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ファルスタッフ

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第三幕その七


第三幕その七

「どうした?」
「もう一組いいかしら」
 見れば彼女の後ろにそのもう一組がいる。青いヴェールを全身に被った乙女らしきものとまた修道僧である。これまた奇妙なカップルだった。
「この二人も」
「ああ、いいぞ」
 にこやかに笑って妻の言葉に答える。
「喜びが倍になる。いいことだ」
「宜しいのですね」
「男に二言はない」
 取り返しのつかない言葉だった。
「さあ、それでは神がそなた達を結び付けて下さる」
「今こそ仮面を」
「どうぞ」
 皆口々に二組のカップルに言う。
「ヴェールを外して」
「さあ」
 実際にヴェールと仮面を外すと。何と一方はカイウスとバルドルフォ、そしてもう一方はナンネッタとフェントンであった。それを見たフォードとカイウスの驚くこと。
「な、何っ!?」
「これは一体!」
「暫し待たれよ一方は」
「男同士は流石に」
「できませんよ」
 皆腹を抱えて言う。その中でフォードもカイウスも呆然としている。
「どういうことなんだ」
「何故こんなことに」
「しかも」
 フォードはここでもう一組のカップルを見る。それは。
「娘とフェントン君が」
「見事に決まったわね」
「そうね」
 女房達がはしゃいでいる。状況証拠以上のものだった。
「そういうことだったのか」
「あなた」
 その主犯が満面の笑みで夫に声をかけてきたしてやったりといった顔だった。
「人は自分の罠にかかることもありましてよ」
「それが今の私か」
「そういうことよ」
「ううむ」
「さて、フォードさん」
 してやられたフォードが唸る顔をしているとファルスタッフがにこやかに笑って出て来た。そのうえで彼に語ってきた。
「今回やられたのは誰ですかな」
「私だと仰りたいのですな」
「左様」
 その笑みで彼に告げる。
「貴方です。そして」
「そして?」
「貴方も」
 ファルスタッフはカイウスも指差して言った。
「見事にしてやられましたな」
「貴方もですが」
「わしは平気なので」
 流石はファルスタッフだった。
「もう気にはしておりません。何故なら」
「何故なら?」
「御覧なされ」
 今度はフェントンとナンネッタを指差している。二人は仲良く抱き合いにこにことしている。それを見て彼もまたにこにことしているのだった。
「己がしてやられても他人の幸福を見られればそれで心が安らぐ性質でしてな」
「左様ですか」
「そうですぞ」
「そうだな」
 フォードもそれに納得した。
「人間は生きていると多少のごたごたは避けられないがそれに甘んじるものだ」
「何ごとも受け入れなければなりませんぞ」
 またファルスタッフが言う。
「それが人生」
「そうですな。それに」
 フォードは娘とその恋人を見る。そのうえでまた述べた。
「娘は幸せになれたし私も新しい家族を手に入れることになる。これは幸福だな」
「他人の幸福は自分の幸福」
 ファルスタッフはまた言う。
 
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