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SeventhWrite

作者:完徹
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道化少年

 
前書き
 目を開けると何故か学校の廊下だった。もちろんリノリウムの床が布団と同じ寝心地を提供してくれるわけも無く硬くて痛い。そもそもなんでこんな場所で僕は寝ているんだ?
 立ち上がると腹部に鈍い痛みがあった。そして足もとには学生カバンが落ちている。手にとって見ると僕のだった。どうやら下校しようとしてたみたいだけど外を見ると真っ暗だ、下校時刻からかなり時間が経っているだろう。

「まだ残っている生徒が居たのか…」

後書きに続く 

 
 夕日がまだ沈んでいない町をひたすら全速力で僕は走っていた。今から起ころうとしている悲劇を止めるために。
 初めに感じた違和感は転校生が水瀬君と接触した事だった。
 彼が小説を書き始めたタイミングで転校してきたのだからもちろん登場人物ではないかと疑っていたけど、水瀬という名前を水瀬君が使うとは思えないし自分を絶対に登場させないので(作家として自分を登場させるのはタブーらしい)彼女は登場人物ではないのだろうと思った。その後に安土山さんから水瀬さんの旧姓を教えてもらい、もしかしてと考えてはいた。でも確信には至らなかった。
 それに放課後に転校生が水瀬君を探していたのもただ仲良くなっただけなのかと思い、まさか彼女が危険な状況であるとは気付けなかった。
「間に合え…」
 物語の時間的には今はもう峰岸大樹に捕まっているだろう、だから僕は最終的に事件が起こる場所に先回りして、二人が来るのを待つ。

「やぁ、そんなに急いでどこ行くの?」

 そんな思考をしながら目の前の十字路を左に曲がった時、彼は現れた。しかも目の前に。今から速度を落としても止まることは出来ない。
 だったら…

 ビッタァァァァァァァン

 とっさに斜め方向に飛び、前回り受身で彼を避けた。
 痛覚が無くて良かった……なんて考えている場合じゃない!!
 すぐさま起き上がり後ろを振り向くとそこには……

「なんでだよ」

 サッと前髪を手ですいて僕に流し目を送る変態(わたるくん)が立っていた。
 格好は制服で右手には学生カバンを持っている。
 何でか今さら下校しているみたいだった。
 ホント、何で今さら帰ってるんだ?部活は一時間以上前に終わっているだろうに。

『白々しいわ、綾文。貴方が彼を動けなくしたんじゃない』

 すっとぼけた僕に耐えかねたユウキが僕の脳内にツッコミを入れた。僕とユウキは何時でも何処でも糸を通じて思考の共有が出来る。ただユウキは夜型で夕方まで活動しない(起きない)。
 はいはいそうですよ、僕が意識が飛ぶくらいのグーパンチで眠らせてあげたんだよ。

『全くもう、いくら不快なアプローチされているからって自分を好いている人に対して酷い仕打ちね』

 いいんだよ、こいつには少しでも友好的な態度をとると…いやとらなくても勝手に周囲でピンクな噂が立っちゃうんだよ。

『もう…頑固な人』

 ちょっと待て、何だそれは…まるで僕がツンデレで本当は好きだけどあえて彼に対して冷たい態度取っているみたいな事を言うなよ。

『……………』

 く、言いたいだけいいやがって…

「…また人形の彼女と作戦会議?」
 ずっと一人で無言なまま表情を変えているという危ない人になっていると渡君が全てを見透かしたように僕に聞く。
「渡君、前もその前にも言ったけど…もう僕たちのすることに首を突っ込まないでって言ったよね」
 彼はその整った顔でふっと優しく笑う。…キモい、寒気がする。
「僕の愛する綾文が危険なことをしているんだ、黙って見ていられないよ」
 もし僕が女の子なら落ちてただろーね、でもそんなカッコいい言葉も男同士になると薄ら寒いわけで。
「いい加減にしてよ渡君、僕が君の妹をあのピエロから助けようとしたのはあの物語に関わったからなんだ」
 僕が人形になって、初めて解決した物語に彼の妹は登場した。それは真夜中のサーカス団に連れ去れる女の子の物語。その時に僕と渡君は知り合った。
「別にサキの事で綾文が好きになったわけじゃないさ、大体あれは君がどうにかした訳じゃない、サキを助けたのは…僕じゃないか」
 確かに、そうだけど。
「だったらなんでそこまで僕に固執するの?渡君ならそれこそどんな可愛い女の子だって付き合えるようなイケメンだし、運動神経だっていい」
 うえ、自分で言っていて吐き気がする。何が悲しくて渡君を褒めなきゃいけないんだ。
 渡君を見ると顔を赤くして鼻をかいていた。照れているらしい。…キモい。
「あのさ、言っちゃうけど木崎以上に可愛い子なんて居ないよ。ナンバーワンなんだよ」
 はぁぁぁぁぁぁ?
「何言っちゃってるの?渡君」
「もう鈍いなぁ、君は…」

『まずいわ』

「…なのに」
 急に頭に響いたユウキの声で渡君の言葉は聞こえなかった。
 どうしたんだ?ユウキ。

『貴方がのんびりと話している間に彼が…殺されそうよ』

 え?
『聞いているの?だから早くしないと…』
 ちょっと待て、狙われているのは水瀬さんだろ?
『…そうだけど、そうじゃなくなったの、もう…解るでしょ?』
 っ!そうか。
 水瀬君の物語には実際に起こる事と悲劇であることに加えてもう一つ厄介な要素がある。それは何かしらの超常現象(オカルト)が絡んでくるということだ。僕ならユウキ、渡君は謎のピエロ。他にだって幽霊や神様を名乗る摩訶不思議な存在と出会ってきた。そしてそのオカルトが今回は水瀬さんだったのか。
『いいから急ぎなさい』
 分かった。アレを使うよ。
 僕は口を大きく開けて右手を突っ込む、そして喉の奥にある柄を握り締めて、引き抜いた。
東方美人(ドンファンメイレン)】レントさんが拵えた魔法具、それは日本刀の形をしている。僕はそれの鞘を左手で引き、腰のベルトに挿す。
「ねぇ綾文」
 東方美人を目の前に掲げて…ってなんだよ。まだ居たのか渡君。
「手短に言って」
 振り向きもしないで言う。


「さっき桜先生が反省文が出てないって言ってたよ」


 !?
「忘れてたけど、どうでもいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
 僕は刀を振り切った。 
 

 
後書き
 声のした方を見ると筋肉ムキムキでジャージを着た教師、桜先生が立っていた。
「水瀬の次は窓辺か、さっさと下校しろよ、いやこの時間なら家に連絡しないと駄目か」
「下校…そうだ!綾文は?」
 僕の言葉に聞いてないなと呟き、面倒くさそうな顔で桜先生は僕を見た。
「木崎ねぇ、そういやアイツ反省文出さずに帰りやがったな…じゃなくて番号教えろ」
「いえ、結構ですよ桜先生、僕の両親共働きで家に帰るの遅いんです」
 僕はそう答えると校舎を後にした。ちなみに嘘だ。父親は専業主夫である。
「…というかなんで窓辺は残ってたんだ?」
 残された校舎で桜先生は呟く。その時に脇に綾文が書いた反省文があることに彼は気付いていない。 
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