インフィニット・ア・ライブ
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第八話「準備 ~tabane~」
―――一年前
「コフッ。……な、なん…で?」
「何故、ですか?それは貴女が一番良く理解している筈です」
どこかの廃工場の中に、二つの人影があった。
片や地面に横たわり、口から血を吐きながら弱々しく言葉を紡ぐ女性。
片や横たわる女性を冷ややかに見下ろし、感情を感じさせぬ無機質で冷たい声音の少女。
「貴女がいけないんですよ?私を×× から離すから。××と私はずっと一緒にいなくちゃいけないのに」
少女は手にしていた鮮血で紅く染まった刀を降り下ろし、女性に突き立てる。
「ガッ!?間違っ…てる…よ。そんなことしても、××は」
「うるさい!うるさい!!うるさぁぁあああい!!お前が、お前が!!」
自身の考えを否定された少女は激昂し、女性を何度も殴る蹴るの暴行を繰り返す。
女性は抵抗することもなく、されるがままとなる。
「ハアハアハア!お前が、あんなことをしなければ、私もこんなことをしなくても良かったんだ!!私は悪くない!!お前が全部悪いんだ!!」
しばらくして、少女は落ち着いたのか殴打する音が止む。
「貴方の代わりはいくらでもいる。貴方はもう、用済みだ」
「ッ!?ま…さか、造っ…た…の!?」
少女の言葉に、女性は痛みに耐えていた目を見開かせる。
「そうです。この世に、二人も同じ人間はいらない。ですので、サヨウナラ」
「カハッ」
突き刺した刀を抜き、少女は振り向くことなく立ち去った。
後に残ったのは、血溜まりに沈むボロボロの女性だけであった。
「……ハハッ。私、死んじゃうのか」
自嘲気味に女性は薄く笑う。
「当然の、報い…かな。今更…気付くなんて、遅すぎたか…」
ふと、ぼんやりとした視界の中で人影が近づいて来るのに気付く。
「いいや、遅くないさ。お前は自分の罪を数えた。ならば、償わなければならない」
声から男と判断できる人影は静かに女性の傍らまで歩み寄る。
「その償いは、お前が死ぬことではない」
「…様!…様!?しっかりしてください!?」
歩み寄った人物とはまた違う誰かが、女性の体を抱えて揺さぶる。
「……ちゃん?」
「そうです!お願いします!私はどうなっても構いません!何でもします!ですから、…様を助けてください!!」
泣きじゃくりながら、何度も頭を下げて懇願する。
「安心しろ。元より、助けるつもりだったからな」
「いいんですの?」
いつの間にか、屈む人物の背後に一言で表すなら奇抜な服装の人影が五つ現れていた。
「ああ。死ねばそこで、こいつは罪を数えれなくなるからな。だから、死のうとしても死なせない。どっかの誰かさんの真似をさせてもらうさ」
「あらあらぁ。これは、一本取られましたわねぇ」
「うるさいですわ」
男達の言葉に、真紅と漆黒のドレスの少女は拗ねたようにそっぽを向く。
「まさか、いっくん?」
「その通り。さて…さん、悪魔と相乗りする覚悟はあるかな?」
男は、女性の眼前に手を差し伸べる。
「それで、助かるなら、……ちゃんを、悲しませないなら、何であろうと相乗りするよ」
女性は力強く宣言すると、男が差し出した手を取る。
「四糸乃、止血を」
「…えと、了解です」
『合点承知の助さ!』
「夕弦と耶倶矢は彼女を運んでくれ」
「お安い御用よ」
「承知」
「美九、十香達が彼奴らと接触した。処理を」
「はいですわぁ」
「狂三は俺とここに残ってくれ。別働隊が来るかもしれない」
「了解ですわ」
「聴こえてたか、琴里?」
『ええ。今、彼女を転送させるわ』
自分の体が浮き、何処かへ運ばれているのを理解し、傍らには自分を慕ってくれる少女の温もりを感じながら、女性は意識を手放した。
第八話「準備 ~tabane~」
「ここが、ウェストコットのピットだ」
試合当日、一夏は千冬の案内でアリーナの中を回っていた。
さらに千夏と箒も、一夏のピットが通り道のため一緒にいる。
「待ってたよ、いっくん」
「お待ちしておりました、一夏様」
出迎えたのは、スラッとした黒髪をストレートに下ろす白衣の女性と、黒い杖をつくウェーブがかかった銀髪の少女だった。
「「束(さん)!?」」
「ッ!?」
白衣の女性の容姿が、現在国際指名手配中のIS開発者の『篠ノ之束』に瓜二つなことから、三人は驚愕する。
それに対し、女性はやんわりと微笑む。
「束とは篠ノ之博士のことでしょうか?確かに私の名は束ですが、違います。初めまして・・・・・、織斑千冬殿。私はDEMインダストリーの技術開発の主任、『月兎げっと束』と申します」
「同じく、技術部門の主任補佐をしている『クロエ・クロニクル』です」
「あ、ああ。失礼、知り合いに似ていたもので」
名刺を渡され、言葉や態度から自分が知っている篠ノ乃束に似ていないことから、千冬達は別人だと判断する。
「いえ。世界には同じ顔の人物が三人いると言いますし、間違えられるのは慣れてますので」
どこか含みがあるように感じる物言いに、千冬達はたじろぐ。
その時、何故か一言も発することなく、よく見ると小刻みに震えている箒に、クロエが近付いた。
「……ご安心を。……本物は死んだのでしょう?」
耳元で箒だけに囁かれた言葉に、箒は幽霊にでも出会ったかのような視線を送る。
「貴様、何を言っ!?」
「織斑くん織斑くん!!」
箒の言葉は、走ってきた真耶の声に掻き消される。
「落ち着け、山田君。用件は何だ?」
「あ、すみません。えと、織斑くんの専用機が届きました」
「分かった。行くぞ、織斑。篠ノ乃もいつまでボサッとしている!」
「ハイッ!今行きます!!」
出席簿をチラつかせ、千冬は箒達を促して足早にピットを出た。
―――千夏side
「箒、顔色が悪いが大丈夫か?」
「ああ、問題ない」
一夏のピットを出てから箒の顔色が悪いことに気付いた千夏は、本人の様子から急を要することではないと判断する。
「ここが、織斑くんのピットです」
真耶に連れられて入ったピットには、一言で表すなら、白の機体が鎮座していた。
「これが、俺の専用機……」
「そうです。その名も『白式』です」
感慨深く呟くながら、千夏は白式に近づく。
「時間がない。一次移行は実戦中に済ませろ」
「はい、姉さん」
「織斑先生だ」
「はい、織斑先生」
千夏はPICを発動させ、カタパルトまで飛ぶ。
「箒!」
「な、何だ!?」
「勝ってくるよ」
「あ、ああ。行ってこい」
箒の声援を受け、千夏はアリーナへと飛び出す。
(さて、実験台になってもらうよ。出来損ないの分際で、僕に挑んできたことを後悔させてやる)
アリーナの中、そこにはすでに黒いコートを身に纏い、白い鞘に入った剣を握る一夏が地面に静かに立っていた。
「ほう。白か。偶然にも、俺は黒だ」
「それがどうした!?」
ニヤリと不適に笑う一夏に、千夏は苛立つ。
「簡単な話だ。白黒つけてやる」
「フッ。君のISの色の通り、黒星にしてやる」
『これより、一年一組のクラス代表決定戦を開始します!』
真耶のアナウンスにより、試合開始の合図が鳴り響く。
そして、両者は激突した。
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