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海堂蒼蓮がISの世界にinしました。

作者:月下美人
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第一話「海堂蒼蓮が異世界にinしました」

 
前書き

 ヒロイン登場です。シャルにすべきか楯無にすべきか、結構迷いました。 

 


 血塗れの人が倒れていた。


 なんの心構えもすることなく日課の散歩をしていた日のことだ。唐突の事態と遭遇した。


 私は毎朝、新鮮な空気を吸いながら緑に囲まれた山を散歩するのが最近の日課となっている。


 というのも、入院している母と面談するにはまだまだ時間が掛かるから、その間の暇つぶしが切っ掛けだった。


 けれど、小鳥たちの声を聞きながら緑に囲まれた山の中を散策するのは思っていた以上に心をリフレッシュしてくれる。これは嬉しい誤算だった。


 その日から私の散歩は暇つぶしではなく日課となった。


 今日も新鮮な空気で肺胞を満たしながら軽い足取りで塗装された道を歩く。同い年の子たちより意外と健脚な私は息を切らせることなく山頂へと向かった。


「ん~! いい気持ちー!」


 山頂から街並みを見回しながら大きく伸びをする。私が育った街を一望できるこの場所が一番のお気に入りだ。


 この場所はまだ誰も教えていない。いつか母が退院したらここへ案内してあげてランチをするのが、今の小さな夢。元気な母と一緒に食べるご飯は格別だろうなぁ~、とその情景を思い描きながら顔を綻ばせる。


 飽きることなく街並みを見下ろしていた私だけど、ふと違和感を感じた。


 ――なにか、いつもと違う……?


 なんだろう? と首を傾げるが、すぐにその答えに至った。


 ――鳥たちの声が聞こえない……?


 この時間帯はいつも小鳥のさえずりが聞こえる。それが聞こえない日などはこれまでなかった。


 鳥たちだけではない。いつもは見かけるリスなど、小動物の気配が一切しない。


 ――ただの偶然かな?


 再度首を傾げる。あまり懸念する事項でもないし、ちょっとおかしいかなと思う程度のことだ。


 こんな日もあるよね、と一人納得し頷いた時だった。そよ風に乗って錆びた鉄のような臭いがしたのは。


 ――この臭いは……血っ?


 辺りを見回してみるけど特に異常はない。しかし血と思われる臭いは濃度を高める一方で、とてもではないが何もないとは思えなかった。


「こっち、かな……」


 血の臭いがする方向に誘われるように近づく。


 茂みを掻き分けながら少し歩くと――。


「えっ……!?」


 気に寄り掛かるようにして倒れている人の姿があった。


 ボロボロの見覚えのない服――確か雑誌には日本の民族衣装の和服、だったと思う――を着た黒髪の男性だ。


 意識が無いのかぐったりと肢体を投げ出している。俯き加減のため顔は見えないけど、周囲の地面には彼の血で所々朱に染めている。


 まるで死んでいるかのよう――。


 そこまで思い至って、私は慌てて彼の側に駆け寄り脈をとった。


「――よかった、生きてる!」


 弱々しいが確かな脈動を返している。


 ――新しく買ったワンピースが彼の血で汚れちゃうけど、今は人命第一!


 急いで病院に運ぶため、彼を背負い山を降りる。まるで男性が覆いかぶさっているかのような格好だけど、これは身長差があるため仕方ない。


 よろよろとした覚束ない足取りで、私は一歩一歩大地を踏みしめるように歩き出した。





   †                    †                    †





 ゆらゆらと揺れる感覚に意識が徐々に浮上する。


 嗅ぎ覚えのない匂いが鼻孔を擽る。なにかの花だろうか? 心を和らがせるような心地よい匂いだ。


 ゆらゆら、ゆらゆら。


 ――待て、俺はいま、どういう状況にいる……? そもそも、俺になにがあった?


 記憶を手繰る。脳みそに刻み込まれている記憶の中で最も新しいものといえば――。


 ――ああ、そうだ。確か、リプナールに一杯食わされて、それで……それで?


 だめだ、この先は思い出せない。恐らくあの穴に落ちたところで意識を失ったのだろう。俺としたことが、なんという失態を……っ。


 取りあえずアイツ、再び顔を合わせたら今度は因果の彼方までぶっ飛ばしてやる!


 ――それはさておき、俺は今どういう状況にいる? ……んで、このゆらゆらはなんぞ?


 気だるい目蓋を意志の力でこじ開ける。


 視界に映ったのは――眩いばかりの黄金だった。


「……だれぞ?」


「――っ! 気が付いた?」


 黄金が振り返る。


 黄金は……どうやら髪の色らしい。変わった色だ。大和の民にしては見慣れない顔つきをしている。


「きみ、酷い怪我なんだよ! いま病院に連れて行くから、もう少しの辛抱だからね!」


「……びょーいん?」


 聞き慣れない単語が飛ぶが、少女は俺の身体を心配してくれているらしい。必死の形相――とまではいかないが、切羽詰った気配を見せている。


 その、びょーいんとやらは誰か知らんが、恐らく薬師かなにかか……。


 自分の身体を見下ろそうとして、身体が動かないことに気が付いた。ついでに俺が少女に背負われているということにも遅まきながら気が付く。


 ――取りあえず、この状況は大和男児として受け入れがたい……。


「……少女よ、疾く降ろせ」


「なにを言ってるのっ、そんなの出来るわけないよ! 早く病院に連れていかないと!」


「そのびょーいんが誰だか知らんが、俺なら大丈夫だ。疾く降ろせ」


 再度重ねて言うが、少女は頑固として頷かなかった。俺の言にここまで頑なに拒むとは……ここまでの気骨を見せる若者がまだいるとは。正直、驚いた。


 昨今の大和の民は俺の言に忠実――悪く言えば異を挟まんからつまらんのだ。どいつもこいつも腰を低くして頭を下げる。まるで神に対するかのような対応だ。俺も大和の民だと言うのに嘆かわしいものだ……。


 それに比べてこの少女はどうだ? 見た目からして齢八かそこらか……。まだ幼いながらもしっかりと己の意志を持っている。それはこの目を見れば一目瞭然だ。


 天皇も最近は俺に媚びへつらうのに、まったく……少しはこの少女を見習ってほしいものだ。大和の民として誇らしいぞ。


 ――この者の名なら覚えてもよいだろう。


「……少女よ、名はなんと申す?」


「私? 私の名前はシャルロット・オルレアンだよ!」


「しゃ、しゃるろーと? ……随分と変わった名だな」


「むー、変わった名前だなんて失礼だよ! そういう君はなんていうの?」


 ふむ、確かに初対面でこの言は礼を失するな。礼なぞ俺にとっては取るに足らんが、この少女にたいする言ではないのは確か。


「あい、すまぬ。俺の名は――」


 この出会いが、後の因果の輪を狂わせるとは、この時の俺は思ってもみなかった。


「……蒼蓮。海堂蒼蓮だ」


 ――取りあえず、しゃるろーとよ。薬師はいいからどこか休める場所に案内してはくれぬか? えっ、ダメ?

 
 

 
後書き
 と、いうことで。幼少シャルちゃんの登場です!

 私は原作キャラの中でシャルが一番好きです!

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