流星のロックマン STARDUST BEGINS
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星屑の覚醒
9 Prototype Begins
前書き
9話にしてようやくロックマン登場です!
「よろしいのですか?シンクロナイザーを世に放ってしまって...」
『構わん。彼の気が済めば、それでいい。それによってこの街の悪の一部が滅びる。これが始まりだ....この事をメディアが報じれば、それは強力な武器となる。法から外れた行動をしている自分も殺されるという恐怖だ』
バット・ダークネスは灯台の上から従者と共に廃工場での惨劇を目撃していた。
紺色が混じっているとはいえ、殆ど真っ黒なその姿は闇に紛れ、確認するのは難しい。
彩斗の復讐を見届けるために来た。
しかしその結果は予想以上だった。
自分たちが教授した術を忠実に使い、そしてそれをその場に応じてアレンジを加えている。
今まで『紺碧の闇』で鍛錬を積んだものの中では最優秀とも言える。
それも1週間という短期間で、これだけの成果を残したのは、長い歴史の中でも上位5人に入れるほどだった。
「しかし...あの銀髪の少年が『星屑』を受け取るように仕組んだと...。これは我々にとっとも脅威と成り得るのでは?我々の計画にも支障が...」
従者は不安要素を述べる。
正直、『星屑』とは恐ろしい力だった。
最先端の軍事力、情報伝達技術などの結晶とも言える。
近寄ることも許されず、圧倒的な火力で殲滅する最強のシステムだ。
そんなものを手に入れてしまえば、どんな人間であっても様変わりしてしまうのだ。
『問題ない。そもそもが『星屑』の力は誰でも使えるわけではない。偶然にも彼に適合しているのであれば、それはそれでいい。強力な戦力となる。それにディーラーの計画に支障が出ようとも、我々の計画には支障など出ない』
「....だとよろしいのですが...」
『あの男はかつて我々の同志だった。彼が何か企んでいるとすれば....恐らくは我々への復讐ではない。ディーラーへの復讐だろう。我々の目的はディーラーの排除でもある。好都合だ』
バット・ダークネスはそう告げる。
だが若干の不安要素があるのだった。
あの少年はValkyrieに属している。
彼が『星屑』を与えるように仕組んだ彩斗は、自分たちが殺人術の教育を施した少年。
それだけではない。
少年の恨みを抱くディーラーの孤児であり、ちょうどValkyrieと接触し、顧客を殺害したことで敵対する状態にある少年だ。
偶然と言い切ることは出来ない。
今の自分には想像も出来ない裏があるのではないかと必死に思考を巡らせる。
「このまま放っておくのですか?たった今、シンクロナイザーはValkyrieと接触しました。いくら我々の鍛錬を受けたと言っても...」
『...よい。ここで彼が死ぬような状況になれば、彼がこの場で『星屑』を拝むことが出来るだろう。彼に前もって接触して何かを与えているのか、自身が何かしらのスイッチを握っているかは知らんが、恐らくは何処かで、あの男も見ているだろう』
バット・ダークネスは彩斗から目を離し、廃工場の周辺を見渡した。
あの銀髪の少年を探すためだ。
気づけば雨が降り始めていた。
ここ数日は曇り続きでいつ降ってもおかしくはなかった。
この悩みの種である少年は恐らく何処かでこの自分たち同様に楽しんでいる。
もしかしたら自分たちと同じように高いところから見下ろしているのかもしれないし、遠くのビルから天体望遠鏡でも使って見ているかもしない。
更に言えば大胆にもあの廃工場で息を潜めて、間近で楽しんでいるかもしれない。
どれにせよ、近くにいる。
そしてValkyrieと彩斗。
この2人の争いが始める瞬間を今か今かと待ち焦がれているのは間違いなかった。
「何も答えるつもりはないのか......」
安食は彩斗が何も喋らないのにため息をつく。
全身血まみれの少年の目は完全に死んでいる。
そして口は裂けたように開いて何処か笑っているような気もする。
ハッキリ言って気持ち悪い状態だった。
完全に壊れてしまったかのようだ。
安食は会話は成立しないと確信すると、踵を返し廃工場の入り口を目指し歩いた。
そして口を開く。
「殺れ」
それが引き金だった。
共にやってきた黒服のValkyrieのセールスマンたちはそれを聞き、安食とは対照的に彩斗の方へ歩いていく。
合計で6名。
そして全員がポケットから紫色のカードを取り出し、左腕のトランサーに挿入した。
Unite!!
『『『『『『...電波変換』』』』』』
その発声とともにトランサーから発せられた紫色の竜巻に男たちは包まれた。
真っ暗な工場内でもハッキリと分かるほどの禍々しい光を放っている。
そしてとうとう竜巻の中から男たちが姿を変えて現れた。
「......ジャミンガー」
彩斗は無気力にそう呟いた。
男たちが姿を変えたのは茶色を貴重にしたスーツに不気味なマスクを付けた電波人間、『ジャミンガー』だった。
本来ならば電波ウイルスと人間の融合体であるはずが、目の前にタダのカードをトランサーに読み込ませた程度で出現したことなど全く気にも留めない。
だがそれと裏腹にジャミンガーたちは彩斗に襲い掛かった。
「!?がぁ!!」
「ハァァァ!!!」
「フン!!!」
「オリャァァ!!!」
次から次へと攻撃が飛んでくる。
だが彩斗は最初の一発が直撃すると、本能的に交わし始めた。
「ヤァァァ!!!」
肘で蹴りを止め、ターンして肘を打ち込もうとする。
だが直撃することはなかった。
「!?なっ!!」
肘は直撃どころかジャミンガーの体を通り抜け、彩斗はその場に倒れた。
勢い余って地面で転げ回る。
当然といえば当然だ。
ジャミンガーは電波人間、すなわち体の周波数を変更して自由に電波世界に出入りできるのだ。
もし周波数を変えられれば、物理的な攻撃は当たらない。
ただすり抜けるだけだ。
「!?ガァァ!!!!」
「このガキ!!!調子乗って反撃してきやがる!!!」
「徹底的に潰すぞ!!!」
再び現実空間に現れたジャミンガーたちは倒れた彩斗の腹部に何度の何度も蹴りを加えた。
もはや集団イジメだ。
彩斗が不良を殺す前と何ら変わらない。
小さな力しか持たぬ人間に強大な力を持った人間が大人数で襲い掛かる。
不条理もいいところだった。
だが彩斗は身構え、ナイフの時と同様にマテリアライズした。
「!?」
先日、バット・ダークネスの持っていた干将だ。
それによってなんとか攻撃を弾き、ステップを踏み込んで次の攻撃を交わす。
そして左手に莫邪をマテリアライズしている最中、顔面への蹴りが迫っていた。
しかしその蹴りは顔面に直撃することはなかった。
「!?何!?」
彩斗の体を青紫色の不思議な光が守った。
『電波障壁』だ。
ムー大陸の人間が持っていたとされる周辺の電波を編み、一時的に生成できるシールドだ。
本来ならば物理的な攻撃には殆ど役には立たない。
だが相手は電波人間であった為に有効だったのだ。
彩斗はすぐさま莫耶を拾い上げ、両手を床につき、跳ね起きた。
そして一番近くで自分を蹴っていたジャミンガーを莫耶で切り裂いた。
「タァァァ!!!!」
「!?グァァァァ!!!!」
見事にクリーンヒットだ。
彩斗の手には不良たちの時と違い、何かを切り裂いたという感覚が伝わってきた。
この莫耶も彩斗が生み出したマテリアルウェーブだ。
当然、ジャミンガーにはダメージを与えられる。
まさかの反撃に驚いたジャミンガーたちは若干、彩斗と距離を置いた。
「電波障壁にマテリアルウェーブ...まさかこのガキ...」
「間違いねぇ!ディーラーの実験動物だ!!ムーの遺伝子を埋め込まれた混血児だ!!」
「...ハァ...ハァ...」
彩斗はそんな声にも動じることもなく、肩で息をしながらジャミンガーたちを睨んでいた。
話を聞いている余裕などもう既に無かった。
体は限界に近づいていた。
彩斗はゆっくりと干将も拾い上げるが、この体力ではこれ以上の反撃は難しい。
1体の胸部に大ダメージを与え、ほぼ戦闘不能としたところで、殆ど不意打ちで勝ち取ったダメージだ。
残り5体もいる。
それにジャミンガーには銃火器が備わっている。
その気になれば蜂の巣だ。
「....」
足に力を込め、今にも飛びかかろうとしながらも必死に思考を回す。
だがジャミンガーたちは1つの結論を出していた。
『『『ギャラクシー・アドバンス!!ジャイアントアックス!!!!!』』』
「!?」
3体のジャミンガーはバトルカード「ソード」、「ワイドソード」、「ロングソード」の3枚を読み込み、彩斗にとどめを刺そうとした。
『ギャラクシーアドバンス』。
それは数種類のバトルカードを組み合わせることで起こるプログラムの突然変異だ。
特殊な能力が付与され、大方は威力が大幅に増大する。
そしてこの場では巨大な斧へと変化し、それを頭上高く掲げた。
「!?....来い..」
彩斗には打つ手は無かった。
両手の干将と莫耶などの剣では正直言って相手にならない。
模造品で本物程の威力もないのだ。
この場で彩斗に残された最後の希望。
それは先程も彩斗を守り抜いた盾、『電波障壁』に他ならなかった。
彩斗の意識に関係無く現れては、彩斗の命を護り抜く。
だが反面、一度防げば、再び現れるまでタイムラグがあるのだ。
いつ現れるか分からぬ盾に頼るのは馬鹿らしいと自分でも思っていた。
しかし、その盾はその思いに応えた。
『『『ハァァァァ!!!!』』』
「う....ウワァァァァァ!!!!」
3人のジャミンガーが振りかざしたジャイアントアックスに現れた電波障壁がぶつかる。
恐ろしいまでに雷が唸っているような音と光が工場内に響き渡る。
3体1という状況自体がフェアではないというのに、電波障壁はかなりの健闘を見せた。
「アァァァァ!!!!」
電波障壁を通じて彩斗の体にも激痛が走る。
電波障壁はまだまだ抵抗できる。
だがそれを発生させている彩斗の体が限界だった。
遂に凄まじい音ととともに電波障壁は砕け散り、彩斗は吹っ飛ばされた。
「!?ウワァァァ!!!!」
吹っ飛んだ彩斗は工場の窓ガラスを突き破り、工場の外で転がる。
辺りに製造したまま出荷されなかった釘やボルトなどが散乱しているというのに、何処にも突き刺さらなかったのは奇跡としか言いようがない。
この廃工場はもともとこの手の部品を作るための工場だった事をようやく思い知った。
「ウゥゥ...アァァ......」
彩斗はゆっくりと立ち上がる。
既に体は限界、いっその事、立ち上がらずに死んだふりでもした方がマシにも思えた。
だが立ち上がったのはここで演技とは言っても死ぬのは嫌だったからだ。
突き破った窓から続々とジャミンガーたちが出てくる。
雨がますますひどくなっていく。
彩斗の体についていた血が流されていくのだ。
「...あぁ...」
彩斗はため息をついた。
もう終わりだと思っていた。
空さえも自分を貶しているように感じ始める。
ジャミンガーたちによる身体的な暴力、そして雨を打ち付ける精神への暴力。
何もかもが自分を嫌っているように。
だがその時、彩斗のポケットに振動が走った。
「!?....何だ」
ジャミンガーは一歩、また一歩と近づいてくるのに、彩斗は振動の原因であるトランサーを開いた。
電源は切っておいたはずだった。
だが確実に電源が入り、ヴァイブレーション機能によって彩斗に何らかの情報を通知したのだった。
高解像度のIPS液晶にアプリケーションの起動認証が表示されていた。
Are you ready to start"BEGINS.EXE"?
[Yes] [No]
「!?これは....このメール、削除したはず...」
起動認証を求めていたのは、例のメールに添付されていたファイルだ。
数日前、『紺碧の闇』の門を叩き、決意を固めた段階で削除したはずだったものだ。
それがまるで幽霊のように現れた。
彩斗は今にも殺される寸前だというのに、驚きを隠せなかった。
だがこのプログラムを起動すれば何かが起こるという気がしていた。
現にこのメールに添付されていたもう1つのファイル『Memory』は自分の能力を電波障壁を発生させられるほどに発達させた。
何か不思議な魔力が宿っている。
そしてこのメールの文章も同様だった。
まるで実行することを促すような文面なのだ。
「....始める...覚悟」
メールの文面を思い出す。
自分自身の世界を知るための覚悟。
それを知るためにはこの場では死ねない、そう彩斗に思わせた。
彩斗はタッチパネル式のキーボードに触れた。
『覚悟なら...最初から出来ている...!』
迷うこと無く「Yes」を選択した。
この場で死ぬのは嫌だった。
ただ生き延びたい一心でプログラムを起動した。
すると左腕に僅かにしびれた感触が走る。
左腕が発光し、彩斗の左腕にリストバンドが現れた。
「.....」
トランサーは普通ならこのリストバンドに装着し、常に携帯しておくものだが、彩斗は違った。
敢えて取り外した状態でポケットに入れ、小型のモバイルPCとして使用していた。
トランサーは今でも高級端末だ。
もし腕につけて学校に登校するような事になれば、自慢しているとしてますますイジメが激しくなりかねない。
それを考慮もしていた。
だがこの場で彩斗は本来あるべき場所にトランサーを戻せばいいと理解した。
ゆっくりとスライドさせながら押し込んでいく。
そして遂に完全にドッキングされた。
TranceCode 000!! Rockman Desire!!!
トランサーから電子音が鳴る。
しかし何も起こらない。
ジャミンガーたちは既に彩斗から10メートル圏内に入った。
彩斗は最後の希望に裏切られたような気分で雨の降り止まぬ夜空を見上げた。
「!?兄さん!!!」
ハートレスのガヤルドが廃工場前に急停車した。
独自の改造が施されたガヤルドは他のディーラーの戦闘部隊の車両よりも早く、一番乗りに現場へと到着したのだった。
そして行方不明になっていた彩斗が目に飛び込んできた。
メリーはすぐさまシートベルトを外し、ドアを開けようとするが、ハートレスはメリーの腕を掴んだ。
「待ちなさい!!あれが見えないの!?」
ハートレスが危惧していたのは、彩斗に今にも襲いかかろうとするジャミンガーたちだった。
ハッキリ言って今のメリーが立ち向かおうと勝ち目など無い。
常人を超える身体能力を持っている彼らは特殊な武器か、同類の電波人間にしか倒すことは出来ないのだ。
それにメリーには約束していた。
ついてくる代わりに言うことを聞くようにと、ここに来るまでの道すがら約束を交わした。
「でも!!」
「いい加減にしなさい!!すぐにディーラーの武装部隊がやってくるわ!」
ハートレスは平手打ち寸前の自分を必死に抑えた。
この場で感情的になっても仕方ない。
目の前で今にも彩斗が殺されそうになっていようとも、全体の利益を優先する。
それが自分に課した鉄則だった。
バックミラーを覗くと、武装部隊の車両のフロントライトが見える。
残り100メートルといったところだった。
だがメリーは対照的に反対側を見ていた。
彩斗の頭上だ。
「あれは....大変です!!サイトさん...兄さんに隕石が!!!」
「!?」
ハートレスは振り返ると、確かに猛スピードで夜空から眩い隕石が落下してきた。
青白く発光するそれは彩斗目掛けて一直線だ。
直撃すればジャミンガーに殺されるまでもない。
死体すらも悲惨極まりない程に人の原型を残さずにペシャンコだ。
ジャミンガーたちも驚き、急いで彩斗から離れ距離を置き始めていた。
少なくとも半径30メートルは危険だ。
巻き添えを喰らうのはゴメンだと思うのは人情だった。
メリーもハートレスを振り払い、ドアを開けようとする。
だが明らかにおかしな事に気づいた。
「どうして逃げないんです!?」
彩斗は一歩も動かない。
まるで隕石が直撃するのを恐れていないかのように。
むしろ両手を広げ、胸を突き出し、受け入れようとしているようだった。
そして遂に隕石は彩斗に激突した。
「!?キャァァァ!!!」
「!?っく...」
周辺に目に突き刺さるほどの光が飛び散る。
ジャミンガーたちも驚き、両手で自分の目を覆う。
この光は人工衛星からは異常なものとして認識されているのか、それともイカ漁の光と勘違いされているか。
そんなことは誰にも分からない。
だが明らかな異常現象だった。
そして彩斗が立っていた場所には、隕石が直撃したというのに無傷の彩斗が立っていた。
「....!?あれは...」
「....!?兄さん...なんですか?」
正確には彩斗ではなかった。
紺色のスーツに白のボディーアーマー、そして全身に走る銀色のライン。
胸に印象的な星形のエンブレム、紺のヘルメットにワインパープルのバイザー。
色は違えど、それはある存在に酷似していた。
「ロックマン...」
その場に居合わせた誰もが理解した。
一度、FM星人の地球侵略から世界を守ったヒーロー、『シューティングスター・ロックマン』とシルエットが瓜二つだった。
違いといえば、全身のラインが黄から銀へ、バイザーの色が赤から鮮やかな紫へと変化している点くらいだった。
だが反面、状況を全く理解していなかった。
どうしてこの場にロックマンが現れたのか、『星河スバル』でない人間がなぜロックマンになれたのか。
だが誰もその答えを知るものはいなかった。
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