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真剣で武神の姉に恋しなさい!

作者:炎狼
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箱根 前編

 
前書き
箱根旅行の回です

ではどうぞー 

 
 旅行に行く当日、朝早くから風間ファミリーの面々はそろって駅に集合し、電車に乗り込んだ。乗り込んですぐ、翔一は眠ってしまった。それに千李が疑問の声を上げた、本来の翔一なら旅行の道中でも騒ぎそうなものなので疑問に思ったのだろう。すると大和が、

「どうやらキャップ、待ちきれなくなって昨日前日入りしたらしくてさ、それで疲れてるみたいなんだ」

「なるほどね、翔一らしいといえばらしいけど……でも前日入りって」

 寝言を言いながら眠っている翔一を、若干呆れ顔で見つめる千李。不意にその千李の腕に寄りかかってくる感触が伝わった、彼女がそちらを見ると瑠奈が寝息をたてて眠ってしまっていた。千李は微笑を浮かべると、持参したタオルケットを瑠奈が起きないように優しくかけた。

 それを見ていた大和が千李に聞いた。

「瑠奈、疲れてるの?」

「んー、たぶんそうじゃないわね。昨日楽しみで遅くまで起きてたから、寝不足でしょうね」

「なるほど、まぁこのくらいの歳の子はみんなそうかもね」

「それはそれとして、百代は何処に行ったの?さっきから姿が見えないけど」

 千李が聞くと場の皆が、一つのところを指差した。そちらに目を向けると、大学生ぐらいの女性達と戯れている百代の姿が見受けられた。

 その姿を見つけた千李は思わずジト目になってしまうが、一息ため息をつくと席に座りなおした。いつものことなので何か言う気にもならなかったのだろう。

「アイツはもう放っておいたほうがいいわね、めんどくさいし」

 呆れ顔で言う千李にその場にいた皆が激しく同意した。



 そのようなことがありながらも、千李たちは箱根に到着した。瑠奈はついた瞬間目を覚ましたが、翔一はまだ眠ったままだった。瑠奈は初めての旅行にテンションがあがっていた。

 千李たちは旅館に行くためバスに乗ろうとしたが、唐突に一子が告げた。

「あたしは、旅館まで走っていくわ!てことで勝負よクリ!!」

「おもしろい、そこまで言うなら付き合うとしよう!」

 勝負をけしかけられたクリスも割りと乗り気で、勝負に参加することになったようだ。だがそこで瑠奈が手を上げた。

「私もしょうぶするー!」

 皆がその言葉に耳を疑った、旅館までは車で30分らしいが人が走っていくとなると、おそらく一時間近くかそれ以上かかるだろう。しかも瑠奈はまだ六歳だ、そんな子が山道を登る気になるなんて思わなかったのだろう。

 だがその保護者である千李は少しだけ笑うと、

「じゃあ、瑠奈がんばってね。お母さんはバスで行くけどいい?」

「うん!だいじょうぶ!」

「何かあったらこの携帯で大和のところに電話してね」

 千李は言うと、ポケットから携帯を取り出し瑠奈に手渡した。軽く頭をなでると千李は踵を返しバスに乗り込んだ。

 皆は驚いていたが、バスに乗り込んでいった。バスが発車ししばらくすると、由紀江がなかなかの剣幕で千李に詰め寄った。

「大丈夫なんですか瑠奈さんは!?あんなに小さいのに……」

「大丈夫よまゆっち、瑠奈自身が勝負したいって言ってんだからあの子の気持ちをくんでやらないとね。それにそんな柔な鍛え方してないわよ瑠奈は」

 心配そうな由紀江とは裏腹に、千李はそれを笑って返す。それだけ瑠奈を信じているのだろう、千李の目にはわが子に対する、絶対の自信が宿っていた。

 百代もそれを見ると小さく笑った。

「ま、確かに姉さんの言うとおりだな。実際瑠奈の体力はかなりのもんだし、ワン子にだって引けをとらないだろうさ、場合によっては三人の中で一番最初に到着するかもな」

 軽めに言っているように見えるが、百代も瑠奈を信じているのだろう。

 そしておよそ30分後、くねくねとした山道をバスが走り、目的地の旅館に到着した。旅館に到着しても、翔一はずっと眠っていて時折株がどーのこーの、と寝言を言っていたが目覚める様子はなかった。

 リーダーが不在のため、千李が指揮をとることとなった。

「普通は百代じゃないの?」

「双子だけど姉さんの方がしっかりしてるからな、というわけでよろしく頼む」

「はいはい、んじゃ風呂は入りたくなったら入りなさい。まだ三人が来てないから旅館敷地からは出ないこと、それ以外は好きに行動しなさい」

 それだけ告げると、皆思い思いの行動をとり始めた。千李はというと、旅館のロビーで1人椅子に座り、本を読んでいた。するとそこへ大和がやってきた。

「千李姉さん」

「おー大和どうかした?」

「ちょっとね、今ワン子たちが何処にいるかとかわかる?」

「ええ、すこし待ってなさい……」

 それだけ言うと、千李は読んでいた本をテーブルに置き、目を閉じると

「今あの三人は山の中腹あたりかしらね、順番は……お、一子とクリスが同列一番で瑠奈が少し遅れてるわね」

「ワン子とクリスはまぁそうだけど、それに食いついてる瑠奈も凄いね……やっぱり鍛え方が凄いの?」

「鍛え方自体は一子と変わらないけど、瑠奈が前いたとこは湘南だからね、夏場は毎日海で泳いでたみたい。だから体の基礎は出来上がってるのよ、体力も元からあったしね」

 説明する千李はなかなか嬉しそうだ、妹の一子もかわいいのだろうが、愛娘である瑠奈が弾場っているのが嬉しいのだろう。

「実際瑠奈の強さってどんなもんなの?」

「実戦経験が段違いだから、そりゃあ一子のほうが強いわよ」

「やっぱり実戦って役に立つもんなの?」」

「ええ、実戦は強くなるためには必要不可欠なのよ」

 大和がそれに頷いていると、千李が、だけどと付け加えた。

「度が過ぎるとさすがにいけないけどね」

 その言葉はさながら自身が過去にやってしまったことを後悔しているような口ぶりだった。

 すると、旅館の扉が勢いよく開け放たれた。

「よっし!私が一番ね!」

 一番で飛び込んできたのは一子だった、そしてそのすぐ後にクリスが到着。そして最後、一子たちから十分ほど遅れて瑠奈が飛び込んできた。

 さすがに疲れたのか倒れこみそうになる瑠奈を、千李は優しく抱きとめる。

「はい、お疲れさん」

 いたわりの言葉をかけ、千李はそのまま瑠奈を抱っこして部屋に戻って行った。




 夜になり、皆で温泉に入ることとなった。瑠奈は初めての温泉に目を輝かせさっさと服を脱ぎ捨てると、一子と共に温泉に飛び込んでいった。

 そして女子全員が露天風呂に集まると、自然と皆の視線が千李の胸に集まった。

「なによ、お前ら」

「いやー……なんというかなぁ……?」

「うん、すっごい……」

 百代は一子に首をかしげながら、一子はただただ頷きながら、

「やはり……大きい……」

「……ゴクリ」

 クリスは何かブツブツとつぶやいているし、由紀江は息を呑んでいた。あたりには静寂が流れるが、そこで瑠奈がポツリとつぶやいた。

「お母さんの胸おっきー……」

「ああ、そういうことね」

 瑠奈のつぶやきに、なぜ他の皆が自分を凝視しているのかがわかった千李は微笑を浮かべる。すると百代が聞いてきた。

「ね、姉さん。胸何センチだ?」

「今は確か……100だったかしらね」

 その声に女子達は唖然とするが、隣の男湯の方でもバシャバシャという水音が聞こえた。千李はそれを聞いて鼻で笑うと、

「覗いたりしたら殺すわよー、私達じゃなくてもねー」

 とてもいい笑顔で言い放つ千李の声には、優しさもあったが中に本気の脅しが混じっていた。それ以降男湯の方からはめっきり静かになった。

「たくっ……エロガキ共め」

 溜息交じりに千李は言うが、その顔は若干笑っていた。



 場所は変わって男湯。

 先ほど本当に小声で覗きをするということを話していた、岳人だが千李の優しくもあり、そして恐ろしくもある声を聞いた後岳人は一気に縮み上がった。

「や、やべぇよ!あの声絶対本気だったろ!?」

「ああ、アレはもしやったら確実に地獄を見るな……」

 むさくるしいまでに集まる男達はただただ、千李の声に震え上がるしかなかった。



 
 温泉から上がり、夕食を終えると、瑠奈はさすがに眠くなったのか先に眠りについてしまった、小さい子供が山を駆け上がったのだから疲れるのは仕方ないことだろう。

「さて、ちょっと私は出かけてくるわ。みんな瑠奈よろしくね」

「ああ、いいけど。大丈夫か?瑠奈この前姉さんがいなくて大泣きしてたじゃないか」

「その辺は大丈夫。アレから瑠奈は私がいなくても泣かなくなったから」

「へー、そんなもんか」

 あっさり納得知るのを見終わると、千李は部屋のふすまを空け皆に言った。

「一時間もしないうちに帰ってくるから、なんかほしいものとかある?」

 千李が聞くとそれぞれがほしいものをメモに書き、千李に渡した。

「んじゃいってきまーす」

 軽めに声をかけ、千李は部屋を後にした。

 部屋を後にした千李は旅館の外にでると、湘南に行ったときと同じように跳び立った。



 しばらくして千李はあるところに着地した。そこは所謂森の中だった。

「さて……大体この辺なんだけど……ん?」

 あたりを見回す千李は、真っ暗闇の中ある一点に目を向けると声をかけた。

「そこにいるんでしょ?隠れてないででてきたら?」

 そう告げると、千李が声をかけたところから、何かが出てくる気配がした。すると先ほどまで曇っていた空の雲がはけ、月が出始めた。

 月が出たことにより、その何かが月明かりに照らされ全容が明らかになってきた。そこにいたのは1人の女性だった。

 女性の髪は燃え盛っている炎のように赤く、瞳も何かを睨んでいるかのように吊りあがっていた。しかし右目には眼帯をつけており、一般人とはかけ離れた風貌だ。服装も一般人と違い所謂軍服というものに身を包んでいた。

「久しぶりですね千李」

 女性はよく通る、凛とした声で千李に声をかける。千李も微笑みながらそれに答えた。

「ええ、久しぶりねマルギッテ、半年振りかしらね?」

 マルギッテと呼ばれた人物はただ頷いた。この女性の本名はマルギッテ・エーベルバッハ、千李がドイツ軍に所属していた時、仲良くしていた人物である。クリスとは姉と妹のような関係と同じくらい親しくしている。またクリスの父であるフランク中将もマルギッテには一目置いている。

 マルギッテは千李の問いに静かに答える。

「はい、およそそれぐらいかと。ですがよくわかりましたね、いつからわかっていましたか?」

「川神からずっとね、それに昼ぐらいにここら辺を私の気で索敵したからね。そん時に完全に場所がわかったってわけよ」

 近場の木に背を預けながら、千李はマルギッテに告げた。マルギッテもそれを聞くと納得したように頷く。

「なるほど、そういうことだったのですか。確かに貴女は軍にいたときはそのようなことをしていましたね」

「そうね、……で、今回も中将の命令?」

「ええ、中将からお嬢様の様子を見て来るように仰せ付かったので」

「やっぱりね……、マルギッテその任務は私が引き継ぐからお前は帰っていいわよ」

「なっ!?」

 嘆息気味で言う千李の言葉にマルギッテは驚きの声を上げると共に反論した。

「何を言っているのですか千李!これは私達が任された任務です、あなたの出る幕ではないでしょう。それに中将にもなんと報告すればいいか……」

「あー……それもそうねー。じゃあこれだけ約束してくれないかしら?」

 先ほどの提案を撤回し、千李は再度提案する。

「なんでしょうか?」

「明日私達は川原で遊ぶことになってるのよ、その時監視するのであれば、半径500メートル圏内に近づかないこと、それ以上近づくと百代のレーダーに感知されるのよ。そうなるとあの百代のことだから確実にお前達に喧嘩を売りに行くでしょうね。部隊を全滅させたくないのであれば近づかないこと、いいわね?」

「わかりました、ではそのように中将にも伝えておきます」

 渋々といった様子だったがマルギッテは頷いた。実際のところ百代はマルギッテたちを索敵すれば間違いなく殲滅しにかかるだろう。だがそんなことをすれば面倒くさいことこの上ないのは千李はわかっていた。だからこそのこの提案だ。

「その口ぶりからすると中将も来るわけね……」

「はい、明日の早朝に到着すると聞いています」

「なるほどね、まぁいいわ。じゃあさっきのことちゃんと伝えておいてね」

「わかりました……千李!」

 旅館に戻るため、千李が踵を返したところでマルギッテが声をかけた。千李が振り返ると、

「また、手合わせを願えますか?」

「勿論、いつでも受けて立つわ」

 千李はそれだけ返すと、来た時と同じように跳び立った。その姿はすぐに見えなくなり夜の闇の中へ溶けていった。

 


 翌日、当初の予定通り皆で川で遊ぶことになり、一応千李は周りを索敵したところ、当初の500メートル以上のところにマルギッテたちがいることを確認できた。

 ……まぁアレだけ離れてれば百代も気付かないでしょうね、百代の感知レーダーは常時300から500くらいでしょうしね。

 現に百代は本当に気付いてないらしく、先ほどから由紀江たちと戯れていた。京と一子は鍛錬に出たようだが、そこまで離れてはいないらしい。

 その後も何事もないように見えたのだが、どうやらクリスと大和がまたひと悶着起こしたらしい。どうやら互いのことについてまだ、完全に馴染めないようだ。だがそこで大和がクリスに自分のことを認めさせるため決闘を申し込んだ。

 決闘システムは学園以外でも発生するのが川神の生徒だ。クリス自身も決闘を了承した。2人の様子に瑠奈が千李服の袖を引っ張り聞いた。

「またみんなけんかするの?」

 その目は少しだけ潤んでいた、おそらく双方共に仲良くしてもらいたいのだろう。千李は瑠奈の目線までしゃがむと、頭を撫でながら、

「大丈夫よ、今度は喧嘩じゃなくて決闘、だから喧嘩にはならないから安心しなさい瑠奈」

「けっとうって昨日みたいな?」

「ええ、そうね昨日みたいなやつよ」

「そっか!ならへいきだね!!」

 快活な笑顔を浮かべる瑠奈は、先ほどまでの涙目が嘘のようだった。

 結局その後クリスと大和は喧嘩こそしなかったものの、闘争本能むき出しでいた。




 その日の夜、近くに宿泊している女子大生の風呂を覗きに行くため、部屋から出ていった大和と岳人、及び百代を千李は確認すると、三人が露天風呂に辿り着く前に拘束し厳しい折檻をしたのは言うまでもない。

 ちなみにその内容は、三人を川の水に飛び込ませたりなどである。

 そして翌日、大和が部屋で一際大きなくしゃみをしたのは当たり前のことだった。 
 

 
後書き
以上です。

箱根のところは次の話で終わりにします。

次が書き終われば、その次からはオリジナルストーリーを書こうと思ってます。

感想、アドバイス、ダメだしお待ちしております。 
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