| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

とある科学の論理回路

作者:芳奈
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

論理回路と幻想殺し

「一歩右へ。三歩前に歩いて、一時停止。目の前を火の玉が通り過ぎたのを確認したら、五歩下がります。ここから一気に・・・ダッシュ!」

「!?なんでだ!?なんで当たらねぇ!?」

 目の前の不良の悲鳴をBGMに、俺は手にした警棒を突き出す。この警棒は、学園都市の特殊素材で作られていて、ゴムのように伸び縮みする上に、金属としての硬度も保たれるという不思議素材だ。熱にも冷気にも強く、力加減を間違えても致命傷を与える事が無いため、こういう不良共を無力化するのには凄く便利なのだ。

「ほいっと。」

 走りながら、首をほんの少し傾けると、ついさっきまで俺の首が合った部分を、電撃が走り抜けた。俺という標的を失った電撃は、俺を囲んでいた不良の一人へとブチ当たり、悲鳴を上げる暇もなくそいつは黒焦げになって昏倒した。

「そもそも、囲んでいる状態で遠距離攻撃をするって、同士打ちになる可能性に気がつけないのかね?」

 最もな疑問を抱きながら、先程から炎を上空から雨のように降り注がせていた男の喉に警棒を突き出す。

「グエ!」

 潰れたカエルのような声を出しながら、その男は吹っ飛んでいった。これで、このグループで一番強い男は潰したことになる。何と、スキルアウトの連中とつるんでいた癖に、今の男は大能力者(レベル4)だったのだ。予め炎が降ってくる場所とタイミングが分かっていたとは言え、雨のように降り注ぐ炎を躱し続けるのは難しかった。相手には余裕そうに見えていただろうが、実際は結構焦っていたんだぜ?

「クソ!なんだよお前は!何なんだよお前は!!!」

 ヤケになったように電撃を飛ばす男。三十人もいた仲間は全て倒され、残っているのはこの男だけなのだから仕方がないとは言え・・・余りにも情けない姿だ。それに・・・

「俺のこと、知ってて襲ってきたんだろ?なら、俺の能力の事も知っている筈だ。」

「”論理回路(ロジカル・ダッシュ)”・・・。『完全未来予知』なんて・・・ありかよ・・・・・・!!!」

 その男の絶望した顔を見ながら、つい苦笑してしまう。『完全未来予知』なんて嘘っぱち。『ほぼ百%当たる未来予知』では何となく強そうに見えないから吐いた嘘だ。現に、『完全未来予知』だと世間に公表している現在でも、こうやって俺を倒そうとしてくる馬鹿どもが絶えないのだから。

「本当は、お前らを相手にするのなんて面倒くさいから逃げようかとも思ったんだけどよ。お前ら、しつこすぎ。何日も何日も付きまとって、最終的には街中で襲われる未来が見えたから、もう今ここで潰しちゃおうと思って。」

 俺は、あまり争いごとは好きではないのだ。能力が戦闘向きではないという理由もある。俺の身体能力は、一般人よりも少し鍛えられている程度なのだ。沢山の不良と戦うなんて、疲れるからしたくない。

 でも、コイツラしつこすぎだったのだ。どう計算しても、コイツらと戦わずにすむ未来が無い。いや、無いこともないのだが、そっちも面倒くさかったのだ。俺のクラスメイトを人質にしようとするし。

超能力者(レベル5)でも、序列が下なら何とかなると思ったか?残念だが、超能力者(俺たち)を常識で図ろうとするな。そもそもが、序列なんて『強さの順番』じゃないんだ。『学園都市に対する貢献度』の順番なんだよ。それだって、対した違いがあるわけじゃない。」

 まぁ、序列1位~4位は、戦闘でも人外レベルの化物たちだが。あんなのに絡まれたら、俺では命が幾つあっても足りない。超能力者(レベル5)は単騎で軍隊とでも戦えると言われているが、俺の専門はどちらかといえば経済だ。武力ではなく、未来を知るというアドバンテージによって、経済を支配する。・・・俺も、十分化物だったな。

「とにかく、しばらくアンチスキルの所で反省するんだな。自分たちの思慮の浅さを。」

「グハっ!!!」

 恐怖で動けなくなった不良を叩きのめし、俺は電話を取り出した。アンチスキルに連絡して、コイツらを引き取ってもらう為なのだが・・・

「不幸だあああああああああああぁ・・・!!!」

「・・・は?」

 知らない叫びが(・・・・・・・)、俺の耳に響いた。

「・・・・・・・・・知らない。こんなの見てないぞ俺!」

 その時、俺の心に浮かんだ感情は、歓喜だった。

 学園都市に来てたったの二年で、俺の能力は完全に開花した。

 ”論理回路(ロジカル・ダッシュ)”。

 昔は、『見た未来がいつのことなのか分からない』という致命的な欠陥が合ったこの能力だが、二年における能力開発によって、この欠点が無くなった。それに、『不確定要素』を多く持つ人間に対しても、ある程度の未来を視ることが出来るようになったのだ。

 今の俺が見ることの出来る未来の範囲は、最大で五年後まで。ただし、このくらいになると、未来はかなり誤差が出てしまう。的中率は八十%くらいか。ほぼ百%の的中率を出せるのが、一年以内だ。一年以内なら、『何月何日の何時何分に何が起きる』かまでハッキリと視ることが出来る。

 さて、俺は、朝起床してから、自分の一週間後までの未来を視る事を日課としている。当然、視た内容は全て暗記している(超能力者(レベル5)の頭脳舐めんな)。
 ・・・俺が視た今日の事件は、この不良共を叩きのめすことだけだ。それ以外は、俺には何も起こらないハズだった。
 しかし、今、俺の予知を上回った人間がいた。ウニのようなツンツン頭の少年が、五十人以上の沢山のスキルアウトに追われて走っていったのだ。

「は、ハハハ!俺の今日の行動は、もう家に帰って飯食って寝るだけだったんだがな!!!」

 突然のイレギュラーの出現に、俺は大笑いをしていた。・・・やはり、予定調和の出来事ばかりというのも、新鮮味がなくて詰まらないのだ。この能力を嫌っている訳ではないが、それでも刺激が欲しいと感じてしまう(ただ、この能力を使わなかったから突発的な事故に合って死にましたでは笑い話にもならないので、能力を使うことを止めはしないが)。

「さて・・・この後の俺の運命は・・・!?」

 あの男たちの事を追う事に決めた俺だったが、まずは論理回路(ロジカル・ダッシュ)でズレてしまった未来を視直す。・・・が、

「視れない・・・!!!」

 緑色をした0と1の列。俺は、それを計算式に当てはめることで未来予知を可能にしている。・・・しかし、あの男が走った後の空間の0と1が、乱れまくっているのだ。0と1が入れ替わり続ける。こうも頻繁に変化していては、演算が追いつかない!!!

「・・・クハハ。面白くなってきたじゃん!!!」

 俺は、自分の常識が一切通用しない不思議な男の後を、走って追う事にした。・・・本当に久しぶりに味わう、『未来が分からない』という不安と新鮮さを心に抱いて。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧