Tales Of The Abyss 〜Another story〜
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#8 絶望からの刺客
暫くしての事。集会所には、怪我人が全員収容されていた訳ではない。運ばれてくる怪我人はまだまだいる。その中でも主に重症患者を優先し、治療に当たっていた。でも、見た目ほどは酷くは無いようだ。勿論安静にしている事が最低条件だが。
「ふう…… これで大丈夫です。後は皆、暫くは安静にしていれば……」
アルは、譜術の使用を止め、汗を拭い一息ついた。
「ええ ほんとにお疲れ様……アル、本当にありがとう……」
レイはタオルを出し、アルに被せた。優しく、頭を拭いてくれる。少し照れくさかったけれど、本当に気持ちよかった。母親に頭を撫でられてる。そう思えたから。
「あははは……。もう、沢山頂きましたよ。お礼はいいです。それに……。オレだってあなた達がいてくれなかったら、外で野垂れ死んでいたんですよ? オレには、返しきれない程に恩があります。 ……その事に、比べたら本当に大したことないです。少し休んだら、体力も戻りますし」
アルは笑いながら呟いた。譜術を使用するのにもそれなりに精神力が削られ、削られる事によって、体力の回復も遅れてしまうだろう。だが、裏を返せばその程度で済む。今、治療が必要な人達には必要だから。その人達には変えられない。
そして、自分を助けてくれて、そして町に住まわせてくれている事を考えて。
「ですから、レイさん。これでおあいこ、ってことでどうでしょう?」
アルは、レイの方を見て笑った。その言葉にレイは涙を拭い、そして同じように笑顔を作った。
「そう、ね……。正直、私はあなたが、アルが私達にしてくれた事の方が大きいと思うけど……。 ……アルは、そういっても納得してくれそうにないわね?」
レイは笑いながらそう答えた。アルの性格を考えたらそう思う。とても優しい人、だから。だからこそ、自身の娘であるサラが、あそこまで好きになったんだと思える。
「あははは……。そうですね」
アルもつられて笑った。その時の2人ともいい笑顔だった。モンスターの襲撃なんか、最初から無かったかの様に、……疲れなんか吹き飛ぶように。
――……しかし その笑顔は直ぐに、消える事になる。
突如、どごぉぉん! と言う何か大きな爆発でも起きたかの様な轟音が聞こえてきたから。
「なっ なんだ!?」
それは、集会所の中にいても、大きく聞こえてくる凄まじい音だった。響いて、建物そのものを揺らしている程だ。いや、まるで大気其のものが震えているかのような振動。
「そっ…… 外から……? まさかっ……!」
レイは嫌な予感が頭の中に走り、外に飛び出していった。モンスターの排除に鉱山用のダイナマイト等の爆発物も使用している。だけど、これはその比でなかった。だから、何かがあったんだと、想像するのは難しくない。……想像など、したくなかったと言うのが、レイの本当の気持ちだった。
「っ……! レイさん、待ってっ!!」
アルも、レイのその後に続いて急いで集会所を飛び出した。
外で2人が見たモノ。それは想像以上のモノだった。
いや、想像もしてなかった程のモノ、全くの想定外のモノだった。
「化け……物………」
レイは、それを見て思わず腰が抜けてしまい、その場に足元が崩れ落ちてしまうかの様に蹲った。
「あれは……いったい……」
アルも、当然それを目にする。……レイが言う目の前の化け物を見てしまった。この場所は、坑道の入り口は集会場から大体50メートルほど離れいてる。その上、施設等の建物もそれなりに有り、入口を、と言えばここからは見える事はない。……なのに、その化け物は、外に出ると直ぐに判った。
その正体は恐らくはアルも戦ったゴーレム。……それもリーダー格のゴーレムだ。
先ほど遭遇したモンスターと同じ種類の類だろうけれど。圧倒的に違う所が1つだけ。……1つだけあった。
それは体格の違い。
あの化け物の高さは、いったいどれくらいになろうか……遠目から見ても規格外のデカさだと感じる。目算するのに、比べるのに、建物ですら小さい程だ。
そして、その上アルとレイの2人は。
『うわあああああっ!!!!!』
1人の男性が、鉱山で働いているであろう、屈強な男性をゴーレムは右手に鷲づかみにし、投げ飛ばしている衝撃場面シーンを見てしまった。それを見ただけで判る。……いや、思い知らされた。
――……普通の人間では抗えないと言う事を。
少なくともレイはそう感じた。
自分自身も体験した先ほどまで襲ってきていたモンスターとはワケが違うから。あの大きさよりも遥かに小さい相手だったのに、沢山の人が怪我をしたのだから。
「も……もう……」
レイは足が体全体が震えていた。『もう、ダメだ』と、諦めの言葉を言おうとするその前に。
「レイさんっ!!」
アルがレイの両肩を掴み強く揺さぶった。気を取り戻してもらう為に。まだ、すべき事が、出来る事があるから。
「ア……アル……?」
強く揺さぶったがレイは、まだはっきりと、気を保ててないようだ。だけど、今は時間が惜しい。……投げ飛ばされた人以外にも、怪我人はいるだろう。あのゴーレムの足元が全く見えないから。戦塵が巻きおこってる事しか判らないから。
「しっかりしてくださいっ!レイさんっ!早く怪我人を町の外へ連れて行ってください! 町の外も危険だといえば、そうですが 少なくともここよりは、アイツの傍よりは安全の筈だ! 直ぐに怪我人をアイツから遠ざけるんです! 皆まだ万全とは程遠いですが、動かす事は問題ない筈です! 早くっ!!」
それは、いつものアルの顔じゃない。鬼気迫るかのような表情だった。そのおかげで、レイは気を取り戻す事が出来た。
「わ…… わかった……。」
レイも、震える体に一括し 答えた。蹲ってばかりはいられない。中にはまだ満足に動けない人も沢山いるのだから。
「お願いします! 皆と協力して」
そう言うと、アルは坑道の方を向き直した。それを見て、レイは驚く。
「まっ まって!アル!あなた……どうするつもり!?」
レイは大声で叫んだ。思いたくないが、アルは今にも飛び出しそうにしていたから。
「オレは、ゴーレムを止めにいきます。怪我人も、きっとあそこには多い筈です」
アルは、レイの方に振り向かずそう答えた。正直その問答すら惜しい。今はあまり時間を掛けるわけにはいかないから。その一瞬の遅れで、重傷者が、……死亡者が出てしまう可能性があるから。
「そ……そんなのムリよっ!! あ、アレは人間が抗えるものじゃない! ダメよっ! 行っちゃダメ! ……こ、今度こそ死んでしまう!!」
必死にレイは叫ぶ。止める為に。……大切な人だから。その叫び声のせいか、 周りの轟音のせいか。目を覚まし外へ出てきた人がいた、
「おっ……おにいちゃん!!」
起きて、出てきたのは、サラだった。
「……大丈夫です! やりようはありますよ。信じてください。……それに、こうやって話している間も被害が増えていく。 ……今はオレを信じてください、お願いします」
アルはそういうと、自分に取り付けてくれていた移動式の治療器具を全て外した。その時、背中に軽い衝撃が走る。
「おにいちゃんっ! お、おねがい、いかないで! だめだよ、し、しんじゃうよ……!」
その衝撃の正体、それはサラだった。アルは、サラが出てきていた事には気付かなかった。ぽろぽろと涙を流しながらアルにしがみ付き、叫ぶ。『行かないで』と。
確かに時間が惜しかったが、サラを無理に振りほどくわけにはいかない。
アルは、サラの方を向きなおすと、
「サラも……。 オレを信じて」
アルは、笑顔で話しかけた。いつもの笑顔で。遊んだり、一緒に勉強したり、ご飯を食べたり。そんないつもの笑顔で。
「で……でも!でもっ!! お、おにいちゃぁん……っ」
サラは、その笑顔を見てもまだ泣いていた。安心する事が出来なくて。……信じられない訳じゃない。……それをも覆い尽くしてしまう程の、ゴーレムものを見てしまったから。
だから、サラは連想させてしまっていた。
いつもの笑顔は消えうせてしまい、大切な人が死んでしまう。もう、会えなくなってしまう。
そんな不安感でいっぱいだったのだ。
「……サラ。大丈夫だ。おにいちゃん! 強いの知っているだろう?知ったのは今日だったけど、大丈夫だよ!」
安心をさせる為にアルは、笑いながら話し続ける。
「それに、あそこで、一生懸命戦ってくれている人たちを助けなきゃ! サラやレイさんの大切なガーランドさん…… サラのパパもあそこにいるんだよ? 必ず連れて帰ってくるから」
ガーランドの事を聞いて、サラは涙を拭った。父親がいない事を思い出したのだ。
アルを行かせたくない、離れて欲しくない。でも、ガーランドの事が心配だった。自分にはどうする事も出来ない。
「………ほ……ほんとうに?? おにいちゃんも……パパも…… サラのところにかえってきてくれる?? ぜったい??」
アルを見ながら、何度も出てくる涙を拭いながらサラは言った。
「ああ!約束だ!!オレは約束は破らない。 ……そうだろう?これまでだって。絶対に守るよ。」
「う……うんっ!」
サラは必死に涙で汚れ放題の顔で笑顔を作った。そしてサラの頭を撫で、レイの方を向き直した。
「……レイさん、サラを早く!」
声は小さくさせ、早口にレイに伝えた。レイは最初こそは強く反対していたのだが。サラとアルのやり取りを見ていて……反対するのをやめた。
「わかった……、あなたを信じる、アル。あの人を……お願いします。で、でも! 決して無理は、しないで。全部、全部避難させる事ができたら、私も……っ」
サラを抱き寄せ、恐怖を堪えながら、アルに言っていた。
「はい。 任せてください。レイさんが来る前に、皆を助け出してみせますよ!」
アルはそう言うと、駆け出していった。
まだ、暴れまわる巨大ゴーレムの方へと!
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