季節の変わり目
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合格祝い2
それから合格祝いの会は三時間ほど続き、テーブルの上は食べ散らかしたお菓子でいっぱいだった。そしてアルコールを休まず飲み続けていた門脇は、奈瀬に言い寄り鉄拳を食らわされた。
「・・・ダウンしちゃったな、門脇さん」
そこにいる誰もが、いや奈瀬を除く誰もが憐みの目を門脇に向けた。
「うーん、奈瀬ちゃんもっとお・・・」
門脇は畳に寝っ転がって奈瀬との夢を見ているようだ。ダウンしてもなお、にやけ顔ですけべな言葉を連発する門脇に奈瀬はもう一発食らわせる。
「おい、奈瀬、それはちょっとやりすぎじゃ・・・」
苦い顔をして奈瀬を落ち着かせようとする和谷の言葉も効かず、奈瀬はつんと横を向く。
「さすが門脇さん。やるね」
「越智っ」
一人冷静にお茶をすする越智。奈瀬の怒りを再び駆り立てそうな言動を本田が制止する。
「こんのエロじじいっ。全く、こんなやつ誰が呼んだのよお」
怒り狂う奈瀬に和谷は思わず俯く。もちろん奈瀬も和谷が企画した会だと知っていたが。
「じじいはないだろ、じじいは」
ここは本田に任せてみんな新しい会話に入っていく。
「そういや新初段シリーズ誰に当たるだろーな」
「小宮は芹澤先生好きだったろ?」
「だけどこっちから指名はできないしなー」
実は小宮は芹澤先生のファンだった。前から芹澤の棋譜を見て勉強したり、時間があるときは対局を観戦したりもしていた。
「でも前に進藤の新初段シリーズ、塔矢先生が指名してきたから、夢じゃないぜ」
和谷の一言に小宮は「確かに」と頷くが、そんなことあるわけないと首を垂れた。
「それにしても何であの時進藤が指名されたんだ?」
「俺にもよく分かんないけど、塔矢関係だと思う」
塔矢に勝ってからずっと目つけられてたしな。伊角はそれで納得したらしく、「なるほどな」と頷いた。
「しっかし進藤、あの時一手目に20分かけたもんな。あれにはびっくりしたぜ」
「僕たち、まだ対局が始まってないのかと思ってたよ」
和谷と越智の言葉にヒカルはたじたじになって「緊張してたんだよ」と返した。それと同時に懐かしさが舞ってくる。佐為と塔矢先生の対局、か。
「まあそうだろうな。結果はぼろ負けだったし」
「うるせー」
「私は緒方先生がいいなあ」
本田に一通り愚痴り終わった奈瀬が入ってきて、みんな首をかしげた。
「奈瀬、緒方先生ファンだったっけ」
「だってかっこいいじゃない、緒方先生っ」
ヒカルは「趣味わりー」と心の中でぼやいた。そして今まで畳にダウンしていた門脇がいきなり起き上がって奈瀬に抱きついた。奈瀬はバランスを崩して岡の膝に倒れる。
「奈瀬ちゃん、緒方先生みたいなのが好きなのか!?待っててくれー、俺も緒方先生みたいに・・・」
「きゃあー、誰か、助けてよー」
岡は目の前で繰り広げられる痴態にどうしようもなく、言葉を失っていた。そんな岡を避難させて伊角が傍に置く。
「岡、あんまり気にするなよ。酒が入ったらみんなああなるんだから」
そんな伊角の慰めは逆効果で、岡の大人への恐怖心が生まれていった。奈瀬は門脇に体全体を抱かれていて身動きが取れない状態だ。和谷と本田の力を結集して門脇に挑んでいく。
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