名選手だったが

「やった！今日も負けた！」
「巨人惨敗！」
「正義は勝つ！」
「巨人は負けろ！
　邪悪は成敗されていたのだ、この世に邪悪が栄える筈がない。
　ペナントの主役は中日だった、監督を務める落合博満は冷静な采配を続けていた。
「いや、普通にやっていればね」
「勝てるんですね」
「相手が巨人でも」
「そうだよ、ピッチャーに守備がしっかりしていれば」
　それでだというのだ。
「勝てるんだよ」
「このまま今年はですか」
「優勝出来ますね」
「うん、目指すよ」
　こう記者達にも言う。
「順調にいかせてもらおうか」
「阪神も踏ん張っていますけれどね」
「ヤクルトも気になるところですね」
「いや、広島も横浜もね」
　落合はこの二チームについても油断していなかった。
「どのチームも強いよ」
「ですか、油断大敵ですね」
「そういうことですね」
「そうだよ、まずはピッチャーで攻めて」
　落合の持論だ、野球で唯一攻める立場にあるのはピッチャーだというのだ。
「それと守備だね、守備がよくないとね」
「荒木選手に井端選手ですね」
「それに谷繁選手も」
「守備がよくないと負けるよ、攻めて守ってだよ」
　落合はピッチャーも守備も念頭に置いていた、その為中日の野球は手堅い強さを誇っていた。だがその中日とは全く違い。　
　堀内は血走った目で記者達に喚いていた。
「何で打っても勝てないんだ！」
「あの監督、どうしたんですか？」
「負けたからですか？」
「うちは史上最強打線を持っているんだぞ！」
　パワーヒッターばかり揃えたというのだ。
「優勝候補筆頭だったんだ！それで何で勝てないんだ！」
「打たれてますからね」
「しかもホームランだけですから」
　確かにホームランの数だけは多い、だがだった。
「けれどつなぎですかね」
「それがよくないですよね」
「ホームラン打ったら勝てるんだよ」
　堀内はつなぎを無視して言う。
「だからうちは勝てる筈なんだよ」
「得点はホームランと比べて低いですね」
「というか走塁もちょっと」
　所謂地蔵ばかりである、パワーヒッターは足が遅いことが多いが巨人こそはまさにそれだったのである。
　しかも守備もまずい、それでだった。
「失点多くないですか？」
「くそっ、ピッチャーも阿部も何をやってるんだ」
　今度は彼等を槍玉に挙げる堀内だった、表情はカリカリしたものだった。
「お陰で今日も負けたぞ、打たれっぱなしじゃないか」
「まあ落ち着いて下さいよ」
「怒っても何もなりませんよ！」
「そんなこと俺が一番わかってるんだよ！」
　記者達にも怒鳴る始末だった、堀内は当然選手達にも怒鳴っていた。しかも。
　勝てば勝ってだ、にやにやしてこう言うのだった。
「俺の采配が当たったからだな」
　自分の手柄だった、しかし落合はこうだった。
「今日は俺のミスだな」
「監督のですか」
「ああ、采配を間違えた」
　こう言うのだった。
「選手はよくやったよ、申し訳ないことをした」
「ううん、あれはあれでよかったと思いますが」
「それでもですか」
「負けるのは監督のせいなんだよ」
　自分に責任を置いての言葉だった。