ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第27話 ひげの理由
様子を見るだけ、と思っていたのだが、随分と騒がしかった。あの牛も忍者を追いかけ、忍者達も必死に逃げていく。……近くにプレイヤー達がいたら、危険だと思うが 流石に開通したばかりだし、準備も無く未踏破のフィールドに出てくる様な者はいないだろう。
第1層で あれだけの犠牲者を出してしまったのだから、誰しもが心に秘めているだろう。情報不足で無理はしない、と言う事を。
リュウキが暫くあの牛とニンジャ達が逃げて言ったほうを見ていた時だ。
背後からの伸びてきた小さな2つの手が、リュウキの身体に手を回し、ぎゅっと包み込んだ。
「……なんだ? お前が怖かったとでも言うのか?」
リュウキは、しがみついてくるアルゴにそう言っていた。
「……かっこつけすぎ、それに、クールすぎ……ダヨ。 リュー」
いつもと違う鼠の言動に少しばかり驚くのはリュウキだ。……その言動は小憎たらしいそれじゃない。しおらしく折れてしまいそうな感じがする。
「そんなコト……されちゃったら、オネーサン。情報屋の掟を破りそうになっちゃうじゃないカ、リュー」
アルゴは、一段と背中から抱きしめる力を上げた。だが、リュウキにとっては、何やら訳がわからぬことを言われてるとしか感じない。しおらしくは感じても、その言動からの本心は判らないのだ。
なので。
「……ふむ、オ・ネーサンと言う名なのか? アルゴの本名は」
そう真面目に聞いていた。その言葉を聞いたアルゴは、リュウキの背中にぴたっと付けているのだが、思わず離し、そして目を丸くさせた。
「……って違う違うゾ! ああ……そうだよナ。リューなんだかラ……。ハァ 仕方なイよなァ……」
その後、アルゴはがっくし……と、項垂れ リュウキを包んでいた手を解放した。
「はぁ……こちらとしても調子が狂う……。いつものキャラに戻してくれないか? アルゴ。流石に順応しにくい」
リュウキは、呆れた様子だったが、その実、あくまで冷静に対応だった。それを見たアルゴは、更に肩を落とす。
「うぅ……わかったヨ。……リューは少し乙女を勉強した方がイイヨ……」
そう項垂れて言っているが、悪いがリュウキには判らない様子だ。首を左右に振って答える
「それは難問だ……。何度か言われた言葉だがわからん」
だから、そう返していた。因みに、それは、爺やに言われていた事でもあるのだから。
「あっ……ソ。ワカッタヨ」
アルゴは、早々に諦めた。
説明をしようとしたら、膨大な時間を要すると察したからだ。まだ、あの牛がこの辺にいないとも限らない。ここは圏外なのだから。
「……それで? お前はなんでこんな事にって聞いてみたが、あれか……この層、そして《エクストラスキル》と言えば《体術》スキルの話か?」
リュウキはアルゴに向き直してそう聞く。
「……やっぱり リュウキは知っているカ? その通りダヨ。あいつ等……忍者だからその完成で取得シタイ!! と言って聞かないんダ……」
アルゴもうんざりとした様子だった。だが、リュウキには、益々わからない。
「……なら、なぜ知らないと言わなかった? それならば、付きまとわれる事も無いだろ?」
そうなのだ。それは最もな事だろう。
アルゴの言い方なら、『知っている。でも教えない』とストレートに言ってるも同然だ。そう言ってしまえば、相手側に追われてしまう事は判るだろう。それが、執着心のある連中なら尚更だ。
「……ムゥ、……それは情報屋のプライドが赦さなかッタんだ。いや、邪魔をシタ……というべきカ」
アルゴは、何やら渋い顔をしながらそう言っていた。リュウキはそれを聞いて、漸く成る程、と理解できた様だ。
「……それで知っているけど売らないか。随分と難儀な性格だな。だが、お前がそんな気にするような事か? 職業柄、敵が多そうだが?」
「……情報を売った恨みなんか、三日も寝れば忘れるサッ! でも こいつは違うんダ! 下手すると一生続くんだヨ……!」
そう言うと、アルゴはブルブルと身体を震わせていた。だが、それでもリュウキには理解できない。オーバー過ぎるだろ……、とため息を吐く。
それと同時に、あのクエストの仕様を思い出していた。あのクエストは、一癖あったのだ。受けるのは自由だが、もし……クリア出来なかったら……。
そこまで思い出した所で、リュウキは悟った。
「はぁ……、その珍妙な髭の正体が《あれ》だったのか。確かに、クリア出来なければ、ずっと続くものだが……。 一生続く? 少し大げさすぎないか?」
リュウキはそう返していた。
このクエストを受けた事はリュウキも勿論ある。
説明すると、その際に、その体術を取得する際になぜかNPCのおっさんが、筆を用いて人の顔目掛けて筆を伸ばしてきた。……いきなりだった事と、かなりの速度だった事で、驚いたのだが、リュウキはわけなく、その筆を回避した。
そして、回避してしまったが故に、クエストが一向に進まない。回避するリュウキと筆を振り回す体術を伝授するおっさん師匠。……正にエンドレスだった。
システム上のNPC側が諦め、折れる訳も無いから、仕方なくリュウキの方が折れ、髭を書かせた。
左右に3本ずつ伸びる髭、と言っても書かれるだけだから、実際に伸びている訳ではない。どうやら、それがクエスト・スタートのトリガーだったようだ。
その後は、散々回避わされた癖に、そのおっさんは得意気な顔のまま、クエストが進行した時は複雑なものだったと記憶している。
「ははぁ……さすがリューだナ。見抜いたカ」
リュウキがそう言った途端、アルゴの震えがピタッと止まって笑っていた。何か含みある笑みも浮かべている。
「それで! リューも行くカっ? 行くなら、案内も兼ねて、オイラも同行したいガ!?」
訂正しよう。その笑みは、嫌な笑みだ。アルゴがよからぬ事を考えている時に、よくする笑み。さっきまでは渡さないの一点張りだったが、手のひらを返したようだった。だからこそ、その魂胆はリュウキにとっては、あからさまで、みえみえだった。
「……断る」
リュウキはすっぱりと拒否。考える時間すら無し。0.2秒程で返す即答ぶり。当然アルゴは、かくっ と膝が崩れそうになっていた。
「えぇ〜〜? 何故ダヨぉ……? あれは、結構使えるヨ? スナッチされた時とカサ? 武器ガ無くなってモ 戦えるんダゾ〜?? 手数も増えル! リュー、もっともっと強くなれるんだゾー!」
断られて妙に悲しそうにしているが、それでも嫌だった。
「そんな事、俺が知らないわけないだろう?それよりだ」
「にゃ?」
「……お前、オレの顔に書かれた髭を見る事が目当てじゃないか……?」
じ〜〜っと、リュウキはアルゴの目を見つめてそう聞く。すると、アルゴはあからさまに視線を逸らし始めた。間違いないとリュウキは悟る。この情報屋は、何でかは判らないが、リュウキに書かれる髭が目当て、なのだろう。
……正直訳が判らないが、不快な事には変わりなかった。
「にゃ……ははははは」
図星を差された様である。リュウキは、笑ってごまかすな、と言いたいのだが、今日は流石に色々とあり過ぎて、ちょっともう疲れた様だ。
よくよく考えたら、BOSS攻略をしたばかりなのだから、無理もないだろう。HPは全快復していたとしても、削られた精神は、そんなに直ぐに快復するモノじゃないから。
一先ずさっさと終わらせたい為。
「……なら、キリトでもつれてけ、アイツなら訳なくこなすだろ? アレくらいのクエストなら。……まぁ 時間はかかると思うが」
何度目か判らない、ため息を吐きながら、リュウキはそう、代案を言っていた。キリトには悪い、とは思うが……、スキルを得られる事を考えれば、良いだろう。悪い事をしているわけじゃない。
……多分だが。
「おっ!! おお、ナルホドナっ! それは名案ダ!」
どうやらアルゴは標的を変えたようだ。これで、付きまとわれる事はないだろう。
「……じゃあな。オレは帰る」
リュウキは、軽く手を上げ、その場を後にしようとするが。
「わ〜待ってくレ!」
それは、出来なかった。アルゴに手をつかまれたのだ。流石はスピード型であるアルゴだ。敏捷力は現レベルでは随分と高い位置にいるのだろう事は判った。
「……なんだ?」
リュウキは、面倒くさそうに訊いた。
「せめて帰るまで同行願いタイヨ……。さっきの牛モまだ、傍にいるかもしれないシ……」
アルゴは、上目遣いリュウキにでそう言った。けれど、勿論そう言ったのはリュウキには通じないようだ。別に断りはしないけれど。
「それなら別に構わない」
アルゴ渾身の上目遣いも、どこ吹く風、暖簾に腕押し。……ま~~ったく、何の反応もなく、あっさりと、リュウキは返していた。
そして、そのまま街の方へと歩き出す。
「ウゥ……、コイツは、攻略不能……ダナ。本出せそうに無いヨ……」
アルゴはウルバスに帰る道中、肩を落としながらそう呟いていたのだった。
そして後日の事。
1日の情報収集、そして簡単なレベリングを終えたリュウキは、宿でアイテム整理をしていた。そこにキリトからメッセージが届く。
『……リュウキお前、アルゴにオレを売ったな?』
内容はとても短い。でも、それだけでも何を言っているのかは判る。身に覚えが残っているからだ。リュウキは、返信をする為に、指先を動かす。
『人聞きの悪い事を言うな。2層の時点でエクストラの≪体術≫の情報を得ただけでもラッキーだと思えよ。戦術の幅が広がるだろう?』
その後、何度かやり取りしたが、どうやらキリトも≪体術≫を習得する事ができたようだ。勿論、アルゴの付き添いありでだ。そして、まるで計ったかの様に、アルゴからもメッセージが来た。
『ニャハハハ!! リューにも見せたかっタヨ。あのキリえもんをサッ!』
とこちらも短い文章で。
(―――……これなら、キリトが怒っても無理ないか……。)
そう思った。
メッセージの文面からでもよく判る。かなりテンションが高めのアルゴ。……相当から揶揄われたのだろう。
「………何か、キリトに奢ってやるか。今度会ったら」
珍しくそうつぶやいていた。
どうやら、キリトに同情をしたようだ。
自分だったら、絶対に嫌だから。
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