問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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The PIED PIPER of HAMERUN ⑤
「さあ、百鬼夜行の始まりだ!」
一輝のその声と同時に、一輝の体から黒い霧が広がっていく。
そして、広がった霧は少しずつ集まり、かたまり、形を作っていく。
長い頭を持つ着物を着たおじいさん、ぬらりひょんの姿を。
牛の頭と蜘蛛の体を持つ牛鬼の形を。
体長二メートルを超える大猿、猿神の形を。
全身が緑色で、背に甲羅を、頭に皿を持つ河童の姿を。
多種多様な付喪神たちの集合体である塵塚怪王の姿を。
そのほかにも様々な妖怪達が、その場に現れる。
「こ、これは・・・」
「俺が呼び出した百鬼夜行だ。」
音央と鳴央が魑魅魍魎を見て呆然としていると、後ろから一輝が声をかけた。
二人が振り向いて一輝の姿を見るが、その姿も普段とは違っていた。
神職につく人が着るような白い和服をまとい、腰には量産型妖刀をぶら下げている。
自分達も、戦闘時には服装が変わるからか、二人は一輝の服装については何も言わない。
「一輝さんが、ですか?」
「ああ。」
「この量を、どうやって?」
「前に奥義のことを話しただろ?」
一輝が言っているのは、アンダーウッドの迷路の観戦時に言っていたことだ。
「あれを今、全て習得した。これはその中の一つ、“妖使い”ってやつだ。」
「そう・・なら、あれは味方なのね?」
「そうだ。だが・・・」
一輝は視線をぬらりひょんへと向ける。
「伝説級のやつらが一人も出てきてないと思うんだが?」
「わしらのような格がかなり上の存在を呼び出すには、それぞれの言霊が必要じゃからのう。それに、中にはまだおぬしを認めておらんものもおる。」
「あんたが出てこれてるのは?」
「わしは百鬼夜行の主。あの言霊で出てこれるのは当然じゃろう。」
一輝は妖怪は勝手だな、という形で納得し、気を引き締める。
「さ~て・・・俺の百鬼に告げる!!」
そして、自らの百鬼に命令を下す。
「そこのデカブツたちを・・・叩き潰せ!」
妖怪達はその命令に従い、大喜びで戦闘を開始する。
「それじゃあ、わしも体を動かすとするかのう。」
と、ぬらりひょんも老人とは思えない軽快な動きでシュトロムを倒しに行く。
「・・・で?」
「私たちは何をすればよろしいのですか?」
「そうだなぁ・・・」
一輝はあいつらと一緒にシュトロム狩りを、と頼みかけたが、それでは今まで通りだと意見を変える。
「俺はこれからダンスを倒しにいく。だから・・・俺の進む道を作ってくれ!」
「ええ!」
「はい!」
そして、一輝たちは駆け出す。
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音央のスリーピングビューティーや鳴央のアビスフォールによって道を作ってもらった一輝は、広場の中央へとたどり着いた。
そして、そこにはドレスを着て、腰に笛を下げ、赤い靴を履き踊っている女がいた。
「確認の必要もないだろうが・・・あんたがダンスだよな?」
「ええ。私がダンス。」
ダンスは踊り続けながら答える。
「敵が来たってのに、呑気なもんだな。」
「呑気?それは違うわ。これが、私の役割だもの。」
一輝が首を傾げると、女の前に置かれていた本が輝き、少しはなれたところでシュトロムが召喚される。
「へえ・・・踊りによる悪魔の召喚か。」
「そう。だからこそ、私が適任だった。私は、踊りをやめられないから。」
「・・・そうか。オマエは・・・」
一輝は何かに気づいたようだ。
「さて、それではお前を倒すとしますか!」
一輝は腰の刀を抜き、ダンスに切りかかる。だが・・・
「!?」
思いっきりきっても、踊ることをやめない。
「無駄よ。これは私の体がどうなろうと関係ない。」
「そうか・・・呪いだったな。」
一輝はこの手の攻撃が無駄だということを悟る。
「なら・・・これならどうだ?」
一輝はバタフライナイフを取り出し、腰の笛に投げる。
そのままナイフは笛のほうに飛んでいき、笛を砕いた。
「へえ?そこに気づいたんだ。」
「ああ。おまえはハーメルンの笛吹きには登場しない。だから、召喚には触媒が必要だったんだ。そうだろう?カーレン。」
一輝が言っているのはハンス・クリスチャン・アンデルセンの作品、赤い靴に出てくる女性のことである。
この話は、女性が赤い靴をはいたら体がひとりでに踊りだし、靴も脱げなくなる。最終的には首切り役人に足首ごと切り落としてもらう、というものだ。
この童話はハーメルンの笛吹きの伝承の一つ、ハンチントン舞踏病がモデルだといわれている。
実際に、目の前にいる悪魔も赤い靴を履き、踊り続けている。
「ええ。そうである以上、私は消えるのでしょうね。」
ダンス・・・いや、カーレンはそう言いながら、足首から下をはずす。
そして一輝のほうを向く。
「さて、消える前に最後の観客様と私の主にお礼を述べないとね。」
ダンスはドレスのスカートをつまみ、一礼をする。
「ご観覧、ありがとうございました。」
一輝はすっきりとする終わり方にほっとするが、それもつかの間に、シュトロムを召喚していた魔道書が思いっきり輝く。
「・・・これは?」
「私の最後の悪あがき。」
「せっかくいい感じだったのに・・・」
一輝はがっかりしている。
「では、さようなら、一輝さん。」
その間に、ダンスは光の粒になって消えていった。
「はあ・・・ま、仕方ないか。」
一輝は自分の前後から向かってくるシュトロムのうち、前にいるやつだけに集中する。
後ろにいるやつは、何も問題ない。
「妖刀、一閃!」
そして、背後の敵を一太刀で切り捨て、背後の敵は・・・
「っ!!」
上から飛んできた耀が、グリフォンのギフトで吹き飛ばす。
「大丈夫、一輝?」
「ああ。耀のおかげでな。オマエのほうはどうなんだ?」
「おかげさまでばっちり回復。」
どうやら、ギリギリ間に合ったようだ。
「さて、これからどうする?」
「そんなの、決まってる。」
「OK。」
一輝はその辺りの妖怪を物色し、一体の妖怪へと近づいていく。
そして、妖刀を抜き、妖怪に触れて唱える。
「わが百鬼たる妖怪よ!今、我が武具に混じり、新たなる武とならん!」
一輝が触れている妖怪と妖刀が黒い霧になり、混じり、形をつくっていく。
霧が晴れると、一輝の手には一つの弓があった。
「ま、こんなところか。って耀?どうかした?」
「それ・・・かっこいい。」
一輝は、耀の意外な言葉に、少し照れる。
「“外道・陰陽術”妖武装。うちの家系に伝わる奥義の一つだよ。」
「外道?」
「ああ。妖怪を倒す陰陽師が、式神とするのでもなく妖怪をそのまま使う。
だから、外道・・・道を外したものって呼ばれてる。」
一輝は近くにいた狼の妖怪・・・送り狼を呼び、それに乗る。
「では、行きますか?」
「うん、行こう。」
そして、耀は空を駆け、一輝は狼に乗り、魔王の元へと向かう。
後書き
こんな感じになりました。
文中でも一輝が言っていますが、今回出てきたのは“外道・陰陽術”の一部です。
他にもいくつかあります。
感想、意見、誤字脱字待ってます。
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