管理局の問題児
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第12話 ファーストアラート
それは唐突に訪れた。
六課内に響き渡るアラート。
(一級警戒態勢…)
今日も今日とて新人たちの訓練に混じっていたリクは、アラートを聞きながらそう判断する。
「皆、待ちに待った本番だよ!」
と、いつも通りのテンションのまま、なのはそう言う。勿論誰も待ちに待ってはいない。むしろ、初めての実戦で、四人には緊張の方が色濃く表れていた。
そんな四人を見ながら、リクは懐かしい感情を思い出す。
(俺も最初はあんなだったな)
昔を少しだけ思いだしながら、リクは静かに気合を入れるのだった。
◆
「は?行かない?」
理解不能と言わんばかりに、リクは口を大きく開ける。まさにマヌケ顔だ。
そんなリクの前にはレイとアキ。
任務だと言い、リクが呼び出したのだが、二人とも寝ていたのか、寝間着のままやって来た。ちなみに寝間着と言っても、レイはボクサーパンツだけで、アキはパンツ一枚だけだ。レイはともかくアキは上半身裸だった。
が、その程度ではリクとレイは動じない。
「ああ、めんどーだから行かねー」
と、相変わらずやる気のない声でそう言うレイ。
「アタシも怠い。それに今回の敵はクソブリキだけなんだろ?ならアタシが出る必要ねえだろ。雑魚は雑魚に任せてろよ」
アキも相変わらず口が悪い。
リクは二人の言い分を聞いて頭が痛くなった。勿論リクが強く言えば、最終的には二人は従うだろう。しかし、結果的にリクは二人を待機させる事にした。
「仕方ねえな」
そう言って二人を部屋に返した。
リクは、輸送ヘリの発着場に向かいながら、ある事を考えていた。
(今回の事件の首謀者と言われるジェイル=スカリエッティ。俺が知る中で恐らく一、二を争う頭脳の持ち主。ガジェットを量産し、レリックを手に入れ、あいつは何がしたい…)
リクは僅かながら、戦慄した。
何がしたいのか分からない。それほど不気味な事はない。
相手が何をしたいのが分からない。だから結果的に後手に回らなければいけなくなる。今現在も、まさに後手に回っている。
「っち、ウザッてぇ」
そうポツリと呟く。
アキの影響なのか、リクは本気でイライラすると口調が荒くなる。勿論アキ程ではないが。
スカリエッティが何をしたいのか分からない。
だからこちらの戦力を晒すのは可能な限り避けたい。故にリクはレイとアキの二人を待機させた。恐らくこれからもリクは二人を待機させるだろう。
(敵が俺を、俺だけを最大脅威だと認識すれば、向こうの最大戦力を俺にぶつけるはず。そうなれば、あのバカ二人を最大に活かせる)
現状、後手に回るしかない。しかし、リクは後の事を考え、罠を仕掛けておいた。まあ、罠とは呼べない単なる戦力温存なのだが。
(別にいいだろ。智将ぶったって)
リクは誰にともなく内心でそう呟くのだった。
◆
「え!?来ないのあの二人!?」
ヘリの発着場に着いたリクは、整列していた新人の横に並び、なのはに二人、レイとアキが来ない事を告げた。
なのはは、流石に実戦は来るのでは。と思っていただけに少しばかり驚いた。
「まあ今回の任務はこの戦力で十分だろ。こいつらの新しくデバイス手に入れたし」
そう言ってリクは新人四人を見る。
リクの視線はエリオ、キャロを過ぎ、スバルとティアナを捉える。
スバルはリクと目が合うと、少しだけ頬を染め、照れたように微笑む。ティアナは顔をスバル以上に赤く染め、不機嫌な表情でそっぽを向く。
そんな二人に思わず苦笑し、前を向くと、そこには顔を不機嫌そうに歪めたなのはの顔が眼前にあった。
「どうした?そんな不細工な顔をし―――ぐぼらっ!!」
思わずふざけてしまったリクの顔面になのはの拳が突き刺さる。
最近更にリクに対して甘える…という名の鉄拳制裁が増えてきたなのは。少しでもリクが自分以外の女子と仲良くしているとついつい拳が出てしまう。
「そういうお年頃なの」
「嘘付けコラ。世界中の女子がお前みたいのばっかだったら少子化所の騒ぎじゃねえぞ。人類絶滅だわ」
「リクくんはこういうのが好きなんでしょ?」
「俺の性癖捏造するの止めてくんない?」
「またまた~」
「だから違うって言ってんだろうが!!」
任務前にもかかわらず余りにも緊張感に欠け過ぎている二人。
それを見かねたはやてから通信が入る。
『こぉらアホ二人!夫婦漫才しとらんとはよ出撃せんかい!!』
その怒声にリクは黙り、なのはは申し訳なさそうに先程までいた場所に戻った。
そして、なのはは一度咳払いすると、先程とは変わり、真剣な表情を浮かべる。
「さて皆、今回は山岳地帯を走るリニアレールがガジェットによりコントロールを奪われたの。そしてそのリニアレールにはレリックが積んであるんだ。だからこれをわたし達で回収するよ。いい?」
その問いに、新人四人は元気よく「はい!」と返事をした。
「うん。良い返事だ」
なのはは笑う。
そして出撃するなのは、フェイト、リク、そして新人の四人はヘリに乗り込んだ。
◆
目的地に向かうヘリに中、リクは恐ろしいほどリラックスしていた。
それもその筈。リクにとってガジェット等敵ではないのだ。Ⅰ型だろうが、Ⅱ型だろうが、雑魚でしかない。
ガジェットが出すAMFも厄介ではあるが、現在出せるAMF出力では、リクの攻撃は止められない事は分かっている。
しかし、新人たちはそうではない。
スバルとティアナはそこまでではない。それはリクが二人との訓練の時に、殺気に慣れさせるなどの事も行っており、その結果、恐怖に対する耐性は格段に上がっている。
問題はエリオとキャロだった。
そしてその二人の中でも特に目に見えて問題なのはキャロだった。
キャロは顔を半ば青くして、鎮痛な面持ちで座っている。隣にいるエリオが、言葉を投げ掛けているが、あまり効果が見られない。
「怖いかキャロ?」
リクは思わず声を掛ける。
リクに話しかけられた事にキャロは多少は驚きながら、素直に首を縦に振った。
「ごめんなさい…」
そんなキャロに、フェイトは思わず声を掛けそうになるが、それより早くリクが言う。
「まあ、初めての実戦は怖いよな。怖くて当たり前だ。俺だって、フェイトだって、あとついでになのはだって怖かった」
「わたしついで!?」
なのはの突っ込みをリクは無視。
「しかもなのはなんて初めての実戦ではビビり過ぎてお漏らししたらしいぞ」
「流石にしてないけど!?」
「しかもなのはの野郎「野郎!?」漏らすだけじゃなくウン―――ぶべらっ!!!」
遂に我慢出来なくなったのか、なのはの魔力弾がリクの顔面に直撃した。その威力にリクの頭は後ろに大きく下がり、ヘリの壁に強打した。
痛みで悶絶するリクを見て、なのはとティアナ以外がオロオロするが、なのはは気にせず言葉を続ける。
「キャロ。キャロが魔法のコントロールがまだ上手く出来ないのは知ってるよ。間違えたらどうしようって、失敗したらどうしようって思うのは痛いほど分かる。だけどね、心配する必要なんてないよ。いざとなったら、わたしや、フェイトちゃん、あとついでにリクくんが助けてくれるから」
笑顔のまま、諭すようにいうなのはは、立派な教導官だった。
その姿をリクは僅かに目を細めて見ながら、「俺はついでかよ…」とぽつりと零す。とはいっても、周りに聞こえる声で言ったのだが、反応する者は誰一人としていない。
「だからキャロ。キャロは今出来る事を全力全開でやればいいんだよ」
なのはの言葉はそれで締めくくられた。
キャロは、その言葉で元気が出たのか、「はいっ!」と元気よく返事をする。なのははそれに笑顔で返した。
その後しばらくして、ヘリは現場に到着した。
「あれがリニアレールか」
リクは窓から見下ろしながら、そう零す。
「かなりの速度が出てるね」
「ああ。だが別段ヤバいって程じゃない」
「うん。今のフォワード四人なら十分やれるはずだよ」
なのははそう言って、新人四人に向き直る。
「皆、ここに来る前に言った通り、わたしとフェイトちゃんとリクくんは空にいるガジェットを叩くから、フォワード四人はリニアレール内にいるガジェットを倒してレリックの回収をお願い」
四人は頷く。
そしてなのはは、コックピットにいるヴァイスにハッチを開けるように言った。
「じゃあわたしとフェイトちゃんは先に行くから」
「皆無事に帰ろうね」
そう言ってなのはとフェイトはハッチから飛び降りた。
「さて、俺も行くか」
リクも二人に続こうとハッチの淵に立つ。
義魂丸を取り出し、口に入れ噛み砕き、死覇装を纏う。
「そういえばお前ら、今日が新型武装の初使用だったっけ?」
リクの言葉に四人は頷く。
初使用というか、ぶっつけ本番というやつだ。
「いいなお前ら。俺なんて十年以上ずっと同じ…でもないが、俺だって新武装が欲しい」
そう漏らすリクに突っ込む者は誰もいない。
それはリクに呆れているのではなく、リクから発せられる強烈な魔力に圧倒されているからだ。
エリオとキャロは実際に見るのは初めて。そして、普段から訓練しているスバルとティアナも、訓練とは違う、リクの真剣な表情を見て押し黙っていた。
(な、なによ。ま、真面目な顔して…)←ティアナ
(リ、リクさん…かっこいい…)←スバル
とかなんとか思っていた事をリクは知らない。
「無視かお前ら。まあいい。俺は先に行くぞ。じゃ、―――武運長久を祈る」
そう言ってリクはヘリから飛び降りた。
ちなみに、最後の「武運長久」は言いたかっただけである。
こうして、新人達、そして、リクの機動六課での初めての戦闘が幕を開けたのだった。
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