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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百五十九話 ヴァンフリート星域会戦 その8

 
前書き
お待たせしました、やっとヴァンフリート星域会戦も終了です。 

 
宇宙暦794年 帝国暦485年4月5日

■自由惑星同盟 ヴァンフリー4=2宙域

第六艦隊を撃破したケスラー艦隊の前には、レーテル艦隊を痛撃している第十二艦隊の無防備な側面が見えていた。

「ようし、ロイエンタールやミッターマイヤーには悪いが、このまま次の敵に突っ込み食い破るぞ!」
ほぼ単独で第六艦隊を撃破したシュワルツ・ランツェンレイター旗艦シュワルツテーゲルでは、ビッテンフェルト少将が不敵な笑みを浮かべながら次の得物を求めて突撃すると宣言する。

「おう、シュワルツ・ランツェンレイターの力を更にアピール為さるのですな」
「腕が鳴りますな」
副司令官のハルバーシュタット准将や参謀長のグレーブナー准将がヤンヤヤンヤとビッテンフェルトに賛同して司令部全体が攻撃一辺倒に成る中、副参謀長で苦労人のオイゲン大佐だけは、正論を吐いて皆を宥める。

「提督、当艦隊は充分に武勲を上げたのです。此処は他の方々にも活躍の場をお譲りするのがよいのでは?」
「しかしな、戦には勢いと言うものがあってな、此処で止めるわけにはいかんのだ」
オイゲンの言葉にビッテンフェルトが返答する。

「確かにそうですが……」

そんな会話を中断する様な報告がオペレーターから入った。

「レーテル艦隊、敵第十二艦隊を押し込んでいきます」
「何!」
今の今まで、シュワルツ・ランツェンレイターの前で横腹を晒しながらレーテル艦隊を痛撃していた第十二艦隊が、いきなりレーテル艦隊の攻撃を食らったのか後退を始めていた。

あと三十分もすれば射程圏内に入るはずで、その際にはレーテル艦隊と挟み撃ちに出来るはずだったの有るが、第十二艦隊がアステロイド帯へ後退を始めた結果、勢いに乗ったレーテル艦隊がそのまま第十二艦隊を追撃したため、前進しようとしたシュワルツ・ランツェンレイターの前面を塞ぐように立ちはだかった。

『全艦一旦停止せよ』
ケスラー艦隊旗艦エリュテイアから司令が入った。
「仕方ない、全鑑停止し陣形を整えろ!」
流石に味方を蹴散らして第十二艦隊を撃破する事が出来ないため、ビッテンフェルトも指示に従う。

猪突猛進のビッテンフェルトを除けば、ケスラー以下の面々は第十二艦隊の動きを怪しんで、レーテル艦隊へ忠告を送っていた。



その頃、、今まで散々痛撃されてきていたレーテル艦隊では急に第十二艦隊が後退を始め圧力が減った為に、打ち勝ったと勘違いしたフレーゲル男爵達が、レーテル提督を急かしていた。

「やっと敵は我等の恐ろしさが判ったようだな、レーテル中将直ぐに追撃だ!」
「中将早くせんか!」

フレーゲル達の圧力に負けてレーテル提督も追撃を命令する。
「全艦、逃げる敵を追撃せよ」

そんな中、ラインハルトは意見を言う事すら許されずに“この無能共めあれは擬態だ”とギリギリしながらフレーゲル達を睨み付けていた。

そんなラインハルトの姿すら目に入らない様な興奮でフレーゲル達はがなり立てている。「良いぞ、我が軍の勝利に貢献すれば、叔父上の勘気も解けるであろう」
「これで、ヒルデスハイム家の家督を再度継げる」

そんな興奮の中、ケスラー艦隊から“第十二艦隊の動きは罠の可能性が有る”との忠告が来るが、“俄騎士風情が、高貴なる我等が手柄を立てる事を邪魔するきか”と忠告を無視する。

しかし彼等の歓喜はそう長くは続かなかった。

後退した第十二艦隊を追撃する事に気を取られ、狭い空域にひしめき合うレーテル艦隊は、銀河基準面に平行に艦位を置いているのであるが、その右舷側は完全にケスラー艦隊の進撃を邪魔していた。

それだけでは無く左舷側はエッシェンバッハ元帥直属艦隊と交戦中の第五艦隊に対して全くの無警戒であった。

フレーゲル達の興奮が最高潮に達した直後、突然ガラ空きの右舷側からレーザー水爆の大群が降り注いできた。一瞬にして右舷側に居た多数の艦艇が被弾し宇宙空間に大輪の花を咲かす。

「どうしたと言うのだ!」
「何だ!」
フレーゲル達は慌てるが、ラインハルトは素早く状況を把握しレーテル提督に直言する。

「敵第五艦隊の攻撃だ、提督直ちに対処を!」
その言葉にも、司令部全体が慌てふためき対処出来ない。

更にフレーゲル男爵が、余計な事を言い始める。
「えい、小賢しい事を言うな、全艦直ちに左舷90°回頭敵を撃破せよ!」
第十二艦隊を追っている状態でのいきなりの越権命令であるが、門閥貴族の恐ろしさを知っているオペレータは全艦にフレーゲルの無茶な命令を出してしまう。

その間にも近づいてきた六千隻程度の艦艇がレーテル艦隊に対して砲撃を行いつつゆっくりと後退を始めていく。

混乱の中90°回頭を行い、追撃をしようとした刹那、今度はアステロイド帯から急進撃してきた第十二艦隊の攻撃受け大混乱し始める。

前方からは第五艦隊分艦隊、右舷からは第十二艦隊に痛撃されたレーテル艦隊はとうとう司令部すらパニックになり、各艦がテンでバラバラに逃げ始めた。

旗艦では、フレーゲルが“何故逃げるか、貴族としての矜持を忘れるな”と騒いでいたが、流石に命が大事なアイゼンフート達により羽交い締めにされていた。



レーテル艦隊が四散したために、その進路上に当たるケスラー艦隊は全く前方へ移動する事が出来ずに、返ってレーテル艦隊の残存艦が我先にと突っ込んでくるため、衝突回避システムを全開にして避けねば成らず、再度元の場所へ戻っ来て、ケスラー艦隊に相対する形で機雷を放出し始めた第十二艦隊の動きを邪魔する事も攻撃する事も出来なく成ってしまった。

ビッテンフェルトは、艦橋で“阿呆共が!”とレーテル艦隊にがなり立てていた。





同盟軍の見事な釣り野伏せが行われたのは、ビッテンフェルトが第六艦隊を痛撃していた頃に遡る。

第五艦隊司令官ビュコック中将と第十二艦隊司令官ボロディン中将が戦況を話し合っていた。

「ビュッコック提督」
『ボロディン提督、世話をかける』
「いえいえ、所で其方の戦況はどの様なものですかな」

『旨い戦法と言えるな、三隊が順序よく二時間事に三交代で攻撃してくる』
「成るほど、今までの帝国軍の戦法と違いますな」
『そうじゃな、取りあえずは正面の敵に対処すれば何とか時間は稼げるじゃろう』

「確かに」
『其方はどんな状態かね?』
「奇襲を受けましたが、交戦中の敵艦隊は練度が低いのか攻撃的ですが、狙いは荒いですから、被害は大したことは無い状態ですし、第六艦隊が後方から押し込んでいるので暫くしたら、後方が空くでしょう」

『ふむ、其方から、逆激して敵艦隊の後方へ回ってくれるか?』
「任せて下さい」

その様な会話の中で、第十二艦隊旗艦ペルーンにオペレーターの悲痛な叫びが上がった。「第六艦隊の後方に敵艦隊、凡そ一万五千、第六艦隊混乱しています!」

「第六艦隊の状態は?」
参謀長コナリー少将の問いかけにオペレーターが答える。
「敵艦隊は後方より第六艦隊を攻撃していますが、第六艦隊は敵前回頭を始めました!」

その報告にボロディン、ビュコック共に驚きの表情をする。
「馬鹿な、敵前で回頭など自殺行為だ」
『ボロディン、これは不味いの』
「ええ、直ぐに対処しないと」

その様な話の中、再度オペレーターの悲痛な叫びが上がる。
「第六艦隊壊滅、旗艦ペルガモン通信途絶!」
別のオペレーターが追加情報を報告する。
「第六艦隊、崩壊しつつあります」

その報告に、ボロディンは直ぐさま、ビュコックと作戦を練り始める。
『いかんな、このままでは其方の艦隊は十字砲火の餌食に成りかねんぞ』
「ええ、其処で相談ですが、第五艦隊の第三第四分艦隊を反転させられますか?」

ボロディンの問いかけに暫し考えたビュコックが答える。
『正面の敵は七千隻もあればあしらえるから、六千隻程度なら反転可能じゃが』
「私に考えが有ります」

『どの様なものかな?』
「はい、現在我が艦隊は敵を押しつつありますが、此方の第三第四分艦隊を反転させアステロイドに攻撃をかけ、航路を開削して其処へ艦隊を後退させます」

『なるほど、其処で、今対処している敵艦隊を現在ボロディンの居る宙域へ進撃させ、此方の艦隊と十字砲火する訳か』
「はい、時間的も第六艦隊を撃破した敵より早くしなければ成りませんが、成功する確率はかなり有るかと」

ボロディンの説明にビュコックは目を開いて肯定する。
『判った、ボロディン無理はするなよ』
「無論です」

これにより、第十二艦隊第三第四分艦隊六千隻が反転、その後小惑星や隕石群をレーザー水爆や主砲で爆砕し、敗走をしたように見せかけてレーテル艦隊を誘き寄せ、反転してきた第五艦隊第三第四分艦隊六千隻と共に都合一万七千隻ほどの戦力で十字砲火の中撃破ししたのである。


その後、第十二艦隊はありったけの宇宙機雷を航路上にバラマキ、ケスラー艦隊との間に機雷堰を築いてしまった。指向性ゼッフル粒子発生装置などを持って来て居ないケスラー艦隊はそれ以上の進撃が不能になってしまった。

しかし、機雷で退路を断った以上、同盟軍は何れジリ貧になる可能性が高いので有るが、その予想は覆される事に成った。


四日後の4月9日、第五艦隊と対峙している、エッシェンバッハ元帥率いる艦隊の後方から一万七千隻程の艦隊が突然攻撃を仕掛けて来た。ローテーションで丁度休息に入っていたカイテル艦隊が痛撃され混乱が生じる。

彼等はやっと戦場に間に合った同盟軍第八艦隊と宇宙艦隊総司令部直属艦隊であった。
その攻撃と連動するが如く、第五艦隊が紡錘陣形で突撃を敢行し突然の攻撃に慌てるホイジンガー艦隊の一角を突き破る。

更に第五艦隊に接触するが如く至近距離から第十二艦隊も紡錘陣形で包囲網を突き破る。そんな中、エッシェンバッハ元帥直属艦隊が、体制を整えて第五、第八、第十二艦隊へ攻撃を仕掛けようとするが、パニック状態のカイテル、ホイジンガー艦隊が射線上で彷徨くために攻撃する事も出来ない。

エッシェンバッハ元帥は旗下の艦隊の体たらくを苦虫を噛みつぶした様な表情で見ている。
「あれでは攻撃できないではないか!」

体制を整えた、同盟軍四万隻ほどが、三万数千隻の帝国軍を撃滅しようと動き出した刹那、第十二艦隊に大規模な火球がはじけ、艦隊に大規模な損害が生じた。

機雷原監視をレーテル艦隊に任せ、迂回航路を通って戦場へ急行していたケスラー艦隊が間に合ったのである。

ケスラー艦隊は、再度シュワルツ・ランツェンレイターを切っ先として、突撃を敢行した。
その攻撃に同盟軍は大打撃を受けつつあったが、ロボス元帥にしては珍しく、早期の撤退を行い、第五艦隊と第十二艦隊が殿として後退していった。

これにより、帝国軍は敵基地の完全降伏を完了したが、貴族出身の艦隊司令官の体たらくが浮き彫りとなり、エッシェンバッハ元帥も今回の事で流石に貴族出身将官に見切りを付け、ケスラー提督の元で活躍した下級貴族、平民出身の将官の起用に積極的となった。

今までであれば、ブラウンシュバイク公、リッテンハイム侯に遠慮する所であるが、強い陛下のお墨付きを得た以上、軍務尚書エーレンベルグ元帥、統帥本部長シュタイホフ元帥の三者で協力し合いながら、艦隊指揮官の選定に入るのであった。



ヴァンフリート星域会戦

帝国軍 
      艦隊数      喪失    大破中破等損傷
五個艦隊       66,000隻 12,394隻 20,851隻
 
エッシェンバッハ艦隊 15,000隻       1,217隻  2,798隻
ホイジンガー艦隊 12,000隻 2,511隻 5,479隻
カイテル艦隊 12,000隻 2,294隻 6,812隻
レーテル艦隊 12,000隻 6,294隻 5,071隻
ケスラー艦隊     15,000隻      78隻 421隻

戦死、行方不明者 776,894名 負傷者1,775,983名


同盟軍 艦隊数       喪失    大破中破等損傷

四個艦隊+司令部艦隊  55,000隻 18,040隻 14,319隻

司令部      5,000隻      277隻 670隻
第五艦隊  13,000隻  3,482隻 3,275隻
第六艦隊  12,000隻 8,249隻 3,341隻
第八艦隊  12,000隻 1,238隻 2,977隻
第十二艦隊  13,000隻 4,794隻 4,056隻

ヴァンフリート4=2後方基地陥落

戦死、行方不明者 1,439,315名 負傷者1,276,218名



帝国軍の戦果

捕虜ヴァンフリート4=2後方基地員43,951名 各艦隊捕虜、487,439名

捕虜、同盟軍第六艦隊司令官ムーア中将、 ヴァンフリート4=2後方基地司令セレブレッゼ中将、ローゼンリッター連隊全て

ムーア中将は旗艦ペルガモン大破の際に気絶し戦場に旗艦ごと取り残された挙げ句に捕虜になった。 
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