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蜘蛛女

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第四章

「そこで待ってねい、戻って来るからな」
「では」
 ここは遠山の言葉を信じることにした、それでだった。
 彼はそこに踏み留まった、遠山は上に消えた。
 遠山は道の左右に並ぶ店達の一つの屋根の上に出た、そしてそこには。
 月明りに照らされて巨大な蜘蛛がいた、彼はその蜘蛛の糸、彼を上まで連れてきたそれを引きちぎって屋根の上に立ち上がりながら言った。
「おめえだな、下手人は」
「そうよ」
 蜘蛛は妖しい女の声で答えてきた。
「私が客を捕らえてそして」
「食ってたんだな、気配は感じたぜ」
「見ていたことにも気付いていたのね」
「感じ取っていたぜ」
 遠山は不敵な笑みで蜘蛛に言った。
「というかおめえさん妖怪だな」
「見ての通りよ」
「女郎蜘蛛かい?」
 子供の頃に聞いた妖怪の話からこう問うた。
「それかい?」
「私のことは知ってるのね」
「有名だからな、蜘蛛の化物ってのも」
「土蜘蛛とは思わなかったのかしら」
 源頼光が退治した妖怪だ、大和や山城の国に多くいたという。
「そちらとは」
「土蜘蛛は男って感じだからな」
 それでだというのだ。
「しかしおめえさんは女の声を出す、それでだよ」
「私を女郎蜘蛛だっていうのね」
「そうだろう?おめえさんはそれだろ」
「ええ、そうよ」
 その通りだとだ。その妖怪女郎蜘蛛も遠山に返す。
「見ての通りよ」
「そうだな。それで何でここにいるんだい?」
「ここが過ごしやすいからよ」
「妖怪にとってかい?」
「ええ、ここは様々な人の念が渦巻いているわ」
 この吉原という場所はというのだ。
「酒に女から欲だの妬みだの惚れたはれただのがあってね」
「ここはそういう町だからな」
 吉原は遊郭の町だ、そこにそうした念が渦巻くのも当然と言えば当然だ。ここはそうした場所なのである。
「色々あるぜ」
「病もね」
 このこともあった、女郎蜘蛛はさらに楽しそうに語る。
「あるよ」
「瘡毒に労咳に江戸腫れにかい」
「他にも色々あるわね」
 この吉原は病の巣窟でもある、鉛の毒もあるがこれのことはまだよく認識されていない。
「念に病、それに」
「食いものかい」
「餌ね、活きのいい男が一杯いるわね」
「やっぱりおめえさんが部屋に入った男を食ってたんだな」
「察しの通りよ」
 ここでもそうだと言う女郎蜘蛛だった。
「あの部屋に入った男でよさそうなのを道に出た時に上から糸で釣ってここで食べていたのよ」
「成程ねい、そりゃ見付からない筈だ」
「貴女もよ」
 遠山もだというのだ。
「今からそうしてあげるわ」
「言うねい、まあおいらもおめえさんを退治する為にここにいるんだけれどな」
「言うわね、糸を解かせたのはあえてだけれど」
「踊り食いが好きなんだな」
「活きの悪い餌なんて食べても面白くないわ」
 それでだというのだ。
「動き回る相手を食べてこそ美味しいのよ」
「成程、けれどそれは後悔するぜ」
「私を倒そうっていうのかしら」
「おうよ」
 不敵な笑みと共に応える、そして。
 その懐からあるものを出した、それはというと。
 小刀だった、その小刀を抜いて。
 その刃にある白い粉に似たものをたっぷりと塗った、そのうえで女郎蜘蛛と退治する、瓦の上を下駄を脱いだうえで素早く動く。その動きを見てだ。 
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