立て上げてくる二人を睨みつける。
この家は大体いつもこんな調子だ。母さんと姉さんが率先して場を引っかき回していく。しかもそれは母さんは天然でやってるからたちが悪い。結局、振り回されるのは俺と父さんの男二人ということだ。



「あはは…そういえば隼人、英美ちゃんとは仲良くやっているのか?」


「なんでそこでエイミィが出てくるのさ…」


なんだかんだ言って、明智英美の家、ゴールディ家とうちは古い付き合いになる。確か、父さんがまだ軍人になる前に執事としてゴールディ家に仕えていたとか。だからか、ゴールディ家とのパーティに招待されたりすると、父さん、そして巻き込まれて俺は執事として振舞わなければいけなくなる。もちろん、母さんと姉さんはお嬢様だ。なんだこの扱いの違いは。


「まあ、変わらず仲良くやれてるとは思うよ」


「あら、なんの進展もないのかしら?」


「へ?進展?なんの?」


「ダメね、これは重傷だわ」


「あはは、罪な男だな隼人は!」


「それを貴方が言うかしら、櫂?」


「え?」


おお、母さんから凄いオーラが溢れ出ている。


「これは、長くなりそうね」


「だねー」


目の前で繰り広げられる夫婦漫才を、俺と姉さんはニヤニヤしながら見守るのであった。
















「ごほん、じゃあ、本題に入ろうか」


あれから数十分、ずっとじゃれ合ってた父さんと母さんを置いて俺と姉さんで大富豪をしていたとき、咳払いしながら父さんが言った。


「革命っと!ふふ、どうだ姉さん」


「甘いわね隼人、革命返しよ!」


「馬鹿な!?」


「おーい隼人ー、スバルー?」


負けてしまいました。


「で、大事な話ってなに?」


「ああ、オレ達がとある国にあるブランシュの支部を潰したときの話しだ」


その一言で、この部屋から団欒という雰囲気はなくなった。あるのは、張り詰めた緊張感。


「そこの支部はある一定の距離にあるアジトの所謂拠点となっていてな。そこのデータベースを覗いたら、日本支部の情報も載っていた」


「間抜けな連中ね。全滅する前にデータくらい削除しておきなさいよ」


「いや、攻めてきたのが父さんと母さんだったらそんな余裕ないと思うけどな…」


「それもそうね」


九十九家では、大体不可能そうなことでも、「まあ、父さんと母さんだしね」で通ってしまうのだ。


「なんか少し失礼なことを言われて気がするけど、まあいいです。それで、問題はその後。データを少し見てみたら、予想以上の情報が手に入ったわ。例えば、ブランシュ日本支部を束ねているリーダーの名前は、(つかさ)(はじめ)。得意とする魔法は精神干渉系魔法『魔眼(イビルアイ)』」


魔眼(イビルアイ)……それって、単なる光の信号じゃなかったかしら?」


「正解だスバル。魔眼(イビルアイ)は仕組みさえわかってしまえばなにも怖くはない。だが、それは一般的にはあまり知られていない知識だ。どうやらブランシュは、この魔眼(イビルアイ)を使って記憶を操作し、組員を増やしているらしい」


「記憶操作、か…でも、多分それは不完全なものなんだろうね」


「そうなるわね。多分、記憶操作といっても混乱させる程度には収まっていると思うわ。だから、なにか決定的な記憶の入れ違いが分かれば、効力はなくなる」


「だが、恐らくその記憶操作は単なるきっかけ作りだ」


「なんのきっかけよ?」


「奴らが組員にするべく狙っているのは、必ず『魔法』というモノに対してマイナスな感情を抱いている人間だ。そういう人間に、記憶操作を施して更に魔法を否定的にさせていく。そうすれば、あとは簡単だ。『非魔法』を掲げているブランシュに入るのは時間の問題になる」


「なるほどね。どちらにしろ、やってることは下種いわけだ」


「そうね…それに、そう考えると一番条件に合っているのが、魔法科高校。その二科生になるわね」


「一科生に対してかなりの劣等感を二科生は持っているはず。それを、ブランシュが見逃すはずはないわ」


「隼人、お前の周りにそういう人間はいないか?」


全員の視線が、俺に向いた。
劣等感を抱える二科生……俺の知っている二科生は達也たちだけだけど、あの人たちはあり得ないな。美月さんが危ないけど、あの人優柔不断っぽいから、エリカたちのフォローでなんとかできるだろう。だとすれば、俺に心当たりはもう……


「…あ…!」


そのとき、不意に市原先輩との会話を思い出した。カフェテラスにいるとき、達也と一緒にいた人物…壬生紗耶香先輩!あの人は、非魔法競技系クラブの連携に加盟するくらい一科生との差別、ひいては『魔法』に対して否定的だ。
いや、待てよ…下手をすれば、その『非魔法競技系クラブの連携組織』。これ自体が、ブランシュとの連携組織になるのか?いや、仮にそこまでいっていなくても、ブランシュの指示に従って行動している可能性は十分に高い。そうなってくると、かなり深刻な問題になるぞこれは。


「…はぁー……」


深く息を吐き出して、頭を落ち着かせる。
とにかく、これは魔法科高校の管轄内の問題だ。父さんと母さんなら、色々権力とか使って介入できそうだけど、目立ちすぎるのはよろしくない。となると、ここは俺が引き受けるのが妥当か。


「父さん」


「なんだ?」


意を決して、父さんの目を見た。


「今回の件全て、俺に任せてほしい」



















翌日。


「鋼、二四六ms(ミリ秒)余裕だね」


「なんか隼人に言われると嫌味に聞こえるんだけど」


今、俺たちB組は二人一組で行う魔法実技の課題に取り組んでいた。
基礎単一系魔法の魔法式を制限時間内にコンパイルして発動する今回の課題。コンパイルとは、機械に記録することが可能なデータである『起動式』を、機械には再現不可能な『魔法式』に変換するプロセスのことだ。
現代魔法の全てはこのコンパイルを通して魔法が発動される。起動式を記録する機械であるCADに多くの起動式を設定しておけば、多様な魔法を、安定的に使用できるようになった。しかしその代償として、念じただけで事象を改変してしまう『超能力』の持つ発動速度は著しく低下したけどね。
この実技課題は、その低下した発動速度を少しでも補うことを目的とした訓練だ。
けどまあ、なぜか魔法式を介さずに魔法を発動できる俺には、正直こんな訓練必要じゃなかった。


「はーいはやとくーん、001ms(ミリ秒)ー、最早瞬間的に発動しておりますー」


「……あとでジュース一本奢ってあげるよ」


すっかりやさぐれてしまった鋼に、俺は苦笑い混じりでそう言ったのだった。




















「見つけたぞ」


「ヒィッ!?」


背後からガッシリと肩を掴まれ、耳元でそう囁かれた俺は悲鳴を上げて軽く飛び上がった。


「わ、渡辺委員長…!?」


放課後になり、鋼にジュースを奢ってあげたあと俺がカフェテラスで風紀委員の仕事をサボ…ゲフンゲフン。休憩しているとき、俺の前に現れたのはあろうことか風紀委員長の渡辺摩利先輩であった。


「奇遇だな、まさか、お前もここにいるとは……見回りはどうした?おい露骨に目を逸らすな」


「ごめんなさい…」


流石に逃げきれないと思い、俺は素直に謝った。その後、聞こえてきたのは、罵声ではなく、軽い溜息。


「お前は、私に似ているよ」


「俺が、渡辺委員長にですか?」


「ああ、一年の頃は、私もお前のようにこうやってバレないようにサボっていたものだ」


とてつもなく予想外だった。まさか、あの渡辺委員長が俺と同じサボり魔だったとは。


「まあだからといって、お前がサボっていた事実は消えないんだがな」


「うぐっ…!」


「少し私に付き合え」


どうやら、俺に拒否権はないようだった。




















「んで、俺は二度目のカフェイン補給なんですが…」


「不満か?」


「カフェイン最高!」


いや、実際はカフェインなんて感じられないんだけどね。
あの後、渡辺委員長に口出しすることができない俺は再びカフェテラスでコーヒーを飲むことになっていた。向かいの席には、この間の市原先輩でもなく、いつもの鋼でもなく、三巨頭と呼ばれるこの学校随一の魔法師である渡辺摩利委員長。



「それで、どうせ委員長の目的はあそこの二人でしょう?なら、俺なんかいらないんじゃないですか?」


そう言って俺の後ろを指差す。そこには、いつぞやの時のように向かい合って座る男女の姿があった。達也と、壬生先輩だ。



「私が一人でコソコソしているほうがおかしいだろ?」


「ああ、なるほど。渡辺委員長のイメージなら逆にズカズカ踏み込んでいきそうですもんね」


「…九十九家の人間はみんな一言多いな」


「へ?俺以外に誰か知ってるんですか?」


「ああ。九十九スバル先輩、私の剣術の師匠だ」


「……ええええ!?」


俺の姉さんが渡辺委員長の剣の師匠!?
あ、いやでもあり得無い話ではないか。渡辺委員長は千葉家で剣の修行をしてたらしいし、俺の姉さんも千葉家の技盗めるだけ盗んできてたし。


「世界って思ったより狭いのかもしれませんね」


「まったくだ」


そう言って、二人揃って溜息をついた。


「それで、渡辺委員長は今回の件をどう見ます?」


「どういう意味だ?」


訝しげに問い返す渡辺委員長に、一口コーヒーを飲んで答える。


「そのまんまの意味ですよ。今回の非魔法系クラブ連携組織による威嚇行動から、これから先のことです」


真剣な表情で俺がそう言うと、渡辺委員長も先程とは打って変わって真面目な顔つきになる。


「そうだな…前に言ったとおり、恐らく根は深いのだろうな。私達一般の高校生の手には負えないくらいに」


口では自信なさげに言っているが、渡辺委員長の言葉にはどこか確信めいたものがあった。流石は三巨頭の一人ってとこだね。


「そうですか……」


「だがいくら私達の手が届かないほど根が深くても、なにもやらないわけにもいかないだろう。そして、この学校の面倒ごとは我々風紀委員の仕事だ。頼むぞ九十九」


「了解しましたよ、っと!」


頼ってくれている。そう感じれて、俺は嬉しかった。残ったコーヒーを飲み干して、チラリと達也たちのほうを見ると、あちらも終わりのようだ。


「待って…待って!」


席を立った達也を引きとめようと、壬生先輩は青い顔で悲鳴に似た声をあげていた。どうやら、交渉は決裂したようだね。


「何故…そこまで割り切れるの?司波君は一体、なにを支えにしているの?」


「俺は、重力制御型熱核融合炉を実現したいと思っています。魔法学を学んでいるのは、その為の手段にしか過ぎません」


達也の言葉で、壬生先輩の顔から表情がなくなった。まあ、多分達也が言ったことが理解できなかったんだろうな。


重力制御型熱核融合炉の実現は、『汎用的飛行魔法の実現』『慣性無限大化による擬似永久機関の実現』に並んで『加重系魔法の技術的三大難問』と呼ばれているものの一つだ。それは、『二科生』が将来の夢とするには、大きすぎるテーマ。恐らく同じ『二科生』である壬生先輩には理解できていないだろう。そして、達也も理解してもらおうとして言ったことではない。ただ、普段の全てに達観したような態度を見せる達也にしては、新鮮味を感じるほどに、力のこもった言葉だった。



















ーーto be continuedーー 
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