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占術師速水丈太郎 白衣の悪魔

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8部分:第八章


第八章

「少なくともね」
「はい。その背と服のおかげで随分目立ちますと」
「悪い気はしないわ」
 右手を唇に当てて述べてきた。本当に悪い気はしていない顔であった。
「少なくともこれで女の子には苦労しないし」
「女の子にもですか」
「今はね。女の子を味わいたいの。さっきも言ったけれど」
「はあ」
 警部はこの言葉にはどうしても賛成できないものがあった。沙耶香は相手が女であろうと男であろうと構わないが彼は愛妻家ということからもわかるようにノーマルである。だから今の沙耶香の楽しむような言葉にどうしても賛成できないのであった。これは仕方のないことでもあった。
「わかってくれますね」
「わからないですがわかりました」
 お役人らしいと言えば酷になるがそうしたふうな玉虫色の言葉であった。その言葉を聞くと普通は首を捻るが沙耶香も速水もそれはなかった。
「では行きましょう、道警に」
「わかりました。それでは」
「ええ」
 二人はこくりと頷き警部と共に北海道警の本部に入った。本部の建物に入るとそのまま会議室に案内された。入り口に連続殺人事件と黒い筆で書かれた木の看板が立てられている。それを見ると如何にもといった感じの捜査室でであった。中は普通の会議室である。二人はここで制服の警官達に二人を案内したのであった。
「東京から来られたんですか」
「はい、宜しく御願いします」
 速水はにこりと微笑んで彼等に答える。
「速水丈太郎です」
「松本沙耶香よ」
 二人はそう名乗る。名乗ると沙耶香もにこりと頷いた。
「どうぞ宜しく」
「今回の捜査ではこの御二人に全面協力して頂くことになっている」
 警部はにこやかに笑ってそう警官達に言う。
「どうか宜しくな」
「協力というよりは警部」
 ここで制服の若い警官の一人が警部に問うてきた。
「何だ?」
「お話を聞く限りこちらの御二人が実質に捜査をされるのですよね」
「そうだよな」
 同僚の警官がその言葉に頷く。
「今回の事件はあまりにもあれだし」
「警視庁の方から来ているスタッフも完全に後方に回るみたいだし俺達も」
「私は警視庁にも随分顔が知られているものでして」
 沙耶香は妖しく笑って彼等に答えてきた。
「捜査を依頼される場合は全面的に委任されるのが常です」
「凄いですね、それは」
 警官の一人がそれを聞いて驚きの声をあげる。
「委任されるなんて」
「私もです」
 速水もそれに応えて述べてきた。
「こうした捜査での契約の条件はそれなのです。私に全面的に委任させて頂くこと」
「そして解決されると」
「そうです。では今回もそのように」
「ああ、それでだったんですか」
 彼等は二人のここまでの話を聞いて妙に納得した感じで頷いてきた。どうやら彼等にはそれを納得できるものがあるようであった。
「警視庁の面々が早いうちに仕切るのを止めたのは」
「それでか」
 警視庁本部はこうした特別な事件になると人員を派遣して捜査の主導権を握り現場のスタッフを下に置くことがままある。だがそれはあくまで『普通の』特別な事件に関してでありこうした『普通ではない』特別な事件においては速水や沙耶香のような人間が雇われる。そうなると捜査も事件の解決も彼等に委任されてしまうのだ。理由は簡単で『普通の』人間では解決できない事件だからである。
「成程な」
「おかしいと思っていたら」
「とりあえずそういうことで御願いします」
 速水はあらためて彼等にそれを述べる。
「捜査は私達に全て委任させて頂くということで」
「そうすれば話は終わるから」
「わかりました。それでは」
 彼等は二人のその言葉に頷く。彼等としても仕事が大幅に減るいい話なのだ。
「是非共御願いします」
「それで」
「わかりました。それでは」
 速水が笑って彼等に応えた。
「そういうことで御願いします」
「では私はサポート、連絡役ということで」
 だが警部だけは責任感と職務からこう申し出てきた。現場の責任者である彼だけはどうにもこれから逃れることはできなかったのである。
「それで宜しいですね」
「ええ」
 速水は笑ってその言葉に頷く。
「ではそれで御願いします」
「わかりました。それでは早速捜査をはじめましょう」
「あら、もうなの」
 沙耶香はその言葉を聞いて笑ってきた。
「少し気が早いのではないかしら」
「まあこういうものは思い立ったがですので」
 しかし彼はこう言ってきた。結構勤勉であった。
「すぐにでも。犯人は待ってはくれませんし」
「それは確かにですね。ただ」
「ただ?何か」
 速水の言葉に顔を向ける。彼が何を言わんとしているのか掴めてはいなかった。
「既に彼は動いているかも知れません」
「今日ですか」
「はい」
 ここで懐から一枚のカードを取り出してきた。それは十六番目のカード、塔であった。言わずと知れたタロットの中で最悪のカードである。俗にバベルの塔の崩壊を表していると言われている。カードの意味は破滅、崩壊等だ。逆でも意味はさして変わらない。
「これを見ていると。また事件が起こったかも知れません」
「まさか」
「昨夜にでもね。だったら有り得るのではなくて?」
 沙耶香もここで言ってきた。
 
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