MASTER GEAR ~転生すると伝説のエースパイロット!?~
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016
基地を出動してからしばらくして、ハジメ達が乗るリンドブルムは、ゴーレムか出現した地点から五十キロ程離れた空域に辿り着いた。
「ようやく着きましたね」
ブリッジで艦長席に座るハジメが呟く。
今のリンドブルムのブリッジは以前のような何もない殺風景な空間ではなく、艦長席と副長席、操縦席にオペレーター席と簡略化しているが艦のブリッジといえるものになっていた。もちろんこれらの設備は全てハジメがリンドブルムに命令して出させたものである。
「それでソルダさん。戦闘の方はどうなっていますか?」
「はっ。今から十分程前に航空部隊とゴーレムとの戦いが始まったようです。航空部隊は空戦用アンダーギア『ロックバード』が十六機で、現在は互角の戦いを行っている様子です」
オペレーター席に座るソルダが五十キロ先の戦況を報告し、それを聞いてハジメが驚く。
「六倍以上の戦力と互角ですか? 凄いですね」
「いえ、航空部隊が凄いというよりも、ただ単に敵のゴーレムが射撃武器を持ってないだけでしょう」
仮面の奥で驚いた顔をするハジメだったが、彼の後ろで専用席に座るファムが冷静に指摘する。
(射撃武器を持ってない? ……そういえばゲームのマスターギアでもそうだった気が……)
ゲームのマスターギアのゴーレムも、下位のゴーレムは遠距離戦の手段を持っておらず、格闘戦のみだったのをハジメは思い出す。その代わり上位のゴーレムは『これは反則だろう!?』と言いたくなるくらい、強力で優秀な射撃武器を使うの敵ばかりだったが……。
恐らく航空部隊が互角にゴーレムと戦えているのは、遠距離戦の手段を持たないゴーレムに射撃武器で攻撃を仕掛けているからだろう。
「……しかしそれもいつまでも続かないでしょう」
ハジメの横で副長席に座っていたコロネル大佐が苦い顔で言う。
「確かに射撃武器で戦う航空部隊は無傷ですが、ゴーレムの方も一体も倒されずにいる。距離を活かして攻撃出来ている今はいいですが、ゴーレムに距離を詰められるとすぐに航空部隊は不利となるでしょう」
「……それもそうですね。それじゃあ、そろそろ僕も出撃します。フィーユさん、リンドブルムをここで停めてください。シヤン大尉はリンドブルムの留守をお願いします」
「はい。分かりました」
「ちっ、仕方がねぇな」
ハジメはフィーユとエイストに短く命令すると、すぐにブリッジのすぐ後ろにある第一格納庫に行き、そこに格納されているサイクロプスに乗り込んだ。
「さてと……これが軍人としての初仕事だ。やるよ、僕。サイクロプス、イレブン・ブレット! 発進するよ!」
『………!』
コックピット内のハジメの言葉に呼応するようにサイクロプスのカメラアイに光が宿り、神話の巨人のように動き出したサイクロプスは第一格納庫の天井にあるハッチから大空へと飛び出した。
『しかしイレブン少将、よろしいのですか? まだここは戦闘空域から五十キロ程離れています。もう少しリンドブルムで近づいてから出撃なさった方がよかったのでは?』
「いえ、ここでいいんですよ。僕とサイクロプスだったらこの距離からでも戦闘に参加できます」
リンドブルムから出撃してすぐにソルダからの通信が入ってきたが、ハジメはそう答えるとサイクロプスに命令をだした。
「サイクロプス。『ヒッポグリフ』分離」
『………!』
ハジメの命令すると同時にサイクロプスの背中にあった翼、飛行ユニット「ヒッポグリフ」が機体から分離した。そしてヒッポグリフが横に倒れて空中に停止すると、その上に狙撃モードとなったサイクロプスが立ってビームライフル「ヘラクレス」を構えた。
「機体安定、ロックオン完了。狙い撃つぜ! ……なんてね」
バシュン!
この世界で唯一自分だけが分かる冗談を引き金にしてヘラクレスから光の矢を放つと、ビームの閃光はまるで吸い込まれるかのように五十キロ先にいるゴーレムの一体に命中して、瞬く間にゴーレムの体を飲み込んで即座に消滅させた。
「スティールクラスのゴーレムを一撃で……。やっぱりゲームの時より威力が上がっているな。……これならすぐに終わりそうだな」
ハジメはコックピットの中でゴーレムの消滅を確認すると、拡大画面に映る全てのゴーレムに意識を集中してロックオンすると、サイクロプスにビームライフルの引き金を引くように命じる。
バシュン! バシュン! バシュン!
主の命令を受けた鋼鉄の巨人の銃から閃光しり、その度に五十キロ先の空でゴーレムが消滅していく。
バシュン! バシュン! バシュン!
『お、おい、ちょっと待てよ。お前……』
十数体のゴーレムを消滅させたところでコックピットにエイストからの通信が入ってきた。
「シヤン大尉? どうかしましたか?」
『どうかしましたか、じゃねーよ! お前、このまま射撃だけで戦うつもりかよ?』
「そのつもりですけど?」
バシュン! バシュン! バシュン!
エイストに答えながらもハジメは引き金を引く手を休めず、ゴーレムの撃破数は三十を超えた。
『そのつもりですけどって、お前……こういう場合、ヒーローの戦いってのは、こうガーッとやってズバーッとやるもんだろ? 普通?』
「? ……ああ、そういうことですか」
エイストが言いたいことは何となくだがハジメは理解できた。
アニメや漫画のヒーローの戦いは颯爽と戦場に現れて強大な戦力で敵を圧倒する派手なものだが、それに対してハジメとサイクロプスの戦いは遠くから淡々と敵を狙い撃つだけの地味なものだった。
エイストが抗議したくなる気持ちも分からなくもない。だが……、
「別にいいじゃないです? このまま狙い撃った方が安全だし、早く敵を倒せて航空部隊も助けられるんだし?」
これはハジメの正直な気持ちだった。
ゲームの対戦プレイならともかく、これは現実の戦いである。リセットが通用する遊びではなく、負けたら全てが終わる実戦。
前の世界で一度死んで「死」の恐ろしさを知ったハジメが、できるだけ危険の少なくて確実にゴーレムを倒せる戦い方を選ぶのは当然のことといえた。
バシュン! バシュン! バシュン!
「よし。これで五十体撃破。このまま……」
『イレブン少将。よろしいでしょうか?』
ゴーレムの半数を撃ち落としたところで今度はコロネル大佐からの通信が入ってきた。
「コロネル大佐?」
『その……シヤン大尉ではないのですが、上層部からの意向で、その……イレブン少将には友軍の注目を集めるように戦ってもらいたいのですが……』
「…………………………」
ためらいがちに言うコロネル大佐の言葉にハジメはしばし沈黙する。
「……スナイパーに前に出ろと?」
『……はい。その方が友軍の注目を得られますので』
「……サイクロプスは射撃武器しかないんですよ?」
『……それも分かっています。ですか上層部はイレブン少将とサイクロプスならば勝てるだろうと……』
「……シヤン大尉の言うようにガーッとやってズバーッとやればいいんですか?」
『え、ええ……』
「分かりました。これも任務ですからね……」
ハジメはそう言うとサイクロプスの背中に飛行ユニット「ヒッポグリフ」を戻して、全速力で戦闘空域に向かった。
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