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ローエングリン

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2部分:第一幕その二


第一幕その二

「次にフリードリヒ=フォン=テルラムント伯爵よ」
「はい」
 あの黒い男が一歩前に出て来た。
「卿の申し出だが」
「お話して宜しいでしょうか」
「よい」
 彼に対してこう告げた。
「申してみよ。その話を」
「はい。あれは実に不思議なことでした」
 テルラムントは一礼してから話をはじめた。
「先のブラバント公爵がなくなられた時」
「あの時か」
「そう、あの時だな」
 ブラバントの者達がここで顔を見合わせてひそひそと話をする。
「私は生前公爵より公爵の御息女であるエルザ様と御子息であるゴッドフリート様の後見を頼まれました。これは陛下も御承知ですね」
「それはな」
 王もまた彼の言葉に頷いてみせてきた。
「聞いている。都にも届出があった」
「その通りです。ですがある日のことです」
「ある日!?」
「何があったのだ」
 王の側近達がテルラムントの言葉に声をあげる。
「ゴッドフリート様が何処かへと御姿を消されました」
「御姿を」
「またそれは面妖な」
「まず申し上げておきます」
 ここでテルラムントはまた言った。
「私は殿下を探しました。ですが見つからず」
「むむむ」
「何故か」
「何故いなくなったのだ」
「調べているうちに。一つのことがわかったのです」
 沈痛な顔での言葉ではあった。
「その時殿下の御側におられたのは」
「誰だったのだ?」
「エルザ様お一人でした」
 ここで一同とは少し離れた場所に立っている白い、白鳥や百合を思わせる服を着た美女を見た。さらりとした豊かな金髪は黄金の光を放ち青い目は何処までも澄んでいて湖を思わせる。白い顔は清らかで聖女を思わせる美貌をたたえその身体は細く華奢である。しかしその顔は憂いに満ち沈んでいた。不思議な顔をした美女だった。
「こちらにおられるエルザ様だけでした」
「!?それではだ」
「エルザ公女が」
「それは私にもわかりません」
 テルラムントはこれは前置きしてきた。
「ですが」
「ですが?」
「私はゴッドフリート様をお探ししブラバント公爵から与えられたエルザ様への求婚の権利も放棄し」
 執拗なまでに己の潔白を言い募っていた。
「このオルトルートを妻としました」
 今度は傍らに立つその黒い女に顔をやって述べた。
「フリースランド公爵、ラートボート家の娘です」
「ラートボート家?」
「確かかつてはヴォータンを信じていた」
「だがそれはもう昔のことだな」
「そうだな」
 このことはすぐに消えた。そしてまたテルラムントの話になった。
「それでです」
「むっ!?」
「何だ?」
 皆またテルラムントの話を聞く。
「私はエルザ様を弟君失踪の件に関して訴えます。公女様は何らかの形で関わっておられると思われます」
「まさか」
「そんな筈は」
 ブラバントの者達がそれを否定する。
「確かに伯爵はブラバント家の縁者でもあられるし」
「公爵位の継承権も持っておられる御方」
 血筋は確かである。この時代は血筋が絶対であった。
「それにオルトルート様もこの地に縁深い家の方」
「だがそれでも」
「訴えるというのだな」
「そうです」
 テルラムントは王に対しても毅然として答えた。
 
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