| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

困った天才

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

第五章

「前に言ってたわ」
「そうだったよね、だからね」
「それでなの」
「清子ちゃんがお空を飛べる様にねってね」 
 そう思って造ったというのだ。
「それでどうかな」
「それで入院までして」
「あんなの大したことないよ」
「大したことあるわよ」
 入院だからだ、それが大したことではない筈がないというのだ。
「入院よ」
「いや、僕にとっては大したことがないから」
「そうなの」
「とにかく、これでお空を飛べたよね」 
 こう言うのである。
「どうかな、気持ちは」
「嬉しいわ」
 満面の笑顔での言葉だった。
「有り難うね」
「僕こういうことしか出来ないけれど」
 一太郎はここでは寂しい顔になった。
「発明とかしかね」
「それが凄いと思うけれど」
「凄くないよ、だって今まで僕の発明って皆に怒られてばかりだったんだよ」 
 この学園でもだ、一太郎はとにかくその発明で騒動を起こしてきた。しかし清子はその彼にだというのだ。
「付き合ってくれてよね」
「ううん、まあね」
「迷惑してるのはわかってるよ」
 それもわかっていたというのだ、一太郎自身も。
「それでもね、僕と一緒にいれくれる娘ってはじめてだから」
「だからなの」
「こうしたの造ってみたんだ」
 空を飛べるものをだというのだ。
「じゃあ楽しんでね」
「ええ、それじゃあ」
「これからも造るから」
 一太郎は笑顔で清子に言った。
「楽しみにしていてね」
「あっ、それはちょっとね」
「ちょっとって?」
「もっと騒ぎにならないのを造って」
 清子は少し苦笑いになってそのうえで一太郎に答えた。
「もっとね」
「あっ、やっぱり迷惑なんだ」
「迷惑っていうかね」
 清子は空を飛びながら難しい顔で言う、この辺りの感情は複雑だ。
「まあ程々のを造ってね」
「ううん、清子ちゃんが言うのならね
「頼むわね、一太郎君の私への気持ちはわかるから」
 それはとだ、清子は一太郎に応えながら話していく。
「気を付けてね」
「ええ」
 こうした話をしてだった、二人は共に空を飛んだ。
 それからだった、一太郎はというと。
 少しだけ大人しくなった、それはこの日清子の前に持って来たものもだった。
 見ればそれは瓶である、一本の小さな瓶だ。
「これ造ってみたんだ」
「これ何なの?」
「うん、これを飲んだら髪の毛が綺麗になってね」
「髪の毛を綺麗にしてくれるの」
「うん、だからね」
 それでだというのだ。
「飲んでみて」
「私の為に作ってくれたのね」
「うん、飲んでくれるかな」
 こう言ったのである。
「清子ちゃんの髪の毛の為にね」
「わかったよ、じゃあね」
 こう話してそうしてだった。
 清子はその薬を受け取った、一太郎はその彼女に言う。
「これからは。清子ちゃんの言う通りにね」
「そうしてくれるのね」
「大人しいものを造るからね、それも清子ちゃんの為に」
 明るい顔での言葉だった、そう話してだ。
 一太郎はそれからは清子の為に大人しいものを発明していった、困った天才は清子の言葉でかなり大人しくなった、困ったという程ではなくなったのだった。


困った天才   完


                   2013・5・20 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧