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鞄の中

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第一章

                        鞄の中
 手品師のマサミチ=ホンダは日系人である、父親が二次大戦後アメリカのカルフォルニアに移住してそこで産まれたのだ。まだ二十代だが売れっ子で引く手あまたである。
 だから外見も完全にアジア系である。手先が器用でそれを活かして手品師になった。
 実に様々な手品をする、ハンカチを出したりトランプを操ったり。
 とにかく色々な手品が出来る、勿論シルクハットや鞄から鳩も出す。
 その鞄からは何でも出る、それでだった。
 ファンは彼の鞄についてこう噂するのだった。
「あの鞄は何でもあるな」
「ああ、ハンカチにトランプにな」
「その場その場で色々出て来るよな」
「鳩も出るだろ」
「この前兎が出たぞ」
 全て彼の手品である。
「何か凄いな」
「本当にな」
「鞄な」
 ここでファンの一人がこんなことを言った。
「あの鞄普通の鞄じゃないだろ」
「普通じゃないって何だよ」
「どういうことだよ」
「だからな、あれだけ何でも出て来るんだぞ」
 一度の手品でそれこそ何でもだ、様々なものが出てそして入れられるのだ。
「あの鞄何かあるだろ」
「だから手品師の鞄だろ?」
「だったら当然だろ」
「いや、ひょっとしたらな」
 このファンは言うのだった。
「あの人自信普通の手品師じゃなくてな」
「違うってのか」
「普通の手品師じゃないのか」
「マジシャンはマジシャンでもな」
 英語では手品師と魔術師は同じ言葉になる、だから彼もここであえてこの表現を使ったのだ。だがそこにある意味は違い。
「ウィザードじゃないのか?」
「魔法を使ってるってのか?」
「まさか」
「いや、実際にそうじゃないのか?」
 彼は言うのだった。
「あまりにも凄過ぎるだろ、実際に何でも出して」
「しかもタネも仕掛けもわからない」
「だからか」
「ああ、火も吹くしな」
 ホンダはこの芸も出来るのだ。
「杖も急に出すだろ」
「あの鞄からな」
「どう見ても入らない大きさなのにな」
 それだけ長い杖も普通に出すのだ。
「だからか」
「そうしたことが出来るからか」
「あの鞄が特に怪しいだろ」
 彼はそう見立てていた。
「だからあの人手品師じゃなくてな」
「ウィザードか」
「そっちか」
「手品じゃなくて魔術を使ってるんだよ」
 こう主張するのだった。
「だから凄いんだよ」
「ううん、まさかと思うけれどな」
「幾ら何でも」
 他の者達も否定しきれなかった、それでだった。
 ファン達の間で彼のその鞄が話題になりだした、それで彼がショーを終えるとよく囲んでこう問う様になった。
「その鞄何ですか?」
「普通の鞄なんですか?」
「とにかく色々なものが出て入りますけれど」
「それも物凄く一杯」
「どういう鞄ですか?」
「はい、この鞄ですね」
 ホンダは外見もいい、身長は高くすらりとしている。アジア系のすっきりとした顔立ちに綺麗な黒髪を短く七三に分けている、しかも脚が長い。
 タキシードも似合う、その彼が笑顔で言うのだ。 
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