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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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SAO編
  第42話 花の都へ

  耳元で奏でられるチャイムの音にシリカはゆっくりと瞼を開けた。

 自分にだけ聞こえる起床のアラーム。何度も訊いている音だから、シリカは朦朧としながらも いつの間にか眠っていた事、そして朝が来た事を理解する事が出来ていた。

 そして、設定している時刻は午後7時だ。

 目を擦りながら、身体に掛かっている毛布を除けると、ゆっくりと体を起こした。

 いつも朝は苦手なのだが、今日は常になく心地よい目覚めだった。深く、たっぷりとした睡眠のおかげで、頭の中が綺麗に現れたような爽快感がある。大きく一つ伸びをして、シリカは、ベッドから降りようとしたその時だ。
 目の前にいる人の姿を見た。
 
 そして、昨日の事が、昨日の記憶が頭の中で彩られていく。

 窓から差し込む朝の光の中で床に座り込みベッドに上体をもたれさせて、眠りこけている人物、それはキリトだった。

(―――あ、あたし……、キリトさんの部屋で……そのまま………)

 昨夜の光景がまるで映像化されたかのように頭の中で再生された。シリカの部屋を訪れたキリト。そして夜だったけど、話したくって外に出ようとした。下着姿のまま……、それは何とか回避する事ができて、キリトの部屋に言って、色々と訊いて、 そして妙なトラブルも起きて、それで……。男の人の部屋で……。

「〜〜〜ッ/////」
 
 それを認識したその瞬間。
 その顔は……まるでドラゴンの火炎ブレスに炙られたかのように熱くなり、そして茹蛸のように真っ赤に染まった。部屋にはリュウキの姿は無い様だ。
 シリカには、もう1つ気がかりな事があった。それは、自分がこのベッドまでどうやって来たのかをどうしても思い出せない事だった。ミラージュ・スフィアは まだデーブルの上に残されており、シリカが座っていたのは、確かベッドの反対側だ。
 なのに、この場所でしっかりと毛布を掛けられていた事を考えると、どうやら……キリトかもしくはリュウキかが……シリカをベッドまで運んでくれた、としか考えられなかった。

 眠ったまま、動くなんて 夢遊病の様な、 それも ベッドにフラフラと行ける様な器用な真似は出来ないから。

 運んでくれて……、温かい毛布を譲ってくれて、その上キリトは、床での睡眠に甘んじた様で。

 シリカは、恥かしいやら申し訳ないやらで、両手で顔を覆って身悶えた。……数10秒を費やしてどうにか思考を落ち着けると、……シリカはそっとベッドから出て床に下りたった。
その時だ。

 突如、がちゃ、と言う音と共に、部屋の入口の扉が開いたのだ。

「〜〜〜っ/////」

 シリカは、思わず飛び上がりそうになった。キリトの寝顔を、そっと覗いていた体勢になっていたから。 そして、部屋に入ってきたその人物は。

「ん。おはよう。 シリカ」

 朝の挨拶を交わすリュウキだった。確かパーティ申請をしていて、設定をデフォルトのままにしてあると、自由に入ったりする事は出来るのだ。……リュウキの性格から考えたら、今を狙って入ってきた、とかは、ありえないだろう。

「りゅっ、リューキさんっ!!」

 シリカはあたふたしながら慌てていた。

「……ん? どうかしたのか? 顔が赤いぞ?」

 リュウキはシリカの顔を覗き込んでいた。その瞬間、シリカは見事なバックステップで後ろへ下がって間合いを取る。

「なななっ! なんでもないですよっ!」

 必死に言いながら、顔は真っ赤にしているが。

「……ん、みたいだな。大丈夫そうだ」

 リュウキは、シリカのその動きを見て、そう思っていた。絶好調の動きだ、とその反応速度から思えたのだ。
 それが、リュウキから見た結論だった。

(あ、あぅ……、やっぱり 疎いです。ものすごく……、リュウキさん……)

 この時、シリカは、改めてリュウキの事を理解した、このリュウキと言う人物がどういう人なのかを。きっと……ある意味では、自分よりも幼い感じがするのだ。

「……ん? 本当に大丈夫か?」
 
 何か挙動不審気味になっていたシリカを見て、リュウキの顔を覗き込む様に見て心配していたのを、シリカは気づいた。

「いえっ///なんでも……無いです! ほんとに大丈夫ですよっ」

 自分より少しだけ、歳上で……でも感性はきっとまだそんなにない。リュウキの事を直視するとシリカは顔が赤くなりそうだった。それだけ、彼の顔は綺麗で、とても凛々しくも見える。でも、幼くも見えてしまう。

 そして、自分の隣で眠っているキリトも、シリカは見た。その顔は、あどけなさが残る寝顔だった。


(――あたしって、……今 とても贅沢なパーティと一緒にいられているんじゃないかな……?)


 シリカは、そうも思えていた。これまでこんな人達とパーティを組んだ事など一度もない。数少ない女性SAOユーザーの女性にとって、多分だけど、とても贅沢な人達だと言う事をシリカは直感した。

 それは、正しいのだと言う事は、後に完全に判明するのである。


 そしてその後。


 キリトも目を覚ました。
 それもシリカにとって不意打ち?みたいなものだった為、また、飛び上がるかのように驚いてしまっていた。
 そして、シリカは改めて昨日の事の礼を2人に言っていた。昨夜は、シリカの考えのとおりだったようだ。キリトがベッドを譲ってくれた。そしてリュウキが、安心出来る様に一晩見ていてくれた。警戒をしてくれていたんだ。シリカは礼を何度も言っても自分にとっては足りなかった。そんなシリカをわかっていてか、キリトもリュウキも微笑んでいた。最後には……皆が顔を見せ合って笑い合い、少し遅れて互いに朝の挨拶を言っていた。

 そして1階へ降り、47層≪思い出の丘≫挑戦に向けてしっかりと朝食を摂ってから表の通りに出てみると。

 朝日が、陽光が街を包んでいた。

 これから冒険に出かける昼型プレイヤーと、逆に深夜の狩りから戻ってきた夜型のプレイヤーが対照的な表情で行き交っている。宿屋の隣で必要な消耗品を購入し、3人は転移門広場へと向かった。シリカにとって幸いだったのが、朝早かった事で、いつもの勧誘組には出会わずに転移門へと到着する事ができ事だった。今のこのパーティでいる時間を大切にしたいから、昨日の様な事はごめんだったのだ。

 そして、青く光る転送空間に飛び込もうとして、シリカははたと足を止める。

「あっ……あたし、47層の町の名前、知らないや………」

 恥ずかしそうに頭を掻くシリカ。慌ててマップを呼び出して、確認しようとした時だ、キリトが右手を差し出してきた。

「いいよ。オレが指定するから」

 それを訊いて、シリカは恐縮し、少し照れながら キリトのその手を握った。

「………」

 この時リュウキは 少し2人から離れていた。
 腕を組んでいたから……自分から手を繋ぐ事は無いのだろう。これも多分、いや 間違いなく、恥かしいのだと、シリカは思った。
 女の子だから、そう言う心の機微はよく判るんだ。でもきっと、そう聞いても、リュウキは否定するとも思えた。

 だから、ここで取る行動は1つしかないと、シリカは判断する。

 シリカは、キリトの方を見て そして、リュウキの方を次に見て手を差し出した。キリトが自分にしてくれた様に。

「リュウキさんっ!」

 シリカはあいた方の手をリュウキのほうに伸ばしたのだ。その表情は弾けんばかりの笑顔だ。……もう、言葉に出さなくても判る。

『一緒に行きましょうっ!』

 シリカのその表情を見ているだけで、そう伝わってくるのだ。

「…………。ああ、判った」

 リュウキは、言われた最初こそ、少し戸惑っていたが。その伸ばされた手を掴んだのだった。
 

 シリカは、握った事を実感しながら考える。
リュウキのその手は、やっぱり思った通りあまり大きくない。どういえば良いのか、そう、手に馴染む感じがするのだ。

(―――……キリトさんの手の方は……自分にはいないけれどお兄ちゃん……? リュウキさんは……、とても失礼だと思うけど、何だかお友達、違う、かな。……とても頼れる幼馴染……? みたいな感じ。……でも素直じゃなくて……えへ……なんだか、良いなぁ……)

 シリカは、幸せを噛みしめる様に笑っていた。

「……おい、早くしろ。キリト」

 リュウキは、シリカの言うとおり、恥ずかしい様なので、手を握りつつ、キリトに催促をしていた。それを訊いたリュウキは、軽く手を振ると。

「OKOK」

キリトは、少し苦笑いし、頷くと。指定する街の名を転移門を起動する為に答えた。


「転移! フローリア!」


 そのキリトの声と同時に眩い光が視界の中に広がり、3人を覆い包んだ。
転移の光と3人の暖かさに包まれ……シリカは、この2人と共に、ピナを救う為に、まだ足を踏み入れてすらいない、47層へと向かったのだった。
 
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