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仮面ライダー酒呑

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巻乃一 アフロ店長と割烹と料亭荒らし

時は江戸時代後期。
天下太平を謳う江戸の町に、ある日突然魔界より来たと豪語する一族が現れた。
彼らの名は、『魔道衆』。
人並み外れた妖力と獣の顔を持つ不気味な外見から、江戸の人々は彼らを恐れ…そして蹂躙されていった。
事態を重く見た江戸幕府は、京都で修陰陽道わ得た若武者を急遽召還し、魔道衆撃退を彼に命じた。
その侍…「田村忠邦」は、幼少の頃から体の内に酒呑童子の力を宿しており、十人の力持ちでさえ歯が立たない程の怪力を誇っていた剛の者なのである。
彼は酒呑童子の力を発揮し、立ち向かう魔道衆を一刀両断し…また式神や仙術を駆使して無双の活躍を果たし、ついに魔道衆の首領「九尾狐大将軍」を追い詰めるのに成功したのだ。
双方の戦いは三日三晩におよび、彼はついに最後の切り札…自らが酒呑童子の力と体内からにじみ出る妖力により鍛えたという霊剣「曽亜羅(そあら)」を引き抜き、とうとう九尾狐大将軍を討伐したのであった。
忠邦は首領を失い戦意を失った十名の生き残りに和解を求め、二度と悪事を働かない旨を証文に残し、魔道衆は江戸の町を去っていった。
江戸の町民達は魔道衆を討伐した田村をたたえ、彼を慕う者も後を 絶たなかったという。


そして現代。
欲望と野望が渦巻く大都会…東京に
、田村忠邦の意志を継ぎ酒呑童子の力を体内に宿した男が下町に住んでいた。
その男が営んでいる店…「田村精米店」は、今日も新米の注文が四方から飛び交い忙しく働いている。

そんなある日、一本の電話が精米店に入ってきた。
応対に出たのは、年にして15才のブロンドヘアーが美しい、背がスラッと通った優しい笑顔の少女であった。

「もしもし、田村精米店です。」
『あ、もしもし…「割烹 白糸」です。あの~、一週間前に注文した「厳選コシヒカリ」は、一体いつ入荷するでしょうか?』
「厳選コシヒカリですか?それでしたら、 只今精米中ですので、精米が終わり次第大至急お持ちいたします。」
『そうですか、では店が10時に開店いたしますので…よろしくお願いします。』

少女は早速割烹から連絡があった事を知らせるべく、店の奥にある精米所に向かって走りだした。
足取り軽く店の裏にある中庭を走り抜け、店舗よりもやや大きめの古い民家を改造した精米所の扉を開け中へ入ると。

「…よし、今年の新米は上々の出来だ。これならいける!」
「これはおいしい…いけますよ、店長!」

店長と店員が精米された新米を釜で炊いて試食し、二人そろって会心の笑みを浮かべていたところに遭遇した。

「お父さん、白糸さんから電話があったよ 。厳選コシヒカリの納入、確か今日でしょ?」
「あぁ、わかってる。すぐにでも持って行くからちょっと待ってて。」
「うん!」

その店長…「田村 幸四郎」は、愛娘の美奈子に伝言をことづけると精米し終えた新米を升ですくい袋に詰め、テーブル の上に置いたところで近くにある長いすに腰かけ一息ついていた。
彼は細い顔つきにまばらなひげ、
そして細身だが体格のいい体つきを紺の作務衣で包んでいるが…何より彼を印象づけているのは、全長20㎝はあるアフロ。
それゆえに彼を「アフロ店長」と呼ぶ人もあり、町の皆からの人気もかなりのものである。
幸四郎は、長いすに置いた盆に乗っている急須に手を伸ばし、ぬるめの緑茶を自分の湯呑みに並々と淹れるや一気に飲み干し「ふぃ~」と軽く息をつき、そのまま席を立ち店の方へと向かった。
そして奥の方から桐の箱を持ってくると、厳選コシヒカリを箱に詰め店のとなりに止めてあるワゴン車のリアシートに載せ、運転席に乗り込んだ。

「店長、僕は店番に回ります。後は任せて下さい。」
「ふむ、そうしてくれると助かる…では拓郎、後を任せたぞ!」
「はい、まかせて下さい!」
「お父さん、気をつけてね。」
「心配すンな美奈子、ちゃんと帰ってくるから。…あ、そうそう、それと昼飯はおにぎりに卵焼きで頼むわ、あとたくあんもつけてね。」
「卵焼きね、わかったわ。」

幸四郎は美奈子と 店員の佐原 拓郎に店を任せ、一路割烹へとワゴン車を走らせた。
さぁ急がねば…女将さんが首を長くして待っているはずだ。
幸四郎ははやる気持ちを抑えて、割烹へと向かう。

幸四郎の店から5分の一等地、そこに白亜の壁が美しい割烹「白糸」は静かなたたずまいを見せている。
そこの裏口で幸四郎は割烹の女将…猪俣 勝美に精米されつやつやに輝く厳選コシヒカリを手渡した。
幸四郎本人の手により厳選され精米した新米は味や香りが非常によく、炊き込みご飯にはもちろん赤飯やおこわにもピッタリの、まさに神業の逸品なのである。

「女将さん、これが今年の新米…厳選コシヒカリです。どうぞ。」
「これはこれは、本当にすいません。…あ、ところで田村さん、実はご相談がございまして。」
「相談? 」
「はい…ここ数ヶ月の間に起こっている料亭荒らしの事は、ご存じだと思いますが。」
「あぁ、知ってますよ。確か、深夜閉店した料亭や居酒屋を狙っては厨房に入り込んで、食材を盗んでいく悪質な奴だと聞いています。」

その話を聞いて、幸四郎は「やはりな…。」と心を痛めていた。
そう、実は彼の得意先の料亭や小料理屋でも同じ被害にあったと聞いており、その対策に頭が痛いと店の主人達はぼやいていたのだ。
しかも、料亭荒らしは人間ではないとの噂もあり各料亭や小料理屋も警戒を強め、中には監視カメラを大枚はたいて購入し、24時間厨房を監視する神経質な店まで出る始末である。

「えぇ、それで田村さんはご先祖様が偉大な武者で、かなりの実力者だと聞いています。その料亭荒らしを捕まえてほしいのですが…。」
「…話は大体わかりました、自分にお任せ下さい。その者が誰かはわかりませんが、何としてでも捕まえます!」
「さすが幸四郎さん、頼もしいですわ。では、よろしくお願いします。」

幸四郎の言葉に勝美は喜び、幸四郎も人助けに新たな決意を燃やしていた。
どこの誰かは知らないが、絶対にぶっ飛ばす!…と。
しかし、幸四郎は 同時に別の方から流れるよからぬ妖気も感じていた…それは先祖の血によるものなのか、それとも体に宿る酒呑童子の力が騒いでいるのか?
それは幸四郎本人にしかわからない。

(この胸騒ぎと妖気…まさか、な。しかし、あり得ない訳じゃなさそうだ。)

幸四郎は一旦精米店に戻り、拓郎と共に得意先分の新米の精米と袋詰めを手早く終わらせると、二人は店の奥にある神棚に向かい拓郎に話しかけた。
その顔つきは、今までの明るい表情とは思えない程神妙であり、どこか鬼気迫るものがある。

「店長、一体どうしました?」
「拓郎、俺が田村家代々の当主なのは知っているな。」
「はい、知っています。店長の先祖は、かつて江戸を魔道衆から守った武者だと聞いていますが。…まさか!?」
「あぁ、そうだ。実はさっき割烹に配達へ行った時、別方向から魔道衆らしき妖気を感じたんだ。今夜、奴をつかまえるためにもう一度割烹に向かうから、拓郎も力を貸してくれ。その時に俺の実力の一端を見せてやるよ…こいつの力でな!」

すると、幸四郎は神棚に祭られていたバックルに手を伸ばし拓郎に見せた。
そのバックルには右側に扇状の切れ込みが入っていて、そこには青龍と書かれており…更に左側には何故かホッチキス風の拍子木が備え付けてあり、うっすらと鬼気も感じられる。

「店長、これは?」
「これはな、俺が若い頃に造った酒呑童子の力を引き出すバックルだ。
こんな平和な世の中だ、もう使うまいと思ってはいたけどな…。」

そう、本来なら酒呑童子の力は平和な現代の…しかも人助けに使ってしかるべきと幸四郎は考えていたのである。しかし、何らかの事情により魔道衆はよみがってしまった…ならば、もう四の五の言ってる場合じゃない。
向こうがいかなる理由があったとしても、戦う時は戦うしかない。
この時、幸四郎と拓郎は覚悟を決め、視線を合わせ軽くうなずいた。
互いに口を堅く結び、鷹のように鋭いまなざしで未来を見据えながら。

とそこへ、美奈子が昼食の支度を終え二人の元へとやって来た。
満面の笑みを浮かべているあたり、卵焼きの出来がかなりよかったらしい。

「お父さん、拓郎さん、ご飯だよ~。今日は豆腐の味噌汁も作ったから、早くしないと冷めちゃうよ!」
「じゃあ、まずは昼飯にしようか。腹が減っては戦はできぬ、ってな。」
「そうですね。」

美奈子の一言で二人のシリアスモードは解除され、また元のおだやかな表情に戻るとドライバーを神棚に戻し、足並み軽く居間に向かって歩きだした。



時は過ぎ、午後10時。
割烹ののれんが外され常連客もほろ酔い加減で帰宅した時間に、装備を整えた幸四郎達三人は店の裏口から訪れていた。

「女将さん、約束通り料亭荒らしを退治しに来ましたよ。」
「「こんばんは。」」
「あ、いらっしゃい。では早速ですが、よろしくお願いします。」

犯人が、いつどこから入ってくるのか全くわからない以上うかつに動く事はできないため、幸四郎は拓郎と美奈子にモニターによる監視を任せ、本人は厨房に囮として用意した偽の食材を設置し、相手の動きを見ていた。
当然食い意地を張った料亭荒らしも、腹を空かせてのこのこ現れるはず…その時に奴らの後をついていって取り押さえられれば、それで御の字だ。
幸四郎は店の厨房入り口で待ち構え、犯人の到来を待つ。
もちろん、勝美や店の板長も料亭荒らしを捕まえるために店に残り、二人と共に動向を見守っている。
そして二人のそばには大きめの長方形をした木の箱が置いてあり、準備は万全に整った。

監視を始めて一時間、いまだに変化はなく人影ですら見当たらない。その後、二時間程モニターとにらめっこをしながら待ちかまえたが一向に動きはゼロ…遂には勝美が疲れているのか居眠りをしてしまい、三人も「今日は来ないな」とあきらめかけた、その時だった。

ガタッ!…ガサガサ、ストッ。

何者かが屋根裏から侵入し厨房に降り立ったのである、しかも二人も。
そしてアルミ台に乗っている偽の食材に手を伸ばし、それを風呂敷に包んで再び屋根裏へと姿を消したのであった
…引っかかったな!
これを好機と見た幸四郎は、あらかじめ食材にかけてあった探知の術を頼りに月明かりの中追跡を開始し、美奈子と拓郎も箱を背中に背負い勝美達を連れて後を追う。

幸四郎がたどり着いたのは割烹から50mも離れた近所の河原で、ちょうど野球ができるくらいの広さがあるが…あたり一面石と岩だらけのため、足の踏み場は全くない。
そこに、追い詰められた料亭荒らし二人と幸四郎が対峙していた。

『はぁ、はぁ、…くそっ!』
「ようやく追いついたぞ…この盗っ人どもめ!!」
『ちいっ、まさか人間に後をつけられるとはな…。』

美奈子達もようやく追いつき、全員は月明かりに照らされた料亭荒らしの正体を知った。
その二人の料亭荒らしは、彼が危惧していたとおり魔道衆の者…ねずみの頭部を持つ忍装束姿の『ねずみ忍者』と、いたちの頭部を持つ同じ忍者の『いたち忍者』であった。

『『もうやけだ、こうなったら…たたっ斬ってくれるわぁぁぁぁぁぁっ!!』』
「威勢はいいけど、お前達…自分の立っている足場の事を考えた事はないか?」

二人は半分やけくそになって肩に背負った刀を引き抜き幸四郎に斬りかかっていったが、石だらけで足場が悪い上に幸四郎本人の身体能力が異様に高いため、軽く右に左にとかわされてしまい攻めあぐねていた。

『ちいっ、足場が悪くて狙いが定まらない…!』
「どうしたどうした、まるで素人みたいな立ち回りだな。こんなんじゃ一生かかっても俺を仕留められないぞ。」
『えぇい、いまいましi…あ、足元が!…アッー!!』
『ちょっ、何やってん…ぎゃーっす!!?』
「はぁー…しょうがないな、本当の戦いというやつを見せてやるよ。」

しまいには二人そろって足がもつれ石につまづいて顔面強打する有様に、幸四郎もあきれてしまい…ため息をつきながら、アフロに手を突っ込んだ。
そのありえない光景に、ねずみ忍者達は目を白黒させて絶句し、勝美と料理長は感動すら覚えていた。

『『あんた、どこに手を入れてんだ!!?』』
「さて、いよいよですね。」
「お父さん、がんばって!」
「女将さん、あれが噂に聞いた驚異のアフロなのですか。」
「えぇ、私も始めて見ましたが…まさかこの目で見られる日が来るなんて、思っても見ませんでした…。」

が、幸四郎は気にする事なくアフロから神棚に祀ってあったバックル…酒呑ドライバーを取り出し、腰に取りつけた。
そう、彼のアフロは伊達ではない。
このアフロこそ、いかなる場所からでも物を取りよせる奇跡のアフロ…『四次元アフロ』なのである(さすがに美奈子と拓郎は、毎日見ているのか突っ込まなかったが)。

『ちょっ、あんた!こんな取り出し方でいいのか!?本当にそれでいいのか!!?』
『そのまん丸髪の中は一体どうなってんだ!!?』
「別にいいだろ、いちいち細かい事なんて。…まぁ、そんなのはどうでもいい。」
『『いや、こちらは全然よくないんだけど?!』』

アフロからドライバーを出した事に突っ込みを入れるねずみ忍者であったが、そんな事はお構いなしに幸四郎はドライバーに備え付けた拍子木に手を伸ばし、軽くノックする。

「四の五のごちゃごちゃ言ってるヒマはねぇ!いくぞ…変身!!」

キィン!!
『東!青龍装甲…破!!』

すると、足元から風が渦をえがいて幸四郎の体を包み込み、姿が徐々に変わっていった。
数十秒後、幸四郎の周りにまとわりついていた風はやみ…その中から鎧武者の姿をした幸四郎が姿を現わす

戦国武者がかぶるような飾り気のない兜には兜飾りの代わりに二つの角が生えており、ゴーグル状の複眼と
銀のクラッシャーが月明かりに映える。
鎖かたびらをまとった青いライダースーツの上から青龍が描かれた胴が装備され、肩には青龍の頭部をかたどった袖、腕と足には黄金の籠手とすね当てが装備され、両腰には二振りの銃と刀が合体した異様な姿の刀が鞘に差してある。
これこそ、幸四郎が若い頃陽道と酒呑童子の力を練り込んで鍛え造り上げた特殊装甲、『仮面ライダー 酒呑 青龍装甲』である。
酒呑は、右の腰に差した刀…『偽刀 曽亜羅弍型(ぎとう そあらにがた)』を引き抜くと、ねずみ忍者にその鋭い刃を向け、自信満々の口調で言い放った。

「魔道衆、覚悟しな!」
『ふん、覚悟するのはお前の方だ!』
『今ここでギタギタにのしてくれる!』

ねずみ忍者は刀を振りかざし右側から酒呑に斬りかかり、いたち忍者も刀を水平に構えて後に続くが、酒呑は曽亜羅弍型を両手に持ち横一閃になぎ払い両者を一気にはね飛ばした。
その凄まじき風圧にいたち忍者は河原の石に頭をぶつけ、ねずみ忍者は近くにあった岩に着地した後軽くジャンプして再度真上から刀を振り下ろすが。

…ガキィッ!!

刀は酒呑には届かず曽亜羅弍型に阻まれ、今度は真下から左アッパーを喰らい吹き飛ばされ石だらけの河原に落下した。
ようやく起き上がったいたち忍者は、ねずみ忍者の情けない姿を見てちいっ、と舌打ちした後懐から数枚の呪符を取り出し、念を送った。

『現れ出でよ、我が化身たる足軽蟻(あしがるあり)よ!!』

すると、数枚の呪符は複数の足軽に姿を変え酒呑の前に姿を現した。
蟻の頭に足軽特有の軽めの胴を身に付け、殺気をはらんだ目を酒呑に向け各々武器を手にギィギィとわめきながら命令を待つ戦闘集団…それが足軽蟻である。
酒呑は特にあわてる様子もなく、いたって平然に左の腰から曽亜羅弍型に似た小さめの刀…大化輪丸(だいかりんまる)を引き抜き、二人に刃を向け言い放った。

「おいおい、こんな雑魚を呼んでも歯が立たないのを知ってるだろ?」
『ふん、何もしないよりはまだましだ。足軽蟻よ、行けぇい!』
「まぁ、その潔さは認めよう…しかし、いくら貴様があがいたところで状況は変わらないぜ!」
『ほざけ!』

酒呑は曽亜羅弍型と大化輪丸の柄をつなぎ合わせ、薙刀状の武器「破邪大化輪」に変えると右手に持ち替え、大きく振り回しながら足軽蟻の群に向かって走り出し、足軽蟻も酒呑に向かって武器を振りかざし走り出した。

今ここに、酒呑童子の力を宿した鎧武者と魔道衆の戦いが…長き時を越えて始まる。
 
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