ソードアート・オンライン 〜槍剣使いの能力共有〜
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GGO編ーファントム・バレット編ー
56.死への恐怖
前書き
第56話投稿!!
シノンのピンチにギリギリで駆けつけたシュウ。
恐怖で銃を撃てなくてるシノン。
それを支えようとするキリト、シュウ。
そして明かされるシノンの過去とは?
(どうして.......どうして私を守るの?)
地面に倒れ、動けない私の前に立ちはだかる黒いコートを身に纏い、左手に黒い自動拳銃、ファイブセブンをボロいマントを身に纏うプレイヤーに銃口を向ける、私のもう一人の好敵手......シュウ。
「貴様は........フッ。そういうことか」
死銃のフードの奥から見える不敵な笑みをファイブセブンの銃声が言葉を遮る。
銃声とともにボロマントは身を屈め、傍のビル壁に空いた大穴に隠れる。
私の位置から見えたのは、死銃が右手のヘイシンをホルスターに戻し、肩からL115を降ろすと、素早くマガジンを交換。恐らく、電磁スタン弾を必殺の338ラプアにチェンジしたのだ。それを躊躇なくやつは撃つ。
黒衣の少年は、弾道予測戦ではなく銃弾が見えているようにギリギリで回避して、地面に落下している筒状の物体を右手に持ち、構える。
その物体は、暗剣《シンゲツ》、片手剣と槍に長さを変更することが出来るこの世界では少ない近接武器の一つだ。
暗剣《シンゲツ》は、漆黒の刃が出現し、高速で飛んでくる銃弾を弾き落としている。
やはり、銃弾をすべて弾き落とすなどという芸当は、いつ見ても通常のプレイヤーが行えるようなことではない。キリトが何度か行っているのは見たが、いつ見てもすごい。
「シノン、逃げるぞ!」
その言葉とともにシュウは、電磁スタンでまだ動けない私の体を抱きかかえ逃走する。
その顔は、苦痛の表情を浮かべながらも私を抱きかかえながら必死でフィールドを駆けている。私とヘカートを抱えながら走っているのが奇跡的なレベルだ。しかも、少年の体に眼をやると右腕、左肩、頬に、赤いエフェクトのダメージ痕が存在する。
やはり、全ての弾丸を弾き落とすというのは、シュウでも無理なのだ。しかも、GGOは、米国産のVRMMOゆえに痛覚緩和機能(ペインアブソーバ)のレベルが低めで、これほどのダメージを受けてただでは、すまないはず。
(........もう、いいよ。置いていって)
そう言おうとするがやはり言葉に出来ない。
黒衣の少年は、後ろを振り向くこも、脚を止めることも、私を降ろすこともせず、ただただ、苦痛に歪む表情を歯を食い縛り、荒い息を漏らして必死に走る。
後方から放たれ、通過し、必死で走るシュウの横をかすめていく。音もなく撃たれた弾。死銃は確実に追ってきている。
シュウは、私を抱えたまま、円形スタジアムの東を回り込み、廃墟の北側に出ようとしていた。こちら側にも南と同じくメインストリートがまっすぐ伸びているが、やはり壊れた乗用車やバスが幾つも転がっているが、死銃から逃げれるとは思えない。
(シュウは何を目指しているの?)
するとシュウは、疑問を浮かべる私の顔を苦痛に歪む表情を必死に堪え、微笑みながら口をひらく。
「大丈夫だ、シノン。お前は、俺が.....いや、俺たちが守る」
すると車のエンジン音が辺りに響き渡り、それと同時にエンジン音にかき消されそうな声だがはっきり聞こえる叫び声聞こえる。
「シュウ!!シノン!!」
そこに見えたのは、三輪バギーに乗る黒髪をなびかせながらこちらへと向かってくる光剣使いの少年の姿が。
シュウは、急に動きを止めこちらへと向かってくる三輪バギーへと乗り込む。
「シュウ!シノンを頼むぞ」
「おう!」
キリトがシフトペダルを蹴り飛ばし、三輪バギーが道路へと飛び出し加速していく。
私は、必死でここまで私を運んでくれた少年の体にしがみつきながら震えることしかできない。
バギーは、メインストリートへと疾走しはじめた。
(逃げ.....切れる......?)
恐る恐るそう考えたが、振り返る勇気はなかった。
「くそっ、気を抜くなよ!」
反射的に後ろを向くと、モータープールから、機械の馬、ロボットホースが飛び出すのが目に映った。誰が乗っているかは、確かめる必要もなかった。
ボロボロのマントを大きくはためかせ、背中にL115を背負い、両手で金属ワイヤーの手綱を握っている。
「なん......で.....」
乗れるはずがない。たとえ現実世界で乗馬経験があっても、この世界の機械馬はそうそう操れるものじゃないと以前聞いたことがある。しかし、奴はそれを乗りこなし、バギーと同じ速度で追いつこうとしそうだ。
二〇〇メートル以上後方から迫る恐怖が徐々に具現化されていく。距離的に視認できるはずがないのだが、フードの奥の闇に浮かぶ二つの眼と、薄笑いを浮かべる大きな口がはっきり見えた。
「追いつかれる.......!もっと速く......逃げて......逃げて......!」
叫んだ。
それに応えるように、キリトはいっそうアクセルを開けた。しかしその途端、後輪の片方が障害物を乗り上げてグリップを失ったらしく、いきなりバギーが後部が右にスライドした。
喉の奥から高い声が漏れ、私を支えるシュウが反射的に体を左に倒し、バランスをとる。
左右に蛇行を繰り返したバギーは、数秒後に危うく安定を取り戻し、加速を再開する。だが、わずかなタイムロスの間に、着実に死銃が距離を詰めてきている。
廃墟を貫くハイウェイには嫌がらせのように次々と障害物が現れ、邪魔をする。
条件は追跡者も同じであるが、障害物だらけのこのコースでは、四つ足の機械馬には、わずかに有利である。しかも、三輪バギーは三人用、ロボットホースも二人用の搭乗アイテムだ。だが、片方には三人が乗っており、もう一方は一人だけ。現状ではバギーの方が、明らかに加速が鈍い。
距離がついに一〇〇メートルを割った、と思ったその時だった。
死銃が、右手を手綱から離し、まっすぐこちらに向けた。握られているのは.......あの、黒いハンドガン。《五四式・黒星》
全身を凍りつかせ、拳銃を凝視した。ふっ、と音もなく、右頬に弾道予測線に真っ赤な指先が触れた。するとシュウが私の体を左に引っ張る。
直後、銃口がオレンジ色に発行し、かぁん!と高い衝撃音とともに私と後ろの空間を通過した。
「嫌ああぁっ!!」
今度こそ悲鳴が上がってしまった。背後の死神から眼を背けると、シュウが立ち上がり腰にぶら下がる暗剣《シンゲツ》を手に取り、飛来した二発目を漆黒の刃が叩き落す。
「キリト!奴を止める!その間にお前は、シノンを連れて逃げろ!!」
「やだよ......助けて......助けてよ.....」
立ち上がるシュウの足にすがるようにしがみついてしまう。死銃は、バギーに追いついてから確実に弾を命中させる作戦に切り替えたのか、銃弾は止んだもののひずめの音がじわじわ大きくなる。
「シュウ、待て!!シノン......、聞こえるか、シノン!」
不意にキリトに名前を呼ばれたが、返事ができなかった。
「シノン!!」
「落ち着け、シノン!!」
二人の鋭い声にようやく悲鳴が止まる。首をわずかに動かして、私を守ってくれてる少年と黒髪を長くなびかせる少年と捉える。前方を睨み、限界までアクセルをあおりながら、キリトは強張ってはいるがいまだに冷静な声で言った。
「シノン、このままだと追いつかれる。ーー君が奴を狙撃してくれ」
「む......無理だよ......」
首を横に振った。右肩にはずしりと重いヘカートⅡの感触があったが、いつもなら闘志を与えてくれるその質量も、いまは何も伝えてはこなかった。
「当たらなくてもいい!牽制だけでいいんだ!」
「......無理......あいつ......あいつは......」
過去から蘇った亡霊であるあの男は、例え12・7ミリ弾が心臓に命中しようと泊まりはしないとそう確信していた。
「それなら俺がその銃を撃つ!!」
その言葉は、私の中にわずかに残った何かーー恐らく、プライドの小さなかけらを揺り動かした。
(ヘカートは.......私の分身。私以外の......誰にも扱えない......)
のろのろとした動きで、肩からライフルを外し、バギー後部を横切るロールバーに銃身を乗せ、恐る恐る体を起こして、スコープを覗き込む。
拡大倍率を限界まで下げられていたが、それでも一〇〇メートル以下の近距離ゆえに、死銃の駆ける馬の影は視野の三割以上を埋めていた。
倍率を上げようとしたが、その手を止めた。
この以上拡大すれば、フードの下の顔がはっきり見えてしまう。そう思うと指が動かせず、そのまま右手をグリップに移動させ、狙撃体勢に入った。
死銃は、こちらの行動に気づいているはずなのに回避もスピードも落とさない。舐められている。だが、いつあのハンドガンを握り、こちらに向けるかの恐怖が湧いてくる。
(一発、一発だけ撃つんだ)
シノンはトリガーガードの中の人差し指を動かして引き金に触れさせようとした。
だが。
どんなに力を込めても、指先のトリガーにたどり着かない。まるで、無二のパートナーであるヘカート自身が拒むように.......
いや、違う。拒んでいるのは自分だ。シノンの中の詩乃が、銃を撃つことを拒否しているだ。
「.......撃てない」
シノン/詩乃は、掠れた声で囁いた。
「撃てないの。指が動かない。私.....もう、戦えない」
「「いや、撃てる!!」」
即座に、二人の強く厳しい声が背中を打ち据えた。
「戦えない人間なんかいない!戦うか、戦わないか、その選択しがあるだけだ!」
「俺たちがシノンを支える!だから戦えシノン!!」
二人のライバルにそこまで言われ、しかしそれでも、心はわずかしか動かない。
(選択。なら、私は戦わないほうを選ぶ。だって、もう辛い思いはしたくない。俺たちが支えるって言っても、あの男への恨みと恐怖が消えるわけでもなく、私はその恐怖を抱えていきるしかないんだから)
下を向いて、息を殺して、何も見ず、何も感じず........
突然、凍り付いた右手を温かな何かが包み込む。
閉じかけていた瞼を見開いた。
シュウがリアステップに立つ私の背中に覆いかぶさり、右手をいっぱいに伸ばし、ヘカートのグリップから剥がれる寸前だった右手を包み込んで、ヘカートのグリップを握りしめ、私の耳元で叫んだ。
「俺も撃つ!だから、俺を信じて、この指を動かしてくれ!」
一丁の銃を二人で撃つことなどシステム的に可能なのか。それでも、シュウの掌が触れる部分から感じる温かさが凍った指をわずかに溶かしていくのを感じた。
ぴく、と人差し指が震え.......関節が軋み......指先が、トリガーの金属を捉えた。
視界にグリーンの着弾予測円が表示されるが、それは死銃の体から大きく外れる。それもそのはずだ。心拍が乱れ、そのうえ走行中のバギーが激しく振動しているせいだ。
「だ、だめ......こんなに揺れてたら、照準が......」
すると私に覆いかぶさるシュウの左手がヘカートをしっかりと支える。
「大丈夫だ。あのバカを信じろ」
その声は、なぜか私を少し落ち着かせ心拍の乱れがほんの少しだが和らぐ。
すると、背中の方からもう一人の少年の声が耳に届く。
「大丈夫、五秒後に揺れが止まる。いいか.......二、一、今!」
突如、ばうん!という音とともに大きなショックの後に、次いで嘘のように揺れが止まった。バギーが何かに乗り上げ、ジャンプしたのだ。視界の端でそれはちょうどジャンプ台のような格好で路面に突っ伏したスポーツカーだった。
(なぜ、そこまであなたたちは、強いの?)
その言葉が胸中に問いかけるが、それはすぐに自分の中で言葉を否定した。
この二人は、決して《強い》わけではない。たしかに怯え、悩み、苦しんで、それでも前を見る《強さ》を持っている。
先ほどのキリトの言葉のように、そこにはただ一つの選択があるだけだ。立つか、立たないか。撃つか。撃たないか。
だが、この二人が戦うのは、多分、互いを信頼しあっているからだろう。
自分が、この二人のようにできるとは到底思えない。でも、せめて今は.......今だけは.......
愛銃のトリガーにかけた指を、全身全霊を振り絞って引こうとする。
重ねられた手に後押しされて、指は徐々に沈んでいく。視界に表示される予測円が、気休め程度に収縮するが、まだ敵のシルエットは円の半分にも満たない。
多分、きっと、あたらない。
スナイパーとして初めてそう考えながらトリガーを引こうとする。
「大丈夫、自分を信じろ」
耳元で囁くような声が聞こえ、わずかに安堵し私は、トリガーを引き切った。
不安定な体勢ゆえに反動で飛ばされそうになるがシュウがしっかりと押さえ込む。ジャンプしたバギーが下降を始めた上から、放たれた弾丸の行方を追った。夕闇を切り裂く弾丸の軌道は、騎馬の死神のほんのわずかに捉えそこね、右へ逸れていく。
(外した......)
しかし、もしかしたら《冥界の女神》自身のプライドが完全なミスショットを拒否したのか、巨大な対物弾は、路上に横転する大型トラックの腹に食い込む。
GGOのフィールドに配置された人口オブジェクトは、ドラム缶や大型機械類は、一定以上のダメージを与えると炎上し、爆発する可能性があるのだ。
ちろっ、と大型トラックの腹から小さな炎が漏れた。
ちょうどその真横を通った死銃がそれに気づき、道路の反対側にロボットホースをジャンプさせようとした。
しかし、一瞬だった。巨大な火球が膨れあがり、トラックと騎馬を呑み込んだのは。
ジャンプ終えた三輪バギーが凄まじいバウンドの衝撃を受けるがなんとかキリトが体勢を立て直す。
爆発そのものは、ジャンプ台となったスポーツカーで遮られたが、火柱の中でバラバラになる機械馬のシルエットが視認できた。
(倒した.......?)
一瞬そう思ったが、オブジェクトの爆発するごときで、あの死神が死ぬわけない。でも今は、時間稼ぎをできただけで奇跡に感じられる。
横転しかけたバギーをどうにか安定させ、再度加速させる。
俺たちは、死銃の追跡からギリギリで逃げ延び、現在はサテライトスキャンを回避できる洞窟の中にバギーごと侵入し、狭い空間に三人でいる。
「まぁ、武装解除して川底に潜るよりはマシかな......」
「なんだ、そりゃ」
バギーから離れ、入り口の方をちらりと見たキリトは、俺の言葉を無視して続ける。
「潜るって言えば......あいつはどうやって君の近くに現れたんだ。しかも衛星にも映らなかったのも、川に潜ったわけじゃないみたいだしな」
「......たぶん、《メタマテリアル光歪曲迷彩(オプチカル・カモ)》っていう能力(アビリティ)」
「それがあの急に現れた能力ってわけか。あれは、透明化でいいのか?」
シノンが小さく頷く。
するとキリトが何かを心配するように洞窟の入り口に眼にやっている。
「......ここなら大丈夫、だと思う。下が荒い砂だから。透明になっても足音は消せないし、足跡も見える。さっきみたいに、いきなり近くに現れるのは無理」
「なるほど。じゃあ、せいぜい耳を済ませてないとな」
キリトが納得したように頷くと、俺の左隣に座った。
少しの沈黙のあと、シノンがぽつりと呟いた。
「........ねえ。あいつ.......《死銃》が、さっきの爆発で死んだって可能性は......?」
「ないと思う。.......トラックが爆発する寸前に飛び降りるのが見えた。.....無傷ではねぇと思うがな」
だが、それが普通のプレイヤーならの話だ。
あいつは、ハンドガン一つで俺と戦ったプレイヤーだ。そんな身のこなしをするプレイヤーがあの程度の爆発で大ダメージを受けてるとは思えない。
そういえば、あいつはあんなデカイ銃をどこに隠してたんだ。俺と戦った時は、そんな銃を持ってなかったはずだ。
「そういえば、《銃士X》は、死銃じゃなかったけど、どうしたのよ?」
仄かに苦笑いを浮かべながら、キリトが両手を頭に組んで答える。
「堂々と名乗ろうとした《銃士X》さんを、強引なラッシュで斬っちまった。......ちなみに本当は《ジュウシエックス》じゃなくて、《マスケティア・イクス》って読むらしい」
「......へぇ」
途中参加の俺には、何のことだかさっぱりだ。
「こっちも一発喰らったけど何とか倒して、スタジアムの上から南を見たら、シノンを抱きかかえながら逃げてるシュウの姿が見えたから.....それでモータープールがあるのが見えたからそこにシュウが来ると思って先に行ってたってわけ」
「俺も半分賭けだったからな。多分、キリトが先に行ってなければ今頃追いつかれててもおかしくなかったからな」
抱えた膝に額を落とすシノンに俺は、少し体を寄せる。
「そんなに、自分を責めなくていい」
「........」
俺の言葉を続けてキリトが言う。
「俺だって、あいつが隠れてることに気づかなかったんだ。もし役割を逆にしていたら、麻痺弾を喰らってたのは俺だった。ーーそしてその場合は、シノンが俺を助けていただろ。そうだろ?」
そのまま沈黙が続き、何十秒か経過した後に、再びキリトの声が聞こえた。
「......じゃあ、俺は行くよ。シュウ、シノンのこと頼んでいいか?」
「お前、まさか......一人で行く気かよ」
小さく頷くとキリトは、光剣のバッテリー残量を確認する。
「......一人で、あの男......死銃と、戦うの......?」
掠れ声の少女に、頷く黒髪の少年。
「ああ。あいつは強い。あの黒い拳銃の力なんかなくても、それ以外の装備やステータス、何よりプレイヤー自身の力が突き抜けてる。正直、あの銃を一発も撃たせないで倒すのは難しいだろう。さっき逃げ切れたのも、半分は奇跡だ。次にあの銃を向けられたら.....怯まずに立っていられる自身はない。今度こそ君を見捨てて、逃げてしまうかもしれない.....。だから、これ以上君を付き合わせるわけにはいかないよ」
「...........」
「.......キリト」
そうか、キリトとシノンは、死銃の弾丸が人を撃ち抜く瞬間を見てしまったんだろう。だから、キリトは、シノンを危険にさらさないために......。
「......あなたでも、あいつが恐いの?」
ぽつりとシノンが呟くと、キリトが光剣を腰のからビラに戻しながら、かすかに苦笑した。
「ああ、恐いよ。昔の俺なら.......あるいは、本当に死ぬ可能性があろうと戦えたかもしれない。でも、今は........守りたいものが、いろいろ出来たからな。死ねないし、死にたくない......」
「守りたい、もの.......」
「ああ。仮想世界にも.....現実世界にも」
その言葉を聞き、俺は反射的に口から言葉が漏れる。
「......なら、昔みたいに一人で行こうとすんじゃねぇよ。俺はお前の相棒だろ」
自分の言葉に俺は、安岐さんの言葉を思い出す。
『私には桐ヶ谷くんの抱えた重荷を取り除くことも、一緒に背負うあげることもできないけど、君ならできる。逆もそう。如月くんの重荷を桐ヶ谷くんが一緒に背負うことはできる』
俺は立ち上がりキリトの方をしっかりと見て口をひらく。
「だから、俺がお前の支えるからお前は俺を支えてくれ」
はぁ〜、ため息をついたキリトがこちらを見て少し苦笑いを浮かべ、拳をこちらへと向ける。それにいつものように拳をぶつける。
「.......私.........」
不意にシノンが呟く。
「私、逃げない」
「「..........え?」」
「逃げない。ここに隠れない。私も外に出て、あの男と戦う」
キリトが眉を寄せ、シノンに上体を近づけて低く囁く。
「だめだ。シノン。あいつに撃たれれば......本当に死ぬかもしれないんだ。俺とシュウは完全な近接戦闘タイプで防御スキルも色々あるけど、君は違う。姿を消せるあの男の子に零距離から不意打ちされたら、危険は俺たちの比じゃない」
シノンはしばらくの沈黙のあと、静かに口をひらいた。
「死んでも構わない」
「「.........え.......」」
その言葉に言葉が出なくなってるいると、シノンがこちらを見てゆっくり語りかける。
「.......私、さっき、すごく怖かった。死ぬのが恐ろしかった。五年前の私よりも弱くなって......情けなく、悲鳴あげて.......。そんなんじゃ、だめなの。そんな私のまま生き続けるくらいなら、死んだほうがいい」
「........怖いのは当たり前だ。死ぬのが怖くない奴なんていない」
「嫌なの、怖いのは。もう怯えて生きるのは......疲れた。.....別に、あなたたちに付き合ってくれなんて言わない。一人でも戦えるから」
シノンは腕に力を込めて立ち上がろうとするが、俺はその手を掴み、訊ねる。
「一人で戦って、一人で死ぬ......とでも言いたいのか?」
「.......そう。たぶん、それが私の運命だったんだ.....」
(一人で戦って.....一人で死ぬ.....なんて)
脳裏に蘇るあの記憶........
『俺はオメェの助けなんていらねぇよ!一人で戦う!オメェはどっかに行きやがれ!』
「.....離して、私......行かないと」
振りほどこうとしたシノンの手を、さらにきつく掴んだ。
「.....お前は間違ってる。人が一人で死ぬ、なんてことはないんだよ。その人が死ぬときは、他の中にいるそいつも同時に死ぬんだ。俺の中にも、もうシノンがいるんだ!」
(もう、あんな思いは、したくないんだよ)
「そんなこと、頼んだわけじゃない。......私は、私を誰かに預けたことなんかない!」
「もう、こうして関わりあっているじゃねぇか!」
握ったシノンの手を持ち上げ、目の前に突きつけた。
その瞬間、一気に感情が噴き上がったように、もう片方の手で俺の襟首をシノンが掴みかかる。
「なら.......なら、あなたが私を一生守ってよ!!」
俺へ感情をぶつけるシノンの頬を流れ落ちる涙に動くことができない。
握られた右手が強引に振り払われ、拳を握って、二度、三度、力任せに胸を叩きつける。
「何も知らないくせに......何もできないくせに、勝手なこと言わないで!こ.....これは、私の、私だけの戦いなのよ!たとえ負けて、死んでも、誰にも私を責める権利なんかない!!それとも、あなたが一緒に背負ってくれるの!?この.......この、ひ......人殺しの手を、あなたが握ってくれるの!?」
「......握ってやる」
「.....え?」
そのまま俺は、両腕でしっかりとシノンを抱きしめて耳元で囁く。
「そんな手でも握ってやるし、一緒に背負ってやる。一生守ってやる。......俺がお前の力に.....支えになる。........だから死ぬなんて言うな」
小柄でこれ以上強く抱きしめたら今にも壊れてしまいそうなシノンの体をしっかりと抱きしめた。
「嫌い.......大嫌いよ、あんたなんか!」
叫ぶ、シノンの声とともに瞳から仮想の涙の滴が零れ落ちる。
だが、絶望の足音が響いたのは、本当に唐突な出来事だった。
後書き
次回、絶望の足音が洞窟内に響き渡る。
《死銃》と3度目の戦闘が幕を開ける!!
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