MASTER GEAR ~転生すると伝説のエースパイロット!?~
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012
ハジメとエイストとの模擬戦が終わってから数時間後。基地の通路を、軍服を着て頭に狐耳を生やした五十代ごろの男性、ベット・オレイユ宇宙軍情報部准将ルナール・バランが一人で歩いていた。
「……む?」
通路の曲がり角から女性の人影が現れてバランは足を止める。
「お待ちしておりました。御父様」
曲がり角から現れた女性、ファムはにこやかな笑みを浮かべて自分の父親であるバランに声をかける。
「ファムか……」
「はい。早速なのですが御父様、聞きたいことが……」
「あの少年、イレブン・ブレット少将のことならば軍に復帰させることが決定した」
娘の聞きたいことを予測していたバランは、ファムの言葉を遮って答える。
「ああ、やっぱり。あの噛ませ犬大尉がボコボコにされたのが効いたみたいですね」
噛ませ犬大尉とはハジメと戦ったエイストのことだ。さんざんハジメを挑発したあげくが何もできないまま秒殺され、サイクロプスの力を証明するだけの結果になったのだから、ファムがそう名付けるのも無理はないだろう。
「そうだ。性格に問題があるとはいえ、シヤン・エイスト大尉は我が軍のエースだ。それをああも一方的に倒したのだから、その力を認めないわけにはいかんだろう。……イレブン・ブレット少将には必ず軍に復帰してもらうよう、うまく説得しろ。できるな?」
ファムは笑みを崩さぬまま父親の視線を正面から受け止めて頷く。
「もちろんです。ですが御父様? 軍に復帰させると言いましたが、ただ復帰させるだけじゃないんですよね?」
「無論だ。イレブン・ブレット少将には実力があるが、軍規などの基本的な知識が欠けている。故に軍に復帰してもらうのと同時に士官学校に入学してもらうつもりだ。その際にはファム、お前は彼の専門医となって行動を共にできるように私と父上で手配しておいた」
ハジメの、イレブン・ブレット少将の専門医となれる。
それはファムが一番聞きたかった言葉で、それを聞いた彼女は思わず飛び上がって喜ぶ。
「本当ですか? ありがとうございます、御父様♪」
「せっかく近くにいられる立場にしてやったのだ。どんな手を使っても彼を、イレブン・ブレット少将をモノとしろ」
ファムの実家であるルナール家は、ベット・オレイユでも有数の名家である。もしファムが伝説の英雄であるイレブン・ブレット少将と結ばれたら、ルナール家の権力は揺るぎないものとなるだろう。
バランの言葉は家のために娘を道具のように使うと公言しているものなのだが、当のファムは嫌な顔をするどころか嬉々として頷く。
「はい♪ 言われるまでもなく絶対に逃がしません。強くて、お金持ちで、権力があって、でも何も知らないイケメンを自分好みに調きょ……もとい、教育できるなんて今から考えただけでも体のいろんなところがキュンキュンしちゃいます。……ふふっ、ふふふふふふっ!」
何やら外道なことを言って邪悪な笑みを浮かべるファム。だがバランはそんな娘を咎めることなく「抜かるなよ」とだけ言うと立ち去っていく。
……子が子なら、親も親である。
「……うっ!?」
ファムがバランと話していた時、リンドブルムに戻ろうとしていたハジメの背中に突然悪感が走った。
「ハジメさん?」
「どうしました? ハジメ殿?」
「い、いえ……。何だか今、言い様のない悪感が走って……」
フィーユとソルダに聞かれたハジメは警戒するように辺りを見回しながら答える。
「言い様のない悪感、ですか?」
「ええ、多分気のせいだと思うんですけど……。それよりソルダさん、ファムさんは?」
「ファムですか? 彼女でしたら誰かに会いに行くと言ってましたけど……気になりますか?」
フィーユに聞かれてハジメは首を傾げながら考えてながら口を開く。
「気になる、というか……ファムさんの姿が見えないと不安なんですよね。なんというか……僕のいないところで何か変なことをしている気がして……」
ハジメは何故か前世の友人の弾のことを思い出した。弾はしょっちゅうハジメのいないところで何かしらのトラブルを起こして、その度にハジメはそのとばっちりを受けていた。そして今もその時と同じ嫌な予感を感じているのだった。
「まあ、これも気のせいでしょうね。ファムさんがそんなことするはずがありませんし。ハハハハ……って、アレ?」
『……………』
不安をかき消そうと明るく笑うハジメだったが、フィーユとソルダは二人揃って冷や汗をかきながらハジメから目をそらしていた。
「あ、あの……? フィーユさん? ソルダさん? どうして二人とも目をそらすんですか?」
フィーユとソルダのただならぬ様子にハジメが尋ねるが、二人は何も答えようとせず重苦しい雰囲気がその場を支配した。
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