ドン=ジョヴァンニ
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第一幕その十二
第一幕その十二
「この男の話を聞いては駄目よ。彼は嘘吐きでその目は当てにはなりません」
「そういえば」
またここでジョヴァンニを見る。すると彼女も次第にわかってきたのだった。
「どうもこの目は」
詐欺師の目だと思ったのである。
「あまりよくは」
「私は自分の悲しみから彼がわかるの」
エルヴィーラは今度はジョヴァンニを見据えていた。
「だから貴女には私のような目には遭って欲しくはないのよ」
「それじゃあ私は」
「いらっしゃい」
さらにツェルリーナを誘う。
「私のところに」
「くっ、また失敗か」
ジョヴァンニはここに至っては失敗を悟るしかなかった。
「それではここは逃げるしかないな」
「お待ちなさい、不実な人」
エルヴィーラはその彼を追おうとする。
「逃がしませんよ」
「生憎だが私は脚が速い」
実際にもうエルヴィーラが届かない場所にまで来ていた。
「それではな。二度と会うまいぞ」
「そういうわけにはいかないわ」
逃げるジョヴァンニに追うアンナ。だがジョヴァンニは悠々と逃げ延びまた道に出た。するとそこで一組の男女に出会ったのであった。
「おや」
「むっ?」
「あのですね」
見れば若い男であった。彼は何気なくジョヴァンニに声をかけてきたのだった。
「今僕達は人を探しているのですが」
「人を?」
「そうです、人をです」
こう彼に言うのであった。
「実は彼女の父、僕にとっては将来義父になられる方が殺されまして」
「私が殺したあの騎士長だな」
ジョヴァンニは話を聞いてすぐに察した。
「ふむ。ではこの女は」
若者と共にいるその青いドレスの女を見てこれまた察しをつけた。
「あの時のだな」
「復讐の為に。オッターヴィオの助けになってくれる方を探しています」
ここでそのアンナも言うのだった。
「どなたか。貴方はどうでしょうか」
「はい、私でよければ」
ジョヴァンニはその殺した男が自分だというのはしゃあしゃあと隠して恭しく一礼してみせた。
「この剣も血も貴女に捧げましょう」
「有り難き御言葉。それでは」
アンナはにこりと笑ってジョヴァンニのこの言葉を受けた。しかしその時だった。
「ここにいたのね」
「また出て来たか」
ここでまたエルヴィーラが出て来たのであった。ジョヴァンニの顔がまた歪んだ。
「今日は何故この女がいつも出て来るのだ」
「それこそが神の思し召しです」
「貴様はイギリス人だろうが」
「それがどうかしましたか?」
「カトリックではない」
イギリスはイギリス国教会である。
「もっとも私は神なぞどうでもいいのだがな」
「貴方のそうした考えもなおしてあげます」
エルヴィーラはきっとした顔でまたジョヴァンニに告げた。
「ですから御二人共」
「はい」
「どうされたのですか?」
オッターヴィオもアンナも今のエルヴィーラの様子から只事ではないのは感じていた。
「それで」
「何か」
「この男を信用しないで下さい」
エルヴィーラはその二人に対してこう告げるのだった。
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