銀色の魔法少女
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第十四話 時空管理局 前編
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4月26日の夜、空中で激突する影があった。
黄色い閃光を放つのはフェイト・テスタロッサ。
ピンクの砲撃を放つのは高町 なのは。
彼女たちが、ジュエルシードをめぐって、命懸けの戦いをしていた。
場所は海の近くのとある公園。
二人の迅速な行動により、暴走したジュエルシードはすぐに封印された。
事実、ジュエルシードは空中で綺麗に輝いているだけで、暴走の危険はない。
その下で睨み合う二人の人影があった。
フェイトの兄のレイ・テスタロッサ。
なのはの友人の戦場 遼こと、シグルド。
彼らは睨み合ったまま、一歩も動かない。
「のぅ、主の狙いはなんぞや?」
沈黙を破ったのは遼だった。
「さあ、敵に教えると思ってるのか?」
「は、それも道理よのぅ、……しかし、少し奇妙ではないか、なぜ主らのような年端もいかぬワラシが命をかけてあれを求める?」
「……お前、覚えていないのか」
レイは驚く。
目の前にいるのは間違いなく転生者なのに、その記憶がないらしい。
記憶の引き継ぎの時に何かあったか、それとも事故で記憶をなくしたか。
どちらにせよ、レイには好都合だった。
(プレシアことが知られていないのは助かる、これで奴にアジトを襲撃される心配はなくなった)
彼がアジトにする時の庭は、次元の狭間に浮かぶ要塞。
座標を特定されない限り、この場所にたどり着くことはできない。
一方、遼は混乱していた。
覚えていない? 何を?
生まれてからの記憶は、おぼろげだがちゃんとある。
私を産んでくれた両親、心配性のクリム、優しい友達のアリサとすずかとなのはのことはちゃんと覚えている。
じゃあ、何を忘れている?
レイの発言から察するに、彼らがジュエルシードを求めるわけを、遼は最初から知っていたことになる。
しかし、そんなことを知る機会なんて、今までに一度もなかった。
そもそも、クリムに出会うまで魔法のことなど知りもしなかった。
じゃあ、いつ知った?
考えられるとすれば、少し前に赤髪の彼が言ったあの言葉。
転生者。
つまり、生まれる前から知っていたということになる。
すると、レイや赤髪も同じ転生者ということになる。
と、ここまで考えたところで遼の頭が限界を迎えた。
(だめだ! さっぱりわかんない!)
遼は考えるのをやめた。
(いちいち考えるの面倒! こうなったら実力行使で聞き出すのみ!)
「我が何を忘れているのか、どうやら主に聞くことが増えたようじゃのう」
遼は刀を抜き、レイに向かって構える。
「死んでも教えないけどね」
レイも一般魔道士が使うストレージデバイスの杖を構える。
(? この前の槍じゃない)
「ほう、我はその程度で十分と申すか」
「まさか、奥の手を隠しているのはお互いさまだろう?」
(ん?)
そう言われて、遼は内心、首をかしげる。
(はて、私に奥の手なんてあったかな?)
改めて自分の戦闘スタイルを思い出す。
斬る、突く、弾く、あと殴る蹴る、面白いほどに魔法を使ってなかった。
一応強化や飛行魔法は使っているけれど、それは本当に基本中の基本だ。
シールドを使うよりも切り裂くことを好む遼は、戦闘にシールドを使ったことがない。
魔法陣を見せたのも、温泉での一件が初めてだった。
(なのはやヘイト?も魔法少女らしいのに、私って、ほんと脳筋だったんだ……)
(いえ、遼は脳筋じゃありません! ただ肉体で戦うのが好きなだけです!)
(クリム、あまりフォローになってないよ……)
クリムからの思わぬフレンドリーファイアにより、遼の心は大きくえぐられる。
遼の唯一魔法らしい魔法といえば、凍結のみである。
(けど、これ本当に手加減が難しいんだよね……、ん?)
目の前にいるのは、ちょうどすぐには死にそうにない強敵。
(一度、全力を試してみるのもいいかも!)
「そうじゃのぅ、一度全力でやるのも一興かもしれぬな」
瞬間、遼を中心に辺りの温度が急激に下がる。
レイはもう春だというのに、真冬に逆戻りした気分だった。
「凍結魔法、いや、凍結の魔力変換資質か、またレアなスキルを……」
遼は剣を鞘に収める。
「簡単に死んでくれるなよ、ここに魔導師はいなかった故な、我も己の実力がどの程度か測りかねていたところじゃ」
そう言うと、遼の姿がレイの姿から消える。
(やばい!)
レイは周囲にバリアを張るが、シールドより脆いそれでは遼の剣を受け止められるはずもなかった。
「!?」
真後ろからガラスが砕けるような音が聞こえ、振り返る。
命の危機を感じたレイの視界が色をなくし、動きが緩慢になる。
その剣がレイの首に届く前に、左腕を差し込んで止める。
骨が砕ける嫌な音がレイの耳に響く。
(バリアジャケットでも防ぎきれない!)
レイはそのまま弾き飛ばされたが、着地には成功した。
けど、更なる驚異が彼を襲った。
「まじかよ……」
防御に使った左腕が氷漬けにされていた。
よく見ると、遼の刀身が冷気をおび、水色に輝いている。
「さあ、本気でこぬならば残った腕も凍らせるが、どうする?」
遼は剣を収め、レイの様子を見る。
つまり、こう言っていた。
[本気になるまで待ってやる]
その余裕が、レイの心を焚きつけるが。
(舐めやがって! けど、明らかに俺とあいつじゃ相性が悪い、あの赤髪みたいに魔力重視で向かってきてくれた方が、アレも使いやすいのに)
レイのレアスキルは魔力のみに効果がある。
つまり、雷など発生した効果の方には何の効力も保たない。
となれば、体術と凍結を操る遼はまさに、天敵と言えた。
レイの心が焦りで満たされる。
そこに、神の助けとも呼べる好機がやってきた。
「ストップだ! そこの四人!」
睨み合う遼とレイではなく、ぶつかり合っていたなのはとフェイトの間に、彼は現れた。
「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ、詳しい事情を聞かせてもらおうか」
右手の杖でバルディッシュを、左手でレイジングハートを受け止める。
(しめた! 原作よりも早いが、ちょうどいい!)
『フェイト、アルフ! ここは逃げるぞ!』
『けど、ジュエルシードが――』
『捕まったらそこまでだ! また他のを探せばいい!』
『……うん、分かった』
フェイトをなんとか納得させ、アルフに目配せをする。
「墜ちろ!」
レイは残った右腕で魔力砲をクロノに向けて放つ。
「なんの!」
十分に魔力を込められていなかったそれは、クロノにも防げる程であった。
しかし、逃げるには十分だった。
レイはアルフにつかまり、フェイトは転移魔法を使い、三人で逃げる。
「しまった、エイミー、追跡できる?」
『ううん、連続で転移してるからちょっと無理っぽい』
「わかった、ありがとう」
エイミーとの通信を切ると、今度は空中に緑色の魔法陣が現れ、その中心に女性の映像が映る。
『クロノ、お疲れ様』
「すいません、二人は逃がしてしまいました」
『いいのよ、三人残ったのだし、彼らを案内してくれるかしら』
「わかりました」
クロノ遼たちに向き直る。
「というわけだ、君たちには事情を聞きたいから、僕の後についてきてほしい」
後書き
次回、アースラ内部に潜入。
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