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魔法少女リリカルなのはA's The Awakening

作者:迅ーJINー
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第十二話

 
前書き
 待たせっぱなしで非常に申し訳ない。 

 
「オラオラァッ!」
「ハッ!」

 フレディの拳とビスカイトの剣が火花を散らす。ここまでフレディは何度もビスカイトの剣を破壊しているのだが、その瞬間に再生される上、その間にビスカイトが一気に距離をとるため、ジリ貧状態。しかしフレディは戦えることへの喜びか、獰猛な笑顔を向け続けている。

「いいねいいねェ、最ッ高だねェ!」
「この戦闘狂が……」

 ビスカイトは無表情だが、発せられた声からは悔しさのようなものがにじみ出ている。衝撃波だけでなく、剣から魔力弾を機関銃の如く飛ばしたり、接近してくると地面を抉りつつ振り上げてみせるなどの牽制するような動きは見せていても、それすらまるで恐れずに真っ直ぐ向かってくるフレディを前に、戦い方の再構築を行っているようにも見える。しかしこの男の凄いところは、フレディを相手にして指一本自らの体に触れさせていないところといえるだろう。

「こういう奴に一撃ブチ込むとどうなるか、すっげぇ楽しみだわぁ……」
「そんな物騒な趣味など勘弁だな」
「まぁ、普通はそうだろうな。だが……」

 ビスカイトが剣でフレディを弾き飛ばして距離をとる。するとフレディは一旦動きを止め、右拳に魔力を収束し始めた。

「俺は生憎と『普通』じゃないんでね」
「今更普通だとか言われても困るが」
「そりゃそうか。グロウル、あれ行くぞ」
「すでに準備してるぜ旦那」

 そう返したフレディは右脚を下げて体勢を低くし、スタート直前の陸上選手のような姿勢をとる。それを見たビスカイトも自らの剣に魔力を収束させ始める。

「こいつを受けて無事でいられた奴はそういない。アンタはどうかな?」
「なるほど、必殺の一撃という奴か。いいだろう、撃って来い。正面から止めて見せよう」
「言ってくれるねェ……その言葉、信じてるぜ?」

 充分な魔力がチャージされたか、急発進をかけた。まるで短距離走者のようなスタートだが、そのスピードは常人の目には見えない。

「いつでも来い」
「そうかい、ならどう捌くのか見せてもらおうか……殴貫撃!」
「ブンナグゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウルウウッ!」
「ハァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに相手の心臓を狙う一撃。わずかな時間の中で、ビスカイトはそれをかわすことはできなかった。いや、かわすつもりなどなかったのだろう。タイミングを合わせて拳を剣で、言葉通り正面から迎え撃った。




 そんな時、ロドスシルトは二人の下を離れてフードのようなものを被り、先程の不良グループのところに顔を出していた。彼らの中でまともに喋れたのは、アスカに一撃もらった者だけ。シグナムにやられた者は未だ体が安定しないのだろうか。

「貴様達、失敗したそうだな」
「すいません兄貴……まさかあんなことになるなんて想像もしていませんでしたんで……」
「フフフッ……大丈夫だ、問題ない。気にするな」
「じ、じゃあ……」

 それを聞いて救われたと思ったのか安堵する男だが、それに続くロドスシルトの言葉に顔を青白くする。

「最初から貴様らに期待など全くしていなかったからな。ただまぁ、せめて払った金に見合う働きはするだろうと思っていただけだ」
「そんな……」

 金の話が出て気落ちしているところをさらに畳み掛ける。

「それにこれを閣下が聞いたらどう思われるかな?」
「な……」
「残念だが、貴様らにやるチャンスはもうない。既に我々は今回のここでの任務も終えつつある。金をもらいつつ仕事は達成できないでは、中途半端に情報を持っている以上私としてもこのまま生かしておくわけにはいかんのでな」

 冷徹に、機械的に殺すと明確な殺意を向けられた青年は震える。そこにあるのは怒りも悲しみも憎しみもない、ただ純然たる殺意。遠まわしとはいえ、ただ殺すとだけ言い放ったに等しいのだ。それを聞いた青年はすぐさま土下座をして、涙と汗で濡れた顔を泥だらけにしつつも頼み込む。

「お願いします!もう一回、もう一回チャンスをください!」
「君たちには残念だが、私たちにはもう時間がないのだ。恨むなら一度で決め切れなかった自らの無能さを恨め。私とて、この国の若い命を散らすのはいささか不本意ではあるがね」

 しかし、現実は非情であった。そういってロドスシルトは、特殊なデザインをした拳銃型のデバイスを取り出すと、彼に向ける。

「……さらばだ。名もなき若人達よ」
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」

 その場に、数名の断末魔の叫びが轟く。しかしそれを聞いたのはロドスシルト一人で、その場所には彼らがいた証のようなものは布切れはおろか糸くず一つ残されていなかった。完全に消滅したようにも見えるが、彼らの体はどこへ行ったのか。

「閣下……我等が悲願はまだ先です。このようなところで御無理をなさらぬよう……」

 月明かりに頭を垂れる彼のその姿はまるで、整った見た目も相まって月からの使者を思わせるものがあった。

「あなたが倒れることは、我等が悲願は永久に叶わないことを意味するのですから……不死者と呼ばれる我等であっても、いやだからこそ、ベルカによる滅びの運命など認めてはならないのです」

 ロドスシルトはそうつぶやくと、その場から一瞬で転移して見せた。



 ビスカイトは、フレディの一撃を真正面から剣で受け、弾き飛ばしていた。しかしそれにほとんど魔力をもっていかれたのか、息を整えるのに時間がかかっており、立つのがやっとと言ったところに見える。

「ハァ……ハァ……ハァ……どうだ……」
「へぇ……すげぇなぁお前。アレを初見で防ぐとは、正直驚かされたぜ」

 あれほどの一撃を打ち込んでおきながら、平然とそう返すフレディの右腕は、肩から吹き飛んでなくなっていた。血しぶきが舞い上がるかと思われたがそんなことはなく、まるで最初からそこにつながりなどなかったと言わんばかりにきれいに切断されたように見える。

「しかも俺の右腕まで持っていってくれるとはよ。こりゃぁこれまで以上に本気でかからんといかんなぁ」
「……貴様は、一体「何」だ……?人間で、あるようには……ゴホッ」
「まぁ、まともじゃねぇのだけは確かだわな。そら、行くぞ!」

 しかし、先程の一撃を捌くことでほとんどの魔力を使い切ってしまったビスカイトに、襲い来るフレディの猛攻を防ぐことはほぼ不可能だった。

「貴様……なぜ隻腕で、ここまで暴れられる?」
「素直に答えるとでも思ったかよ?知りたきゃ殴って聞きな!」

 壊れかけの剣、ボロボロで思考に追いつけない肉体。もはやフレディの攻撃に耐え切れるものではなく、ビスカイトからすれば絶体絶命のピンチ。フレディが姿勢を崩して片手で体を支えると、それを軸にした水平蹴りでビスカイトは倒されてしまう。

「がはっ!?」
「そらよッ!」

 フレディはそのまま起き上がると、まるでサッカーのフリーキックの如く右脚を振りぬいた。上空へと打ち上げられたビスカイトを追おうとそれを追って飛び上がる。

「かぁらぁのぉ、エアリアルコンボォッ……何?」

 しかし、その時にはビスカイトの魔力反応が周辺から消失していた。

「……転移しやがったのか?」
「まぁ、妥当な判断だろうな。グロウル、周囲に反応は?」
「あのもう一人のほうも含めてなくなっちまってる。どうする?」
「場所がわからねぇなら無駄に追いかける必要はない。帰る」

 相手が消えたことで諦めたのか、彼はそのまま着地すると、転がっていた自らの右腕を右肩のあった部分に合わせた。肉がうごめくというのかなんというのか、生理的嫌悪感を催しかねない奇妙な音が周囲に響くと、まるで切れた部分など最初からなかったかのように元通りになっていた。右腕を軽く動かして感触を確かめると、森から出ようと歩き出す。

「ブンナグールを正面からはじき返すなんて真似しなけりゃ、もちっと遊べたんだろうなぁ」
「でもかわしようがないぜあれ」
「距離があるときに打ったら基本正面にしか飛ばないんだからかわそうと思えばやりようはある。ただし『見えれば』だけどな」

 宵闇に消え行くその姿は、孤高の狼か、それとも鬼神か。



 その翌朝、竜二はアスカと共に自室で目覚めた。互いに全裸なのはアスカの仕業か。

「おはようございます、主」
「ん、ああ……もう突っ込むのも疲れた」
「ぶー、体に突っ込む体力もないんですか?」
「またそれかお前。今日くらい夜でよかろう」

 いつも朝からやっているのだろうが、それをはっきり聞くのは野暮だろう。

「シグナムは……あ、はやての迎えか?」
「そうですね。主が寝てからすぐに向かいましたよ」

 昨夜一緒にいた剣の騎士の姿がないことをいぶかしむが、すぐに答えにたどり着くあたり頭の回転は鈍っていないようだ。

「そうか……そういや、誰が見てくれたんや?高町家か?」
「直人さんでしたよ?」
「アイツか……襲ってたら殺す」
「流石シスコン」
「お前もそう呼ぶんかい……とりあえずシャワー行って来る」
「あ、お背中お流し……」
「いらん。出る用意しとけ」
「ぶーぶー」

 そしてむくれるアスカを尻目にけだるげに体を起こし、下着を掴んで風呂場へと向かう竜二であった。それを追ってアスカも洗面台へと向かう。

「……夕べ私が来るまで気絶していた、それも突然倒れたということは……また『アレ』ですか」

 シグナムが竜二に膝枕をしていたので、アスカが到着してから交代したのだが、彼はそれに全く気付いていなかったどころか、夕べ聞いた段階では椅子から崩れ落ちてから昨夜不良グループに襲われるまでの記憶がないと言ってのけた。それについて彼女には心当たりがあるようだが、果たして。

「まぁ、無事に今日が終わることを祈るとしましょうか。さて、朝ごはん作らないと」

 鼻歌を奏でながらキッチンへ向かう姿は、献身的な妻の姿に見えたとか見えなかったとか。



 そしてハラオウン家が借りているマンションの一室では、ちょっとした騒ぎが起こっていた。フレディがいきなり転移魔法でリビングに現れ、どこで失敬したのかワインの瓶を片手にラッパ飲みをして一息ついてからリンディの部屋に入ったところを、空気というか魔力なのか、それを察知した彼女が飛び起きて殴りかかった。ちなみにフレディは赤い半袖Tシャツにカットジーンズで、見事な脛毛を披露している。リンディは寝巻きにしているらしい紺の浴衣姿で、寝起きだからか豊かな胸元がはだけそうになっている。

「よう、リンディ。おはようさん。よく眠れたかい?」
「おはようフレディ。よく眠れたけど、目覚めは最悪ね……この私の寝込みを襲うとはいい度胸じゃないの、アァ!?」
「こういう時、古い言葉じゃ夜討ち朝駆け上等ってんだろ?アァン?」
「オイテメェ言葉の使い方間違ってんじゃねぇのかコルァッ!?」
「おいおい仮にも女だろうがよお前さんはよォ」
「テメェの前で女ぶってられるかこのクソ外道がァ!」
「おうおう吼えなさる。まぁ間違っちゃいねぇわ、クククッ」

 どっちも笑っている。互いに見目麗しいだけに、とてもすばらしいほど、見るものを魅了するほどの笑顔。ただし纏う雰囲気がどちらも普通ではない。殺気立つどころか殺意あふれる笑みである。フレディにつられてか、リンディがもはや寝起きのテンションではない。完全にキレていてキャラが崩壊しているといっても過言ではない。

「今だけはあの子の命握られてないから、安心してブッ殺せるわよねぇ?」
「ほう、吹くねぇ。だが鋼とは呼ばれていても、旦那の後継いで現場から離れて何年にもなる管理職の人間が、生涯現役ぶっちぎり成績トップのこの俺様に敵うって言うのか?」
「アンタはこっちに来ても相変わらずってわかった時点で容赦してらんないわ」
「人の話聞いてたかオイ?」
「問答無用じゃ表出ろコルァッ!」
「母さん朝から何騒いで……失礼しました」

 どたばた騒ぎを聞きつけたクロノが空気を呼んで静かに部屋を去り、洗面所へと向かっていった。両者共に気付いていないのか無視しているのか。

「こうなりゃ……」
「今度こそ……」
「「ブッ殺す!」前に犯してから殺す!」

 そして互いにバリアジャケットを展開して転移魔法を起動し、部屋から姿を消した。ちなみにクロノは直人と一緒にはやて達を家まで送ったあと、一人で帰宅した。

「……許せないし、殴りたいのは確かなんだけど、ああなった母さんとフレディ一佐を止められる気がしないんだよな……あれに巻き込まれて死にたくはないよ、僕も。はぁ……今日も朝から忙しいのに」

 一人ぼやくエリート執務官の少年であった。ちなみにこの部屋全体、扉を隔てて世界をわずかに歪ませており、どんなに騒ごうが暴れようが他の部屋や建物に影響することはないという謎仕様である。どうやっているのかは不明だが、これでリンディとフレディがギャーギャー騒いでいても他の住民から被害がくることはない。改めて言うが、どうなっているのかは全て謎に包まれている。



 海鳴ロックフェス二日目。前日が海外バンドだったので、この日は邦楽バンドのカバーオンリーとなる。そのステージにやってきていたのは、竜二たちだった。

「さてと、今夜までノンストップやでな」
「そうだな。えーと、今日は……一番多いのはなんだかんだ言ってもBUMPとRADだな。その次にエルレ、ワンオク、ホルモンか」

 たいてい日本のロックフェスならば名前を聞くラインナップである。

「我等若者の王道やなぁ。他には?」
「ラルグレ勢とかディルガゼサディ辺りのヴィジュアル系グループも結構いるな。ただ俺らの後には狙い済ましたかのようにヘヴィメタル勢目白押しだぜ。ガルネリにアンセムにX、陰陽座にサーベルタイガーにマシンガンズと来てる。俺ら以外にもラウドネスやるのがいるな」
「勇者や、勇者がおるで。ビリビリと来るモンがあるわ……」

 V-ROCKフェスやJACK IN THE BOX勢、さらにPURE ROCK FESなどのメタルフェス勢まで登録されている。流石の竜二もそれだけのラインナップを見せられるとプレッシャーを感じているようだ。

「あれ?そういや海外組と違ってオールドはやらんの?」
「うーん、The ALFEEとかアリス、それからRCサクセションとかは名前があるぞ」
「急にオッサン臭くなったな……お、サザンとかTUBEもちゃんとおるやん。しかし見てると爆走ナンバーばっかりやなこれ」

 オールドなんだからオッサン臭いのは当然だろうがとは思ったものの、口には出さない矢吹であった。

「ほんとだ。ああそういや、今日はジャムセッション何するか聞いてるのか?」
「knotlampの『Last train』やったかな。後一曲は勝手に決めていいらしい」
「結構珍しいところもってきたなそりゃ」
「わからんでもとりあえずリズムにあわせてヘドバンモッシュできる曲もってきたんちゃうか?合いの手ないし、そんなに変拍子もないし」
「バンギャもいないだろうからへんなフリがついてたりもしないだろうしな」
「そゆこっちゃ」
「二人ともー、そろそろ開演なんでステージから離れてくださーい!」

 バックステージで喋っていたため、スタッフから叱られる二人であった。



 そんな中、翠屋組は今日も店舗営業に追われていた。ポテチを手元にしつつ悠々自適に酒を楽しむフレディにはもはや誰も触れない。そんな彼をうまく撃退できたのか、リンディが無傷のまま彼の相手をしている。

「ところでリンディよ、預けたアレだが、まだちゃんとあるだろうな?なくなってたらお前さんの首が飛びかねんよ」
「……ああ、アレね。艦のスタッフに聞いて頂戴。勝手に誰も持ち出してなければあるだろうけど」
「あいよ、そっちもお忙しいこって。後で問い合わせるわ」

 もはやリンディも翠屋における美人スタッフの一員として扱われている。どっちが本業かわかりゃしないとはフレディとクロノの談。

「さて、今日はこの国のバンド尽くしだったかな。何が聞けるか楽しみだ」
「お母さーん、あの人昼間からお酒飲んでるよー?」
「しっ、見ちゃいけません。あんな大人になっちゃダメよ!」

 そんな彼の横を通り過ぎる親子を見ながら、本人は相変わらずクックックと笑い声をもらす。

「まぁ確かに、悪い大人の見本だよな、俺ってのは」
「そんな自分が気に入ってて今更止められないのが一番の問題じゃねぇのか、旦那」
「そりゃそうだ。昨夜も女だけのところ突撃して二、三人食ったし」
「自慢することじゃねぇぞそれ!」

 独り言の如く小声ではあるが、リンディには聞こえていたらしい。対面から圧力を与えるような凄まじい笑顔を見せる。

「へぇ……そういうこともこっちでも相変わらずってわけね。これ以上迷惑ばら撒く前にさっさと帰ったら?」
「だからこの祭りが終わったら帰るってんだろうが。上にも帰るのは明日だって伝えてあるしな」

 平然とふんぞり返るフレディをさらに詰める。

「仕事は終わってるんだから今から強制送還してもいいんだけど?アンタ確か戻ったら書類の山よね?始末書やら決算書やら、どうせやらずにほったらかしてるだろうし」
「そんなもん一週間くらい寝ずにやりゃ全部片付くわ。それにクソ忙しい客商売の合間にんなことしてる暇あんのかよ?」
「今忙しいのは私だけよ?アンタみたいなクソの相手なんて私しかできないでしょうからね」
「クックック、そいつは確かに」

 これをフレディ相手に平然と言ってのけるのは、流石時空管理局の上級管理職と言ったところだろうか。胆力が尋常ではない。まぁ朝から激しいバトルを繰り広げるだけあって、ただものではないが。

「だがこっちの陣営じゃ、お前さんじゃなけりゃ誰も俺には勝てない。それもわかってるんだろう?」
「……本当に腹の立つクソ野郎ね、アンタってのは」
「お褒めに預かり恐悦至極。ほらほら仕事仕事、ほかにも客がわんさかきてるぞ?」
「サボってる奴に言われるのが一番腹立つわ……あ、いらっしゃいませー!」

 なんだかんだ言ってもリンディにとってこの仕事は気に入っているらしい。普段している仕事より楽しそうにフレディには映った。

「いけねぇ、酒切れちまった。金どんだけ残ってたっけな」
「オイオイ、また打ちに行くのか?」
「仕事の片ァついたし明日には帰るからこっちの金はもういらねぇよ。酒なりメシなり女なりで全部吹き飛ばすわ」

 確かに、この世界でないのならば資金など持っていても、せいぜいお守り程度にしかならない。同じ世界の違う国にいくのならばまた話は違うのだが、そもそも管理世界ならともかく、管理外世界をまたぐ換金レートは流石に存在しない。

「そうかい。しかしまぁ、こっちにきてから一ヶ月もかからなかったな、旦那」
「ま、俺は優秀だからな。あっという間にやることなくなっちまうわ」
「裏では、な。表立った仕事なんざ凶悪すぎてできねぇ癖によくいうぜ」
「ドブさらいってのは大事なんだよ、どこの世界でもな。それに生涯現役が俺のモットーだ」
「やれやれだぜ……」

 そういってほくそ笑むフレディに、呆れたようにため息を漏らすグロウルだが、思い出したように話題を変える。

「そういや、昨日の連中との決着はどうするんだ?」
「さぁな。でもお前の探査にすら引っかからないってことは、もうこの世界にはいねぇんだろ?」
「おそらくな。でもまだわからねぇ。かなり離れられたところで結界張られたら気付けねぇからな」
「おいちったぁ仕事しろやアンティーク。スクラップにしてやろうか?」
「こんな朝っぱらから飲んだくれてる旦那に言われちゃ世話ねぇや!」

 からからと笑い飛ばすグロウルとフレディ。しかし彼の右手にはシルバーリングが握られており、とある男の断末魔が……デバイスのためフレディの脳内で響き渡った。




 ちょうど同じ頃。直人はアルフと共に子供たちを守護騎士のもとへと送っていた。直人はフェスのTシャツに青のデニム、白いスニーカー。アルフもフェスTを着ていて、下はカットジーンズにワインレッドの光沢が施されたハイカットスニーカー。二人共尻ポケットに財布を入れており、腰にチェーンが伸びている。

「楽しかったねー昨日」
「うん!やっぱりお泊まりっていいね!」
「また温泉とか行きたいなー」
「ちょ、温泉とか行ってたん!?いいなー行きたい!」
「次ははやても誘うよ」
「あ、アタシらも行っていいのか!?」
「いいと思うの!」

 とりとめのない会話をする子供たちを直人が引っ張り、アルフが後ろから見守る。

「そろそろ合流予定の場所なんやけど……あ、おったおった」

 すると直人が、フェスTシャツにデニムのホットパンツ、黒のスニーカー姿でキョロキョロしているシグナムを発見した。こちらに目が来ておらず、不安そうな表情は、やはりはやての心配か。

「携帯鳴らして、と……」

 シグナムの携帯番号にダイヤルし、携帯を耳に当てる直人。

「もしもし?」
「もしもしシグナムさん?近くまで来てんけどどこおる?」
「え?もういるのか?えーと……あ」
「ん?あ」

 直人は既に見つけていたのだが、わざと見つけていないフリをした。先にシグナムに見つけてもらうほうがスムーズだと考えたからだ。そして携帯を閉じてデニムのポケットにしまう。

「どうも、おはようさんですー」
「ああ、おはよう。どうやら皆無事のようでなによりだ」

 シグナムの表情が安堵に変わる。かなり心配していたようだ。過保護気味な母親の様だと直人は後ほど語る。

「まぁ、俺とアルフとヴィータがいましたから、何かあっても対処できますよ」
「それもそうか。そういえばお前は今日出番があるんだろう?」
「ええ。これからメンバーと落ち合ってきます」
「わかった。後は我々に任せてくれ」
「はい。それじゃ、ステージで待ってますよ!」

 そう言って直人は子供たちに一言残し、一人離脱した。

「じゃ、残りの守護騎士と合流しますか」
「そうだな」

 そして彼女たちも歩き出した。向かうは仲間達の待つ飲食・休憩スペースである。 
 

 
後書き
 忘れちゃいけないシーンを思い出したので追加しました。それでも一割増えた程度って…… 
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