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蘇生してチート手に入れたのに執事になりました

作者:風林火山
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もしもタイプの女性が目の前で誘拐されたら

 
前書き
すみません。
少し間が空いたようですが、第二話の更新です。
どうぞお読みください。 

 
雪が降る中、伊島宏助ーつまり俺は自宅への帰路を辿る。
自分の腕時計に目を落とすと、デジタルの数字が五時半を示していた。辺りはこの季節特有の早い日暮れで、すっかり暗くなっている。
この住宅街のマンションが立ち並ぶ道路では、あまり人気はなく、街灯の灯りはただただ冷たいコンクリートを照らすのみ。
実は俺の二百メートルほど前方に人がいて、こちらに向かって歩いているのだが、わざわざ見ようとは思わなかった。意識しなくても気配が伝わってくる。他の力はコントロールできても、この気配を感じ取る能力だけは無意識に行ってしまうものらしい。だから俺は人ごみが嫌いだ。人の気配を強く感じ取りすぎてしまう。
そんなことを考えていた宏助の横を一台の車両ーベンツが通り過ぎる。この辺りには金持ちも住んでるし、さして珍しくはないが、宏助の意識を引いたのは車両に載っていた男達だった。
運転手が一名と、助手席、そして後部座席に一名ずつ、計三名、そのベンツには乗っていた。全員お揃いの黒いスーツとネクタイを着用しており、この暗闇とベンツの紺にまぎれて常人ならよく見ることもできないような格好だ。
それでいて、全員がかなり体つきががっちりしている。ジムとかに通いつめているような、要はそうでもしないとならないような肉体だった。
そんな体格と服装が不釣合いで、でもどっかのマフィアとかなら納得できるようなそんな連中だった。
気になってしばらく目で追ってみる。無意識の内に能力が発動、その異常な視力で、この暗闇でも彼らの一挙一動がはっきりと見えた。自分の体に嫌気がさし、そろそろやめようかと目をそらそうとしたとき。
宏助の異常な視力があるものをとらえた。
「・・・・・!!」
一瞬だった。先ほどから気づいていた数百メートル先に感じた気配があった地点にベンツが通りかかった瞬間、ベンツの左側のドアが開き、後部座席に乗っていた一人の男がその気配を力強い腕で、掴み取り強引に車内に引きずり込み、そしてドアを閉めた。その間ずっとベンツは走行中だった。そしてそのままベンツは走り去ってしまう。
まさに早業。それもプロの技だった。完全に誘拐だ。とにかく警察に連絡しなければ・・・・。冷静な方の頭はなにやら考え始めるが宏助のもうひとつの思考がそれを邪魔した。
先程から感じていた気配は若い女性のものだった。さらわれたときの短く、普通なら確実に聞こえない悲鳴も、女性のものだった。
しかし、自分の異常な視力を使ったため、気配だけではなくその若い女性の姿を確実に自分の目は捉えていた。
肩までかかった長い黒髪。長い睫毛と薄い唇。なんというか整った顔立ちだった。そして、なにより柔らかな身体。コートで全身を包んではいたが胸の部分がやたらと大きく盛り上がっていた・・・・とにかく発育の良い体つきをした女性だった。
年は俺位だろうか、しかし異様な美人だった。モデルも顔負け・・・ぐらいのレベルの。
そしてそんな整った顔に彼女が浮かべた驚愕の顔。これから彼女はどうなるのだろうか・・・。おそらくいい目には合わないだろう。今更、警察に俺が連絡したところで証拠もないし、相手にもされまい。相手にされたところで、もう手遅れだ。ベンツは俺の視界からすらももう消えてしまっている。
そんなことを考えている内にふと宏助は自分が走っていることに気づいた。なんだ、もしかして俺は彼女を助けようとしているのか?そんな、まだ誘拐されたと決まってもいない彼女を?
しかし、宏助は胸の中にひとつの決意があるのに気づいていた。そう彼女は、彼女は、
俺の長髪で、巨乳で、美人で、知的そうな、という俺のタイプをことごとく満たしていた。
そんな女性が目の前で、誘拐されて、で、俺がそれをもし助けられたら?当然助けようとするでしょう。
自分の行動に感じる必然性と疑問という矛盾を背負い、俺は走る。人気がない分、良かった。
夜中に時速八十キロ強で道路を走っている人間などを目撃した人物がいたら、きっと俺はこの町の都市伝説になってしまうだろう。
「恐怖!真夜中の爆走男」みたいな・・・・。

  ベンツは郊外を走っていた。まったく人気はない。それもそうだ、この辺りは彼らが選んだアジトの近辺だ。近くには山や数百メートル間隔で立つ築余裕で五十年越えのような廃屋のみ。その廃屋のひとつが、彼らのアジトだ。都市の郊外ともなると、こんな田舎みたいな風景になるのかと、運転手の男性は少し驚きをおぼえつつここに訪れたのだった。もう少しで目的地だ。誰にも気づかれなかったし、問題ない。もう少しで任務成功だ。
そうやって運転手の男は自分を励ましつつ舗装されていない道路と呼べない道路を走る。そして・・・・
ベンツがあたかも急ブレーキをかけたかのように急停車した。

 「よいしょ。」
とりあえず走っていた車は止まった。できるかな、と多少の不安を感じつつ思い切り車体を両手で掴んでみたが、普通に止まった。たいして車両も速度を出していなかったらしい。ほっ、と安堵の息を漏らしつつ、車両の反応を待っていると・・・
後ろに誰かいる!という声とともに助手席と、後部座席からそれぞれ先程のいかつい男たちが出てきた。見るからにやばそうだが・・・・・
「とりゃ!」
「・・・・・・!」
無言のまま後部座席から出てきた男が卒倒。一応手加減はしたつもりだが・・・。顔に苦悶の表情が浮かんでいる。骨は折れてないと思う、多分。
助手席から出てきた男が自分の仲間の卒倒に驚いている隙にそしつにも腹に拳を・・・手加減しつつ・・・叩き込む。その男もさっきの男同様無言で卒倒した。意識を失っただけだし、しばらくしたらまた動き出すだろう。
しかし、そんな中、冷静に、恐ろしい力を持った超人・・・つまり俺の登場に平静を保っている人物がいた。
「おい!そこのお前!お前の目的はこいつだろう。だったら今すぐ抵抗はやめろ。さもなくば・・・撃つぞ!」
運転手の男性だった。俺が二人の男を倒している間に、車から外に出て先程の女性の首を腕で締めながらなんと女性の頭に拳銃を突きつけている。
ちょうど車を挟んで運転手と相対しているような形だった。女性の頬には涙が流れており、首を絞められ、声も出せなくなっている。
さすがに拳銃の登場には俺も驚いた。テレビで見たことはあっても、生は初だ。さすがにビビる。
「わ、わかった。俺は抵抗をやめるよ。だから銃は撃たないでくれ、ていうか撃つな!ここは日本だぞ!」
慌てながら両手を挙げて降伏のポーズ。すると男は自信満々の顔で、
「大丈夫だ。消音器がついている。」
・・・・・・。いや、そういう問題じゃなくてですね。
「とにかく、そのままにしていろ。少しでも怪しい動きを見せたら撃つぞ。」
そう言って男は車体をジリジリと周りながら俺との距離を詰めてくる。しかし、なんでこの女性こんな銃を持っている奴に狙われているんだろう。もしかして俺はかなりヤバイものに首を突っ込んでしまったのではないか。今更のように後悔が押し寄せてくるが、もう遅い。
遂に男と俺との距離は数メートルとなった。勿論俺は先程の降伏ポーズのままだ。
そして、男は無言で女性に向けていたはずの拳銃を俺に向け・・・
非情にも引き金を引いた。
銃声はせず、弾丸だけが、俺に飛んでくる。一メートル、二メートル、そして・・・、
「おわっツ!」
俺は飛んできた弾丸を中指と人差し指で摘んでいた。
「んな!?」
男と女性の驚愕の顔。自分でもビックリだ。気がついたら反射でやっていたのだ。しかし、そんなことを考えている暇はない。相手も相手で、すでに引き金を引こうとしている。もう一回同じことが出来るか分からんし、俺は相手が引き金を引くよりも早く、男の持つ拳銃の銃口目がけて思い切り弾丸を投げた。弾丸は銃口に吸い込まれるように入っていき、ちょうど発射されようとしていた二発目の弾丸と銃の内部で激突し、銃が暴発。
「うわっ!」
男もたまらず銃を放す。と、同時に女性の首を掴んでいた腕が緩み・・・その瞬間を俺は見逃さず、素早く男との距離をつめ、思い切り顔面に拳を叩き込んだ。
「おらぁ!」
男は吹き飛んで道路の脇にあった田んぼに思い切りダイブ。着地箇所が着地箇所なだけに大怪我はしていないだろう。
俺は辺りを見回す。止まっているベンツに、その側に倒れている二人の男。暴発したせいで銃口が幾つにも裂けている拳銃。そして・・・
・・・・・怯えたように俺を見る女性。
もしかして俺は怖がられているのだろうか。自分のやったことを思い返してみよう。
車を両手で掴んで止める→二人の大の男をそれぞれ一発で卒倒させる→銃弾を摘む→それを投げて、銃を暴発させる→運転手を数メートル吹き飛ばす。
・・・・・こんなことをしている奴がいたら、たとえ、自分を助けてくれても怖がるだろう。
それでも、俺はタイプの女性からお礼を言われることを諦めず、話しかける。
「だ、大丈夫?」
「い、命だけは助けてください~!」
・・・・・この日俺は理想と現実の違いの差を悟った。 
 

 
後書き
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