トリスタンとイゾルデ
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第三幕その六
第三幕その六
「クルヴェナール。トリスタンは」
「答えるつもりはありませぬ」
眦を決してそのメーロトに告げた。
「決して」
「答えぬというのなら剣に訴えるが」
「それが王の御意志ですか?」
「そうしなければならないからだ」
彼はトリスタンの亡骸を見ていなかった。クルヴェナールの後ろにあって見えない。
「だからこそ。通らせてもらう」
「ならば・・・・・・!」
「うっ・・・・・・!」
二人は剣を交えたが決着は一瞬だった。既に死を覚悟しているクルヴェナールに勝る者は誰もいなかった。彼は一撃で倒されてしまった。
「王よ・・・・・・申し訳ありませぬ」
その場に崩れ落ち最後にトリスタンの亡骸を見た。
「トリスタン・・・・・・。そうかもう夜に」
これが彼の最後の言葉だった。最後にトリスタンを見て事切れた。
だがまだ騎士達はいる。クルヴェナールは彼等の中に飛び込み次々と切り伏せるのだった。
「トリスタン様の為に!」
彼は言う。
「ここは何としても・・・・・・!」
「クルヴェナール殿」
だがその彼にブランゲーネが言うのだった。
「貴方は戦ってはなりません」
「何故だ?」
「既に王は」
「王なぞ関係ない!」
彼にとっては既にそうであった。
「最早。私には」
騎士達を切り伏せ続け己も傷を負っていく。しかし彼はそれでも剣を振るい続ける。だがその彼の前にあの老人が姿を現わしたのだった。
「止めよ、猛き者よ」
「王が」
ブランゲーネが彼を見て言った。
「遂にこちらに」
「最早戦いはならん」
「私は死の世界にいます」
クルヴェナールは王を前にしてもこう言うだけだった。
「ですから。最早戦いは」
その中で傷を深くしていきやがて膝をついた。王は周りの者に彼の手当てを命じそのうえでブランゲーネに対して問うのであった。
「イゾルデは?」
「こちらに」
不安な声で問う王に己が抱き止めている彼女を見せた。
「おられます。御無事です」
「そうか」
王はそれを聞いてまずは安堵した。しかしであった。
さらに問うのだった。今度は先程より不安な顔で。
「トリスタンは」
「先に」
左右に来た者に手当てを受けているクルヴェナールが答えた。だがもう手遅れで倒れている彼は血に塗れていた。その息も絶え絶えになっている。
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