ソードアート・オンライン 守り抜く双・大剣士
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第2話 =衝撃の事実=
前書き
テイルズって単語が出てくるんですけど
一応関係はあります…ゲームシステムに関しては…
キャラクター本人は出てきません
2017/04/13
大幅な変更です
「えっと…ログアウト、ログアウト…」
ただ今の時間は17時を少し過ぎたころ、そして部活の夜練が始まるのは18時から。準備をして晩御飯を移動しながら食べてもぎりぎり間に合うかどうかといったところだ。だが、間に合わなければメンバーにキレられる、というか部長に殺される。それだけは回避しなければならない。
そう焦りながら、ウィンドウを開きああでもないこうでもないとぶつぶつと呟きメニューを探る。が、どれほど探してもログアウトを指し示すボタンが見つからない。横ではピザを予約したというクラインも俺と同じように指で何かを探すしぐさをしている。
「なんだこりゃ……ログアウトボタンがねぇぞ?」
「ボタンがないって…そんなわけないだろ」
「俺も見つからないよ。それっぽいところずっと行ったり来たりしてるけど」
そんな馬鹿な、と言いたげな顔をし、キリトもメニュー画面を開いて同じようにログアウトボタンを探す。が、その指も次第に遅くなっていき、1分も経たないうちにキリトも同じようなウィンドウで指が止まった。
「……ない…………」
「なっ……おいおいマジかよぉ……」
「ってことは……ログアウトできないってこと?」
「……そうなるな」
キリトの衝撃的な発言に、俺とクラインは驚くしかなかった。完全に外とは切り離されているためこちらができるのはログアウトボタンの復活を待つことくらいだ。それ以外に自分の体を動かすこともできないし、外部の知り合いへヘルプを出すこともできない。
「ま、今日はゲームの正式サービス初日だかんな。こんなバグも出るだろ。今頃GMコールが殺到して、運営は半泣きだろなぁ」
クラインは気を取り直したかのようにいい、運営に同情していた。その同情もキリトにピザのことを思いださせられ、崩れ落ちるようにひざまずいて大きなショックへと変わってしまったが。
「やっべぇ……どうしようっかなぁ……殺される……」
かくいう俺も、相当なピンチを迎えていた。ゲームにかまけて練習に遅刻したとなれば何言われるか分かったものじゃない。とりあえずしごきという名でほかの部員と練習には参加させてもらえるだろう。しかし確実に死が待っている、肉体的にも精神的にも。数日の記憶が飛ぶのも覚悟しなければならない。
「ねぇキリト。ほかにログアウト方法ないの?詠唱とかなんか言えばログアウトみたいな」
「…………いや、知らないな。というか、ログアウトするにはメニュー操作以外にログアウトする方法なんて無いだろ」
「嘘、でしょ……?あ、そうだ運営の方に問い合わせとかは」
ちょっと名案、と思いまず自分のメニューでどれがお問い合わせに該当するか見つからず、クラインやキリトに言ってみるも二人は首を横に振った。
「GMにコールしてみたけどよぉ反応がねぇんだよ……くそぉ!ログアウト!脱出!!」
「シャットダウン!」
クラインと一緒にその手のボイスコマンドを叫んでみるも、当然何も起こらない。どうやらボイスコマンドはSAOには実装されていないらしく、あれも唱えこれも唱えと思いつく限り試行してみたが、ログアウトする気配も何もなく景色は一向に変わらなかった。
「無駄だ。マニュアルを読んだがその手の緊急切断方法は一切載ってなかった。」
「でもよ!……だって、馬鹿げてるだろ!いくらバグったって、自分の部屋に……自分の体に、自分の意志で戻れないなんてよ!!」
「ほんとそれ。……動かしてたらなんかひっぺ剥がせた、とかないかなキリト」
クラインの呆然とした顔から出た叫びに全くの同感だった。今、現実ではベッドの上で寝転がっているだけなのに、その体に戻ることができないなんてばかげてる、ナンセンスだ。運営仕事しろ。
「…………今の俺たちは、《ナーヴギア》が脳から体に向かって出力される命令を、全部ここで」
キリトは指先で後頭部の下、延髄をとんとんとたたいて説明を続ける。
「……インタラプトして、このアバターを動かす信号に変換してるから無理だ」
「ってことは指一本も動かせないってこと?あ、じゃあナーヴギアの電源を切っちゃえば」
言い終わる前にキリトは首を横に振る。現実で被っている《ナーヴギア》というものは安定してプレイ環境を提供するために、電源が抜けても1日は持つほどのバッテリーを兼ね備えているらしい。
「……じゃあ、結局のとこ、このバグが直るか、向こうで誰かが頭からギアをはずしてくれるまで待つしかねえってことかよ」
クラインの言葉にキリトは無言の肯定で同意を示した。
「でも、オレ、一人暮らしだぜ。おめぇ等は?」
「……母親と、妹と三人。だから俺も、晩飯の時間になっても降りてこなかったら、強制的にダイブ解除されると思うけど…。」
「クラインと同じく1人暮らし、だよ。というかキリト妹いたんだな……」
「悪いかよ……まぁ俺たちみたいな人種とは接点皆無だけどな。それよりもリクヤ、クライン、流石にこれは変だとは思わないか?」
キリトは俺とクラインに質問を投げかけるが、いきなりの話題転換に無理やり感を感じるも俺たちには何がヘンなのかわからなかった。そんな俺たちに対しキリトは説明を開始する。
「こんな状況なら、運営サイドは何はともあれ一度サーバーを停止させて、プレイヤーを全員強制ログアウトさせるのが当然の措置だ。俺たちが気づいてからでさえもう15分は経ってる。なのに対応が遅すぎる。冷めたピザを食べさせられるっていうお前の金銭的損害には比べ物にならないくらいの運営にかかわる問題だ」
冷めたピッツァなんて……と項垂れながら意味の分からないうめき声を無視し会話を進める。
「そうか。これってオンラインゲームだもんな……こんなすごいバグに気付かないとは思えないし、気づいたとしたらもうログアウトさせてるか何か案内来るよね」
「む、言われてみりゃ確かにな。SAOの開発運営元の《アーガス》といやぁ、ユーザー重視な姿勢で名前を売ってきたゲーム会社だろ。その信用があっから、初めてリリースするネットゲームでもあんな争奪戦になったんだ。なのに、初日にこんなでけぇポカやっちゃ意味ねぇぜ。」
ピッツァから復活し、妙に真剣な顔になったクラインがごしっと顎をこすった。バンダナに隠れた切れ長の目を鋭く光らせながら口を開いた。
「このSAOはVRMMOジャンルの先駆けでもあるから、問題起こしたらジャンルそのものが規制されかねない」
「……でも、何にも対応がないってなると、さ……」
俺とキリト、クラインの三人は互いの顔を見合わせ、手詰まりだと感じさせるように息を吐いた。
ゲームの中だというのに現実と同じ肌寒い感覚がアバターを刺す。どうやら現実の季節と準拠しているらしく、気温もそれに合わせて変わっているのだという。仮想世界の冷たい空気を深く吸い込み、また吐き出す。ゲームの中とは思えない空には天井のようなものがあり、夕日に照らされ薄紫色にかすんでいる。そのごつごつした天井を目で追うと、ずっと彼方に巨大な塔が聳え立っている。
「何もないままもう5時半、か。部活は諦めたほうが……ねぇ、キリトアレ何」
「ん?……あぁ、あれは……」
と、キリトが質問に答えようとしたとき、突然リンゴーン、リンゴーンと鐘の音が大ボリュームで響き、俺たちは飛び上がり同時に叫んだ。
「な、なんだぁ!?」
「ちょっ、何!?」
「……これは……転移!?」
俺たちの体を鮮やかなブルーの光の柱が包み、青い膜の向こうで、今までいた草原の風景がみるみる薄れていく。困惑している間にも輝きはどんどん強くなり、身体を包む光が一際強く脈打ち、俺の視界を奪っていった。
青い輝きが薄れると同時に、風景が再び戻るも、そこはもう夕暮れの草原ではなく、広大な石畳の広がる瀟洒な注背風の街並みが広がっていた。
「…ここは?」
あたりを見渡しながら先ほどとはまるっきり違う景色を目の前にして、そう呟いていた。
「始まりの街……みたいだな……」
「ひゃー、すっげぇ人だぜ……」
そういうクラインが言うように広場と思えるその場所は人で埋め尽くされていた。色とりどりの装備や髪色、眉目秀麗な男女の群れ。これが全員SAOプレイヤーだとするととんでもない量だ。
「おそらく、俺たちと同じようにログインしていたプレイヤー全員がテレポートさせられたんだろうな……」
どうみてもざっと数千人はいるレベルだ。でもわざわざ全員を始まりの町に、という疑問が俺たちの中で出てきたころ、周囲のプレイヤーからざわざわと声が聞こえ徐々にボリュームが上がっていき、それは次第にいらだちを含んだ罵倒へと変わっていく。
「あっ!……上を見ろ!!」
と、不意に男が叫び、つられるようにその声に従って上を見るとそこには思わず目を疑うような光景が広がっていた。先ほど見たごつごつの天井を隠すように、深紅の市松模様が天井を埋め尽くしていく。よく見ればただ染まっているだけではなく、【Warning】と【System Announcement】の文字が交互に表示されている。
「ようやく運営からアナウンス、か?」
「マジで?……それなら普通にメールでいい、の……に」
周りのプレイヤーもそう思ったのか、ざわめきも終息し、みんなが耳をそばだてる気配が満ちる。だが、空を埋め尽くす真紅の空から出てきたのはだらりと血の雫のようなもの。それは地面に落ちることなく空中に止まってその姿を変える。落ちる雫は一点に集まっていき、そこから現れたのは大体20mくらいの真紅のフード付きローブを纏った巨人だった。
『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ。私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』
その巨人から発せられた名前には聞き覚えがあった。小さなゲーム開発会社のアーガスを最大手とまで成長させる原動力となった人。このSAO開発ディレクターであり、ナーヴギアそのものの基礎設計者その人の名前だった。
『プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかしゲームの不具合では無い。繰り返す。これは不具合ではなくソードアート・オンライン本来の仕様である』
「し、仕様だと……!?」
「……ってことは……ログアウトできないのが、普通?」
クラインの割れたささやきに重なるよう、なめらかな低音のアナウンスは続く。
『……また、外部の人間による、ナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合――ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』
今、目の前の巨人はなんといった?生命活動を停止させる?その言葉の意味を理解したくないかのように呆然と繰り返しつぶやいていた。しかし、あの端的で簡潔な宣言は嫌というほど頭の中を駆け巡る。
生命活動の停止、つまりは死。
ナーヴギアに何かすれば装着しているユーザーは死ぬ。
ざわざわと、集団のあちこちがざわめきだすも、ここにいる全員が今の言葉を受け入れたくないのか叫んだり暴れたりするものはいない。
「生命活動?マイクロウェーブ?……たかがゲーム機がどうやって……」
「……原理的には、電子レンジみたいに高出力の電磁波を頭にやれば、脳を焼き切ることはできる……」
「いや、でもゲーム機でしょ?そんな強力な電磁波なんて……」
『より具体的には、十分間の外部電源切断、二時間のネットワーク切断、ナーヴギア本体のロック解除または分解または破壊の試み。以上のいずれかの条件によって脳破壊シークエンスが実行される。この条件は、すでに外部世界では当局およびマスコミを通して告知されている。ちなみに現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視してナーヴギアの強制除装を試みた例が少なからずあり、その結果』
手を振りメニューを開いて巨人は言葉を続ける。
『残念ながら、すでに二百十三名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している』
「に、230人……が、もう死んでる……ってことか?」
茅場明彦の言葉に反射的にそう呟いていた。受け入れたくなかったが、体が自然とその言葉を飲み込み、手が震え、膝が笑う。キリトもふらふらとしつつもかろうじて立っているというところだ。クラインに至ってはその場でしりもちをついている。
「……信じねぇ、信じねぇぞ俺は……!ただの脅しだろ、できるわけねェって……こんなイベントに付き合ってる暇なんてねぇんだよ……そうだよ、これはイベントのOPだろ?」
「……それにしちゃ、おどろおどろしすぎない……?」
クラインと同じような望みを持ったプレイヤーに通告するかのように事務的な茅場のアナウンスは続く。
『諸君が、向こう側に置いてきた肉体の心配をする必要は無い。現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアはこの状況を、多数の死者が出ていることも含め、繰り返し報道している。諸君のナーヴギアが強引に除装される危険はすでに低くなっていると言ってよかろう。今後、諸君の現実の体は、ナーヴギアを装着したまま二時間の回線切断猶予時間のうちに病院その他の施設へと搬送され、厳重な介護体制のもとに置かれるはずだ。諸君には、安心して……ゲーム攻略に励んでほしい』
ここでついに、今まで狼狽えていたプレイヤーが叫びだす。「ゲーム攻略なんてできるか」「のんきに遊んでる場合じゃない」「こんなのゲームじゃない」などなど様々な言葉が飛び交う。
『しかし、充分に留意してもらいたい。諸君にとって、ソードアート・オンラインは、すでにただのゲームではない。もう一つの現実と言うべき存在だ。今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君らのアバターは永久に消滅し、同時に、諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』
これから俺たちの命は左上にある細い横線そのもの、だと宣言された。これが空っぽになり表記されている数値、ヒットポイントが0になった瞬間ナーヴギアに脳を焼かれて死ぬ、そう茅場はアナウンスした。
この瞬間から、このゲームはデスゲームとなった。
なんども負けてコンティニューを繰り返して相手の行動パターンを学んだり、プレイヤースキルを高めていく種類のゲームなのに、一度っきりの死亡ですべてが終わる。その上、やめることは許されないなんて。
「……ふざけん、なよ……」
自ら身を危険にさらし、死ぬかもしれないフィールドに出る奴なんてどこにいる。高度な自殺志願者くらいしかいないだろ、そんなの。
『諸君がこのゲームから解放される条件は、たった一つ。先に述べたとおり、アインクラッド最上部、第100層まで辿り着き、そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすればいい。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされることを保証しよう』
だが、茅場はその思考をも見通して、アナウンスを続けた。
どこかにある城ではなく、今俺たち全員の上に立っているこのステージを100層クリアしろ、そういったのだ。だが、キリトの話ではベータテストでは1000人のコアなゲーマーが挑んでも6層までが限界だったと聞いた。それを一度も死なずに100層までクリアするなんてどれほどの時間がかかるのか。
張り詰めた静寂が低いどよめきに変わってゆく。しかし、そのすべてが恐怖に包まれているというわけではない。おそらく、プレイヤーのほとんどは今の下りが本当のことなのか、イベントのOPなのか判断しかねている。
最初は俺も過剰なイベント告知だと考えたが、隣のキリトの反応がそうではないということを物語っている。
『それでは最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれたまえ』
「プレゼント?……なにこれ?」
なれない動作でメニューを開きアイテムストレージをみる。アイテムストレージを見てみれば、さっきまでなかったはずの手鏡と言うアイテムが入っていた。俺はそれをタップしてオブジェクト化する。キラキラという効果音と共に小さな四角い鏡が出現した。
それを手にとって見てみるが、そこにはいつも俺の顔をもとに作ったアバターの顔があった。……ぶっさいくな顔だな、こんなことならどうして俺はアバターをかっこよくしなかったのか、髪色を変えてみたりもうちょっとキリッとさせてみたり、などくだらない考えが頭をよぎったとたん、白い光が鏡を見ていた俺を包み込んでいった。
一瞬、目の前が白にそまり何も見えなかったが、白の光が晴れるとそこは先ほどと何も変わらない町並みが広がっていた。いや、もう一度見渡すと何かが違う。先程までは多種多様な髪の色や髪型、背格好が違っているプレイヤーがほとんどだった。が、今ではハロウィンでコスプレでもしたのか、というリアルな若者の集団がそこにあった。
「は、え…?どういうこと……?」
もう一度、先ほどの鏡をのぞき込むと対して変化のないものの、現実と全く同じな中性的な何の特徴もない俺の顔が映し出されていた。
「お前ら、キリトとリクヤか!?」
すると隣から山賊か野武士のような人物が話しかけてきた。キリトと呼ばれた人物を見ると、先ほど見上げていた背格好が俺と同じくらいになっているなどの変化が起きている。
「ってことは…お前、クラインか!?」
「え、えぇ!?そっちの野武士がクラインで……お前がキリトなの!?」
全員の声も変わっており、俺自身の声も現実のそれと変わらなかったが、そんなことを気にしていられる余裕もなかった。少なくとも全員は0から作ったアバターだったのに、多少の違和感のみというすさまじい再現度だ。
「……ナーヴギアは顔全体をすっぽり覆ってるから顔の表面も精細に把握できる……いや、でも体格は……?」
「もしかしてよぉ……俺ぁ、昨日買ったから覚えてんだけど、装着したときにセットアップでキャリブレーション?とかで自分の体あちこち触ったなじゃねえか。もしかしてあれか?」
「それが……あいつがいった現実、ってこと……!?……でもなんでこんなことを……」
頭をかきながら悩む俺にキリトが巨人に指さした。
「どうせあいつが教えてくれるさ」
するとキリトの言うとおり、上の巨人から声が聞こえ始めた。
『諸君は今、なぜ、と思っているのだろう。なぜ私は……SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか?この世界を創り出し、観賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた。……以上でソードアート・オンライン正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の健闘を祈る』
その最後の言葉とともに茅場晶彦は空に溶けるように残響とともに消えていった。やがて空は赤い空から元の青い空へと戻っていく。そして一瞬の静寂の後、広場はプレイヤー達の声で埋め尽くされた。
「嘘だろ……なんだよこれ、嘘だろ!!」
「ふざけるなよ!出せ!ここから出せよ!!」
「こんなの困る!この後約束があるのよ!」
「嫌ああ!帰して!帰してよおおお!!」
悲鳴や怒号、恐怖の声、罵声、懇願、そして咆哮。たった数時間でゲームプレイヤーからデスゲームの囚人に変わってしまった人たちは両手を突き上げたり、抱き合ったり、ののしりあっている。
「……ねぇキリト……これって……本当……っぽいな」
キリトに聞かずともその表情を見れば、すぐに結論にいたった。キリトは「茅場はこれくらいしてもおかしくない」と小さくつぶやいた。
ということは、ゲームをクリアする数か月、またはそれ以上の間俺はこのゲームをし続けなければならない。外のことは気になるが、それ以上に自分の命を死守しなければ気になっている外にも帰れない。もう一度テニスを楽しんだり、鬼のようなしごきを受けたり、テイルズを楽しんだり、そんな今まで当たり前だったことができなくなるんだ。
「二人とも、ちょっと来い……っ!」
キリトは俺とクラインの腕をつかむと荒れ狂う人の間を縫って、中心から何本も伸びる路地に入る。
「いいか、よく聞け。俺はすぐこの街を出て次の村へ向かう。だから俺についてこい」
「……それって」
「あいつの言葉が本当なら生き残るためにはひたすら自分を強化しなくちゃならない。MMORPGってのはリソースの奪い合いだ。システムが供給する限られた金とアイテム、経験値をより獲得した奴だけが強くなる。この《始まりの街》周辺のフィールドはすぐに狩り尽くされるだろう。リポップを探し回るよりも次の村を拠点にした方がいい。俺は危険な場所も全て知ってる。レベル1でも安全な道も知ってる。だから今の状態でも安全にたどり着ける」
「でもよぅ……俺は他のゲームでダチだったヤツと徹夜で並んでこのゲームを買ったんだ。あいつらまだ広場にいるはずなんだ……置いてはいけねぇ……」
クラインは先ほどまでいた広場に視線を移しつつ、そう口を開く。
「……クラインの知り合い全員……っ……ルートを再構築すれば……いや、それでも……」
「悪ぃ、お前にこれ以上世話になるわけにはいかねぇよな。だからきにしねぇで次の村いってくれ。俺だって前のゲームじゃギルドの頭張ってたんだ。お前に教わったテクでなんとかしてみせらぁ!」
クラインは自信満々にそういいきり、サムズアップさせた。
「そうか……悪い……リクヤは…」
俺に振られてきたがキリトの話を聞いて、そして今までキリトが教えてくれたことを思い出した。確かに、キリトについていけば安全だろう。でも、そのすべてをキリトに頼ることを、俺のこだわりが良しとしなかった。
答えはすでに決まっていた。
「ついていけば楽なんだろうけどね……でも俺はお前にとっての荷物になっちゃうと思うんだ」
「そんなことは……」
ないとは言い切れなさそうな表情を一瞬浮かべるキリト。お互いにレベル1、ステータス的には変わらない状況でお守りをするのは普通の状態でも拒否したくなる。だからこそ、キリトの親切はキリト自身を殺しかけない、俺のせいで死んだなんてあっちゃならない。
「それに、すべてキリトの世話になって足引っ張って楽するなんて状況がどうあれ俺が許せない。まぁ気にしないでよ。初心者は初心者なりにがんばらせてもらうし、身体動かすなら俺もそこそこ強豪校のテニス部でエースやってんだ。何とかなるさ」
「そうか…ならここで別れよう。何かあったらメッセージ飛ばしてくれ。」
「うん」
「おう」
キリトは目を伏せ、外へ続く道を歩こうとしたその時
「キリトッ!!」
クラインがキリトを大声で呼び止めた。視線で問いかけようとしてたが、続く言葉がなく頬骨のあたりが軽く震えただけだった。微妙な沈黙がお互いに生まれ、気まずいままキリトが離れようとまた元の道を進もうと振り返る。
「おい、キリトよ…お前、案外可愛い顔してやがんな!結構好みだぜ?」
「くっ……あはははは!!クライン、なんてこと言ってんだよ!」
その発言にキリトも思わず振り向く。さすがに俺は我慢しきれず、噴き出して笑ってしまう。キリトも踏み出そうとした足を止め、改めて俺たちと対面する。顔には若干の苦笑が浮かんでいるが、先ほどのような沈んだ表情は消え去っていた。
「おっしゃ、キリト―!!……お前に教えてもらった恩、絶対に返すから……それまで死ぬなよ!!」
「……こんな時なのに、お前らは……リクヤ、あだで返したら一生恨むからな!!クライン、お前もその野武士面のほうが似合ってるよ! 」
そう叫び、キリトは再び背を向け、ひたすらにまっすぐ走っていった。キリトの姿が見えなくなるまで俺たちはキリトを見送り、姿が見えなくなった後、クラインも広場に戻ろうとした。
「リクヤよぉ、キリトについていかなかったってことは俺みたいに待たせてるやつがいるのか?」
「そんなのいないよ」
「なら、なんで……あいつについてった方が楽だろうに」
「……こっからおんぶにだっこでお世話になってたら、そのうち死んじゃうよ。……それに、迷惑かけたくないし、俺もやれるだけやってみたいからさ」
「なるほどな……お前も絶対に生きろよ!」
「もちろん!クラインもね!」
俺はそういい、パンっとクラインとハイタッチをし、広場に戻るクラインを見送った。こっからは俺の冒険が始まる……その第一歩だった。こんな時南尾にも関わらず、恐怖心のほかに興奮が俺の中にあった。長年夢だったゲームの中に入る、ということができたという興奮もあるだろうけど、それ以上にキリトたちと練習をしていた時に見つけた「とあるもの」がその興奮をより一層高めていた。
この世界の技である【ソードスキル】そのほかにもう一つそのソードスキルとは違ったシステムも導入されていた。
あの、伝説のRPGや運命のRPGなどと呼ばれる『テイルズオブ』シリーズの技がシステムとして導入されていた。
キリトにも言えなかったのが心のこりだったが、これがあれば俺は戦える。
「……それじゃあ、飛ばしていきますか!」
と、意気込み進もうとした矢先。
「あれ?アンタ……もしかして陸也?」
俺が少し喜んでいるとうしろからそんな声が聞こえた。クラインの声とは違う、はきはきとした女性の声。このゲームに知り合いは二人しかいないけど、じゃあ誰なんだと不審に思い声の下方向へ振り替える。
「こんな時にどちらさ……お前まさか……悠香…!?」
声のした方へ対峙すると、幼稚園から高校まで同じだったどころか、昔家が隣同士だったという所馴、幼馴染がそこにいた。オレンジのような茶髪をし、男と並んでも小さく見えない身長とそれを活かすモデルのようなすらっとした容姿を持った美少女だ。そしてものすごい巨乳。というか爆乳。
「……機械に疎いアンタがこのゲーム買ってるなんてね」
「懸賞に当たったんだよ。でも、なんで……お前、ゲームしないんじゃ…」
「……アンタには関係ない。でも、ふふっ……そうね、彼と一緒に始めたの」
そう、全く見たことがないうっとりしたような表情で、その彼という人物に寄り添う。しかもその彼というのも半年しか入れなかった高校のクラスメイトだ。当然向こうも俺を知っている。
「……ち、自慢かよリア充」
「いや自慢じゃないけど、ねぇ」
「まぁ、負け犬ムードの陸也は置いておいて、俺たちは俺たちで生き残ろう」
「……えぇ!」
「いっやぁ、よかったっすね~。大好きな人と最後ができて。どうせHP切れたらいっしょに死ぬんだろ?」
突然目の前でいちゃつくカップルになんかむかついた。だから俺はその一言を発してやった。この世界はすでに現実と同じ、HPが0になったら死ぬということは先程の話で嫌というほどわかった。だからこの世界では痛みなく、一緒に死ぬことが可能。だったらん二仲良く死ねばいい。
「死ぬ気なんてない!私達は絶対生き残る!はっ、アンタもせいぜい歯食いしばってがんばりなさいよね~」
「ああそうだな、独り身なだけあってお前らみたいに互いが荷物じゃない。……じゃあな、これで永遠のお別れだ」
そう吐き捨てるように言い、俺はキリトに教えてもらった道を突き進む。幼馴染だろうがもう関係ない。それよりも俺は力をつけなきゃいけない、生きて恩を返すために、じゃなきゃ死にきれない。
移動しながら大剣を改めて装備し肩に担いで走る。
「ぅおおおおっっ!!」
だから……俺は……!!
後書き
…正直上手くかけたかどうかわかんない…
オリキャラ2人目まで登場させてるし…
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