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魔法少女リリカルなのはStrikerS ~賢者の槍を持ちし者~

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Chapter19「青き星へ」


転送ポートを使い、ルドガー達は地球へと飛ぶ。転送の光が消え視界に最初に入ったのは太陽の光を反射して輝く湖と、緑豊かな自然。またそこには別荘らしき建物も立っており、差し詰め湖畔のコテージというイメージが一番似合っている。

「はい、到着です!」

「なるほど……いいトコだな地球」

リインが元気よく声を上げる。ミッドチルダで見て実際過ごしたルドガーであるが、リーゼ・マクシア以外の自然豊かな大地を見るのはやはりまだ少し驚いてしまう。

「わぁ~」

「ここが……」

「なのはさん達の…故郷…」

自然を見慣れているとはいえ、キャロやティアナ、スバルも目の前の幻想的な光景に目を奪われている。

「そうだよ。ミッドと殆ど変わらないでしょ?」

「空は青いし……太陽も一つだし」

「山と水と自然の匂いまそっくりです!」

「キュクル~」

「湖……綺麗です」

「うん」

ティアナとキャロ、エリオもこの景色について感想を言い、なのはがそれに答える。その会話の中ルドガーは岸部まで歩き、しゃがんで手で水の感触を確かめる。手が触れた瞬間、よく透き通る水面に映っていたルドガーの顔が波紋より消えてしまう。

「本当に綺麗な水だ。ここに生息する魚も逸品だろう……ふぅ、こういうところに来るとキジル海瀑を思いだすよ」

「そのキジル海瀑ってルドガーの世界にあるの?」

隣に来たフェイトがキジル海瀑について尋ねてくる。

「リーゼ・マクシア側にある独特な地形の瀑布で、沢山滝がある中にいくつか静かな水辺があって、よく魚も釣れるし、綺麗な貝もあって気分転換に持ってこいの場所だよ」

「へぇ……前々から思ってたんだけど、ルドガーのそう言う話しを聞いたらルドガーの世界に行ってみたくなってくるよ」

「気に入って貰えて嬉しいよ。けどいいトコなのは保証するが、あまり安全な場所は少ないぞ?」

「そうなの?」

「リーゼにもエレンにも共通して主に人が住む場所以外には魔物がはびこってて油断はできないし、キ
ジル海瀑はヤバイくらい強い魔物もいれば、岩に擬態して獲物を襲う魔物もいて、苦労したもんだ」

美しい物ほどトゲがある。まさにそれだ。特に分史世界だったとはいえ、カナンの道標の一つである『海瀑幻魔』と戦った時は、心身共に随分疲れたものだ。

「でもやっぱり行ってみたいな」

「後悔するかもだぞ?」

「フフ、大丈夫だよ。もし怖い魔物に襲われてもルドガーが守ってくれるからね……でしょ?」

「はは……信用されてるな俺は。まぁあまり変な期待はしないでくれよ?」

「もう、そこは男の子なんだから強気で言ってほしいよ」

「それは残念だったな。あいにくと俺はプレッシャーに弱い男でね」

冗談を言い、2人は笑い合う。

「と言うか……ここは具体的にどこなんでしょう?……なんか湖畔のコテージって感じですが」

「もしかしなくても、あの 建物が今回の待機所か何かなんじゃないか?」

「察しがいいですね。ルドガーさんの思ったとおり、あの別荘がリイン達の活動拠点になりますよ。これも現地の方が使用を快く承諾してくれたからですね!」

「…現地の方、ですか?」

ルドガーとティアナは揃って首を傾げる。現地協力者がいるのは、なのは達の故郷だけあって不思議でもないが、いったい誰が協力者なのか2人は考えているのだ。これだけの土地と見るからに金がかかってそうな建物から察するに、余程資金に恵まれた人物が協力者なのだろう。そんな事を考えていると、一台の車がルドガー達の方へと近づいてきていた。

「自動車?…こっちの世界にもあるんですね」

「あるんじゃないのか?俺の世界に車はなかったが、列車は腐る程走ってたし、文化レベルは高い方だったよ」

文化レベルBという下情報を確認しても、転送先がこんな自然に恵まれた場所であったら、技術的に劣っていると思うのも仕方ないのかもしれないが、それはそれで馬鹿にしている感じがしてあまり良い気がしない。車はルドガー達の近くに止まり、中から金髪ショートの女性が出て来て、なのはとフェイトのもとに駆け寄る。……この女性がなかなかの美人だと思った人物がいたのは気のせいではない。

「なのは!フェイト!」

「アリサちゃん!」

「アリサ!」

3人は嬉しそうに手を合わせ、会話を始める。

「なによも~ご無沙汰だったじゃない!」

「にゃはは…ごめんごめん!」

「色々忙しくって……」

アリサという女性に申し訳なさそうに話すなのはとフェイト。里帰りできないくらいの激務をこの歳でこなすなのは達は優秀なのだろう。

「アリサさ~ん、こんにちはでーす!」

「リイン、久しぶり!」

「はーいです~!」

ルドガーとフォワード達は完全にこの和やかな会話に置いていかれて、ポカーンとしてしまっていた。

「な、なぁ。取り敢えず説明を頼む」

このままではダメだと感じルドガーが声をかけ、そこでフェイトが気付き説明を始める。

「あっごめん……紹介するね。私となのは、はやての友達で、幼馴染」

「アリサ・バニングスです!よろしく!」

「やっぱり友達だったのか……俺はルドガー・ウィル・クルスニクだ。よろしく」

「ルドガーね?よろしく!」

ルドガーに続いてフォワード達も自己紹介を始める。

「そういえば、はやて達は?」

「別行動です。違う転送ポートから来るはずですので」

「多分…すずかのところに…」

アリサの質問にリインとフェイトが答える。

「すずかって…誰だ?」

「すずかちゃんはアリサちゃんと同じで、友達だよ」

すずかという人物が何者なのかなのはから説明を受け、協力者も身内の者ばかりだという事に、六課ほど動きやすい組織はまれだと、改めてわかった。聖王教会が六課にわさわざ任務を依頼したのはこういった事情だろうとルドガーは推測する。自己紹介が終わると、アリサに案内され一同はコテージの中に入り荷物類を置き、全員なのはの傍に集まる。

「さて…じゃあ、改めて今回の任務を簡単に説明するよ」

「「「「はい!」」」」

フォワード達が返事をし、なのはがモニターを表示する。

「捜索地域はここ、海鳴市の市内全域……反応があったのは、ここと、ここと……ここ」

「移動してるな」

「移動してますね」

モニターの対象が移動した事で反応が感知された場所を表している点滅を見てルドガーとティアナは声を出す。

「そう。誰かが持って移動しているのか……それとも独立してるのかは分からないけど……」

なのはに続いてフェイトも説明を始める。

「対象の危険性は?」

ルドガーは特に注視しなければならない点をなのはに問う。

「対象ロストロギアの危険性は、今のところ確認されてないよ」

「仮にレリックだったとしても、この世界は魔力保有者が滅多にいないから…暴走の危険はかなり薄いね」

だがそれでも用心に越した事はない。仮に本当に偶然で対象がレリックでこれまた偶然魔力保有者がそれに触れたら?……最悪、海鳴の地が火の海になりかねない。

「とは言え…相手はやっぱりロストロギア。何が起こるかもわからないし、場所も市街地…油断せずにしっかり捜索して行こう」

「了解だ」

ルドガーが懸念していた事をなのはが丁度その事で全員に念をおしルドガーは了承する。

「では、副隊長達には後で合流してもらうので……」

「先行して出発しちゃおう!」

「「「「はい!」」」」

フェイトとなのは、2人の隊長の指示でフォワード達は探索のため動き始める。スターズはなのはとリインで対象の捜索、ライトニングとフェイトは市内にサーチャーの設置という割り振りだ。だがここで一つ忘れている事があった。

「なぁ……俺ってどうすればいいんだ?」

「「あっ」」

そう。ルドガーの役割は何も決まってなかったのだ。このなのはとフェイトの反応から見て、どうやらすっかり忘れていたようだった。

「なるほど…全く考えてなかった訳だな?」

「や、やだなぁルドガー君、ちゃんと考えてたよ!ねっ?フェイトちゃん」

「ふぇ!?う、うん!ルドガーの役割もバッチリ決まってるよ!勿論?」

「…最後が疑問系になってなかったか?」

忘れていたのはまず間違いないのだが、誤魔化そうと必死な2人。挙げ句には、念話を使ってルドガーの役割の事で相談を始める。

「ルドガー君はライトニングとフェイト隊長と一緒に動いてもらおうと思ったたんだよ」

「これならスターズとライトニングの人数は均等だしね」

「へぇー何だちゃんと考えてたんだな」

「だから言ったでしょ?」

「ルドガーの事はちゃんと考えてたんだから」

「そうか…悪かったな。てっきり今、念話でどうするか話しあってんじゃないかと思ったけど違ったんだな」

「「………」」

うっ…鋭い!
と、冗談混じりに笑いながら話すルドガーにそう心の中で思ってしまう。それから程なくして、コテージに八神家との面子が到着し合流、六課メンバーは部隊長であるはやての作戦行動開始の合図で海鳴市へとそれぞれ動き出したのだった。


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サーチャーの設置担当のルドガーとライトニング、フェイトとシグナム達は作業の効率を考えて、フェイトとエリオとキャロ、ルドガーとシグナムの二手に分かれている。だがルドガーとしてはこの分かれ方は正直止してほしかった。理由はパートナーのシグナムだ。彼女と一緒に行動しているといつも決まって手合わせの事での話しばかりで、多少疲れてしまう。彼女に認められていると考えればいいのかもしれないが、それは経験していない者のいう事だろう。

「…終わったか、シグナム?」

「ああ。この辺りは粗方サーチャーの設置は完了したな」

サーチャーの設置をシグナムが終わるのを待っていたルドガー。実はルドガーはサーチャーの設置作業はできない。いや、正確にはサーチャーの不可視化を行う事ができないのだ。不可視化は幻影魔法の一種であり、リンカーコアを持たないルドガーには当然そのような施しをできるはずもなく実質的にシグナムの付き添いになってしまった。だが万が一、対象ロストロギアと遭遇した場合も考えればこの割り付けは妥当なものであり、一応自分にも役割があると思う事にした。

「そう言えば、クルスニク」

「何だ?」

「お前は八神部隊長を…いや主はやての事をどう思っている?」

いきなりなんだ?シグナムの本当にいきなりの問いに内心そうツッコミを入れらずにはいられない。

「はい?」

「すまない、言葉が足りなかったな。ではあえて言わせてもらおう。……お前は主はやての事を好きなのか?」

「好きか…だって?」

「そうだ。あと、一つ付け加えておく。友や身内の者に対する好意ではないからな」

「…………」

ぶっちゃけ過ぎだ。今度はそうツッコまずにはいられない。そもそも何故このタイミングでこんな話をした理由がルドガーにはわからない。特にシグナムという人物はこういう話を自分からするとは思ってなかったので、どう反応していいか困ってしまう。

「フッ…やはり混乱してしまうか」

「混乱してるんじゃない。いきなりの話しの内容にどう反応していいか困ってるんだよ」

「む…それもそうか。すまない、私もこのような話しをした事がないのでな……少し考えてからの方がよかったか……」

一瞬シグナムの姿がミラに……ミラ=マクスウェルと重なった。原因は今のシグナムの口調からだろう。何かを考える時の顎に手を乗せる仕草が加わればもっとだ。

「いや、むしろ面白いよ。あのシグナムにこんな一面があったとわかってさ」

「茶化すな…で、どうなのだ?」

「まぁ……はっきり言えば恋愛感情ははやてに対してはないな」

「他に好意を抱いている者がいるのか?」

異性をこの20年の自分の人生ではっきり好きだと自覚したのは幾度かあり一例としてはノヴァだが、あれは彼女に原因があるが結局ノヴァはルドガーに好意を抱いてなかったのでルドガーの勘違いにより見事玉砕した。それ以来あまりこれといった恋愛に関してルドガーは何も発展しなかった。仲間ではエルとエリーゼに至っては論外だし、レイアとミュゼ、ミラも女性としては魅力は勿論あるが仲間としての感情の方が強い。ただミラは…最初に出会ったミラには何度か本気でどぎまぎした事があった。…胸を触った時とか特に…。しかしあれが恋愛感情だと言われたら否定する。むしろ彼女に対して自分がそんな感情を抱いていいのか悩んでしまう。

「どうした?」

「いや何でもない。今は特別な女性は特にいないな」

分史世界のルドガーでもあるヴィクトルは彼の最愛の女性ラル・メル・マータと出会い結ばれ、エルが2人の間に生まれた。かと言ってルドガーがラルと結ばれなくてはならないという事はない。ルドガーとヴィクトルは全くの別人であり、歩む未来も違う。

「そうか…てっきり私はお前が主はやてに好意を抱いているではと思ったのだがな」

「恋愛感情は今のところはやてに対してはないな……けどはやてが魅力的な女性だとはわかっているぞ?」

「フッ、そう言ってなかったら私は今、お前を斬らねばならなかったぞ」

さらっと恐ろしい事を吐くシグナム。冗談だろうが彼女が言うと本気に聞こえてしまう。

「クルスニク、一つだけ言っておくぞ」

「 ? 」

さっきまでと変わり更に顔立ちに真面目さが増している。シグナムは冗談を言っても顔があまり笑わないせいか、親しい者じゃなければ冗談を言っているのか判断できない時がある。

「私はお前を戦士としてもだがその人間性も認めている」

「認めるって何も俺は示してないじゃないか」

「あれだけ剣を交えればお前がどういう人間かぐらいはわかる」

まるでガイアスの言いそうな事を話すシグナム。やはり彼女はガイアスと気が合いそうだ。

「それにその目……私と同じ目だな。己の守りたい者の為なら誇りも自身の命さえ投げ出し、守り抜こうとする者の目だ」

「…買い被りすぎだ。誰だってそうするだろ?」

「誤魔化す必要はないだろ? …まぁいい。お前が話す気がないなら今はそれでいい……だがいつかは話してくれ」

話しは終わりだと言って歩き出したシグナムにルドガーも続く……“私と同じ目をしている”……それと同じ事をルドガーも彼女達を見ていて感じていた。フェイトに言った事がいい例だ。違う世界でも似た人物は大勢いるものだと、世界が広いのか狭いのかわからなくなる。程なくしてノルマのサーチャーの設置を全てが終わる。帰路の途中懐中時計で時間を確認すると予定通りに進んでいたのがわかる。

「クルスニク」

時計をしまっているとシグナムがルドガーに声をかける。

「今テスタロッサに連絡をかけてみたが、テスタロッサ達は高町の実家にいる高町達を拾ってから帰ってくるそうだ」

「実家?顔見せにでも行っているのか?」

「それもあるが、高町の家は翠屋という喫茶店を生業としていてな…顔見せがてら翠屋のケーキでも買って帰るつもりなのだろう」

「成る程な…」

それも海鳴市では中々の知名度があるらしいとの事。ケーキやスイーツ系をこの次元世界に来てから食べる機会が少なかったルドガーだが、今の翠屋の話しを聞いてぜひとも翠屋のケーキを食べてみたくなった。

「テスタロッサが車を翠屋に回してくれる。私は先に主の下へ戻るが、もし翠屋に興味があるならテスタロッサ達と一緒に帰ってくれのも---」

「流石シグナム!わかってるじゃないか!」

気を察したシグナムの提案にガッツポーズを取る。料理好きなルドガーとしては海鳴市で有名であるという店に行き、できれば直接そこで店の一品を食べてみたい……彼の料理人魂は今まさに最高潮に達していた。

「思った以上に食いついたな……ならここで足を止めているのは時間の無駄だろう……高町には私が話しておいていやる……行ってこい」

「ああ!」

有り難い申し出を断る理由はなく、コテージへの帰路を進むのをやめルドガーはなのは達のいる翠屋へと駆ける。しかしルドガーは肝心な事をシグナムに聞いていなかった事に気付く。

「……翠屋って何処にあるんだ?」

バク宙で走るのを止めるが気付いた時には既に遅し。翠屋へ行きたいあまりウイングドブーツで全力疾走した事でシグナムから大分距離が離れている上に人通りのある道へと出てしまっていた。

「……シグナムに連絡だな」


端末を取出しシグナムに連絡を入れ翠屋の場所を聞く事にした。
……状況を知った彼女がルドガーに呆れたのは言うまでもない。

余談だがこの日から暫しの間、海鳴市の道を風のような早さで駆け抜けてゆき突如バク宙で止まる白髪の男、通称“バク宙野郎”の都市伝説が広まり、地元の人間がバク宙野郎を一目見ようと道や道路を注視しだしたのはまた別の話し……。


連絡を終え端末を閉じる。シグナムから翠屋のある正確な位置情報を端末に送ってもらい、それを頼りに移動を再開。無論ウイングドブーツで全力疾走。人混のスキ間をまるで水の流れのように駆け抜ける……翠屋に行くためとはいえやり過ぎだ。

「ふぅ、ここだな」

額から出た汗を腕で拭う。ルドガーの目の前にはオシャレな外観の建物があり、看板には目的地である喫茶翠屋の店名が書かれており、目的地に着いた事を確認しルドガーの表情が更に明るくなる。地図を表示していた端末を腰のポーチに入れ、翠屋の扉のドアノブに手を置き開る。中に入ると来客を知らせる鈴がなり長い黒髪のメガネをかけた女性が笑顔で歩み寄って来る。

「いらっしゃいませ!お一人様ですか?」

「待ち合わせです。もうここにいると思うんだけど--」

「待ち合わせですか?あっもしかして---」

「ルドガー君、こっち!」

聞き慣れた声に名前を呼ばれ、そちらに目を向けると待ち合わせていた人物達が店のカウンター前にある椅子に座ってルドガーに笑顔で手を振っている。なのはだ。他にもスバルやティアナ、リインもいる。

「お疲れ、皆」

「うん、お疲れ様!」

「お疲れさまですぅ!」

「「お疲れさまです!」」

それぞれが互いの任務が一段落ついた事を知っているので、労い合う。

「やっぱり!君がルドガー君だったんだね」

「えっ、あ、はい……アナタは?」

さっきの店員らしき黒髪の女性はルドガーが来る事を事前に知っていたらしく、初対面にしては好意的にルドガーに話しかけてくる。

「あっごめん。私は美由希。高町美由希だよ」

「高…町?」

「うん。私はなのはのお姉さんだよ」

美由希はなのはの姉だった。姉がいる事自体は不思議ではないが、なのはとあまり似ていない事がルドガーは気になっていた。

「ふぅーん……ふむ……」

「 ? 」

自己紹介が終えると前にいた美由希がルドガーの周りを観察するように回る。

「な、何か?」

「…成る程ね。なのはの言うとおり中々強そうだね。それにけっこうなイケメンだし」

「い、イケメン!?……って、ん?強そう?」

イケメンと言われてつい反応してしまうが、美由希の口にした強そうという言葉に関心が移り、なのはがそう言ったという事らしいのでなのはに視線を向ける。

「にゃはは、ルドガー君がここに来るって事を話した時にルドガー君のお話しをちょっとしたんだ」

「なのはと同じスバルちゃんとティアナちゃんの先生で、しかも二刀流で、超強いんでしょ?」

二刀流という部分に特に興味があるのか、目を輝かせて美由希は話しかけてくる。さっきからだが美由希はやたらルドガーの実力に興味があるような様子を見せている。

「私も御神流っていう武術を習ってて、それも君と同じ二刀流使いでさ。私とお父さんもなのはの君の話しを聞いて気になってたんだよ」

「お父さんもその御神流っていう武術をやってるのか?」

「というかお父さんが御神流の師範やってるんだよ」

御神流……正式名称『永全不動八門一派・御神真刀流・小太刀二刀術』という二振りの小太刀をメインとするも、暗殺系の武具を用いた戦い方もある総合殺人術。流石に場も考えてか美由希も御神流の暗黒面の話しはしないが、簡単な説明からでも確信ではないが御神流が純粋な武術じゃない事をルドガーはその実戦の中で培った感覚で感じていた。

「へぇ…奥がなかなか深いな」

「そうだよ。御神流は奥が深いんだよルドガー君」

「っ!?」

突如気配なく背中に声がかかる。全く気配がなかった事に驚きながらもルドガーは反射的にカウンターから反対側の玄関側へと一瞬で距離を取り警戒する。なのは達も気配なく現れた人物に驚いていた。

「あっ、すまなかった。驚かせるつもりはなかったんだ……」

ルドガーがさっきまで立っていた場所には美由希と同じエプロンをつけた男性が申し訳なさそうな表情を浮かべ笑っていた。この男性がルドガーの背後に気配なく立った人物なのだろう。男性の正体を考えていると、なのはと美由希がルドガーと男性の間に立ち、話しをはじめる。どうも少し怒っているようだ。

「もう、お父さん!」

「わ、悪いなのは……彼がどれほどの実力があるのか知りたくて、つい……はは……」

「だからって…わざわざ誤解されるような事をしたらダメだよ」

なのはの口にした単語が耳に入りこの男性の正体をようやくわかる。この男性はなのはの父親だったのだ。

「なのはの…お父さん?」

なのはの父親であるというこの人物……ルドガーはこの父親のさっきの行動とは別に姿を見て驚いていた。この父親の外見だ。あまりにも2人も子供を持つ人間に見えないくらい若々しい。だが更にルドガーは驚く光景を目にする事になる。

「あらあら、お父さんったら張り切っちゃって。でも初対面のなのはの同僚さんを驚かせるのはダメよ」

厨房から茶髪の女性が出てくる。容姿がどことなくなのはに似ていて、大人びた雰囲気から察するになのはと美由希の姉だろうか?

「だね、反省するよ母さん」

「んなっ!?」

なのはの父親が女性に対して口にした名称に完璧に驚きの言葉を漏らすルドガー。
父親も父親だが母親はその上を行っている。若いのだ。兎に角若すぎるのだ。このなのはの母親だという人物は容姿で年齢を言えば20代前半くらいと言っても通じるくらい若々しい。だがなのはが19歳だという事を入れて考えればこの女性が30代後半か40代に達しているのは間違いない。

「はじめまして。なのはの母の高町桃子です」

「紹介が遅れたね。私はなのはの父親の高町士朗。変な初対面になってすまなかったねルドガー君」

固まっているルドガーをよそに桃子と士朗は自己紹介をはじめた。2人の声が耳に入りルドガーは現実に戻る。

「い、いえ。俺も警戒しすぎましたから」

「いや、あれが正常な反応だよ。誰だって突然後ろに立たれば警戒の1つや2つもするさ」

「は、はぁ……」

ルドガーのように戦いに身を置く者はともかく、一般の何の武術も得ていない者があんな反応は流石にするとは思わないが、警戒心の強い人間を煽るのには十分すぎる行動を士朗はルドガーにやったのだ。最強の骸殻能力者であるルドガーが警戒するのは当然だった。

「で、どうなのお父さんのルドガー君の評価は?」

楽しそうな表情を浮かべ美由希が士朗にルドガーの彼の感じた印象を尋ねる。

「ああ。なのはの言うとおり彼は相当な力を持っているな。それも俺を超えるほどの凄まじい力を」

「お父さんを!?」

「………」

ただ翠屋のケーキを直接店で食べてみたくて来たはずなのに、いつの間にか戦闘評論が始まり出しルドガーとスバルとティアナはこの話の流れについてこれずに呆気にとられていた。

「ルドガー君、君は私達と同じ二刀流使いだったね?」

「えと……正しくは双剣です。後、双銃とハンマーも使ってますが…」

「凄い!3つも使えるの!?双剣に双銃、ハンマーって事は……双剣銃鎚士ってとこかな?」

「ま、まぁそんなとこかな、あはは……」

尋ねられた事に律儀に答えてはいるが、この士郎と美由希の嵐のような質問にだんだん引き気味になっていくルドガー。横目で困ったようになのはを見て、彼女はルドガーが自分に助けを求めている事に気付き間に入る。

「もう2人共!ルドガー君が困ってるよ!ルドガー君はケーキを食べにきたんだから」

なのはに注意され我にかえる2人。苦笑しながらルドガーに謝る。

「あはは、ごめん!」

「すまなかったね。ではお詫びにケーキのお代はかまわないよ」

「ありがとうごさいます!」

「よかったね、ルドガー君」

「ルドガーさんここのケーキってすっーごくおいしいんですよ!」

「私も実際食べて驚きました」

カウンターの椅子に座り、なのはとスバル、ティアナがルドガーに話しかける。スバルとティアナ、実際にケーキを食べた2人の感想を聞きルドガーの期待は更に高まる。間もなくして桃子がケーキと飲み物を持って現れる。

「はい!お待たせしました。翠屋特製ミルクティーにお待ちかねのケーキです」

「おお……!」

目の前に差し出されたモノを見てルドガーはソレに視線が釘付けになる。
そこにあったモノはケーキだ。
定番中の定番であるケーキ、イチゴショートケーキ。ルドガーも何度も口にした事があり、ケーキを思い浮かべたらこれを連想する者も多いケーキの代表作だ。しかしこのイチゴショートは彼が見た中でも別格の光沢を放っている事で、ルドガーにはこれがケーキではなく宝石にすら

「見えてきていた。そう、ここはカナンの地だ。きっとこの翠屋こそ、この世界のカナンの地!そう!俺はまたたどり着いたんだ!」

「えと…ルドガーさん?声に出てますですよ?あとカナンの地って何ですか?」

あまりのテンションにリインが声を掛けにくそうに話しかける。だがルドガーにそのリインの声は聞こえていない。それどころか、無意識にあのルドガーにとっては地獄とも言い表せるカナンの地すら例えで使ってしまっている。興奮が冷めぬルドガーはゆっくりとフォークをショートケーキに入れる。フォークがケーキに触れ、中にある生地がフォークを跳ね返すこの感触……まるでみずみずしい赤ん坊の肌に直に触れているようだ。

「こ、これは……!」

突き刺した生地をフォークで口に入れる。直後ルドガーの脳天に雷が落ちた。オリジン・ヴォルト級の激しい轟雷がだ。

「……士郎さん……桃子さん……」

「どうした、ルドガー君?」

一口だけケーキを口にしたルドガーは突然立ち上がり、士郎と桃子の方を見る。俯いている事でその表情を確認する事はできない。だが流石の士郎もルドガーのその雰囲気に緊張を覚えずにはいられなかった。無論その場にいる者全員も。

そして………


「俺を弟子にしてくださいっ!!」

「「「「「「「ええぇ!?」」」」」」」

額を床に擦りつけるルドガーに皆そう叫ばずにはいられなかった。


後日、弟子にはしてもらえなかったが、士郎と桃子から翠屋のケーキのレシピを一部預かり、六課でそのレシピを再現し、見事料理の腕をレベルアップさせる事に成功したルドガー。



彼がヴィクトル程の腕になるのも…近い?


 
 

 
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