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オリ主達の禁則事項

作者:夢一夜
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原作介入は計画性を持って

 禁則事項第壱条

 原作(オリジナル)の存在する世界の場合、その主人公とその周辺の人間への接触は細心の注意と計画性を持って行うべし

―――――――――――――――――――――――

 音を文字に変換するならずドンと…そんな感じで腹に響く爆発音と共に、西洋風の校舎の一角が爆発する。
 不幸中の幸いと言うべきか、爆発は純粋な圧力のみの物らしく、派手に爆煙は立っている物の、その後に続く炎などは噴き出していないので火災に発展する心配はなさそうだ。

「うわあぁぁぁ!!」


 その直後、爆煙の中から何かが飛び出してきた。
 夜の星明かりの下でも分かる人影と、それが発した悲鳴からその正体が人間であるのは間違いない。
 爆発に巻き込まれた犠牲者か?
 かなりの勢いで吹っ飛ばされた人物は、石畳の上でバウンドし、数メートル転がって動きを止めた。

「く、ぐ…」

 叩きつけられた衝撃はかなりの物だったはずだが、飛ばされて来た人物は生きていた。
 それどころか、地面に手をついてなんとか立ち上がろうとしている。
 本人のタフさもあるだろうが、それだけが理由ではない。

 地面から身を起こそうとしている“彼”は小柄だった。
 それもそうだろう…確かに優秀な頭脳を持ち、女子中学校の教師などをしているが、実年齢は数えで十歳の男の子なのだ。
 しかも、その右手に持つのは彼の身長よりも巨大な杖…魔法使いの杖である。

 幼い顔立ちに針の強そうな赤毛を後頭部で縛り、小さな眼鏡を掛けたスーツ姿の少年の名前を、ネギ・スプリングフィールドと言う。
コミックだけでなく、アニメにまでなった魔法先生ねぎま!…その主人公である。
ただし、“この世界”における彼は突けば穴が空き、水に濡れればインクで書かれた輪郭が崩れる二次元の存在ではない。
ちゃんと厚みを持ち、肉があり血も通る感情を持った三次元の存在だ。

「なんで、なんでこんな事をするんですか!!」

 問いかけは頭上、校舎の上に立つ人物に向けた物だ。
 そして先ほどの爆発を起こした相手に対する問いかけでもあり、いきなり自分を襲撃してきた相手への問いかけでもあった。。

「フン、ファザコンがいっちょ前の口きいてんじゃねえよ!!」
「ファ、ファザコン?」

 帰ってきた言葉にネギが目を点にする。
 言葉を放ったのは美形の男だった。
 銀髪の髪を腰のあたりまで伸ばし、その瞳は左右で色が違う金と銀だ。
 オーダーメイドなのか、長身にフィットする黒の革製コートを着ている。

 全体的に見れば美形に入る人物だろう。
 ただしそれは自然発生の美形では無く、どこか整形のように人工的に整えられた造詣の美しさだ。

「勝手にフラフラしてブレまくるお前が気に入らねえんだよ。そんな奴が女子中の教師なんてフザケてんのか!!」
「え?」

 見かけを裏切る汚い言葉遣いと、訳の分からないいちゃもんに、10歳児を超越したネギの思考能力でさえ付いていけなかった。
 ネギが日本で教師などしているのは本人の意思と言うより魔法学校の卒業試験である。
 その場所がここ、麻帆良学園都市の中等部だったのはある程度意図的な物だったが、それにしても上の魔法学校の好調や麻帆良学園の学園長やらの配慮であり、ネギの預かり知らぬことであったはずだ。
 大体において、いくら優秀とはいえ10歳児に何のフォローもなく実社会に送り出す事の方があり得ない。

「は、これだから英雄の息子ってだけで優遇されてるボンボンは、な~んも知らねえんだからいい御身分だよな~魔法ばらしまくってる癖にオコジョにならねえんだもんな
「た、確かに僕は未熟です。周りの人に迷惑もかけていますけど…」

 言われっぱなしな事に、ネギのとこの子の部分が反応して反論するが、自覚がある分その声は小さい。
 彼の持つ素直さが、この場においてはマイナスに働いてしまっている。

「そう言うのが甘えてるって言うんだよ!!」
「っつ!!」

 いきなり男の周りに十数本の剣が現れた。
 召還系の魔法で呼び寄せたかと判断する前に、ネギは回避行動をとっている。
 現われた剣の切っ先が全てネギを向き、撃ち出されるようにして向かってきたからだ。

「うわわわ!!」

 とっさに杖で飛行魔法を使い、その場を離れたネギを追うようにして剣の雨が追走する。

「挙句の果てはエヴァンジェリンを十年も拘束し、その賞金をかすめ取ったり、生徒を施設軍にしている連中に異様に使われてる奴に言う事はなにもねえ!!」
「な、何の話ですか!!」

 ネギはわけが分からなかった。
 確かにエヴァンジェリンはこの学校に登校地獄の呪いで縛られている。
 それをやったのは父だが、その賞金をかすめ取ったなどと知らない…第一、エヴァンジェリンの賞金はまだかけられたままなのだ。
 私設軍にしても心当たりはない。
 関係ありそうな事と言えば、自分と同じ魔法教師と魔法生徒だが…あれは派遣された立派な魔法使いと、魔法使いやそれ相応の能力を持った生徒達のボランティアと報酬込みのアルバイトで成り立っている。
 強制はしていない。
 活動にしても、その目的はあくまで学園に潜入しようとする不審者の排除であり、どちらかと言えば自衛隊に近い在り方のはずだ。

「あ!!」

 それとも単に僕の知らないだけ?…そんなかすかな疑念を抱いたのが失敗だった。
 目の前にささった一本の剣を迂回しようとした所で、いきなりそれが爆発した。
 先ほど、校舎を爆破したのと同じものだ。
 
「ぐ!!」

 ほぼ至近距離で起こった爆発には流石に耐えきれず、再び吹き飛ばされたネギは建物の壁にぶつかってしたたかに体を打ちすえてしまった。
 肺の空気がすべて吐き出されてしまったため、直ぐに動く事が出来ない。
 その間に、男がネギとの距離を詰めていた。

「お前のような偽善者に教育される生徒が可哀そうだよ。安心しろ、3-A組は俺がまっとうな道に進ませてやるよ」

 最後までこの男の言う事が、理解が出来ない。
 そもそも酸素が足りないのか、痛みゆえか、思考がまとまらないのだ。
 男が何時の間にか左右の手に持っていた白と黒の夫婦剣をネギの頭上に掲げ、振り下ろそうとしているのに何も出来なかった。
 その結果を、自分のたどる道を想像してしまったネギが固く目を閉じる。

「死にやが、げひえ!!」

 だが、次に来たのは刃が自分の身を裂く音と感触では無く、男の悲鳴と目の前で風が動く気配だった。

「大丈夫か?」
「え?」

 思わず目を開ければ…見知らぬ男がいた。
 先ほどまで自分を殺そうとしていた男ではない。
 見下ろして来る目には殺意や嘲りでは無く、ネギを気遣う色があった。

「すまない。遅れてしまったな…」

 新たに現われた男は、装飾過多だった銀髪の男に比べたら…普通だった。
 170cmくらいの細見な背丈に、大きめの紺色のゆったりしたシャツを着ている。
 下はジーンズにスニーカー、長くもなく、短くもない黒髪の下で同じ黒い瞳がある。
 顔の造形は平凡的…良くもなく悪くもないが、その何処にでもいそうな姿が、わけのわからない何かに巻き揉まれたネギに日常を感じさせ、落ち着かせてくれる。

「大けがは…していないようだな…」
「ええっと、貴方も魔法先生ですか?僕を助けに?」
「…説明が難しいし、話すわけにもいかないんだが、でも“あのバカ”を止めに来たという意味ではその通りだ」

 妙に年長さを感じさせるしゃべり方だ。
 どこかに行った男のしゃべり方が幼稚過ぎたのでそのギャップだろうか?

「さて…」
「あ、何を…」

 男がポケットから取り出した物は…携帯電話とリモコンを合わせたような奇妙な機会だった。
 少なくともネギには、テレビやエアコンを動かす時に使うあのリモコンに見える。
 普通は持ち歩く物ではないそれに、ネギが疑問を口にする前に…男は一つのボタンを押した。

「…は?」

 魔法使いであるところのネギですら目を見張った。
 男がリモコンを操作したとたん…DVDの逆再生のように、壊れた校舎や破壊された地面が元に戻って行く。
 魔法でも同じ事が出来るが、このようにボタン一つと言うわけにはいかない。

「後は…」
「え?」

 目の前で起こった事を必死で理解しようとしていたネギに、男はリモコンを向けて来た。

「ごめんな…」
「何を…」

 するつもりかと続けるより早く、男がリモコンを操作して…ネギの意識は闇に沈んだ。

ーーーーーーーー

「…ネギ…ネギ」
「ん?」

 意識が覚醒する時の倦怠感を感じながら、意識が浮上していくのを感じる。
 世界に光が満ちたのは瞼を開けたせいであり、その先に自分を覗き込んでいる顔があった。

「…アスナさん?」

 左右でツインテールにした茜色の髪、青と緑の左右で色の違う瞳、何よりその顔立ちに見覚えがある。
 それは自分の生徒であり、パートナーであり、同居人でもある年上の少女の物だ。

「帰りが遅いと思ったら、なんでこんな所で寝ているのよ?」
「え?」

 言われ、体を起こした所で自分がベンチに寝ている事に気がついた。
 愛用の杖も直ぐ傍にある。

「夜の見回りに行くとか言って出かけて、あんまり遅いから気になって来て見たらこんな所で寝ていたの?」
「い、いえそんな…ぁ!!」

 意識を失う前に起こった事を思い出したネギが跳ね起きる。

「な、何!!」
「アスナさん!!」

 とっさの事に腰の引けたアスナの両肩をホールドしたネギが詰め寄る。
 ネギの必死な表情がなければ、キスを迫っていると勘違いしかねないほどに近い。

「僕、僕…あれ?」

 説明を始めようとした所で、ネギの中から何かが抜け落ちた。
 同時に直前まで必死だったものもまとめて霧散する。
 後に残るのは何か重要な物を無くした喪失感だけだ。

「一体何なのよ!!」
「それが…何でしょう?」
「はぁ!?」

 真っ赤になって睨み返して来るアスナの気持ちは分かる。
 だが、それに対する答えはネギの中にはない。
 何時の間にか…何所かに消えさってしまった。

「ま~ったく、このおこちゃまは…大方、嫌な夢でも見たんでしょう?」
「そう…何でしょうか?」

 確信はない。
 忘れてしまっている物が何なのか、それが分からない為にYesともNoとも言えなかった。
 
「ほら、今日の巡回はここまで、帰るわよ」
「あ、待ってくださいよアスナさ~ん」

 かすかに残った違和感さえ…姉を追う弟のように駆けだしたネギの中から抜け落ちていた。
 そして…彼は一生この記憶を思い出す事はない。

――――――――――――――

「ぎは、いってー!!まじいってー!!」

 最初に現れた方…銀髪の男は、ネギ達のいる場所から離れた位置で脇を抑え、蹲ったまま呻いていた。
 自分の意思では勿論無い。
 彼は“蹴り飛ばされて”ここにいるのだ。

ネギに止めを刺そうとした所で、いきなり横合いからの衝撃を食らい、気がつけば飛んでいた。
 直後に地面にたたきつけられ…呼吸さえ痛みで困難、身動きさえ取れないで呻いている。
 痛みと理解が追い付かない状況にパニックは継続中だ。

「…見つけたぞ」
「ひっ…」

 自分以外の声に顔を上げれば…鋭い視線でこちらを見下ろして来る男がいた。
 直感でこの男が自分に攻撃したのだと察した。
 つまり、敵だ。

「結構、遠くまで飛んでいたな?」
「て、手前がやりやがったのか!!何者だ!!」
「質問の答えはYes、名前は秋晴」

 男…秋晴はあっさり自分が犯人であると明かした上に名前まで名乗った。
 だが秋晴という名前に模様しにも覚えがない…こんな男が原作にいた覚えがない。
 そんな事を考える自分を見下ろして来る秋晴…その余裕、その気配に自分に通じる何かを感じた銀髪がはっとする。

「お、お前も“オリ主”か!!」
「…不愉快なことに、系統としては同じと言うのがやるせない話だ。…反吐が出る」

 返答には鋭いとげがあった。
 這いつくばっている男に対する嫌悪を隠そうともしていない。
視線には侮蔑と言うか嘲りが込められている。
 秋晴は明らかにこちらをバカにしながら…にらんでいた。

「何で邪魔するんだ!!」
「邪魔も何も、お前…ネギ・スプリングフィールドに何をしようとしていた?彼はこの世界の主人公だぞ?」
「せ、世間知らずのガキに教育してやっただけだ!!何が悪い」
「教育?ハハハ…オモシロイジョウダンダナ」

 やれやれと、こいつは正真正銘のバカだなと言う棒読みな台詞と態度に銀髪がかっとなる。
 今更だが、秋晴は最初からその態度で、口調で、言葉で喧嘩を売って来ていた。

「何がおかしい!!」
「勉強について行けなくて引きこもり、高校中退したお前が他人に何を教えるって言うんだ?安置丙都、享年28歳?」
「な!!」

 銀髪は絶句した。
 安置丙都はこの世界に来る前の、自分の過去と本名だ。
 己以外には…安置をこの世界に放り込んだ“神”くらいしか知るはずの無い名前である。
 それを、秋晴はあっさりと口にした。

「よくもそれでネギ・スプリングフィールドに色々言えたものだ。3-Aを任せろなんてハーレム目的の下心が見え見え過ぎるんだよロリコン。その面の厚さだけは感心してやろう。大体お前の生前の仕事は…あれは仕事と言っていいのか疑問だが…自宅警備員と言う名のネット荒らしだっただろう?」
「う、五月蠅い煩い!!」

 続く秋晴の台詞を安置が必死で遮る。
 これ以上語られる事は安置の精神が耐えられなかったようだ。
 ただしそれを秋晴が受け入れ、聞くかどうかはまた別の問題である。

「事実だろう?」
「あれは俺じゃない!!俺そっくりの別人だ!!本物の俺はここにいるんだ!!俺が、俺が安置丙都だ!!」

 自分を見てくれと安置は両手を開く。
 整った美形、誰もが一度は目を向けるだろう中性的な男の姿が、そこにはあった。
 とりあえずそれを一瞥した秋晴は、深いため息をつく…こいつにつける薬はないなという呟きは、ささやきでありながらきっちり安置の耳に届いた。

「そっくりさんって…お前のそれは神の力で好みどおりに整えなおしたものだろう?死ぬ前の姿も知っているが、自前のパーツなど何一つ残っていないじゃないか」
「こ、これが本当の俺なんだよ!!…は!!」

 話の途中で何かを思いついた安置がニヤリと笑う。
 それを見た秋晴は…どうせまたロクでもない事を思いついたのだろうと深い溜息を吐いた。

「そうだよ。俺は神様にこの世界に行って来いって言われたんだ」
「だから?」
「つまり、俺は神の代理人なんだよ!!頭が高いぞ!!控えやがれ!!」

 勿論、秋晴は答えない。
 やはりロクでもない事だったかと再び溜息を吐くだけだ。
 だが、大義を得たりとばかりに安置は調子に乗る。

「俺は麻帆良の闇を打ち砕き、強制的に戦わされている皆を開放するんだ。ゆくゆくは魔法世界にのさばっている悪を…」
「…一応聞くが、お前の言うそれはちゃんと裏をとったんだろうな?」
「は?」

 安置が何を言っているんだこいつと言う顔をした。
 この分では証拠をそろえるどころか、そんな物が必要になるとも考えていないのだろう。
 正義を行うなら証拠などいらないと思っているのか?

「一昔前の刑事ドラマでも見過ぎたんじゃないのか?今時はフィクションでも証拠固めをして犯人を追いつめるもんだぞ」

 二次元だった前世ならともかく、現実世界となったこの世界においてはいくらでも調べようがあったはずなのに…こいつはそんな事も思いつかなかったらしい。

「お、俺が知っているんだからいいんだよ!!」
「お前のそれはどうせ原作じゃなく二次創作からの知識だろ?」
「う…」

 どうやら図星だったらしい。
 二次創作という物は多かれ少なかれ作者の独自設定が入り込む、それは決して公式の物ではない。
 はっきり言って、安置の言うそれは原作の何処にもない設定だ。

「間抜け、せめて原作を知っている世界に行けよ」
「う、五月蠅い、俺のバックには神が付いてるんだぞ!!俺の言う事が正しいんだ」

 秋晴はこれ以上痛い事を言われて精神力を削られる前に、ここで勝負を掛ける事にした。

「大体、神って言うのは誰の事を言っている?」
「閻魔大王だ!!」
「それはまた、大物の名前を持ち出してきたものだな、いっておくが偽物だ」
「何…だと?」

 どうも安置は神のお隅付きを免罪符のように思っている節があったので、簡抜入れずに否定してやった。

「そもそも、閻魔大王程に力を持っていたら“オリ主”なんて“いらない”んだよ。だからその神様は偽物だ。ちなみにゼウスやらオーディーンとか名乗る奴もいる」
「う、嘘だ…」

 とりあえず…ここまでで秋晴の言うべきことと言いたい事は終わった。
 安置にとっては驚愕の事実だろうが、そんな物は関係ない。
 秋晴は自分の仕事をするだけだ。
 あとは安置次第…素直に従えば良し、抵抗すれば秋晴の仕事が増える。
この男の性格からして後者になる可能性はかなり高いが…。

「その神に関しては、今頃はお仕置き中だろうから、一緒にくれば会わせてやれるぞ」
「お仕置き?…いやそれより、お前と一緒に行ったら…俺はどうなる?」
「あるべき場所に行き、あるべき形に戻るだけだ」

 付加された能力を剥奪され、安置は再び輪廻の輪に戻されるだろう。
 生と死とはつまるところその繰り返しだ。
 死から始まる転生やトリップの方がおかしいのである。

「い…嫌だ!!」

 いきなり、安置の周りに十数本の剣が現れた。
 ネギを吹き飛ばしたのと同じものだ。

「これは俺の物だ。誰にもやらねえ!!」
「ああ、まあこうなるか…」

 特に予想外の事態ではない。
大方こうなるだろうと考えていた秋晴に驚きの感情はない…白刃を前にしてもなお余裕がある。
 安置の間違いに突っ込みを入れるくらいには…。

「一つ訂正しておこう。お前のそれは自分の物では無いし、他人からの借り物だ」
「うるせえええええ!!」

 全力で剣が走った。
 四方八方から秋晴を殺すために剣が飛ぶ。
 直後に着弾、その後に爆発が起こった。

「は、ハハハ…口ほどにもねえ、思い知ったか!!俺のやる事に文句なんてつけるから…」
「Fateのエミヤシロウの能力か…」
「ひぐ!!」

 聞こえて来た声に、安置が悲鳴を上げる。
 何時の間にか…本当にいつの間にか、直ぐ傍に秋晴がいる。
 無傷で…あの剣の包囲をクリアーしたのか?

「作品も使い手も嫌いじゃないが、お前のような奴が同じ物を使っていると思うと虫唾が走るな」
「…ぐは!!」

 振り向こうとした安置の動きにカウンターを合わせる形で秋晴の拳が安置の頬をえぐった。
 整った顔の輪郭が潰れ、勢いのままに安置の体が殴り飛ばされる。

「な、なじぇ」

 どうやら顎が砕けたらしい。
 だらだらと口から血をたらしながら、しゃべる言葉が意味の分からない物になっている。
 おそらくは何故と言いたいのだろう。

「何でも何も…ただお前の背後に移動して振り向きざまに殴っただけあろう?見たままじゃないか」
「はへ?」

 その見たままという奴が安置には見えなかった。
 最初に現れた時に食らった蹴りの衝撃と合わせて考えると、秋晴の能力の正体は…。

「身体強化!!」
「似たようなもんだ」

 強化の能力…それ自体は単純で古今東西、様々な作品で使われている。
 だが同時に、単純なだけに明確な打開策が存在しない。
 人一人を簡単に吹き飛ばす膂力に、今のように瞬間移動じみた移動が可能なほどの強化…おそらく防御力もかなり高いだろう。

「フフフ、いいだろう!!」

 流石はオリ主というべきか…どうやらこの短時間で砕けたはずの顎が再生したらしく、言葉がまともになっている。
 神様補正という奴だ。

「俺に本気を出させたことを後悔するがいい!!」

 そう言うと安置は後方に飛んで距離を取り、力を抜いた自然体になる。

「…I am the bone …」
「本当に馬鹿だなお前は…」
「がぐ!!」

 呪文を唱え始めた安置に対し、再び目にも止まらない速さで彼我の距離を詰めた秋晴が、安置の腹に蹴りを叩き込んだ。
完全に無防備な所に食らった蹴りに、当然となえかけていた呪文が中断させられる。
 みぞおちから広がる痛みに、安置は胃の中に在った物を全てその場にぶちまけた。

「ひ、卑怯だぞ!!」
「何が卑怯だ。そんな長い呪文の完成を待ってやるわけがないだろうが?」

足もとで腹の中もの物を吐き出している安置を見下ろしながら、秋晴は呆れていた。
 殺気ネギを一方的に殺そうとした癖に、自分の番になったら殺し合いに綺麗だの汚いだの、善し悪しが発生すると思っているのだろうか?

「便利さや威力で能力を選ぶから、いきなり力を持った弊害がもろに出ていな、その長所だけに目が行って短所を把握してなかったんだろう?」

 それ自体は強力な能力なのは疑いようがないのに…この男は全くそれを使えていない。
 確かにエミヤシロウの固有結界、無限の剣製は脅威だ。
 ただし、前提として彼は魔術師である。
 本気ではないとはいえ、ランサーと真正面からやりあう事が出来て、神がかり的な弓の腕を持っていようと、彼の本分は変わらない。
 当然、その最大の能力である固有結界を始めとして、カラドボルグなどの必殺に属する物はある程度距離を置いたうえで真名を開放、発動させることが基本条件となる。
 そうしなければ、今の安置のように無防備な詠唱宙を狙われるのが目に見えているからだ。
 しかし、秋晴はその暇を与えない。
 呪文を唱えるより、宝具が発動するより早く距離を詰めて不発に終わらせる事が出来る。

 それでも、これが本来の使い手であるエミヤシロウならいくらでもやりようがあったはずだ。
最終的に負けるにしてももっと粘って秋晴を苦戦させるはず…同じ事が安置に出来るだろうか?

「し、知らない…こんなもの知らない。“原作の展開”にこんなのはなかった…」
「ちっ…例によって攻略本から入るタイプか」

 ブツブツとつぶやきだした安置を見た秋晴が舌打ちする。
 吐しゃ物にまみれた安置を見下ろす目には、更に濃い侮蔑…あるいは憎しみに近い物が宿っている。

「こんな、こんな事はありえない。あっちゃいけないんだよ!!」
「この世界であっちゃいけないのは…お前の存在の方だ」

 破れかぶれ…というより半狂乱になり、投影した白と黒の夫婦剣を構えて突っ込んでくる安置に対し、秋晴は静かにカウンターを合わせた。

「安置丙都、禁則事項第壱条違反により、お前をこの世界から排除する」
 
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