Tales Of The Abyss 〜Another story〜
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#15 ジェイドの疑念
それは、エンゲーブの村に来た日の夜の事。
村の宿屋でゆっくりしてた時、ジェイドが難しい表情でアルを見ていた。そして、口を開く。どうやら、アルと話をしたかった事、それを今する様だ。あまり、いい話題ではない事は、アルはその表情を見て判った。
「……単刀直入に聞きましょう。貴方は記憶が無いといっていましたが、ならばあの譜術は一体何なのですか?」
ジェイドは様子は、明らかに昼間の時と違った。目を鋭くさせて、偽証を見抜くと言わんばかりに見て、そして聞いてきた。
アルは、少し困惑をしてしまう。
「ええ……っと…… 何? とて言われても、オレには記憶がないから……はっきりと答えは……」
アルは、困惑だけじゃなく、ジェイドの雰囲気が突然変わった事で、少し引きながら言うが、それを訊いたジェイドは首を左右に振った。
「それは、おかしいですね……。あなたの知識の全ては、アクゼリュスの町での学習。つまりは、全て教本によるものだと、聞いています。本人にも そして、貴方の家族にも訊いて、裏はとれてます。 ……ですが、あれ程の譜術が記載されている教本は、まずありません。 習った、と言う事も有りえません。あの町、アクゼリュスにあれだけの譜術を扱える人もいませんからね。……なのに貴方は完全に使いこなしていましたよ? 単に学習をした、だけでは到底身に付けられるものではありません。 それが、たった数週間の期間となれば尚更です」
ジェイドは、更に疑いの眼差しを向けながら聞く。警戒も、しているようだ。 話をする始めの時はアルの事を、イオンも少し庇ってくれてるみたいだけど。アルは、観念したように話す事を決めた。
別に、隠すつもりは全く無かったんだけど、これを話して、信じてもらえる訳が無い、と思っていたから話さなかった、話すのを躊躇していたんだ。
(正直に言おう……。信じてくれるかどうかはわかんないけど……。)
だから、これまでの事を2人に話した。(因みに、アニスは女性なんで別部屋です)
あの時、頭に響いてきた≪声≫の存在についてを。そして、自分に力を与えたのはその≪声≫の影響だという事を。
全てを話して、2人は暫く黙っていた。やはり、信じられない。と言われるかとアルは思っていた。
「俄かには信じがたい話ですが……、あなたが嘘を言っている様にも思えません。……貴方については いろいろと調べてはみましたが…… やはり何も分かりませんでした。あの日、アクゼリュス周辺で事故等がなかったかも調べましたが、何も報告はありませんでした」
「そうですね。 ジェイド、僕も彼は、アルは嘘をついているようには見えません。嘘をつく様にも見えませんよ」
2人の話を聞いていると、アルの表情も綻んだ。信じてもらえる訳ない、と強く思っていたから。
(よかった……。2人とも信じてくれた。普通なら信じられないような事なのに。それに……やっぱり嬉しい。信じてくれてるって言ってくれるのは)
アルは、心の中からほっとしていた様だ。そして、特にイオンには感謝をしていた。
この時ジェイドは、別の事も同時に考えていた。
(過去が無い…… まさかとは思いますが、 同位体複写技術を流用して……? いや あれは、生物に対しては禁止されてる禁忌の術のはずですし。おいそれと流用出来る代物でもありません。……万が一、彼と瓜二つの人物でもいたら…… その線もありますが…… その時は考えないといけません……ね)
ジェイドは、そのまま険しい、難しそうな顔をして考え込んでいた。
「ん……? やっぱり何か不満だった? ジェイド。……悪いんだけど、オレも判らないんだ。それに、正直言えば、オレの方が知りたいくらいだよ」
アルは、ジェイドの顔を見て、少し不安になった為聞いてみた。だが。
「いえ、そんな事はありません。……少し考え事をしていただけです。それに、貴方の事は町の…… アクゼリュスの人達に、しっかりと頼まれましたからね。 ですから、面倒はしっかりと見ないといけません。約束を反故にするのは軍人として有るまじき行為ですから」
ジェイドに…… 笑いながら言われた。
(面倒って…… オレ、歳下だけど……そんなに子供じゃないよ)
アルはそう思っていた。……でも、この世界について、アルの知識は殆ど無いに等しい。後付の知識だから、と言うこともあるだろう。そして、実際に見た事無い物もたくさんある。だから、面倒を見る、と言う言葉には引っかかるモノがあるが……、ありがたくも思えていた。
そんな時、イオンが話す。
「それに、僕は貴方の言う、頭の中に響く《声》、そしてその内容が気になりますね……。 聖なる焔…… そして解放……ですか」
今度はイオンが何やら難しい表情をして考え込んでいた。だけど、アルも気になった。イオンの言葉を訊いて。
「あれ!? イオン、ひょっとして……言葉の意味がわかるの?」
アルも、それは知りたい内容だ。言葉の意味すら判らないから、酷く困惑してしまうのだ。
「いえ…… ちょっと確信がもてないんです……。思わせぶりな事を言ってしまって、すみません……」
イオンはそう言っていたけど、やっぱり表情が険しい。その表情から、安易に話をしたら不味い事なのだろうか? とアルは思った。
だから、とりあえず。
「うん。判ったよ。なら……確信がもてれば……よろしく頼めるかな?」
そう返した。
イオンは、アルの表情から、気を遣わさせてる、と感じた様だ。
「はい、すみません……。確信でき次第、お話します」
「あ、そんな顔しないで? ……うん。オレ、期待して待ってるから。遅くなってもOKだからね。期間なんて、設けないし」
アルは笑顔でイオンにそう伝えた。イオンも、それを訊いて、何とか笑顔に戻ってくれた。
そして、ジェイドはと言うと。
「まあ、イオン様が確信がもてないのに、それをアルに無闇に話しても更に混乱するだけの可能性がありますからね~~。そう考えても、私も後の方が良いと思いますよ?アル」
ジェイドは……、はっはっはーっ と、凄い笑顔で笑って言っていた。何処か、悪意(笑)を感じる笑顔だ。
(ジェイドは……何か知ってるみたいだ……。絶対)
今度はアルが、ジェイドに疑念、疑惑の視線を向けていたけれど、そんな視線も軽くいなされた。
そして、明日は早い、と言う理由から、その日の話しはそこまでで、と言う事で終了したのだった。
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