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機動6課副部隊長の憂鬱な日々

作者:hyuki
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外伝
外伝1:フェイト編
  第7話:過去に向き合うということ


3人が研究所を出ると、ヒルベルトとA分隊の数人がゲオルグ達を待ち構えていた。

「おっ、出てきたな」

「ヒルベルトさん? なんでこんなところにいるんですか?」

手に腰を当てて立っているヒルベルトを見つけたゲオルグが声をかけると、
ヒルベルトはわずかに眉間にしわを寄せて口を開く。

「お前らが突入したきり全然連絡を寄越さないし、ようやく出てきたと思ったら
 お前ら3人は出てこないから、ミュンツァー隊長に言われて
 俺が出迎えに来たんだよ」

「えっ!? 僕は連絡入れましたよ」

「本当か? じゃあ、通信に問題があったのかもしれないな。
 とにかく、シャングリラにはお前らの状況がリアルタイムでは伝わって
 なかったらしい。さっき、ルッツ曹長が艦長と隊長に説明してたぞ」

「そうですか・・・。 じゃあ、すぐにでも連絡を入れないといけませんね」

「そうだな。 そうしたほうがいいと思うぞ」

ヒルベルトとの話を終え、ゲオルグはシャングリラへ通信を繋ぐ。
最初はオペレータの女性が画面に現れたが、すぐに厳しい表情の
ミュンツァーが現れた。

『おい、シュミット! 突入したら適宜連絡入れろ!』

「すいません。 連絡は入れたつもりだったんですが、通信不良だったみたいです」

『それはルッツから聞いた。 だが、通信不良なら伝令を出すなりなんなりで
 連絡を確保せんか』

「通信が通じていないこと自体に気づいていませんでした。 すいません」

『なっ!』

ミュンツァーは今にも怒鳴りだしそうな顔で拳を震わせていたが、
しばらくするとフッと表情を和らげる。

『まあ過ぎたことをとやかく言っても仕方あるまい。
 お前も反省しているようだからこれくらいにしておくが、
 今後は連絡の確保に努めるように。いいな?』

「はい。 わかっています」

『よろしい。 では艦に戻すからな』

ゲオルグが頷くとシャングリラへの転送が始まり、数瞬後には転送装置室に
ゲオルグたちが立っていた。

「ふぅ。 無事に終わってよかったですね」

安堵の息をもらしながらゲオルグがそう言うと、クリーグが頷いた。

「そうですね。 結構ハードな戦闘もありましたけど、怪我人も出さずに
 すみましたし」
 
「まったくだ。 ま、連絡不徹底の不届きな分隊長も居たけどな」

クリーグに続いてヒルベルトはそう言いながらゲオルグの頭を
わしゃわしゃとかき回す。
ヒルベルトの行為に機嫌を急降下させたゲオルグは、唇を尖らせてヒルベルトに
鋭い視線を向ける。

「それについては反省してるって言ったじゃないですか」

「その言葉はさっきも聞いたけど、お前ってそれについては前科持ちだからなぁ」

ニヤッと笑いながら冗談めかして言うヒルベルトであったが、
言われた方は冗談とは受け取らなかった。
ヒルベルトが言い終わるや否や、ゲオルグの顔はスッと青ざめその眼からは
色が失われる。

「そう・・・ですよね」

ゲオルグは小さな声でそう言うと肩を落としてうつむく。

「分隊長?」

そんなゲオルグの様子に、隣に立っていたクリーグが気付いた。

「分隊長! ヒルベルト2尉は冗談で言っただけですよ。
 別に分隊長の過去を責めてるわけじゃないですから」

「ええ、わかってますよ・・・」

そう言って小さく頷くゲオルグであったが、その言葉とは裏腹に
肩を落としたまま部屋の出口へと歩いていく。
ゲオルグが扉の前に立ったとき、不意に扉が開いた。

「ヒルベルトとシュミットとハラオウンは・・・っと」

部屋に入ろうとしたミュンツァーは扉の側に立っていたゲオルグと出くわし
衝突を回避するべくたたらを踏む。
そんなミュンツァーに気付いているのかいないのか、ゲオルグはミュンツァーの
脇を抜けて部屋を後にしようとする。

「ちょっと待て。 研究所で何があったか訊きたいから会議室まで来い」

ミュンツァーがそう言ってゲオルグの肩をつかむと、ゲオルグは足を止めた。

「・・・すいません。 少しだけ休ませてください」

ゲオルグは小さくそう言うと、ミュンツァーの手を払いのけて自室のほうへと
歩いて行った。
残されたミュンツァーは唖然としてその背中を見送ると、
部屋の中に居る他の3人の顔を順番に見た。
ヒルベルトは苦々しい表情をし、フェイトは驚きで目を丸くし、
クリーグは肩を落としていた。

「何があった、ハラオウン?」

「事情がよくわからないんですけど・・・」

フェイトは困惑したようにそう言うと、ついさっきあったヒルベルトと
ゲオルグのやり取りをミュンツァーに話しはじめた。
フェイトの話を聞いている最中、徐々にミュンツァーの表情が厳しくなる。
フェイトが話し終えると、ミュンツァーは大きくため息をついてから
ヒルベルトの方へ顔を向けた。

「ヒルベルト。 お前がウチに来た時にゲオルグの過去については話したはずだな。
 そしてこうも言ったはずだ。”アイツの過去を茶化すのはやめろ”とな。
 忘れたとは言わせんぞ」

「覚えてますよ。 すいません、つい・・・」

「つい、で済むか。 ったく、余計なことしやがって」

「すいません」

ヒルベルトはそう言ってミュンツァーに向かって深く頭を下げる。

「頭を下げる相手が違うだろ」

「・・・すぐ謝ってきます」

「今はそっとしておいたほうがいいと思いますけどね。
 俺が思うに、今ヒルベルト2尉が行くのは逆効果では?」

クリーグの言葉にミュンツァーが頷く。

「俺も同感だな。シュミットが自分で言ってたように、少し休ませれば
 すぐ元に戻ると思う。 謝るのはそれからにしとけ」

「了解です」

ヒルベルトはそう言って頷いた。

「あの・・・、ゲオルグの過去ってなんですか?
 ゲオルグの過去に何かあるんですか?」

フェイトが首を傾げながら尋ねると、ミュンツァーは渋い顔で頷いた。

「私にも教えてもらえませんか?」

フェイトがそう言うと、ミュンツァーはしばらく悩んだ末に頷いた。

「いいだろう。 だが、この話はゲオルグの前に限らずあまりするなよ」

ミュンツァーはそう言うと、ゲオルグの初任務について話し始めた。
ミュンツァーが話し終えると、フェイトは辛そうな表情を浮かべていた。

「そんなことがあったんですか。 それで納得しました・・・。
 ゲオルグはまだその失敗を引きずってるんですね」

「まあな。 普段仕事をしてると忘れがちなんだが、あいつはまだ
 普通なら現役士官はおろか、訓練校にも入れない歳なんだ。
 それであんな経験をしたんだから引きずるのも無理はないと思うね、俺は。
 お前も思うところがあるんじゃないのか、ハラオウン?」

「ええ、まあ・・・。
 でも、10代前半で士官って管理局では結構居ますよね。
 ゲオルグが特別ってわけじゃないと思うんですけど・・・」

フェイトはミュンツァーの意見に納得できないのか、難しい顔をして食い下がる。

「まあな。 だがそれが普通ってわけじゃない。
 多感な時期に生と死の間にいるってのは、あまりいいことではないと思う」

ミュンツァーはそう言うと、大きくひとつ息を吐いた。

「まあ、それは置いておいてだ。 現地で何があったのか聞かせてもらおうか」

ミュンツァーの言葉にヒルベルトは頷いたが、フェイトは首を横に振る。

「すいません、少ししたら行きます」

そう言ってフェイトはゲオルグが歩み去った方に向かって足早に歩いて行った。





その頃、ゲオルグは自室のベッドにうつぶせに倒れこんでいた。
ベッドの周囲には制服や下着がだらしなく脱ぎ捨てられている。

(うぅ・・・痛いところをつかれたから逃げ出すなんて・・・カッコ悪ぅ)

全裸で枕に顔をうずめたゲオルグは自己嫌悪に陥っていた。
ベッドに敷かれた白いシーツはゲオルグが部屋に戻ってすぐに浴びたシャワーの
湯を吸って濡れる。

(やっぱり、まだダメなのかな・・・)

枕から顔を上げたゲオルグは机の上に置かれた写真に目を向ける。
濡れた金髪がその額に張り付いていた。

(情けないな・・・)

大きなため息をつくと、ポフッと再び枕にその顔をうずめる。
そのとき、部屋の中に来客を告げる電子音が鳴った。

(誰だろ?)

ゲオルグはゆっくりと身を起こすと、シャツとショートパンツを着て、
覚束ない足取りで扉に向かう。
扉を開けようとパネルに手を伸ばしたとき、扉の向こうから声が届いた。

「ゲオルグ。起きてる?」

扉越しでくぐもってはいたが、その声の持ち主が誰かゲオルグは即座に理解した。

「フェイトさんか。 もちろん起きてるよ」

ゲオルグは扉に向かってそう言うと、パネルに触れた。
扉が開かれ、黒い制服を着たフェイトの姿がゲオルグの目の前に現れる。

「あっ、ゲオルグ・・・」

ゲオルグが素直に出てくるとは思っていなかったフェイトは
あっさりと顔を見せたゲオルグに狼狽する。

「あの・・・ゲオルグ。 ちょっと話、いいかな?」

「いいよ。入る?」

「いいの?」

「もちろん」

ゲオルグはフェイトを自分の部屋へと招き入れ、椅子を勧める。
フェイトが小さく頷いて椅子に腰をおろしてから、ゲオルグはベッドに腰掛けた。

「それで、話って?」

「うん・・・あのね・・・」

フェイトはそう言うと話しづらそうに口ごもっていたが、
やがて意を決して口を開く。

「さっきね、ミュンツァー隊長から1年前のことを聞いたんだ」

フェイトの言葉を聞き、ゲオルグは表情を引き攣らせる。

「1年前のことって・・・」

「ゲオルグの初めての任務のこと」

「そっか・・・」

俯いたゲオルグは小さくそう言うと、肩を落とす。

「呆れたでしょ。 あれだけの人を死なせておいて自分だけは
 のうのうと分隊長の座に居座ってるなんて」

ゲオルグは自嘲めいた笑みを浮かべる。
そんなゲオルグに向かってフェイトは首を振った。

「そんなことないよ。 ゲオルグはすごく頑張ってると思う」

「いいよ・・そんな慰めは」

「慰めなんかじゃないって。
 今回の救出作戦だってちゃんと分隊全員を無傷で帰還させられたでしょ。
 もちろんみんなががんばったのも大きいけど、ゲオルグが冷静に指揮したからこそ
 全員が無事に帰ってこられたんだと思うよ」

フェイトは拳を握り、力の入った口調で言う。
だが、ゲオルグは力なく首を横に振った。

「でも、結局僕は同じミスをしちゃったし・・・」

ゲオルグが小さな声でそう言うと、フェイトは悲しそうな目でゲオルグを見る。
そして、意を決したように手を握りなおすと、ゆっくりと口を開いた。

「私ね、少し前に犯罪者として管理局に追われてたんだ」

「えっ!?」

思いがけないフェイトの言葉にゲオルグは絶句する。

「ゲオルグは知らない? PT事件って」

「知ってるけど・・・まさか!?」

「うん。 私ね、あの事件に関わってたんだ。 起こした側で」

「そんな・・・ウソでしょ?」

驚きで目を見開くゲオルグに向かってフェイトは首を横に振った。

「嘘じゃないよ。ホントのこと」

そう言ってフェイトは自分がPT事件になぜ、どう関わったのか。
そして自身の生まれについて話し始めた。
フェイトが話している間、ゲオルグは身じろぎもせずフェイトの話す
一言一言に聞き入っていた。

「・・・って感じかな」

フェイトが話を終えてもゲオルグはベッドに腰を下ろしたまま、
身動きひとつすることもできなかった。
それだけフェイトの話したことに圧倒されていた。

「・・・なんで?」

ゲオルグは顔を上げると、呟くような声を上げた。

「なんで僕にそんなことを話してくれたの?」

ゲオルグにそう尋ねられたフェイトは微笑を浮かべていた。

「隊長からゲオルグの話を聞いちゃったからかな。
 あと、ゲオルグに私のことを知って欲しかったから」

「フェイトさんのことを?」

「うん」

ゲオルグの問いにフェイトは頷きを返す。

「私も事件のあとしばらくはいろいろ考えちゃったから、
 ゲオルグが前の失敗を引きずっちゃう気持ちがよく判るんだ。
 だから、ゲオルグは一人じゃないんだよって伝えたくて」

フェイトの言葉を聞いたゲオルグはハッと顔を上げた。
その前には変わらず微笑を浮かべるフェイトの顔があった。

(いつまでも前のことで悩んでても仕方ない・・・か)

「そっか・・・。ありがとう、フェイトさん」

そう言ったゲオルグの顔にはかすかに笑みが浮かんでいた。

「これからはもうちょっと前向きにいろんなことを考えるようにするよ」

「うん、それがいいよ」

ゲオルグの言葉にフェイトは笑顔で頷いた。

「じゃあ、ミュンツァー隊長が呼んでるから行こうよ」

ゲオルグはフェイトの言葉に頷いてベッドから立ち上がったが、
自分の格好を見て我に返った。

「ゴメン、フェイトさん。 制服に着替えるから先に行ってて」

「あ・・・うん。 じゃあ、先に行ってるね」

フェイトは顔を少し赤らめてゲオルグに背を向けると、扉に足を向けた。
扉を開けようとした時、フェイトは思い出したように口を開く。

「そういえば、もうひとつ言っておきたいことがあるんだった」

「ん、何?」

ゲオルグがフェイトの背に向かって問いかけると、フェイトは背を向けたまま
答える。

「私のことは、フェイトって呼んでほしいな」

「え? 今までだってフェイトさんのことはそう呼んできたでしょ?」

ゲオルグが首を傾げてそう言うと、フェイトは首だけで振り返ると首を振る。

「だから、フェイトさんじゃなくて ”フェイト”って呼んで欲しいんだ」

「わかったよ、フェイト」

ゲオルグがそう呼びかけると、フェイトはにっこり笑ってから部屋を出た。





部屋着から制服に着替えたゲオルグが会議室に入ると、
ミュンツァー・ヒルベルト・フェイトの3人が待っていた。

ゲオルグはヒルベルトとフェイトの間にある空いた席に座ると、
正面に座っているミュンツァーに向かって頭を下げた。

「お待たせしてすいませんでした」

「いや、いい。 もう大丈夫か?」

ミュンツァーが心配そうな顔で尋ねると、ゲオルグは小さく頷いた。

「はい、大丈夫です」

「そうか・・・。なら本題に入ろうか」

ミュンツァーはそう言うと、テーブルの上に組んだ両手の肘をつく。

「中で何があったのか教えてくれ」

「中で何があったのか・・・ですか?」

ゲオルグが首を傾げて尋ね返すと、ミュンツァーは小さく頷く。

「そうだ。 まあ、戦闘についてはルッツから聞いているから、
 お前らがあの中で何を見つけたのか・・・だな」

ゲオルグはどう答えたものか迷い、隣に座るフェイトの方に目を向けた。
フェイトもゲオルグの方に目線を向けていたので、ゲオルグと目が合った。

[どうしようか、フェイト]

[ゲオルグの方から話してよ]

[わかった]

念話での短い会話を終えた二人はお互いに小さく頷き合うと、
揃ってミュンツァーのほうに目を向けた。

「研究区画の奥で2人の女性を救出したあとに、僕とフェイトは別れて
 調査をしたので、まずは僕の方から話しますね」

ゲオルグはそう言うと一度咳払いをして部屋の中にいる3人の顔を見まわした。

「僕の方は僕らを襲ってきた猛獣の方が気になったので、そっちを調べてました」

「猛獣を? 何が気になったんだ?」

隣に座ったヒルベルトに尋ねられ、ゲオルグはそちらに顔を向けた。

「ヒルベルトさんは半年くらい前の任務のことを覚えてますか?」

ゲオルグが尋ねると、ヒルベルトは宙に視線をさまよわせる。

「半年前? っていうと、あれか? 生物兵器の開発をやってた・・・」

「そうです。 僕たちB分隊が巨大な狼の化け物と戦ったあれですよ」

「おお、覚えてる。 だが、それがどうしたんだ?」

ヒルベルトはそんな話をゲオルグが切り出した理由が判らず、
首を傾げながらゲオルグに尋ねる。

「今回僕らが戦った猛獣の額にも似たようなものが埋め込まれてました。
 レーベンに簡単な分析をさせたところ、今回のは前とは違って
 魔力が封じられたもののようですけどね」

「前とは違うとはどういう意味だ? 俺の認識ではあの時のヤツも
 魔力が封じられたものだったと思うんだが」

ゲオルグの答えに疑問を持ったミュンツァーは眉間にしわを寄せ
自分の記憶を探りながらゲオルグに尋ねる。

「前のは魔力素の高密度結晶体です。今回のは何らかの石みたいなものに
 魔力を封じたものですよ。 似てますけど別物です」

ゲオルグがそう言うと、ミュンツァーとヒルベルトはそれぞれになるほどと
呟きながら何度も頷いていた。
だが、フェイトは2人とは対照的に厳しい表情でうつむきがちにしていた。
そんなフェイトの様子に気がついたゲオルグがその肩を軽くつつくと、
フェイトは肩をビクッと震わせながら、バッとゲオルグのほうへ勢いよく
顔を向けた。

「どうしたの、フェイト?」

「どうしたって?」

「なんか怖い顔してたから、どうしたのかなと思って。
 何かあった?」

「私、そんなに怖い顔してた?」

きょとんとしたフェイトがわずかに首を傾げながら尋ねると、
ゲオルグはこくんと頷いた。

「うん。 眉毛の間にこんなしわが寄ってたよ」

ゲオルグが指で自身の眉間にしわをつくりながらそう言うと
フェイトは口をへの字に曲げて俯いた。

「・・・ゴメン」

「いや、別に謝るようなことじゃないと思うけど・・・」

「そうだな」

声のした方にゲオルグが顔を向けると、腕組みをしたミュンツァーが
フェイトのほうに目を向けていた。

「それよりも俺はお前が中で何を見つけてきたのかに興味があるな。
 そんな表情になる理由がそこにあるんだろう、ハラオウン?」

低く抑えられた声で問われ、フェイトはパッと顔を上げた。
なぜ判ったのか、そんな驚きとともにその両目が見開かれる。
フェイトの様子からその考えを察したミュンツァーは
苦笑しながら小さく肩をすくめた。

「・・・はい」

小さく、そして短く答えたフェイトは椅子に深く腰かけなおすと、
固く組んだ両手をテーブルの上に乗せると、何度か大きく深呼吸する。

「ゲオルグと別れたあと、私は研究区画の奥に進んで研究記録がないか
 探したんです」

フェイトは押し殺した声で話し始めた。
その顔は無表情でその眼にはどこまでも感情が感じられない。
 
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