東方虚空伝
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第一章 [ 胎 動 ]
一話 始まりの朝
前書き
古代スタートのオリジナルシナリオです。処女作になりますのでいろいろ駄文やおかしな所があると思います。ご意見や間違いの指摘など遠慮なく仰ってください。本当に趣味で書きますのでお暇潰し程度にお読みください
鏡の前で青年が身だしなみを整えている、ナチュラルショートウルフの黒髪で瞳の色は黒、体型は中肉中背でこれといった特徴は無い。
青年は寝癖等が無い事を確認するとハンガーで壁に掛けていた先日渡されたばかりのまだ染み一つ無い外壁守備隊の制服に袖を通す。
白を基本としたラウンジスーツで襟や袖に赤いラインが入り左胸の所には剣を形どった守備隊の意匠が銀色であしらわれている。
今日からはれて外壁守備隊に正式に入隊するのだ。とはいえ今日は入隊式をして配属先の連隊の説明をうけるだけなのだが。
青年「七枷 虚空」がそんな事に思考を傾けていたら自室の扉がノックも無く開かれた。
「お兄様、準備はできたのかしら?」
扉を開き問いかけてきたのは腰よりも長い銀髪を三つ編みにした美しい女性であった。瞳の色は見る者を惹きつける瑠璃色、ボトムスカートの薄紫色のスキニースーツを着ている。
「永琳……僕がまだ着替えてたらどうするんだい?」
僕は突然の侵入者にそう問い返す。女性の名は八意 永琳(やごころ えいりん)。実際は自分より三つ下なのだがもはや少女というより女性と言った方が違和感がないほどに大人びていた。
「あら?私は気にしないわよ♪」
愛らしい笑顔で彼女はそう答えた。
「まあ、僕も気にしないんだけどね」
などと言い合いながら僕らは部屋を出る。実はこんなやり取りは僕達にとってはいつものことだ
リビングに準備しておいた荷物を持って永琳と一緒に家を出ると、いつも永琳を送り迎えしている車が停まっていた
「さぁ、お兄様乗って」
「えっ、いいの?」
「かまわないわよ。私も研究所に行くからそのついで」
「じゃあ、遠慮無く。運転手さんおねがいします」
事前に永琳から聞いていたのだろう。僕に笑顔で頭を下げてくれた。
□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■
都の景色を眺めながら隣に座る永琳をチラっと見る。唐突に昔の事を思い出してしまった。永琳と初めて会った時の事を……
10年前仲間達と遊んでいた時に仲間の一人が公園の木陰で本(永琳はなぜか古めかしい物を好む。紙の本とか武器に弓とか、今もなぜか重要な書類は紙に書く。不思議だ。)を読んでいた永琳を見つけ(たぶん可愛かったから)一緒に遊ぼうと誘っていた。
そいつに永琳が発した言葉は、
「気安く近づかないで!馬鹿がうつるでしょう!」
だった。
一瞬呆気に取られていたそいつは逆上して永琳に掴み掛かろうと飛び掛ったが、次の瞬間永琳は持っていた本に霊力を流して両手で振りぬいた。
冗談の様な光景だった。小柄な女の子の一撃で五メートルほど吹き飛んだそいつは三回ほどバウンドした後動かなくなった。
永琳はそいつが動かなくなったのを確認すると「ふん!」と言って去っていったのだ。
それ以降公園で永琳を見かけても誰も話し掛けなくなっていた。一部のバカを除いて。まあ、そのバカっていうのが僕の事なんだけどね。
実際どうして永琳に話し掛け続けたかは明確な理由は無い。ただ直感的にこの子とは友達になった方がいい!そう思ったからだった。
なんで自分に寄ってくるのか?と永琳に聞かれた時にこう答えたら「馬鹿じゃないの?」って言われた。今思い出してみてもあの頃の永琳は捻くれてたなー。
そんなこんなで結構な時間一緒にいる様になり永琳が僕に愚痴をこぼす様になっていた。
永琳は俗に言う「天才」らしい。そんな永琳に大人達は『その驚異的な頭脳をこの都のために、人々のために、妖怪を滅ぼすために使いなさい。君は選ばれた存在なのだから。普通の子供のような事を言ってはいけない』そんな事ばかり言われるらしい。
いくらなんでも七歳に期待を懸け過ぎだ。永琳がイライラしてあんな態度とるのも仕方が無い。
「周りの大人は自分を子供扱いしない。甘えたいわけじゃない、でも窮屈で息が詰まりそう……私が周りと違いすぎたのがいけないのかな?私も“普通”に生まれたかったな」
そう言って永琳は俯いてしまった。正直僕には永琳の気持ちがうまく理解できない。それは僕が永琳の言う“普通の子供”だからだろうか?だから僕は“普通の子供”らしく単純な行動に出た。
徐に永琳の頭を撫でる。できるだけ優しく。
「い、いきなりなにを!」
永琳は驚きはしたが振り払ったりはしなかった。でもただ頭を撫でてあげるだけじゃだめだよな、そんな事を思った僕は永琳に一つの提案をする。
「じゃあ、僕が永琳を子供扱いするよ!あれ?なんか違うな……う~ん、そうだ!兄妹になろう!そうすれば永琳も気兼ね無く僕に甘えられるよね!」
「ちょっ!、人の話聞いてた!別に甘えたいわけじゃ!」
「そうと決まればまずは……確かご両親に挨拶をするんだよね。永琳行くよ!!」
そう言って僕は永琳の手を引いて走り出す。そんな僕に永琳は、
「だから何勝手に自己完結してるの!!と言うか両親に挨拶ってそれ違うから!!」
「そういえば僕永琳の家って知らないやー!アハハッ、こっちで合ってるの?」
「人の話を聞きなさい!!!」
そんな流れで本当に永琳の両親に会って「永琳の兄になりました!これからよろしくお願いします!」って頭を下げたら永琳の両親ポカーンてしてたな。
その後笑顔で「こちらこそ永琳をよろしく」と言われた時の永琳の慌て様はすごかった。永琳の両親も永琳の気持ちには気付いていたみたいだ。
そんな事が始まりだったけど今では「お兄様」って呼んでくれるし良かった、良かった。
「?どうしたの、お兄様」
いつの間にか永琳の事をじーっと見つめていたようだ。
「うん、永琳は美人だなーて思ってた」
「ふふ、ありがとう、お兄様も今日は素敵よ?」
「“今日は”後なんで疑問系?」
「気にしたら駄目よ、お兄様もっと自分に自信を持って」
「まあ、いいんだけどね~」
いつも通りなやり取りをしていたらいつの間にか外壁守備隊の兵舎に着いたようだ。兵舎の入り口に車を停めてもらう。
「じゃあ、行って来るよ。夜は永琳の家に行けばいいの?」
「ええ、お母様が入隊祝いをしたいからって」
「…合格発表の時もしてもらったんだけどね」
「まあいいじゃない、お祝いをして減るものはないわ」
「そうだね、それじゃ改めて行って来ます」
「いってらっしゃい」
運転手さんにお礼を言い兵舎の方に進んで行く。車を降りる時にこっちを見ていた隊員(多分僕と同じ新人)が居たが僕が視線を向けると向こうに行ってしまった。
同じ新人同士仲良くしようと思ったんだけどなー。なんて考えていたら声をかけられた。
「やっときたな!待ちくたびれたぞ!」
声のした方を向くとそこには大柄な男が立っていた。
「錦月 庵(わたつき いおり)」僕の師匠に当たる人だ。
引き締められた肉体が制服の下からその存在をアピールしているんじゃないかと思わせるほどの気を発し、茶色い髪はすこし長めでボサボサである。切ればいいのに。
髪と同じ色の瞳は力強さに溢れ僕と同じ制服を着ているがネクタイは外し胸元を豪快に開いている。両袖を捲り上げて筋肉質な腕が露になっていた。
実は既婚者で娘が二人居るのだがなぜか会わせてもらった事がない――――ちょうど僕が弟子入りした時に生まれているらしいから五歳か、六歳のはずである。まあ綿月は名門だから箱入りなのだろう。
話はそれるが都には「武の誉」と言われるニ家がある「綿月」と「朔夜」。
代々、外壁守備隊として帝都を守ってきたまさに守護の象徴である。
綿月は強力な武術を持ち素手でも妖怪を滅ぼす。50年前に現れたという30mを越す化け物を当時の総隊長を務めていた綿月の当主がたった一人で倒滅したという伝説もある。
朔夜はその血統に代々受け継がれる強力な能力をもって妖怪を倒してきた。その能力というのが『時間を操る程度の能力』というなんじゃそら!と言いたくなるものである。
そんなニ家がいる外壁守備隊に憧れる若者達も多い。そんな名門に僕が弟子入りできた理由は実は正式に弟子になっていないからである。六年前とある事情で庵さんと知り合ったのがきっかけで個人的に鍛えてもらっていた。
まあこれからは部下としてしごかれるんだろうなー。
「なんだ~しけた面して!初日からたるんでるぞ!!」
「庵さんはいつも元気ですね~」
「そりゃオメー愛しの女房に可愛い愛娘を毎日見て抱きしめてんだからよー!!」
「そうですかまぁそんな事はどうでもいいので、入隊式って何処でするんですか?」
「そんな事だと!!…まあいい、こっちだ一緒に来い」
そう言うと庵さんは建物の方に歩いていく。庵さんの後ろを歩きながら兵舎の建物や設備を眺めていたら不意に殺気感じて全力でしゃがみこんだ!次の瞬間僕の頭があった場所をナイフのような物が通過して行く。
「美香!いきなりなにするんだよ!今日は入隊式なんだよ?制服が切れたらどうするんだよ!」
「活を入れてあげただけよ、ありがたく思いなさい」
僕を襲撃したこの子は「朔夜 美香(さくや みか)」朔夜家の長女だ。
永琳とは違うセミロングの綺麗な銀髪で両サイドのもみあげ辺りを三つ編みにしている。間違いなく美少女に分類分けされる容姿。瞳の色は瑠璃紺。僕と同じ守備隊の制服を着ているけど女子の制服は下が膝丈のスカートになっている。
僕より四つ下なんだけど外壁守備隊では先輩になる。彼女は一昨年入隊している。
「初日からそんなぬけたような顔して、恥ずかしいとは思わないの?」
「僕の顔は元からこんなぬけた顔だよ。どうしようもない」
彼女とは修行仲間のようなもので、さっきのような不意打ちも結構いつもの事である。
だけど今日は入隊式。式が始まる前に一張羅が台無しになったら目も当てられない!
「一般的にこういう時は空気を読めっていうよね」
「……無駄なタイミングでボケる天然には言われたくないわ。それにさっき投げたナイフに刃は立っていなかったわよ」
「ほーそいつはよかった。じゃなきゃ今頃俺の頭は真っ赤なトマトみたいな色になってたなーー!!」
「「 !?!? 」」
二人して声の方を見るといつもの様にイイ笑顔をした庵さんが立っていた。
おそらくさっき僕がかわしたナイフのような物を後頭部に突き刺して。
間違い無く自分で刺した物ではない、僕に当たらずそのまま前方を歩いていた庵さんの頭(なぜ?庵さんは僕より20cm背が高い)に直撃したのだろ。美香の方を見ると案の定青ざめていた。
「“お前ら”覚悟は出来てんだろーーな!!!」
「ちょっと!僕は被害者だよね!悪いのは美香でしょ!!」
「虚空…私たちは同じ過ちを犯してしまったの…」
「なに共犯みたいな事言ってるんだよ!!明らかに美香一人の所為でしょ!!それに僕入隊式に行かないと!」
「そんなもん気にすんな。俺が上に話はしておいてやる…もう心残りは無いな?まぁ、あっても無視するがな!!!」
「理不尽だーー!!!」
「当たり前だ!!この世は理不尽なんだよーー!!!」
□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■
王宮にある永琳の研究室。
研究室と呼ばれてはいるが王宮の別塔のひとつすべてが永琳個人の研究施設である。ここで永琳はさまざまな研究・実験や一部子供達に授業などを行っている。
スーツの上に白衣を羽織り眼鏡をかけた。(ちなみに伊達眼鏡である。虚空が“白衣を着た永琳に見合いそう”と言った為仕事の時は懸ける事にしていた。)
先ほど到着して部下達に軽く指示飛ばし自分のデスクに付こうとした時ふと、
「気のせいかしら、お兄様の悲鳴?が聞こえたような……初日から危ない目には遭わないと思うけど…」
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
・世界設定
[帝都] 唯一人類が生活できる場所。高さ80m近い外壁に囲まれている。帝都とは呼ば れてはいるが帝政ではない。のだが中央の建物を人々は「王宮」と呼んでいる。数年前に八意 永琳と言う天才少女によって飛躍的な技術の進歩があり、人々の生活はかなり豊かになった。
[都の盾]
帝都の防衛を担っている組織。
「王宮守護団」と「外壁守備隊」の二つが在る。
名前のとうり王宮守護団は王宮を外壁守備隊は外を守っている。
だが王宮守護団は王宮を守っている自分達の方が上だと思っている輩も少なくない。
組織のトップが元帥、次に守護団が総団長、守備隊が総隊長、そしてそれぞれ五つの連隊長になっている。
主人公が配属になったのが「外壁守備隊 第四連隊」である。
[天秤の議会]
帝都の行政機関。永琳のような研究者も一応ここの所属扱いになっている。
[妖魔・妖怪] 穢れから生まれたとされる存在。
明確な事は解っていない。解っている事 は基本的に人より身体能力が高く生命力も高いと言う事だけである。
強さはかなりムラがあるが見た目では判断し辛い。
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