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ドン=ジョヴァンニ

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第一幕その九


第一幕その九

「いいな」
「わかりました。それじゃあ」
「特にだ」
 ここでツェルリーナの傍に何気なく近寄ってその腰を抱いてからその横にいるマゼットに顔を向けてそのうえで言うのだった。
「花婿殿は喜ばせて差し上げろ」
「わかりました。それじゃあ」
 レポレロが言われるまま村人達をジョヴァンニの屋敷に案内しようとする。しかしここでマゼットがジョヴァンニに対して言ってきた。
「あの、旦那様」
「何か?」
「一つ言っておくことがあるのですが」
 呑気だがいささか気にかけるような顔でのマゼットの言葉だった。
「ツェルリーナはですね」
「花嫁殿は?」
「僕なしではいられないので」
「いや、大丈夫ですよ」
 すかさずレポレロが彼に言ってきた。
「旦那がいますので」
「この方がですか」
「無事に貴方の代わりを務めてくれますよ」
 にこやかだが含んだものが多分にある言葉だった。
「ですから御心配なく」
「花嫁殿は騎士に護られております」 
 ジョヴァンニは自分がその騎士だというのだった。
「ですから御安心あれ」
「そうですか」
「花嫁殿はすぐに私と共に屋敷に参りますぞ」
「大丈夫よ、マゼット」
 ツェルリーナはジョヴァンニをちらりと見てから夫に顔を戻して述べた。
「私はこの騎士様に護られているから」
「だから?」
「心配は無用よ」
 にこりと笑っての言葉だった。
「私はね」
「けれど僕達は結婚したんだし」
「言い争いは止めよう」
 ジョヴァンニは自分のせいだというのに二人の喧嘩の仲裁に入った。
「これ以上騒いでも宴の時間が減るだけだしね」
「そうだよな。折角この貴族の方が招いて下さるんだし」
「ここは御好意を受けないとな」
 村人達はジョヴァンニの本意を読むことなく彼の言葉に賛同した。
「それじゃあ今から」
「行こう、マゼット」
「わかりました、旦那様」
 マゼットは不満を隠してジョヴァンニに告げた。
「僕は頭を下げて参ります。貴方様の御気に召すように」
「わかってくれて何よりだ」
 ジョヴァンニは満足した顔でマゼットの言葉を受ける。
「それはな」
「もう口答えはしません。騎士殿を疑うことはしません」
「うむ。信頼してくれて何よりだ」
 ジョヴァンニは満足気な顔を作って頷いてみせる。
「本当にな」
「私に示してくれた好意がそれを物語っています」
 言いながら眉を顰めさせてツェルリーナに顔を近付け。そっと囁くのだった。
「浮気なんかしたら許さないよ」
「私がそんなことをすると思うの?」
「信じてるよ」
 それでもなのだった。
「まあいいさ。騎士様に任せるよ」
 今度は疑う目でジョヴァンニを見るがそれは一瞬だった。
「きっと君を淑女として扱ってくれるだろうからね」
「じゃあマゼット行こう」
「主役がいないとどうしようもないよ」
「わかったよ」
 村人達の言葉を受けて渋々ながらこの場を後にするマゼットだった。他の村人達もレポレロに連れられて消え去った。残ったのはジョヴァンニとツェルリーナだけだった。
 二人きりになったジョヴァンニは。早速その本性を露わにさせたうえで。こう言うのだった。
「さて、あの間抜けはいなくなった」
「あの、マゼットは私の夫なのですが」
「おっと、そうだったな」
 一応ツェルリーナの言葉は受けはした。
 
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