DQ1長編小説―ハルカ・クロニクル
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Chapter-4 第14話
前書き
再び、オリキャラ登場しています。
Dragon Quest 1 ハルカ・クロニクル
Chapter-4
太陽と雨
第14話
勇者ハルカにとって、およそ2ヶ月ぶりのガライの町であった。
しかし、ハルカは以前訪れたときからかなりの日数が経った様に思えた。
嵐が過ぎて秋の気候になった。オパールの月に入って、心地よい気候が続くようになった。
街中の様子は以前とは変わりない。しかし、人々がハルカに注目するようになった点が異なっていた。
ただの旅人の一人に過ぎなかったハルカが、ローラ姫を救った勇者として迎え入れられたのだ。
中には「俺は最初からアンタのこと勇者だと思っていたぜ」と言う男もいた。
(……こういう人って、本当は嘘なんだよね)
ハルカはそう思いながら愛想笑いで男の言葉に応じた。
ガライの街には大きな石造りの建物がある。そこにガライの墓と言う名のダンジョンがあるのだ。
大きな扉は鍵がかかっていた。……しかしハルカはそれをあっさり破壊してしまった。
しかも鋼の剣で、ではなくて、自分の拳で。
建物の中は広く、ホールになっていて、中にはいくつか人の姿があった。ふてくされている商人風の男は中の人は壊したり、今はアレフガルド外に追放されたという怪しい人から鍵を貰ったり、アバカムという呪文を唱えたりとさまざまだと言っていた。
しばらくすると、いつの間にか鍵が復活しているのだ、とも教えてくれた。
「ああ、あんたも鍵を壊したのか。あの鍵はもろいから、オレは斧で一発で壊したよ。ただ、ガライの墓に近づけなかったな。結界が張っているだけじゃねえ。誰かいるんだよ。門番が」
兵士風の男は入ってきたハルカに話しかけてきた。彼は外の大陸のルプガナという街から来たと言う。ガライの街のお宝目当てに来たらしい。
「僕は拳で壊しましたよ。呆気なかったですね。で、門番って、人なんですか?」
「何とお前は拳で壊したのか!すごいな、勇者だな。よし、お前なら攻略できそうだから教える。門番は人の姿をしている。遠くて詳しくはよく分からなかったが、ひげのような物が見えたからたぶん老人だろう。だがなめてはいけない。なんかバチバチと火花を手から出していたからな。ベギラマでもなさそうな感じだ。しかし、結界はどう破るかだな。なんか魔法みたいな感じだろうか?」
「ありがとうございます。……ええ、僕、頼まれごとでガライの墓に行くことになったんですよ。参考になりました」
男は驚いた表情でハルカをまじまじと見ていた。
「そうかお前、ただもんじゃねえな。とりあえず死ぬなよ」
「……分かってますって」
薄暗いホールの中を進んでいく。その途中で、老婆は虚ろな目をして言った。
「……死にに行くのかい?」
「違います。墓参りです」
「まあ、せいぜい殺されないようにな……」
ハルカは気にもとめずに進んでいった。
そのようなことは、解っているから。
薄暗いホールが、真っ暗な空間になり、すぐに明るいところへ来た。
そして突然、水路が現れ、そこには橋が架かっていた。
ハルカは何も言わず水路を渡る。
すると、結界らしきベールが現れた。触るとバチッと音がし、一瞬ハルカの指に痛みが走った。
(やはりそのままでは通れないか……。魔法みたいな感じっていってたな。試してみる価値はあるか)
「結界を破壊せよ!マホトーン!!」
すると結界は硝子が割れた音を立てながら壊れていった。
(やはりそうか。魔法か)
ここを破れずに死んでいった者達はマホトーンを覚えていなかったか、あるいは知らなかったか。
ハルカはその関門を突破することが出来たのだ。
しかし、もう一つの関門が残っている。
そう、男が見たと言う門番。
彼は男が言ったとおりの老人で、手から火花を散らしていた。
ハルカはそれは何かと尋ねた。
「ライデインだ。とても強い、雷の呪文だ。くらうがいい。…命を落とすぞ」
老人はハルカに向けてライデインを放った。
……しかし、放った先にハルカの姿はなかった。
「!?」
「……十文字斬り」
ハルカは跳躍を利用し、老人の後ろに回っていた。そして剣は老人の体を切り裂く。
すると、老人の体は突然半透明化した。
「…ん?」
ハルカは老人が人間でないと悟った。
「……そうだ、私は幽霊だ。ガライ様にお仕えした男だ。ここを訪れる資格があるか、試していたのだ」
「……僕は」
「合格だ。さあ、ガライの墓の中へ行け。くれぐれも、お主の墓とならぬよう」
薄くなり、消えていった老人。しかししばらくしたらまた復活するのかもしれない。ハルカがここを越えても、また訪れる者が絶えないだろうから。
何も言わず、ハルカは足を踏み入れた。
中は闇に包まれていた。ハルカはレミーラを唱え、明かりを灯した。
内装は自然に出来た洞窟というより、整地して出来た建物が老朽化したような、遺跡ともいえる感じである。
噂どおりの魔物だらけのダンジョンだ。
それにしてもガライは何故こんな墓を作ったのだろうかとハルカは思う。
(銀の竪琴は魔物を呼び寄せると聞いたが……何の為だ?ロト様も持っていたとあの本には記述していたけど、よく分からなかったみたいだったな)
ハルカは次々と魔物を倒していく。ラダトーム周辺にいたとんがり帽子を被ったゴーストが魔力をつけ強くなったメトロゴースト、ヘルゴースト、妙な姿をしたドロル、ドロルメイジ、そしてハルカが手ごたえがあって戦うのが楽しいと思った相手、死霊の騎士を何匹も倒した。
その報酬としてハルカはトヘロスとべホイミを習得した。べホイミはホイミを強化した魔術だ。ホイミでは限界があったが、回復量がより増えた。
すると、見たことのある小さな妖精が現れた。ダンジョンの奥深く、目的地である墓石(とガライの遺体)本体の前。
「ん?君は?」
「あれ、僕が見えるの?」
「ああ。岩山の洞窟にいた豆人とは違うようだね」
「そうだよ。僕も豆人、名前はなくてもいいけど僕は名乗ってる。僕はジャン。君は?」
ジャンと名乗る豆人は岩山の洞窟で出会った者より少しからだが大きい。
「僕はハルカ。なんだか久しぶりで嬉しいよ」
「僕も久しぶりに人間と話せた。どの位そんな人間に会っていなかったか忘れたくらい久しぶり。ハルカは特別な人間の血でも引いているの?」
ジャンは嬉しそうにハルカの周りを飛び回る。
「僕は勇者ロトの血を引いているんだ。知ってる?」
「うん。昔、仲間と共に大魔王を倒した伝説の英雄だよね。凄い!子孫なんだ!良かった。大魔王を倒した後、行方不明って聞いたから。子孫がいたということは行方不明になった後でも何処かで生き続けたんだね」
ジャンは勇者ロトについて意外なほど知っていた。聞くと、そういう話は大好きだからと答えた。
「ああ。上の世界というところに戻って行ったらしいんだ。僕の父さんが異世界出身って聞いて」
「異世界!?凄いや!僕、そういうの好きなんだ。詳しく知らない?」
「うーん、そこにアリアハンという国があるということは知ってるけど」
ある男の忠告をあっさり破るハルカ。もっとも、相手が相手だけに大丈夫だと思ったのであろう。
相手は普通の人間には見えない種族だから。
「へえ。まあ、なかなか異世界にはいけないから仕方ないね。あ、そうだ。もしかしてここに来たのって、銀の竪琴を探しにきたの?僕が案内してあげる」
「ありがとう、お言葉に甘えさせてもらうよ」
ハルカはジャンの案内に沿って目的地である、墓石と銀の竪琴のある場所に着いた。
そこにはガライの遺体も安置されていた。それは、椅子に座っており、服はボロボロになってはいたものの、所々鮮やかな色が見えた。さらに、様々な美しい宝飾を身にまとっていた。腐敗は400年たっているとは思えないくらいだ。“腐った死体”という魔物に比べると豪華な見た目だ。
椅子の近くにある墓石には、“銀の竪琴はご自由に持って行って下さい。ただし、私の身に着けている宝飾は奪わないでください。もし、これを破った場合は、呪われるかもしれません”と書かれていた。
「銀の竪琴は持って言っていいんだな。ありがたく持って行かせて貰うよ。恐らく、訪れようとして死んだ人々はこれが目当てだろうね。でも、自由に持って行っていいって、僕の前にここまでたどり着いた人が出てくるって考えなかったのかな」
「いや、恐らく君へのメッセージなんじゃないの?僕はここ数十年は君以外にまともに生きている人間を見ていない。それに、たどり着いたとしても、……ほら、小さく端っこに文字がある」
ハルカはジャンに指された方向に目をやると、小さく“まあ、銀の竪琴を持っていっても、銀の竪琴が嫌だと言ったら残念だけど諦めるしかないね”と書かれていた。
ハルカは呆れながらも銀の竪琴に手をやる。すると、
「やっと俺を持っていっていい奴が現れた」
と声がした。銀の竪琴がしゃべっているのだ。
「……意思、持っていたんだね」ジャンが唖然とした顔で行った。
「そうだね」ハルカも苦笑いしながら銀の竪琴を手に取る。
目的は果たした。
「ジャン、悪いけどここでお別れだ。短かったけどありがとう」
「うん。君は竜王を倒すんだよね。それと、リレミトを覚えているんだね。楽しかったよ。さような……、うわあああっ!?」
「ジャン!?」
見るとジャンは体に切り傷を受けて倒れていた。
「くそっ、べホイミ!」
「……ゴメン、あ!ハルカ!逃げて!でかい死霊の騎士が!!」
ハルカは背後に殺気を感じ、とっさによけた。ドスッと鈍い音をたてて剣が振り下ろされた。
「……な、何だよ!?」
後ろを見ると、2メートル以上ありそうな、特別大きい死霊の騎士がいた。
「う、うわああ…」
「ジャン、君は下がって!僕はあいつの相手をする!おいお前!こっちには手を出すな!ギラ!!」
巨大な死霊の騎士は動きを止める。
「お前、竜王の敵だな。……くそ、火傷した。……ここでお前も一緒に朽ち果ててもらおうか!」
「黙れ!」
ハルカは目のない死霊の騎士の顔を睨みつけた。すると巨大な死霊の騎士はホイミを唱えた。
「うわあ、回復呪文使いだよ!ハルカ……」
「大丈夫だ。ここで負けては僕はロトの勇者の末裔失格だ。絶対に負けない……“横一文字”!!」
ハルカの剣は死霊の騎士の赤い衣服(?)を切り裂く。骨が砕く音もする。
しかし死霊の騎士はホイミを唱える。「無駄だ。俺はホイミを唱えられるんだ」
「ハルカ…」ジャンは心配そうにハルカを見つめる。
ハルカは表情を変えずに剣を死霊の騎士に向ける。いくらか手傷を負わせると、
「じゃあ、こうすると?……マホトーン!」
「なっ…!?魔法封印の術か!」
巨大な死霊の騎士は狼狽した。
「僕はただの戦士ではない。一人で戦ってるからな……“二重十文字斬り”!!」
鮮やかに死霊の騎士を捕らえる。
「あああ゛っ……」
ガラガラと音を立てて、死霊の騎士は呆気なく崩れ去る。
「は、ハルカ……強いんだ…凄い!」
「僕はまだまだだよ。ベギラマも習得しなきゃ。ジャン、大丈夫?」
ジャンの体はハルカのべホイミのおかげで傷一つない。
「うん。さ、今度こそ、さよならだね…。僕はもうしばらく、ここにいるから」
少し寂しそうに言うジャン。ハルカも名残惜しそうな顔をする。
「そうなんだ。……じゃあ、僕は行くからね。……さようなら、ジャン」
「ばいばい、ハルカ」
ハルカはリレミトを唱えた。
数日後、ハルカは雨の祠に来ていた。
「貴方のご命令通り、銀の竪琴をお持ちいたしました」
「おおハルカ!来たか!では、約束どおり、雨雲の杖を渡そう」
銀の竪琴を渡すと、雨雲の杖を受け取った。
「これで第二段階はクリアだ。……次は難しいだろうな。わしも最後の一つの場所がわからないんじゃ」
賢者はすまなさそうにハルカに言った。
「……メルキド方面に行ってみます。あるとしたら、そこでしょうから」
「そうか。これくらいしか出来なくてすまなかったな」
「いえ。僕もまだまだですから」
「気をつけるんじゃ。あ、最後の“証”を手に入れたら、ここにもう一度訪れて欲しい。出来れば、ローラ姫を連れて」
「……え?何故です?」
「……その時になったら話す」
ハルカは首をかしげながら、賢者と挨拶を交わし、雨の祠を後にした。
「…ということです」
ハルカはその後、ローラ姫に雨の祠で雨雲の杖を受け取った時の出来事を話した。王女の愛を通じて。
「そういえば、私のお母様が、異世界から来たって…」
「ああ。そういえばそうでしたね。宴の後、貴女が僕に“王女の愛”を渡した時に…」
思い出した。宴の後で二人で話したことを。
ハルカの父、ローラ姫の母。二人は異世界から来たという話。
ハルカは勇者ロトの子孫。
「もしかしたら、ローラ姫にもロトに関係するのでは……」
「否定、出来ませんね。でも今はまだわからないのですね。分かる時が来ることを今は待っていますね。ハルカ様、お疲れ様でした」
「ありがとう、ローラ姫。今から、ルーラでそちらに向かいますから」
「はい、お待ちしております」
ハルカはルーラを唱え、ラダトームへ戻る。
(ローラ姫も、ロトに関係する……、そうなれば、僕とローラ姫が持っている“王女の愛”に刻まれている、文字のことも、解ることになるんだろうな)
ふと、そう考えながら。
後書き
・ジャンは第5話に出てきた豆人とは違います。一応。
・巨大死霊の騎士は若干ボスっぽい感じにしました。
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