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占術師速水丈太郎 白衣の悪魔

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24部分:第二十四章


第二十四章

「これでよしです」
「これでですか」
「まずは搦め手は仕掛け終えました」
 沙耶香は言う。
「後はそれにかかるだけです」
「私もです。これで頭の中に札幌のあらゆる魔がかかりますが。しかし」
「しかし!?」
「札幌はそういうところでも面白い街ですね」
 楽しげに目を細めて警部に言ってきた。
「日本古来のものではない。アイヌのものも感じます」
「まあそれは」
 警部もその言葉に頷く。
「ここは元々アイヌの人達のものでしたから。それも当然かと」
「ふむ。日本のものとはまた違って」
「どんな感じですか?」
「いささか骨が太いというかそうした感じです」
 どちらかというとアイヌ民族に対して速水が感じている感触に近いものであった。彼は今それをカードを通じて見ていたのである。
「日本のものは繊細です。まあ都会は違いますが」
「違うのですか」
「都会のものは。妖しいのです」
 彼の言葉もまた何処か微妙に妖しいものを感じているものであった。
「独特の雰囲気がありまして」
「独特のですか」
「そうです。この街もまた」
 彼はさらに言う。
「そうした雰囲気の中にありますね。あの魔人もそうですが」
「都会が生み出した魔人ですか」
「単純に言えばそうなります」
 こう答えてきた。答える言葉もまた慎重に選んでいた。
「少なくとも日本のものでもアイヌのものでもありません」
「それもそうね」
 沙耶香が彼の言葉に応えてきた。
「魔界の住人のようだし。それだったら」
「そうですね。けれどとりあえずはこれで」
「目と結界を放ちましたか」
「はい」
 警部の言葉にこくりと頷く。
「後は何かにかかるだけです。かかるまではこちらも待ちましょう」
「新たな犠牲者が出なければいいですが」
「それは御安心下さい」
 速水はそれには安心するように警部に述べた。
「彼が姿を現わし次第すぐに我々も動きますから」
「そしてその場で」
「左様ですか。それではそのように御願いします」
「ええ」
「それでは」
 こうして二人は目と網を放った。それで以って魔人に対して備える。それが終わると警部に退出の挨拶をして警察を後にした。街に出ると雪がしんしんと降り続いていた。
「相変わらずの雪ですね」
「降り止まないわね」
 沙耶香も言う。
「どうにも」
「ええ。まあ困ってはいませんが」
「そうなの」
「貴女もそうではないですか?」
 沙耶香に顔を向けて問うてきた。
「雪に関しては別に」
「そうね。私の蝶達も雪とは関係ないし」
 沙耶香もその言葉に頷く。静かな目をして述べてきた。
「既に幾つかの結界は問題なく張ったわ」
「既にですか」
「ええ、ただ札幌全体に張るのはもう少し先だけれど」
「なら問題はありませんね」
 速水もその言葉に応えて頷く。そうして放っているカード達から入って来る街を見る。やはりそこには何も見当たりはしなかった。
「私の方も今のところは」
「何もないのね」
「はい。どうやら昨夜はあのまま帰られたようです」
 そう沙耶香に答える。
「全てを見ているわけではありませんが。今のところは」
「ではどうしようかしら」
 そこまで聞いて速水に問うてきた。
「これからは」
「とりあえずは向こう待ちですね」
 速水もそれに応えて言う。
「何もかもが」
「そう。それなら」
 そこまで聞いてまた言ってきた。
「このまま何処かで遊びたいものね」
「女の子ですか?それとも私と」
「生憎だけれどどちらでもないの」
 口元だけにうっすらと笑みを浮かべて応えてきた。
「昨日の夜で満足したから」
「やれやれ。それではどうなさるのですか?」
「そうね。雪の中を歩くのもいいけれど」
 雪の札幌はそれだけで美しいものがある。白い街並みはなるで幻想の中にある都市である。殺風景な街も白い雪があるだけで幻想的なものに変わってしまう。それが今の札幌であった。
「ここは」
「飲みますか?」
「あら」
 しかし沙耶香は速水の今の言葉に口元の笑みをそのままに顔を向けてきた。
 
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