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転生とらぶる

作者:青竹
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魔法先生ネギま!
  0400話

 魔神とも言える姿へと変化したアクセル。そのアクセルはまるで暴走しているかのように暴れ回り、飛行魚を追って来ていた精霊の殆ど全てを駆逐し、喰らい、吸収した。そして運のいい極少数のみがアクセルから逃げ延びる事に成功する。
 飛行魚周辺に存在していた全ての精霊が消え去り……アクセルの眼は飛行魚へと向けられた。

「っ!? 来ますわよ! 美砂さん、歌で何とかアクセル君の心を静めて下さい! 千鶴さんは黄の領域で少しでもアクセル君を弱らせて。円さんは何とかアクセル君の炎を純炎の涙で相殺して下さい。茶々丸さん、古菲さんはそれぞれ千鶴さんと美砂さんの護衛を。今のアクセル君に対して近接戦闘を挑むのは無謀です!」

 あやかの指示に従い、それぞれが己のアーティファクトを構えて戦闘準備を整える。
 アクセルとの近接戦闘を禁止された茶々丸と古菲もまた、指示されたように千鶴と美砂の側へと素早く近寄る。そして……

「GYAAA!」

 小さく雄叫びを上げ、肩から生えている翼と背から生えている羽の両方を羽ばたかせながら飛行魚へと向かって来る。

「千鶴さん!」
「アクセル君を中心に半径1mに領域を指定。黄の石よ、その力を示せ」

 運が良かったのか、タイミングが良かったのか。千鶴が展開した魔力を吸収する黄の領域はアクセルの予想進路上へと展開され、見事にその姿を捕らえたのだった。

「GUOOOOO!」

 現在のアクセルの身体は半ば魔物化……否、魔神化している。当然その身体の構成要素は殆どが魔力で出来ているので、魔力を吸収するという千鶴の黄の領域は十分な効果を発揮していた。だがアクセルの魔力は膨大であり、その全てを吸収するという事は出来無い。つまりは……

「GYAAAAAAAAA!」

 魔力を吸収され続けながらも、その身を動かして領域から突破しようとしたのだ。

「やらせませんわっ! アクセル君、落ち着いて下さい!」

 そんなアクセルの行動を妨害しようと、あやかが鮮血の鞭を魔力でコントロールしてアクセルの四肢を絡め取る。

「美砂さん!」

 今にも千切れそうな鮮血の鞭へと、必死に魔力を流し込んで現状を維持しつつ美砂へと叫ぶあやか。その声を聞いた美砂は、セイレーンの瞳を握りしめながらアクセルを想い、歌を紡ぐ。
 美砂のアーティファクトであるセイレーンの瞳。その効果自体は対象を選択可能な補助効果と、それ程優れたものではない。セイレーンの涙よりも強力な効果を持つアーティファクトなど、それこそ星の数程あるだろう。だが、ただ1つ。これだけは他のアーティファクトに絶対に真似が出来ないという能力があった。それは、対象がどれ程魔法的な防御力や抵抗力が強いとしてもそれら一切を無視してその効果を発揮させるというもの。美砂の歌声を聞いてしまえばその時点で対抗するのは不可能になってしまうのだ。
 この時もそうだった。魔神と化したアクセルは、当然その魔法的な抵抗力は並外れたものを持っている。何しろ数万を超える精霊とまともにぶつかりあっても傷一つ負っていないのだから。本来、精霊というのは火の精霊であれば基本的にその身体は火で構成されており、当然その身体へと迂闊に触れた者はその火によってダメージを受ける。だが、アクセルはそんな精霊達へと突っ込み、牙で喰らいつき、鋭い爪で切り裂き、竜の如き尾で砕いたのだ。自分自身は無傷なままで。それだけでもアクセルの魔法的な抵抗力、防御力が圧倒的なのは明らかだった。
 だが。

「GYAAAAAAAAAA!」

 その、数万匹の精霊達をもものともしないアクセルが、美砂が持つセイレーンの涙の効果により黄の領域の中で抵抗出来ずに吠えている。

「GURU……RUUUUUU」

 そしてやがて美砂の歌声により気持ちが落ち着くかのようにその声も小さくなってく。
 しかし、それでも……そう、それでも今のアクセルを完璧に押さえつけるのは無理があった。

「その調子ですわ。後はこのまま……」

 あやかが期待を込めて呟いたその時。ほんの僅かな、それこそ一瞬の気の緩み。

「GYAAAAAAAAAAAAAA!」

 己の四肢を絡め取っている鮮血の鞭、その力がほんの一瞬だけ緩んだその隙を本能的に動いているアクセルが見逃す筈も無かったのだ。

「キャアッ!」

 四肢に絡んでいる鮮血の鞭を強引に引っ張られ、あやかの身体が前へと引っ張れる。そうすると当然鞭の拘束も緩くなり。

「GUOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」

 アクセルの規格外とも言える力と魔力により、鮮血の鞭を操るあやかを引きずったまま黄の領域を抜け出す。

「あやかっ!」

 アクセルが黄の領域を抜け、その結果引っ張られたあやが黄の領域へと囚われたのを見た千鶴は即座に黄の領域を解除する。

「……え?」

 ふと何かに気が付いたように首を傾げる千鶴だが、事態はそんな千鶴を置いていくかのように進行する。

「アクセル君、止まって!」

 空中を自由自在に飛び回りながら、その手を幾度となく振る円。その度に炎のラインがアクセルの前へと現れるのだが、炎の能力が色濃く現れた魔神と化したアクセルにとっては炎など特に気にする程の物では無いらしく、その歩みを止めるどころか緩める事すら出来無かった。

「お願い、アクセル君……止まってえぇぇぇっっ!」

 炎のラインでは効果が無いと悟ったのだろう。円はその叫びと同時に直径1m近い炎の塊を作り出す。
 アクセルが炎に対して強力な耐性を持っているとしても、今現在の円に出来る最大限の攻撃は純炎の涙を使った物だった。魔法も習ってはいるが、エヴァンジェリンの修行ではアクセルの従者の中でも攻撃力の高いアーティファクトの純炎の涙を使いこなす事に集中していたのだ。そのおかげで、アクセルの従者4人が持つアーティファクトの中では最も高い攻撃力を持つに至ったのだが……その影響で魔法に関してはほぼ初心者としか言えないような状況だった。
 しかし……

「え? 止まった?」

 まるで円の声が聞こえたかのようにアクセルがその歩みを止める。
 ……そう、さらなる絶望をもたらす為に。
 それに最初に気が付いたのはアクセルの正面から炎の塊を放っていた円だった。その、アクセルの喉に対して魔力が集まっていくのを感じ取ったのは。
 その瞬間、円の脳裏に浮かんだのは数十、数百、数千単位の精霊達を一瞬にして石化させたその光線。本来は麻帆良に侵入してきた悪魔の使っていた技の筈だが、今のアクセルは元が同じ技だとは思えない程に強力で尚且つ広範囲を攻撃する事が可能になっている。
 そしてその攻撃が自分達に放たれようとしている。それを理解したその瞬間、円は殆ど反射的に叫んでいた。

「皆、気をつけて、アクセル君が永久石化光線を使おうとしているわ!」

 その言葉に周囲の者達も息を呑み、させじとアクセルへと攻撃を集中する。自分達が助かりたいというだけではない。いや、もちろんそれもあるが、もしアクセルが我に返った時に自分のせいで彼に恋し、愛する者達が石化されていたらどうなるか。もちろん表面上はなんとか取り繕うだろう。だが、自分達は彼が自らの親友であるヴィンデルを殺した時の記憶を、その時に流した涙を見ているのだ。そんな悲しい涙は流させないとばかりに、あやかは再度鮮血の鞭で四肢を絡め取ろうとし、美砂はその歌で何とかアクセルの意識を呼び戻そうとし、円もまた口を開かせてなるものかとばかりに操れる限りの炎を放ち続ける。茶々丸もまた、心で悲しみを覚えつつもアクセルを何とか止めようと多少の傷を与えるのは承知の上で銃弾を放っている。
 古菲のみは遠距離攻撃の手段がない為に、今の集中攻撃を受けているアクセルに近付く訳にもいかずにただ、黙って見守るのみだった。

「アクセル坊主……元に戻るアルよ」

 そんな呟きが思わず古菲の口から漏れるが、現実は残酷だった。
 あやかの操る鮮血の鞭はアクセルの肩と背から生えている翼と羽により弾かれ、いなされる。円の放つ炎や茶々丸の放つ魔力の籠もった銃弾に関しては幾ら命中したとしてもまるでそよ風にでも当たっているかのように微動だにしない。辛うじて美砂の歌声が効果を現してはいるが、それとて煩わしげに身を揺する程度のものだ。
 そして喉に魔力が溜まり、いつでも周囲一体を石化させられる永久石化光線を放とうとまるで吸血鬼のように鋭い犬歯の生えている口を開け、その喉から光が……

「アクセル君を中心に半径1mに領域を指定。藍の石よ、その力を示せ」

 唐突にそんな声が周囲へと響く。そして次の瞬間、アクセルが永久石化光線を放とうとする直前。アクセルを中心に藍色の領域がドーム状に形成される。
 そして……

「GYAAAAAAAAAAAAAA!」

 吠え声を上げつつ、甲板へとまるで何かに押し潰されたかのようにその身が倒れこむ。
 同時に、あやか達の足場となっていた甲板……否、飛行魚そのものが地面へと引かれるように高度を落としていく。

「千鶴さん、一体何を!?」

 あやかの声に、千鶴は微かに笑みを浮かべつつ右手に嵌っている虹色領域の腕輪を示す。

「虹色領域の腕輪の新しい力よ。それよりも、今のうちに何とかアクセル君の意識を回復させないと」

 さすがは魔法世界の飛行魚という所なのだろう。地上へと引きずり下ろされながらも、どうにか速度を調整しながらゆっくりと地上へと向かっている。

「あの藍の領域にはある程度重力を操る力があるらしいわ。だから今のうちになんとか……」
「なるほど、飛行魚が地面にゆっくりとですが落ちているのはそれが原因ですか。……そうですわね。今ならアクセル君は動けません。なら今のうちに何らかの対処は必要でしょう」

 千鶴の意見に頷くあやか。だが、いざこの状態のアクセルをどうするかと言われれば迂闊な事も出来無いのが事実なのだ。何しろ、藍の領域でその動きをなんとか押さえているとは言っても、それは同時にアクセルを中心に張られている領域へと自分達が触れた場合は同様に身動きが取れなくなると言う事を意味している。つまり、取れる手段はアクセルから離れて何かを行う事のみ。
 そう考えていたあやかの視線が、自分のアーティファクトである鮮血の鞭へと。そして千鶴の虹色領域の腕輪、円の純炎の涙、美砂のセイレーンの瞳へと移っていく。

「アーティファクト。つまり、パクティオーカードなら……そう、カードの機能の1つである『念話』は相手の心に直接訴えかけるものですわね。なら……」

 言葉を区切り、自分と同じアクセルの従者3人へと視線を向ける。

「いいですか、パクティオーカードの能力の1つである。『念話』、これは相手の心に直接声を届けるというものです。これで皆が一斉にアクセル君に声を掛ければ、あるいは……」

 あやかの言葉に、皆が頷きすぐさまパクティオーカードを取り出して自分のおでこへと接触させ、タイミングを合わせて同時に呟く。

『念話』

「……皆さん、私はこうして見ているしか出来ませんが、どうかアクセルさんの事をよろしくお願いします」
「大丈夫アルよ。何せあの大魔王アルよ? そんなアクセルがこれくらいの事で負ける筈が無いアルよ」

 茶々丸が祈るように手を組み、古菲が励ますようにその肩へと手を置く。
 そしてそんな2人が見つめる中で、4人の従者達は『念話』の効果を使って必死にアクセルへと呼びかけていた。自分達がどれ程アクセルを必要としているのか。あるいは、側にいて欲しいのかといった想いや、愛しさ、切なさ、恋しさといったものを念話を使いアクセルへと送り続ける。
 4人分の乙女の想いを一斉に藍の領域に捕らえられて身動きが出来なくなっているアクセルへと叩き付けられ……

「アクセルさん!」

 最初にその変化に気が付いたのは『念話』が出来ずに祈るようにアクセルを見つめていた茶々丸だった。
 そう。アクセルの伸ばしている手から鋭い爪が蒸発するように消えていき、背から生えていた翼と羽も消え去り、腰から伸びていた尾も同様に消滅していき元の人型へとその姿を変える。
 そして甲板へと張り付いていた指がピクリと動き……

「……悪い、手間を掛けさせた……」

 それだけ呟き、その意識は闇へと沈んでいくのだった。 
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