東方攻勢録
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第三話
「で、まずはどうするんだい?」
物陰に隠れる俊司達の前には、二人の兵士が雑談しながら見張りをしていた。
背後を取れれば気づかれずに進むこともできるだろうが、生憎立っている場所が悪く不意もつけそうにない。
だが、俊司にとってはそれも許容範囲内だった。
「小町さん、あの物陰までの距離を操れますか」
「ああ、お安い誤用さ」
「全員せーので一歩踏み出してください。せーのっ」
小町の能力は『距離を操る程度の能力』だ。物陰から物陰への距離を『一歩で歩ける距離』にいじることで、存在に気づかれず進むことができる。
予想通り、一歩でわたった一同に兵士たちが気づくこともなく、俊司達はスルスルと先に進んでいった。
「しかし革命軍も気配で気づくことができないのかねぇ」
「外の人間は戦闘慣れしてるわけではありませんから……」
「なるほど……それはさておき、俊司さん……この人数を突破するならこいしさんの能力でも十分なんじゃないですか?」
メディスンの言うとおり、こいしの能力である『無意識を操る程度の能力』でも突破は安易である。だが、俊司はさっきからずっと小町の能力しか使おうとはしない。
だが、それにもきちんとした理由があった。
「それでもいいんだけど、パルスィさんの言ってた『能力を受け付けない兵士』がすごく気になってさ、あんまし多用したくないんだよね」
「なるほど……もし見つかったらおじゃんですからね」
「ああ」
『能力を受け付けない兵士』は、俊司達にとっての一番の壁だった。彼さえいなければこいしの能力を利用して進むことができる。霧の湖で鈴仙の能力を利用したときのように、行動が楽になるうえ成功率もあがるというのに……。
だが悩んでいる暇はない。俊司達は慎重になりながらも、早歩きで先に進んでいった。
その頃、待機を命じられていた映姫達は、見張りの兵士がかろうじて見える距離から、地霊殿を観察していた。
「ところで俊司君は外の世界で何をしてんたんだろうね」
「いろいろなことをしていたらしいですよ。成績も良いらしく、誰もがみとめる模範生だったんだとか」
「へぇ……」
観察とはいえやはり暇だったのか、俊司のことを話しながら雑談をしていた。
「ところで余談なんだけど……俊司が幻想郷に来たのは偶然なのかしら?」
「……そうですね、偶然かどうかははっきりわかりませんが……引っかかることはありますね」
といって、映姫はある話を始めた。
「確か、前に奇妙な異変がありましたね。」
「奇妙な異変……そんなこともあったねぇ。たしか……その時の異変を解決したのも外来人だったね。けど、異変の解決とともに二人とも命を落としたとか」
「はい。確か名前は……『里中修一』と『里中涼子』という夫婦でしたか」
「里中……俊司さんと同じ苗字ですね」
「……まさか冗談で言ってるんじゃないわよね?」
「どうでしょうか。もしそれが事実なら……八雲紫が勘で彼を選ぶ可能性もないこともないと思いますが?」
「幻想郷にしばられた運命……なのかもね」
幽香はそういって溜息をついた。
その頃、あれから順調にすすんでいた俊司達は、地霊殿のすぐ近くまで来ていた。
「もう少しで内部にはいれるね」
「長かったねぇ。まあ、別に退屈してるわけじゃないからいいんだけどね」
「ここからどうするの?」
「とりあえず正面からではなく裏口から入ります。こいしさん、案内していもらってもいいですか?」
「さん付けじゃなくてもいいよ~。ため口でいいからね。ついてきて」
一同はこいしの先導で先に進んでいった。
二・三分後、地霊殿の裏口に付近に到着した一同は、なぜか唖然としていた。
「見張り少なくないですか?」
「ああ……でも、なんでまた……」
裏口の小さなドアの前で見張りをしていたのは、たった一人の兵士だけだった。正面の見張りが硬いのに裏口がこんなになっているのは、明らかに不自然すぎる。
単にタイミングがよかったのか、それとも相手側が故意に行っているのか、どちらにせよこのまま進むには厄介なできことだった。
「どうする?別の場所から入るか?」
「いえ……入るとしたらここからしか……でも、見張り一人は確かにおかしいですね」
「まるで入ってくださいと言わんばかりだねぇ。罠かもしれないけど、わざとのっかるのもありだと思うよ?」
「それもそうですね……じゃあ、のっかってみますか」
革命軍の罠と考えても、人質の解放さえできれば勝機は見える。俊司はわずかな可能性にかけることを決意した。
「ところでどうやって入るんだい?あたいじゃ無理だよ?」
「はい。とりあえずメディスンさん、彼に体を麻痺させる毒を入れてきてもらっていもいいですか?」
「はい」
メディスンは、そばで飛んでいた人形にあるものを渡すと。兵士に渡すように命令していた。
「その人形操ってるのかい?」
「お友達です」
「なるほど」
そうこうしていると、メディスンの人形に世って毒を盛られた兵士がその場に倒れていった。
俊司達はすぐさま兵士に近寄ると、見つからないように茂みの中に隠し、裏口の前に立った。
「さてと、こっからが本番……人質の場所がわかる人はいますか?」
「わかるよ~」
「じゃあお願い。ここからはスピード勝負で。出会った兵士は気絶させるか行動不能にするかでいこう」
「了解」
「じゃあ行くよ」
俊司達は覚悟を決めると、ゆっくりと中に入っていった。
少しはなれたところで、誰かが見ていたにもかかわらず……。
「裏口からの進入を確認しましたか……予想通りですね」
いつもの部屋で無線通信をしていた男は、溜息をつきながらそう言った。
「警報? まだいいですよ。人質を解放してもらってから一気に畳み掛けます。とうぜん相手は油断してるでしょうし。もちろん、警備兵は最小限で……というかなしでもいいですが。はい。ではまた連絡をお願いします」
そういって男は無線を切ると、椅子に座ってまた溜息をついていた。
「まあ、一気に畳み掛けたところでやられるような相手だとは思いませんが、『彼』かどうかをあぶりだすには十分でしょう。どうせこの作戦ももう長くはないでしょうし、ここがおちようが結果に変わりはないでしょう」
男はそういうと、また無線で連絡を取り始めた。
「宮下です。地上に護送車を用意してください。もちろん、撤退用です」
男が護送車を呼んでいたころ、俊司達はひたすら地霊殿内部を進んでいた。
「……やっぱ罠だな」
「だね」
館内を移動していた俊司達だったが、見張りの兵士たちは一人もいなかった。
もとより罠と踏んで進入をしていたが、ここまでくると確実に罠だと言い切れるくらいになっていた。もちろん、わかっていても先にすすむのだが。
「で、どのタイミングででてくるのかねぇ」
「おそらく人質を解放したときじゃないですかね。人質もろとも始末するつもりで」
「なるほど、でもそう簡単にやられるわけにはいかないねぇ」
「それはみんなおなじですよ」
「そろそろだよ」
そういってこいしが指を刺したのは大きなドアだった。
「もともとこんなのはなかったんだけどね、あいつらが勝手に作っちゃったの」
「まあ、そうするだろうな……さて、準備はいいですか?」
俊司がそういうと、四人は何も言わずに俊司を見つめた。
「じゃあ……いきますよ」
そう言って、俊司は中に入るなり銃を構えた。
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