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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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ALO
~妖精郷と魔法の歌劇~
  新たなる乱入者

全速力で走ること数分、遅せぇ、とレンが思っていたところだが、急に目の前が開けた。

退屈な一本道が唐突に終わり、その先に大きな地底湖が広がっていた。

道はそのまま大きな橋に繋がっており、それを渡り終えれば石でできた門に直結している。あまり来たことはないが、あれが鉱山都市ルグルーだ。

中立都市の圏内はアタック不可能なので、いかに敵の数が多くとも何もすることはできない。

ちらりとレンが後ろを振り向くと、幸いなことにサラマンダーの集団は見えない。自分がやったあれは、どうやらかなり有効だったらしい。

本音を言えばあの場で戦っても良かったのだが、サラマンダーが主に得意とする、槍を主体とする戦法は閉鎖空間では絶大な効果を発揮する。

対してレンの───なぜか出すたびにリーファに変な顔をされる───鋼糸(ワイヤー)は、その射程の広さと比例して洞窟のような閉鎖空間での戦闘は神経を使うことになる。

いつもならばカグラだけだからあまり気にしてないのだが、今回はキリトとリーファがいるのだ。万一にも掠ったら、眼も覆いたくなる悲劇は避けられないだろう。

狂人と呼ばれた天才、茅場晶彦が作ったソードアート・オンライン、通称SAOが終わってからの二ヶ月。

今ではレンは、常時《心意》システムの恩恵を受けているような状態だ。

ただ単に《過剰光(オーバーレイ)》が出ていないだけで、レンのワイヤーは破壊不能オブジェクトであろうが何であろうが、止める事ができない域まで完成している。だから最大の破壊不能オブジェクト《地形》であっても、壊すことは容易だ。

全ては、あの白い少女を助けるがために。

そんな思考を半ば強引に打ち切り、レンは後ろを居ってくるサラマンダーに意識を集中しようと決めた。

ユイのサーチ能力ほどではないが、レンだとて嗜み程度にはサーチ能力は持っている。と言っても、システムに規定された《索敵》などの手段ではない。

今はなき浮遊城アインクラッドにおける戦いの日々の中で、攻略組の剣士達は様々な《システム外スキル》を編み出し、修練した。

デュエルにおいて、剣の位置やアバターの重心から相手の出方を予想する《先読み》

遠距離型モンスター、時として人間の視線から攻撃軌道を予測する《見切り》

環境音から敵由来のサウンドエフェクトだけを抽出、位置を探る《聴音》。先程、レンが洞窟内でああも正確に状況把握ができたのはひとえにこれのおかげだ。

他にも、モンスターのAI学習を誘導し、急激な負荷を与えて隙を作る《ミスリード》。複数人でそれをやり、同時にHP回復も行う《スイッチ》。

今はなきあの鋼鉄の魔城の中でトッププレイヤーとして崇められていた、ヴォルティスを筆頭とする《六王》のメンバー達は、当然のごとくそれら全てを身に付けていた。と同時に、彼らはある能力を常に求められた。

それは、それらステータスウインドウには載っていないスキルの中でも、最も習得困難な奥義とされ、人によってはオカルト扱いしていたのが《気を感じる》技。

その名も────

超感覚(ハイパーセンス)

人という生き物は何か対象物を見つけると、絶対に気を発する生き物である。

《注意》や《気配》といった小さな気から、《殺気》といったどす黒くて大きな気まで様々で、大きなものだと《士気》といった物が挙げられる。《超感覚》は、これらを感じ取る技術だと言ってもいい。

自分に《気》を向けるモノの存在を、眼で見、耳で聞くよりも遥かに早く感じ取る。

存在否定派に言わせれば、気などと言う物は仮想世界では原則的にありえないことになる。

なぜなら、フルダイブ環境下の人間は、ナーヴギアが脳に送り込んでくるデジタルデータのみによって世界を識別するのだから、あらゆる情報はコードに置換可能でなくてはならず、そこには気だの第六感だのと言った曖昧な代物が存在する余地はない。

彼らの主張はまさに正論だった。疑う余地もなく、反論する余地もない。

しかし、レンはあの世界で数えるのも飽きてしまったくらいの殺気を感じた。感じ、そして放ったこともある。その殺気の源はほとんど、現実世界には帰還していない。

殺したから。

ころしたから。

コロシタカラ。

《六王》クラスになると、それの習得は必須と言ってもよかった。現に最後の《六王》は全員、このシステム外スキル《超感覚》は体得していた。

第一席、《白銀の戦神》ヴォルティス。

第二席、《神聖剣》ヒースクリフ。

第三席、《冥界の覇王》レンホウ。

第四席、《老僧の千手》シゲクニ。

第五席、《柔拳王》テオドラ。

第六席、《絶剣》ユウキ。

まぁ、レンは最後はキリトに席を譲っていたのだが、とにかくこの六人は《超感覚》を習得し、使いこなしていた。

この《超感覚》の用途は様々あるのだが、レンは主に索敵に使っていた。限界索敵範囲は、自分を中心とした半径約一キロほど。

意思なきモンスターは引っ掛からないのがいつもの悩みの種だが、今回だけはいいと思った。無駄な行程をすっ飛ばせるし。

眼を閉じると、決して人には言えないような感覚が頭の中に広がり、気配がいくつも感じられるようになる。


その数、十三。



───ん?

あれ?と思った。

先刻ユイがサーチした時には、たしか数は十二だった気がする。

仲間と合流でもしたのだろうか。それにしても四、五人ならば解かるが、たった一人とは。物資の補給部隊か何かなのだろうか。

そこまで脳裏で考え、レンはさらに意識を集中させた。

普段のスピードで走っていたら、とてもじゃないができない芸当だ。しかし、キリト達に合わせては知っているのでその心配もない。おまけには走っている道は障害物のない一本道。

すると、脳裏でぼんやりと地形の形が浮かび上がる。その中に自分と走る三つと小さい一つの光点。

三つは言わずもがな、一緒に走るキリト、リーファ、カグラ。小さな光点は、キリトの胸ポケットに入っているユイだろう。

さらにその後ろを、レン達を追うように高速で移動する────

───ひぃ、ふぅ、みぃ…………。やっぱり十二、か。

ふぅ、と訳もなく胸中でため息をついて意識の集中を続ける。さらに奥へ、もっと先へと。

集中を続けると、やがて自分が感知できる範囲のギリギリのところを風のように疾走する一つの巨大な光点を見つけた。

《超感覚》で感じられる光点の大きさは、すなわちそのプレイヤーが常に垂れ流している《気》のそれとイコールである。その場合、この光点の大きさはそのプレイヤーの強さと直結することになる。

事実、隣を走るキリトの光点は明らかにその隣を走るシルフの女性剣士よりも大きい。

つまりは────

───強いな。

レンは脳裏で、一人呟いた。この大きさは、ちょっと異常である。それこそ《六王》クラス。

一瞬、幼い頃から一緒に遊んでいた一人の少女の顔がフラッシュバックするが、すぐに打ち消した。

ダメだ。それは、それだけは疑っちゃダメだ。自分を信じ、全てを信じてくれる思いを裏切ることは絶対にやってはいけない。

顔を振り、浮かんでしまった思考を急いで振り払う。

───余計なことを考えるな。この世界に《六王》クラスの実力者がいないという証拠はどこにもない。

一度だけ、きつく眼を閉じて高速で移動するその大きな光点に集中する。

一本道なので大きな光点は必然的に、背後から迫るサラマンダーを追いかけるような形になっている。

スピード的には大きな光点のほうが、重鎧(ヘビーアーマー)を装備するサラマンダーよりも遥かに上だ。当然と言えば、当然だが。

みるみるうちに両者の距離は縮まり、あっという間に接触した。

瞬間、絡み合う両者。そして────

「あっ!」

思わず声が出た。

走りながら、訝しげにこちらを見てくる三者と一人の視線を意識の外で感じながら、レンは感知領域の中で行われた所業に顔を強張らせずにはいられなかった。

交錯した大きな光点と、十二人のサラマンダーは数秒ほど座標を共にし────

十二の光点が消えた。










「あっ!」

突如、鋭い声を出したレンにリーファは思わず首を巡らすと、紅衣の少年の顔は激しく強張っていた。

「ど………」

どうしたの!?と聞こうとすると、少々焦点が合っていなかったレンの漆黒の瞳に再び光が戻り、言いかけたリーファを鋭く右手で制した。

「みんな、理由は後で言う!全力でルグルーの中に入って!」

突然怒鳴ったレンに、驚く一同。しかしカグラはにわかに表情を厳しくして頷いた。

次いで、ぐいぐいとリーファとキリトの背を押し始めた。

「ちょ、ちょっと!カグラさん!レン君は!?」

「レンは大丈夫!今はお二方が安地へと入ることが先決です!」

戸惑いの中で大声を出して問いかけたリーファの言葉に、カグラも怒鳴り返す。思わず怯んだリーファの隣で、キリトが目を鋭く尖らせた。

「………本当に大丈夫なのか?」

おそらくリーファが思っているよりもずっと多くの物を含んだその言葉に、レンは呆れるほどに不敵な笑みを幼い顔一杯に浮かべた。

「僕を誰だと思ってるの?キリトにーちゃん」

「……………………わかった」

どこか諦めたように、どこか覚悟を決めたかのように頷いたキリトはリーファに真っ直ぐな視線を向けてきた。

うぐっと詰まったリーファは、ああもう!と首を振りながら苛立たしげに言った。

「分かったわよ!行けばいいんでしょ!行けば!!」

二人の反応に満足げに頷き返したカグラ。

しかしその隣で一連のやり取りをどこか上の空で聞いていたレンは、突如苛立たしげに舌打ちすると砂利を吹き飛ばしながら体を反転させた。

「レン!?」

「ダメだ、追いつかれる。カグラは無理やりにでも二人を押し込んで!僕は後退しながら戦うから!!」

戦う気なの?と胸中で思わず思ったリーファの隣でカグラは一瞬、心配そうな顔をした後

「分かりました!ご武運を!………さぁ二人方、少し急ぎますよ」

そう言ったカグラは、走っているキリトとリーファの体をそれぞれ片手でひょいと担ぎ上げた。まるで予備動作がない。完璧に油断を突かれている。

しかしこの女性のステータスは一体どうなっているのか。プレイヤーを二人も担ぎ上げるなどということは、筋力値は相当に高いはずだ。

しかし、スピード自慢のシルフとケットシーのダッシュについて来れたのだから、敏捷値もやはり相当高いと言うことになってしまう。

───いったい、何がどうなっているの……?

ハテナマークを頭の中で躍らせながらリーファは、これまでとは比較にならないスピードで加速し始めたカグラの腕の中で悲鳴を上げた。

「い、イヤアァァァアアアアアァァァァァーァアアッハッハッハッハッハー!!!」

否、歓声を上げた。 
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました。そーどあーとがき☆おんらいん」
レン「意外なとこで予想外に強いような敵が出てくるね」
なべさん「さぁ、出てくるのは誰なんでしょうかねぇ?」
レン「んー、レコン?」
なべさん「なんでたよ!!なんでここでレコンくんなんだよ!いやそりゃ、他作品とかでは最近彼凄い活躍見せてるときあるけどさ!ここではねぇよ!」
レン「えー」
なべさん「なんでここでぶーたれてんだよ」
レン「はい、自作キャラ、感想を送ってきてください……」
──To be continued── 
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