恋姫無双~劉禅の綱渡り人生~
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劉禅、女装する
「――様、ついに劉禅を見つけました。しかし、劉禅の傍に普浄とか言う若者も居るようです」
「邪魔だな。しかしむやみに殺生する訳にもいかんしな。劉禅が一人になった所を狙うから、引き続き監視を頼む。ただし、決して我らの存在を余人に悟られるな」
「しかし、良いのでしょうか。反逆者とはいえ、劉禅は劉備様のたった一人の弟なのでは……」
「お前が気にすることではない。我らは一刀様によって取り立てられたのだ。我らは一刀様に報いる義務がある」
*****
「劉禅殿。何かこの村、様子がおかしいですね」
「ああ。住民に活気がなさすぎる」
俺と普浄は、旅をしていた。北郷を討ち国を変える為、一人でも多くの味方を探していたのだ。
おそらく北郷は俺を探しているだろうから、いったん魏に亡命するという考えもあったのだが、それはすぐに捨てた。
普浄によると、魏は男性排他的な風潮があるらしく、特に荀彧とかいう女は男嫌いで有名だ。一説によれば、荀彧は世の中の男を全て滅ぼすことも考えているとか。俺も荀彧と会ったことがあるが、さすがにそれは言いすぎ……とも言えないのが悲しい。まあ、あんな百合百合しい陣営に転がり込むのは勘弁して欲しい。
呉は蜀と同盟を結んではいるが、自分達の土地さえ守れればいいという考えなので、絶対に蜀には介入して来ない。だから呉に転がり込んでも援軍は期待できない。
ならば選択肢は一つ。自分の力で国を変える。その為に同士を募ることが最優先となった。さすがに二人だけでは北郷その他複数の武官に対抗できないから。
しかし、なかなか成果は出なかった。当然である。誰が好き好んで関羽や張飛といった歴戦の武官を相手にしたいと思うだろうか。
そんな経緯を経て、俺らはある村に流れ着いたのだ。
「賊、ですか……」
「そうです。毎月この村の一人の娘を差し出せと、賊が迫ってくるのです」
村長の家を訪問すると、この村が賊によって危機に晒されていることがわかったのだ。
「……そして今月は、我が娘が生贄となる番なのです。私は、どうしたらいいか」
「今まで何もしなかったのか? 近くの県の役人には相談しなかったのですか?」
俺は泣き言ばかり言う村長を問い詰める。
「相談しましたとも。しかし近くの県も賊の被害に会っていて余裕がないとのことで……」
村長は涙ながらに語る。
俺は正直これほど酷い状況だとは思わなかった。桃香の、賊に対する甘い対応がここまで増長させていたとは。しかし、何かがおかしい。ここまで賊の数が多いことに俺は疑問を感じていた。
「劉禅殿、どう思いますか?」
どうやら普浄も疑問を感じたようで、俺に聞いてきた。
「どこの村もそうだが、賊に悩まされている所があまりにも多すぎる」
これが俺の正直な気持ちだった。確かに桃香は甘い。賊にさえも情けをかけようとする。しかし、配下の武将全員が甘い訳ではない。賊退治でそれなりの成果は挙げているし、孔明達も蜀の特産品の専売など、国を富ませる為の努力はしているのだ。生活に困窮して身を堕とすには、賊の数が多すぎる。
「これは、少し調べてみた方がいいかも知れないですね」
普浄が考え込む。
「だが今は、目の前の賊をどう潰すか、だな」
「それについて、私に策があります」
劉禅の言葉に普浄が返す。その言葉を聞いた村長が期待に満ちた目で普浄を見た。
「おお、策があるのですか!」
「はい。賊にも頭が必ず居るはずです。だから、その頭さえ潰せば賊は四散するでしょう」
「……おい、どうやって潰す気だ?」
俺は普浄に問いかける。頭を潰すと簡単に言っているが、賊の数は五百以上と聞いている。こっちは少人数なのだ。
「貴方が乗り込むんですよ」
普浄は事も無げに俺に言った。
「おい! お前は俺に死ねと言うのか!」
二人どころか俺一人だと! 一人で五百の賊を相手にして、なおかつ頭を潰すなんて関羽でも無理だぞ。あの趙雲も以前に同じ事をして死に掛けたんだぞ!
「何も真正面から突っ込むなんて言ってませんよ。そんな事をしたら命がいくつあっても足りないですよ」
「そうか。で、どうやって賊の頭に近づく気だ?」
俺がそう聞くと、普浄はニヤリと笑った。
「娘の身代わりになるんですよ。貴方は中性的な顔ですから、見破られることはないでしょう」
「…………は?」
「……屈辱だ」
俺は輿に揺られながら憮然としていた。まさか、自分が女装する日が来るとは思わなかった。
「似合ってますよ、劉禅殿」
ニヤニヤしながら普浄が話しかける。最早悪意しか感じない。
普浄の策はこうだ。まず女装した俺が頭を討ち、混乱に乗じて普浄が村の若者百人を率いて奇襲をかけるというものだった。単純すぎる。だが、訓練されていない者を率いるのだから、単純な方が良いのかもしれない。
しかし、屈辱である。恥ずかしくて顔を上げられない。
「そこで止まれ!」
賊に指定された場所に着くと、そこには多数の賊が居た。ざっと二百人ほどか。
「輿を置いて、そのまま去れ」
言われたとおりに村の者は輿を置いて去る。
「……劉禅殿、気をつけて」
去り際に、普浄が俺にささやいた。心配するなら、俺を死地に追い込むなよ。
そして、俺は賊のアジトに連れて行かれた。
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